美術教育学研究
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49 巻, 1 号
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  • 〜「造形遊び」の授業研究等を通した「還元」に係るプロセスモデルの構築とその可能性について〜
    秋山 敏行
    2017 年 49 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は「学校という制度の中で子ども一人一人の造形的な活動の論理と展開を保障するための方法と態度」について探求するものである。今回は,前回までの標記論考I〜IIで言及した「子どもの生きる現在にかかわる研究者と教師のとり得る方法と態度」のありように係る考察をふまえ,「還元」に係る研究者と教師による協同的な取り組みを,「仮説」ではなく「プロセスモデル」として新たに提案し直し,その有用性について検討することにしたい。その成り立ちや性格を本研究の方針に照らしてみた場合,「モデル」というかたちがより適ったものであると考えられるためである。なおここでは,愛媛県松山市立内の小学校において実施した「造形遊び」の授業研究を取り上げるとともに,そこにご協力いただいた先生方を対象に行ったインタビューの分析・考察に,上記「プロセスモデル」を援用してその有用性に関する検討を行うこととした。

  • ―立体の「クッキー表現」と描画の奥行き意識を手掛かりに―
    淺海 真弓, 初田 隆, 磯村 知賢
    2017 年 49 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,ネコの側面描写と粘土造形により,子どもの奥行き意識,奥行き表現がどのような特徴を示しながら変化していくのかを分析すると伴に,「クッキー表現」の出現要因との関連性を考察した。その結果,奥行き意識は幼稚園年長から低学年の図式期,奥行き表現能力は小学校中学年あたりが移行期であることが確認出来た。又,図式期における「クッキー表現」は描画の発達と共通性が見られ,基準面を元に対象のイメージが特徴的に表されたものであることを示した。その後,「クッキー表現」は描画の奥行き表現能力の向上に伴い減少するものの,引き続き意図的に用いられる場合があることが分かった。

  • ―美術教育の「美術」を考えるために―
    新井 馨
    2017 年 49 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    アール・ブリュットを基軸に現在の美術・美術史を改めて振り返ることで,芸術,美術をどのように捉えるのか,といった問いが浮かび上がる。そして,この問いは,美術教育が指す「美術」の捉え方にも繋がる問題であると考えられる。これまでの考察で,正規の美術史とは交わらないもう一つの「人間の造形」なる一群があることを示してきた。制度化した近代以降の「美術」は,造形物に「美術」「非美術」と想定することで,「美術」なる概念の定まり方をつくってきた。交わることのなかった並行する二つの線は,「美術」が「人間の造形」を取り入れ「美術」としたことで,「美術」そのものの矛盾と乖離が生まれたのである。本論では,これまでの成果を踏まえ,アール・ブリュットを通して,制度としての「美術」を総合的・俯瞰的に考察を深めたものである。そして,これは美術教育が考えるべき問題と同根のものである,との考えのもと考察を進めている。

  • ―社会福祉法人みぬま福祉会の実践を手がかりとして―
    安藤 郁子
    2017 年 49 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    障害のある人の芸術表現に対する関心が高まる一方で,障害のある人の芸術表現が実践的・具体的にどのような過程で生起・変化していくのかに関して,明らかにされている事例はまだ少ない。本稿は,表現者とそこに共にいる人との相互作用的な関係性の中から表現が立ち上がっていく,そのありようを提示することによって,人が「表現」することの根源的な意味の問い直しを行うことを目的としている。「社会福祉法人みぬま福祉会」をフィールドに,重度の身体障害と知的障害のあるSさんと,彼と共にいる職員Bさんとのあいだで生起する「ニギリ」と呼ばれる表現について,表現が生起する場の詳細な観察・記述・考察を行った。このことによって,表現者だけではなく,共にいる人自体もつくり変えられていくような表現のあり方を提示し,人が「表現」することの本質の一端について示唆した。

