山崩れは大きく,斜面の表層を薄く覆う表層土(または風化土)のすべりによる表層崩壊と,厚い風化層で構成される斜面の深層崩壊の二つのタイプに分かれる。このうち,温暖多湿の気候下の森林で覆われた流域内の急斜面では,表層崩壊はその跡地における森林植生と崩壊物質としての表層土の再生を通して,斜面の同じ部位で周期的に繰り返し発生している。この調査の目的は,屋久島の花岡岩からなる急斜面での表層崩壊の周期を推定することである。
島内の小楊子川·黒味川·白谷川の上流域に位置する小集水域内の急斜面で, 6300 年前の喜界火山起源の幸屋火砕流堆積物の分布,および表層崩壊跡地の分布とその形成年代について調査した。小集水域内には幸屋火砕流堆積物が分布しないことから,過去6300 年間に急斜面は少なくとも1度は崩れていること,また長命の屋久スギを指標植物にして推定した表層崩壊跡地の周期は1000 年から1500 年であることが明らかになった。この周期は急斜面のスギの寿命を制限し,スギを含む屋久島の森林植生の維持機構に影響を及ぼすものと考えられる。