2022 年 53 巻 p. 53-64
本稿では,数学的な推論,特にPeirce が提唱するリトロダクションが,数学の授業過程における創造的な活動の具現化に,どのような影響をもたらすかについて,高等学校数学科における教材を事例として取り上げ,考察し,その一端を明らかにすることを目的とする。そのために,本稿では,次の2 つを観点とする枠組みを導出した;①生徒における数学的概念を覆す,あるいは生徒における予想を覆すような文脈や状況になっているか,②数学的な見方・考え方を発動し,深い学びを創出する契機になることが期待されるか。その上で,高等学校数学科における関数教材を事例として取り上げ,考察を行った。考察からは,次の3 つの示唆を得た。①生徒が能動的に問題にかかわり,生徒自ら問いを創出する契機になる,②答えを得ることに終始するのではなく,根拠をもとにしてある事柄や関係が正しいかどうかを説明する契機になる,③数学の授業過程に,領域横断的な学び,あるいは教科横断的な学びを創出する契機になる。