  • 池田 吏志
    2017 年 49 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,重度・重複障害児のQOL(Quality of Life)を高める造形活動の指導理論を構築することを目的として,特別支援学校の重複障害学級でアクション・リサーチを実施した。ミックス法による分析結果に基づき,重度・重複障害児のQOLを高める造形活動の指導理論を,「確定的実態の把握」「題材開発」「授業実践」「評価」「変動的実態の把握」「授業改善」の6項目で体系化した。本理論では,指導を困難にしている要因である同一集団内に在籍する多様な実態の児童生徒の実態を4類型で把握・整理する実態把握の指標,個別の実態に応じた適合可能性の高い教材教具の作成原理,児童生徒の認知的発達の階層と教員による支援の階層とを連動させた関わりの構造,そして,探索的な評価と評価結果に基づく創造的な問題解決を促す授業改善の方法・手順等,各項目が共有部分を含みながら順次展開する包括的な造形活動の理論構造を提示した。

  • ―C層「環境の芸術化」の質的分析―
    磯部 錦司
    2017 年 49 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    前研究では,自然環境との関係に見られる造形芸術の内容を,「環境との一体化」,「個の想像的世界の形象化」,「環境の芸術化」,「生活の芸術化」,「社会的イメージの形象化」,「社会的創造活動の芸術化」の6層から検討し,その自然観を構築する手段として芸術の包括的,統合的,想像的機能について考察した。本研究は,生命を時代のコンセプトとして捉え,1980年代以降の現代日本の生命哲学に見られる生命論と,芸術文化のエコロジーの思潮から,自然観を基軸にした美術教育を構想しようとする一連の研究の第5稿である。本稿では,2001年~2016年に行った事例分析を基に生命をコアとした美術教育の内容を検討し,J.デューイの経験主義による芸術の働きと自然観を基に具体的な実践事例からC層「環境の芸術化」のプロセス及びその意味について示す。

  • ―全国質問紙調査の分析を通して
    市川 寛也
    2017 年 49 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,高等学校芸術科工芸の意義と課題について,地域社会との関係から明らかにすることを目的とするものである。この目的を達成するために,工芸教育における地域連携の実態を把握する質問紙調査を実施した。工芸の授業における地域題材の位置付けと学校教育における地域人材の活用状況という視点から分析を行い,両者の関係を3つのタイプ―積極的地域連携型,潜在的地域連携型,校内完結型―に分類した。これらの結果を踏まえ,これからの工芸の教員に求められる専門性として,地域と学校をつなぐコーディネーターとしての役割を見出した。現実の地域社会との接点を持つことは,生活と関わる教科としての工芸の目的を達成する上でも有効な手段である。その際,ものづくりの背景にある「地域をつくる」「社会をつくる」ことへと意識を向けることに,芸術科工芸の独自性を位置づけることができる。

  • ―図工観の転換に向けて―
    井ノ口 和子
    2017 年 49 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は図画工作科における〈指導と評価〉の現状と課題を明らかにし,その課題解決を探ることを目的としている。二つの大学における図画工作科についての講義への感想を記した授業シートの記述内容の分析と考察から,図画工作科の〈指導と評価〉の問題点の一つの要因が〈図工=作品(絵)を作ら(描か)せる〉という図工観があると考えた。図工観の転換の手がかりとして,第5学年での実践事例の分析と考察を行い,図画工作科の〈指導と評価〉の課題解決について考察した。図工観の転換は容易なことではないが,子どもの思考,行為・活動に寄り添う題材設定,学習活動における個々に応じた〈指導と評価〉を行うことが,「作品をつくらせる」ための〈指導と評価〉から子どもを中心とした図工観への転換の第一歩となる。

  • 内田 裕子, 大岩 幸太郎
    2017 年 49 巻 1 号 p. 65-72
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    色彩学習プログラム開発の一環として着手した「色の組合せを学ぶためのソフト」の開発において,本論では,その開発に向けた基礎研究により明らかになった「色相環」等に関する結果を,下記の点を中心に報告する。1)過去においては,対蹠的に配置された2つの色が補色の関係にない色相環がある等,多くの種類の色相環が考案されていた。また「3原色」の決定にも,色数や色の特定に関する試行錯誤があった。2)Ostwaldの回転色盤より以前にも多くの回転色盤が開発されたが,その目的は主として網膜における残像の継続時間の測定であり,また混色が期待される色となるための回転速度の決定には困難があった。3)上記の様な過去の色相環や回転色盤の研究からはフェナキスティスコープ等,多くの錯視や色彩学習用の教材が開発されている。

