巻頭言 山崎浩二 1会則 2論文1.問題解決過程における確率に関する知識の構成とその授業開発 -中学校数学科確率指導法での「同様に確からしい」に焦点を当てて- 浅 倉 祥・佐 藤 寿 仁・中 村 好 則 32.シークバーを用いた割合分数の指導の開発 工藤優・市川啓 143.発展的思考・態度における「数学することを知る」の枠組みの開発と検証 佐藤学・重松敬一・加藤久惠・新木伸次・椎名美穂子・黒田大樹 254.変数概念の拡張に伴う困難性の一考察:関数間の関係を新たな関数と見ること 今野省吾・市川啓 415.数学の授業過程における創造的な活動の具現化に関する事例的考察:生徒における数学的な推論に光をあてて 加藤慎一・森本明 53会報 65研究会・年会報告 67投稿規程 74査読要領 75論文審査協力者 76
本研究の目的は,中学校第2 学年における確率の指導において,「同様に確からしい」ことの捉えとその概念形成の過程に着目し,数学的確率を用いて問題解決する際の思考の様相を明らかにすることである。単に「同様に確からしい」を知っているということだけでなく,不確定な事象を数理的に捉える際に有効に働くということの理解への転換を図るための授業開発を行った。そこで,確率指導の導入場面と終末場面において,同じ内容の問題を設定するなどして指導計画を作成した。同じ内容の問題を統計的確率と数学的確率で解決したそれぞれの考え方を振り返り,用いた2つの確率について検討することで,「同様に確からしい」ことに着目して根元事象を捉えるようになっていくことを確認することができた。
本研究の目的は,シークバーによって引き出される児童のインフォーマルな知識を活かした,割合の素地形成のための学習指導を開発することである。本稿では,第3 学年の児童を対象とし,児童が日常的に目にしているシークバーから,全体が異なる数量を同じ長さで表す図を想起し,割合が1/2 にあたる数量,割合が3/4 にあたる数量を求める問題解決を構想し,実践を行った。授業のプロトコルとワークシートと事後の評価問題を考察した結果,対象児童全てが,全体が異なる数量を同じ長さで表す図において,分数で示された割合が同じとき,同じ割合であっても割合にあたる数量が異なることを把握することができていた。そして,事後調査によって,8 割を超える児童が,「全体の数量も分数で表された割合も異なる場面」でも,割合にあたる数量を求め,その大小判断をすることができていた。以上のことから,本研究で開発したシークバーを用いた割合分数の指導が,割合の素地形成に資することが明らかになった。
本稿では,教師の「数学することを知る」の枠組みを開発し,教師2 名を対象にしたケーススタディからの検証により,その有効性と妥当性を明らかにすることを目的とする。まず,先行研究をもとに「数学することを知る」を「絶対的固定的な見方・考え方」と「可謬的可変的な見方・考え方」に整理し,授業の「構想時」と「実践時」において特徴が表出されると想定して枠組みを開発した。次に,枠組みをもとに特定した因子を用いて,小学校教師,中学校数学教師の2 名のアンケートや授業実践の分析を行い,枠組みを検証した。その結果,構想時は「可謬的可変的な見方・考え方」であっても,実践時は「絶対的固定的な見方・考え方」となる傾向があり,教師の特徴を捉えるのに有効であることが見えた。また,教師が「可謬的可変的な見方・考え方」へと変容していく様相から,観点「数学することを知る」の基準は,「十分知っている:想定外受容」,「知っている:想定内受容」と解釈するに至った。
本研究は,生徒が関数の学習における変数の概念をどのように理解し,どのような点に困難を感じているのか,生徒の学習の様相から探り,その一端を明らかにすることで変数の困難性に対する改善の手がかりを得ようとするものである。そのためにまず,高等学校数学科の三角関数の学習場面における,生徒の学習に着目した。高等学校数学科では変数の関係を推移させ,新たな関係を見る中で考察を進めることが少なくない。しかし,そうした経験を何度もしてきているはずの生徒であっても,適切に関係を推移させて考察を進めていくことは容易ではないことがうかがえた。このことを踏まえ,第1 学年「二次関数」の学習場面において,変数の推移に着目した授業を構想・実践し,その際の生徒の反応を分析した。このことから変数概念の拡張における困難性の一端とその改善の1つとして(1) 式の見方がわからず式変形を認めることができないことが,関数における変数の学習の困難性の1つとして考えられること。 (2) 関数を把握する際に,グラフの動きを式の見方と関連付け,変数をまとまりと見る活動を行っていくことで関係を推移させて考察する見方を働かせる手がかりとなる可能性があること。の2 点が明らかとなった。
本稿では,数学的な推論,特にPeirce が提唱するリトロダクションが,数学の授業過程における創造的な活動の具現化に,どのような影響をもたらすかについて,高等学校数学科における教材を事例として取り上げ,考察し,その一端を明らかにすることを目的とする。そのために,本稿では,次の2 つを観点とする枠組みを導出した;①生徒における数学的概念を覆す,あるいは生徒における予想を覆すような文脈や状況になっているか,②数学的な見方・考え方を発動し,深い学びを創出する契機になることが期待されるか。その上で,高等学校数学科における関数教材を事例として取り上げ,考察を行った。考察からは,次の3 つの示唆を得た。①生徒が能動的に問題にかかわり,生徒自ら問いを創出する契機になる,②答えを得ることに終始するのではなく,根拠をもとにしてある事柄や関係が正しいかどうかを説明する契機になる,③数学の授業過程に,領域横断的な学び,あるいは教科横断的な学びを創出する契機になる。
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