2017 年 49 巻 1 号 p. 289-296
本論文は,昭和20年代から30年代にかけて制作された約6,300点の図画作品を手掛かりに,一地方の学校における図画教育実践の検証を試みるものである。まず,昭和戦後期の図画教育の状況をふまえ,作品を所蔵する学校の関係資料等を参考に,図画の指導体制や教育活動,職員の研修等に関する調査を行った。その上で,この間に制作された作品のテーマや表現方法等を分析し,当時の図画教育実践の実態を考察した。調査の結果,この期間には主に静物画,風景画,人物画,考案画が制作され,期間の中頃から抽象画や木版画が新たな題材として加わったことが明らかとなった。表現方法には,自由に,大胆に表現する傾向が現れており,創造性や個性の伸長という戦後我が国の美術教育観を代表する考えがこの時期に形成され,その理念が新しい題材とともに教育実践に定着したことがうかがえた。