  • ―新たな教材化の視点を求めて―
    蝦名 敦子
    2017 年 49 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本考察は2015~16年に実施した一連の造形遊びの実践結果に基づく。独自に考案した造形遊びの材料―古紙を丸めて棒状にし,両端を折ってリング状にして繋いでいく―が,広い年代に受容された。材料に接合方法を仕組ませ,最も基本的な形である三角形や三角錘を一つのユニットとして作り,そこから展開していく活動である。本稿では本材料の特質を抽出し,新たに教材化するための視点を求めた。造形遊びの材料には児童の試行錯誤に耐えられる強度が必要である。本材料の機能的特質としては次の4点が挙げられる。1.小学1年生から年代を問わず扱える,2.接合に工夫の余地があり,その自由度が多様な造形を可能にする,3.大きな造形に展開する,4.幾何学的造形ができる。今後は,①「動き」や「光」を取り入れた造形活動,②先端技術や現代アート・建築物,生活の中の身近なデザインなどと関連づけた鑑賞活動のあり方,が検討される。

  • ―サン・マルコ修道院の『磔と聖人たち』を中心に―
    大村 雅章, 江藤 望
    2017 年 49 巻 1 号 p. 81-88
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,イタリア・ゴシック期のフレスコ画に多用された円光技法について,実証実験を通して明らかにするものである。これまで,フィレンツェのサンタ・クローチェ教会主礼拝堂壁画『聖十字架物語』の修復に際して得られた研究資料等に基づき,チェンニーノ・チェンニーニの技法書に則って当時のジョット派の円光技法を解明した。次に,調査をフィレンツェ派の円光に拡大したところ,ほとんどがジョット派,つまりチェンニーニの技法とほぼ同じであった中,初期ルネサンスの巨匠フラ・アンジェリコの円光は大きく違っていた。当該の円光が採用された作品は,彼の傑作『受胎告知』と『磔と聖人たち』であり,この二作品に導入された円光にも違いが確認できた。前稿で解明した『受胎告知』の円光技法につづき,本稿では『磔と聖人たち』の円光技法を明らかにする。

  • ―ヒューホ・ファン・デル・フース「ポルティナーリ祭壇画」と尾形光琳「燕子花図屛風」の東西比較を含む鑑賞題材の提案―
    岡田 匡史
    2017 年 49 巻 1 号 p. 89-96
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,『中学校学習指導要領』第6節美術がB鑑賞領域の指導事項とする,「美術を通した国際理解」に立脚し,ヒューホ・ファン・デル・フース「ポルティナーリ祭壇画」,その中央図下部を彩る花の情景と,群舞的な美と壮麗さを併せ持つ尾形光琳「燕子花図屛風」の読解的鑑賞に関する多角的検討を試みる。その際,前者では,キリスト教図像学に基本則る図像学的読解を適用した読み取りを確認し,後者は,絵の背後に隠れる『伊勢物語』第九段〈三河国八橋〉に照明を当て,物語と在原業平の歌とを絵に還流させ,言語と視覚的イメージの合一的状態から絵を読み直してみた。かかる教材研究的段階を経,二作の読解と東西比較を主要活動に位置付ける8段階の授業計画を提起し,それを以て本稿の結部とした。今後の最重要課題は,提起事項の臨床的分析であり,検証授業の実現を模索したい。

  • 小野 文子
    2017 年 49 巻 1 号 p. 97-104
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    19世紀後半,日本,西洋ともに,異文化と出会うことで自らの伝統を見直し,新しい芸術表現を探究した。J. McN.ホイッスラーは,イギリスのジャポニスムにおいて,最も早い時期から日本美術への傾倒を示した画家であり,東西の美の普遍性と融合を唱えた。本稿では,ホイッスラーを出発点として,東西の芸術文化交流における,チャールズ・ラング・フリーア,アーネスト・フェノロサ,金子堅太郎の関わりに焦点を当て,その広がりについて吟味し,画家,パトロン,お雇い外国人,そして官僚が,19世紀後半から20世紀にかけてのグローバリゼーションの中で,国境を超えた美の広まりに,それぞれの立場から歴史的役割を担っていたことを明らかにした。また,東西の芸術の源流を,西欧芸術の美の規範である古代ギリシャに求め,「普遍的に広がる美」を肯定したことを示した。

