1996 年 6 巻 4 号 p. 441-449
屋久島西部の原生的な照葉樹林群集において,液果をつける7 種と液果に近い朔果をつける1 種について,果実生産数の変化を8 年間にわたって追跡した。結実数の総数はどの種でも8 年間で著しく変動した。サカキとヒサカキは毎年安定して結実し,変動の程度は他の種より小さかった。モッコクとクロバイは隔年結果をしているようにみえた。モクタチバナ·タイミンタチバナ·バリバリノキ·シャシャンボではほとんど結実が見られない年もあり,変動の程度は捕食回避仮説が当てはまる堅果をつける種と同程度に大きかった。サカキの結実数は前年8 月の平均気温と,サカキとタイミンタチバナの結実数は前年8 月の日照時間と,それぞれ相関があった。結実数の年変動は台風の影響も受けていた。シャシャンボとモクタチバナは1990 年に襲来した台風のために幹や枝が折られ,その後結実数が少ない状態が続いた。モッコクとバリバリノキ以外の種では,種内の各個体の結実数の多い年が一致する傾向がみられた。種間においても,結実数の多い年は弱いながら同調する傾向があった。変動とその同調の起こる要因としては物質収支仮説が支持された。