  • 小野 裕子
    2017 年 49 巻 1 号 p. 105-112
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,プラスチック素材による立体造形表現において,肌の質感を出すため,油絵具と不飽和ポリエステル樹脂を混合した技法を試みた。従来の商業製品による着色技法においては,品質と機能性を与えるため,プラスチック専用着色トナーによる外部着色と内部着色が開発されてきた。しかしながら,専用トナーは粒子が大きいため,発色が高く,筆者が描く肌の質感を生み出すことができない。粒子の細かい自然な肌質を得られる油絵具を着色剤とした。仮説として,油絵具の着色剤がもたらす効果は,透明感を持ちながら光沢感の無い肌質が得られる。芸術表現における人体や動物表現などの作者の主観的イメージを作品へ吹き込み,有機的な特徴を表現できる。樹脂と撹拌可能な油絵具の種類を調査し,有機的な肌の質感を再現する技法を確立した。結論として,商業製品には得られない芸術表現独自の質感を得る混合技法を見出した。

  • ―造形教育センターにおける活動を着眼点として―
    金山 愛奈
    2017 年 49 巻 1 号 p. 113-120
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    岡本太郎(1911–1996)は,戦後日本で芸術家として活動を開始し,多方面で影響を与えた。現代に果たす役割の一つとして考えられるのは,教育に対する考え方である。本研究では,民間美術教育運動の一つである「造形教育センター」への参加の事実を取り上げ,美術史に加えて美術教育史における関わりについて明らかにすることを試みた。さらに,同時期に設立した「現代芸術研究所」における考え方やメンバーを導き出し,その後の指標が構築されていた1950年代の活動を振り返る。岡本の教育活動への関与は大衆へ向けた主張であり,芸術の必要性が意識されていた。だからこそ,個という狭い範囲の中ではなく,共同体という広い範囲の中に独自の考え方を形成していくことを目指していた。教育への関心と実際の活動について明らかにすることで,岡本の本質的な理解に新しい視点が追加されることを期待する。

  • 上山 輝
    2017 年 49 巻 1 号 p. 121-128
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,一般の学生が行ったデザインの評価についての研究である。プレゼンテーションのポスターは,商業向けポスターと異なり,より多様な専門をもつ者が制作に関わる。そこには基本的なデザイン教育の影響が見えるはずである。今回,基本的なデザイン教育の知識や感性をどのように利用しているかについて大学生を対象に調査を行った。分析方法については,学生たちがプレゼンテーション用のポスターをどのように評価するのかについて,その評価のコメントを分析した。その結果,個人の評価傾向に違いが見られた。その一つとしては,一様な評価を行った学生は多様な評価を行った学生よりもシンプルさを評価し,インパクトを評価しない傾向がある。これらの傾向を踏まえて,今後のデザイン教育のあり方について考察を行った。

  • 亀澤 朋恵
    2017 年 49 巻 1 号 p. 129-136
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文は,「文検図画科」受験体験記から受験者の修学歴や受験動機,そして受験勉強の様子から図画教員志望者の実態を検証し,「文検図画科」受験者にとって「文検図画科」の意味づけを考察することである。受験体験記によれば,受験者は小学校教員で,修学歴は大部分が師範学校卒業であったが,小学校教員検定合格者や元画家志望者が少なからず含まれていたことが特徴的であった。絵が好きな者が多く,受験動機は絵を描き続けるために中等教員の資格を得ることであった。受験勉強は小学校教員の仕事と並行して行っていたが独学では合格が難しかったため,合格者の有志が「緑陰社」を設立し,受験者たちはそこで指導を受けることができた。同社では現役の検定委員が指導したが,他の教科と比較すると異例なことであった。受験体験記を勘案すると,受験者は「文検図画科」を絵を描く自由を得る契機として捉えていたようである。

  • ―ユニバーサルデザインの概念を基軸とした学びからの広がり―
    清田 哲男
    2017 年 49 巻 1 号 p. 137-144
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,ユニバーサルデザインの概念を基軸に,児童・生徒に,地域社会で課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,主体的に学習に取り組む態度を養うための学習カリキュラムの構築を目指している。これまでの第一次研究では,試行用学習カリキュラムの構築を行っており,これからの第二次研究では,試行用学習カリキュラムの効果を,長期的な実践の上で検証する。本稿では,長期的なカリキュラムの実践にあたって,カリキュラムでつけたい四つの力(自己受容・自己理解,共感性,深く見ること,社会参画意識)の到達度指標の作成と,作成に向けての先行研究の調査と検討方法を述べている。また,到達度指標を用いて先行的に実践した授業の前後で児童・生徒にアンケート調査を行った。その結果,達成度指標に示す力と,定着した力の相関が見いだせた。

  • 授業感想文のテキストマイニングによる教育的意義と効果の検討
    工藤 彰, 八桁 健, 小澤 基弘, 岡田 猛, 萩生田 伸子
    2017 年 49 巻 1 号 p. 145-151
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は総合大学のドローイング授業で継続的に実施された省察の効果を検討することを目的とした。表現力や創造力に繋がる能力を獲得するためには,学生が積極的に自己表現を探索することが重要である。このような観点から自己発見を促すと考えられる主観的素描(ドローイング)を取り入れ,毎週教師との対話を通して表現主題や意図等を言葉にする省察的授業を行った。本研究では,学生が自分と他者のドローイングについて記述した授業感想文をテキストマイニングすることにより,表現方法や芸術表現の捉え方などの芸術創作プロセスに対する学生のイメージや態度の変化を検討した。その結果,授業後半で他の学生の表現方法に目を向けることや,他者の感想文の中でも自分と比較しながら振り返りが行われていることが示唆された。以上より,テキストマイニングが授業感想文にも適用できるものとして,その方法論の有効性を論じた。

  • ―『現代ドイツにおける美術の授業と子どもの絵』(1982)にみる描画指導を手がかりとして―
    黒田 潤子
    2017 年 49 巻 1 号 p. 153-160
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    平成23年度から全面実施となっている新学習指導要領では,思考力・判断力・表現力をはぐくむ観点から,児童の言語活動の充実が重視されている。本論では,ドイツの美術教師ヘルマン・ブルクハルトの描画指導の実践記録『現代ドイツにおける美術の授業と子どもの絵』(1982)を手がかりに,言語活動の充実を目指した授業を構想・実践し,言語活動を位置づけた指導のあり方について考察を行った。図画工作科において言語活動は二つの側面から捉える必要がある。一つは,作品を制作することや鑑賞することを通して,児童自らが感じたことや思ったことを「ことば」を用いて表現する方向性である。もう一つは,色や形,それ自体を「ことば」のように扱いながら,自分の思いや考えを,色や形を通して,表したり,伝え合ったりする活動である。本論では,以上を踏まえ,図画工作科の表現領域における言語活動の定式化を試みた。

  • 小池 研二
    2017 年 49 巻 1 号 p. 161-168
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    世界標準の教育プログラムである国際バカロレア(IB)の中等教育プログラム(IBMYP)は概念理解を重視し探究的な学びをすべての教科で行っている。MYPでは,生徒はグローバルな文脈を通して,概念を考えながら,教科の内容を学習する。本研究はMYPの考え方を日本の中学校の美術教育に応用し,概念的な学びが美術教育にもたらすメリットについて実践的に立証することが目的である。研究では学年ごとに探究のテーマ等を設定し,探究の問いを考えさせた。アンケートやワークシート等の分析を行った結果,生徒は概念について文言上は理解していることがわかった。また,授業を文脈や概念で捉えることにより,美術を自分の問題として捉え,自分たちの生活と結びついていることを多くの生徒が実感していたが,概念について深く思考しているとは言いがたく,今後の研究をさらに進める必要があることが確認された。

  • ~中学校美術科における藤田嗣治の戦争画《アッツ島玉砕の図》の鑑賞授業について2~
    小林 久美子
    2017 年 49 巻 1 号 p. 169-176
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,藤田嗣治の《アッツ島玉砕の図》と,靉光の《風景[眼のある風景]》,長野県に所在する‘無言館’に展示されている没画学生の作品との比較鑑賞授業を行い,授業後の生徒の感想から,「戦争画」鑑賞授業の意義や効果を考察するものである。鑑賞にあたっては3つの視点(①作者の視点,②鑑賞者の視点,③現代の視点)を設定した。特に②の鑑賞者の視点であるが,《アッツ島玉砕の図》と,靉光の《風景[眼のある風景]》は当時のメディアや軍部の視点を,‘無言館’に展示されている没画学生の作品ついては,当時の身近な人たちがどのように感じたのか,一画学生が無名であったからこそ家族や友人の思いも含み,「戦争画」を多角的に捉える授業展開を行った。この授業を通して,戦時中に立ち位置の違う画家たちの思いを汲み取り,現代に生きる自分たちの課題に気づき,自分の未来像についても考えようとする様子が確認できた。

  • 佐々木 宰
    2017 年 49 巻 1 号 p. 177-184
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    シンガポールは,華人,マレー,インド系住民からなる多民族国家である。1950年代以来,民族の文化的多様性を認めつつ,国民としての意識を醸成する国民統合が課題とされてきた。プラグマティズムとメリトクラシーという価値観に支えられた複合社会において,教育政策や文化政策は国民統合の一端を担ってきた。本稿では,1959年から現在までの美術教育シラバスを分析して,美術教育が国民統合にどのように関わってきたかを明らかにした。その結果,1)マラヤ文化を国民統合の象徴的な文化に据えた同化型の段階から,2)中国,マレー,インドの文化の均衡に配慮するとともに,美術活動の「全体テーマ」を通して徐々に国民意識を喚起する均衡多元型の美術教育へ移行し,3)直接的なエスニシティやナショナリティを控えて,新世紀の知識基盤社会への帰属意識を喚起する新たな国民統合,という3段階の移行が認められた。

  • ―NCCASが示すメディアアートカリキュラムで育む能力―
    佐原 理
    2017 年 49 巻 1 号 p. 185-192
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    米国のナショナル・スタンダードでは2014年にNCCASによって芸術科のカリキュラムが改訂されメディアアート領域が導入された。メディアアートのカリキュラムでは多様な形態とカテゴリーのあるメディアアートをまとめ,主に映像メディア(Time based media)による制作を行うことになっている。カリキュラムの構成をみると,映像メディアによる表現を教科の中心的活動に設定し,多様な答えのある世界のなかで異なる理解の方法と,自分なりの答えを見つけ出すという芸術科の価値にそって,汎用的スキルを身につけるためのプロセスを提示している。我が国の美術教育を省察し,21世紀型のスキルの獲得や映像メディア領域が果たす役割を考察する上で,米国のようにこの数年で芸術科がもたらす価値を再定義し,これまでになく教科の重要性を高めている動向は重要である。我が国の美術教育にとっても非常に重要な提言として受け取れる。

  • ―富山県立近代美術館で行った実践の参加者からの反応をテキストマイニングの手法で分析して―
    隅 敦
    2017 年 49 巻 1 号 p. 193-200
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,美術館の所蔵作品を教育的に活用するための要件を導きだそうとしたものである。まず,先行研究を分類すると,美術館における優れた実践であっても参加者の反応を取り上げた研究が少ないという課題が浮き彫りになった。そこで,筆者の実践してきた大学の教員養成における必修講義,教員免許状更新講習,子供対象のワークショップの参加者アンケートの自由記述や聞き取り調査をテキストマイニングソフトを用いて分析することにした。その結果,積極的に本物の作品との出会いをつくるために美術館訪問の機会の設定を意図的に行うことや,チラシの配布や入館の誘いを行うことの有効性が確認できた。さらに,作品を前に自由な対話を奨励する無理のない鑑賞内容の設定が有効であることや,所蔵作品を利用するからできる年度ごとの内容の構成の見直しが可能であることも分かってきた。

  • 髙橋 慧
    2017 年 49 巻 1 号 p. 201-208
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,造形と音楽を結び付けた表現活動が子どもに与える影響について,幼稚園で勤務する保育者の意見を基に考察するものである。質問紙調査によって,岡山県内の公立及び私立幼稚園171園から回答を集計し,KHCoderによる分析を加えた。その結果,9割を超える保育者が,子どもへの影響について肯定的に捉えていることが示された。肯定的な意見は,具体的に「①想像力・感性・創造性」「②自由な発想」「③活動の楽しさ」「④個性」の4要素に分類されることが判明した。4要素ごとの回答者の出現率は,①42.9%:②15.2%:③13.1%:④12.5%であり,「①想像力・感性・創造性」に対する保育者の関心の高さが認められた。また,1割弱の保育者からは,子どもへの影響について否定的な意見も認められた。具体的には,「造形と音楽を結び付ける難易度の高さ」「保育者の実践における見通しの不透明さ」という課題が明らかになった。

  • ―中学校美術科学習におけるアクティブ・ラーニングの視点導入に基づく試み―
    竹内 晋平, 橋本 侑佳
    2017 年 49 巻 1 号 p. 209-216
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,生徒が身体的活動や追体験的活動を通した鑑賞的体験で得た感覚等を主体的に言語化する活動を導入した授業実践を行い,美術の俯瞰的理解に関する効果を明らかにすることにある。このため,中学校1年生を対象としてアクティブ・ラーニングの視点を取り入れた美術科授業実践を行った。学習活動においては鑑賞対象に応じた主体的な鑑賞的体験を設定し,各授業の後半で生徒が美術を俯瞰的に理解するための思考を促す発問を行い,それによって言語化された自由記述を収集した。その後,自由記述をテキストマイニングの処理によって可視化し,生徒の美術に対する俯瞰的理解の傾向について分析を行った。その結果,生徒は鑑賞対象ごとに異なる俯瞰的理解の傾向を示し,本実践で行った自身の感覚を通した鑑賞的体験の言語化は,美術の意味を俯瞰的にとらえることに対して有効であることが示唆された。

  • ―視線分析による相互作用へのアプローチ―
    武田 信吾
    2017 年 49 巻 1 号 p. 217-224
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,幼児の集団的な造形活動について,その相互作用の全体像を,視線分析を活用しながら明らかにする。分析データを得るために行った造形活動では,活動の構成メンバー全員の頭部にビデオカメラを装着し,各幼児の視界に広がる世界を個別的に捉えられるようにした。各動画記録は,誰が,いつ,どれだけの時間を伴って映っているのか,行動コーディングシステムを用いて数量化し,それぞれ幼児ごとに,他者に視線を向け続けている可能性が高い場面を特定していった。その結果,当該場面のなかで展開される造形行為の伝搬過程を捉える一方で,幼児が他者の制作物や発話からもアイデアを得ていることも明確化できた。また,応答としての造形行為の模倣や,協同関係にある者の造形行為の確認に伴う視線のやり取りも顕在化し,各幼児の他者への関わり方の特性が,他者に視線を向ける行動の差異として現れていく様相が確認できた。

  • ―中学3年生におけるミレー作『種をまく人』とゴッホ作『種をまく人』の比較鑑賞を通して―
    立原 慶一
    2017 年 49 巻 1 号 p. 225-232
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    生徒は比較(ゴッホ作品)鑑賞法に導かれて,心のあり方や生き方への共感的主題を,より多く感受できた。この結果を見ても,比較をしない鑑賞法に比べて本方法論の方が,より大きな教育的効果をもたらすことが分かる。それは中学校学習指導要領美術編が何よりも標榜する,「心豊かな生き方や生活」への誘いとなる性格のものといえよう。「距離感」は作品の造形的特徴から感受される情趣の一つだが,それは全33名中合計のべ5名(15.2%)の生徒に対して,生き方論的情感を主題として把握させた(表3参照)。「臨場感」の場合は全45名中合計のべ11名(24.4%)(表2参照),「力動感」の場合は全40名中合計のべ16名(40.0%)に感受させた(表1参照)。情趣における性格の違いが鑑賞体験の教育的な意義を決定づけるのである。

  • ―前衛書を鑑賞対象として―
    田畑 理恵
    2017 年 49 巻 1 号 p. 233-240
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    書道は芸道の思潮を根底に持つことから,言葉で批評することに価値を置かないで,表現する身体性が重要とされる一面がある。そのために,書道において鑑賞することとは,古典の臨書や創作をよりよく表すためと位置付けられているといえる。そのような鑑賞学習とは異なる観点を持ち,戦後に創生された前衛書という非文字性の書道の表現を鑑賞対象とした授業実践において,記述的な批評を行う鑑賞学習を行った。生徒は,これまでの臨書や創作によって蓄積してきた学習と前衛書の鑑賞から学んだことを統合し,書道を文化として捉える観点を得て,書道の芸術性の根源にまで遡るような深い鑑賞を行った。本考察では,音楽や美術における鑑賞と批評の捉え方との比較を踏まえて,高等学校芸術科書道における鑑賞教育という視点を持つことによって,書道教育においても記述的な批評による鑑賞に意義があることを理解できた。

  • ―神戸・阪神間美術館・博物館連携プログラム「先生のためのミュージアム活用術」の取り組みから―
    勅使河原 君江, 京谷 晃男
    2017 年 49 巻 1 号 p. 241-248
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,地域の美術館等が提供する教員研修プログラムが,いかにして学校と美術館の連携を通じた美術鑑賞教育充実の糸口となりうるかを明らかにする。神戸・阪神間美術館・博物館連携プログラム「先生のためのミュージアム活用術」を対象として,独立行政法人国立美術館「美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修」の研修概要と比較することで,「地域性の高さ」,「美術館・博物館連携」等の「先生のためのミュージアム活用術」の特徴を明確にする。この特徴と参与観察を踏まえて「先生のためのミュージアム活用術」の参加教員と美術館・博物館スタッフ双方へのインタビューを実施し,その現状を把握する。インタビューの記録をもとに地域の美術館等が提供する教員研修プログラムの意義と課題を考察し,地域の美術館等における教員研修を契機として鑑賞活動充実に至るまでの短期的・長期的展望を描く。

  • 寺門 臨太郎
    2017 年 49 巻 1 号 p. 249-256
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    メトロポリタン美術館所蔵の《聖母子と四人の天使》は,ヤン・ファン・エイク晩年の《泉の聖母》(アントウェルペン王立美術館)に基づく現存8点の模作の一つであり,ヘラルト・ダーフィトが16世紀初頭に制作したものと見なされている。同作品は,「創造生産的」(パノフスキー)で擬古主義的なダーフィト熟年期の様式を示しつつ,同じく《泉の聖母》を基に逸名画家が制作した《壁龕の聖母子》(メトロポリタン美術館)との類縁性により,むしろダーフィト以外の画家の介在を想起させる。また,画中の修道士像とブリュッヘの都市景観の描写により同作品の成立におけるブリュッヘ郊外のカルトゥジア会修道院との関係を指摘することができよう。そのうえで,《聖母子と四人の天使》の帰属,図像,成立事情を再考するとともに,同作品とダーフィトを15世紀末から16世紀初頭にかけてのネーデルラントにおける文化的なアルカイズムの文脈をあらためて構成しなおそうとする。

  • 永江 智尚
    2017 年 49 巻 1 号 p. 257-264
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,中高美術科教員養成での人物モデルを用いた彫刻教育の客観的分析,改善授業の展開・評価,そして,有効な指導法を開発することが目的である。なお本論では,愛知教育大学の学生を調査対象とし,プレテストとポストテスト,アンケート調査の実施・分析を基に,裸婦モデルを用いた塑造実習の効果を検証することまでを研究範囲とした。分析は,ピアソンの積率相関係数,t検定,一元配置分散分析,Tukeyの多重比較検定,重回帰分析によって行った。分析結果から,造形要素についての知識理解と造形力の向上に対し,塑造実習で裸婦モデルを用いることの有用性が明らかになった。一方,造形要素に関わる説明力については,知識理解や造形力に比べると,あまり向上していなかった。その他の結果も踏まえ,彫刻の教科専門科目としての学びが,彫刻教育における指導力につながるように授業を改善するための方針を示唆することができた。

  • ―協働型アクション・リサーチを通して―
    中村 和世
    2017 年 49 巻 1 号 p. 265-272
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,美的リテラシーを育む鑑賞学習を小学校との協働型アクション・リサーチによって開発し,その効果を検証するとともに,児童の美的リテラシーの発達の様相を明らかにすることを目的としている。始めに,今日の学習科学の立場から,H.S.ブロウディの美的教育論を検討し,学習の転移をねらいに据えた対話とメタ認知を取り入れた鑑賞学習の指導原理を提案している。次に,平成27年度に小学校教員12名の協力を得て実施した学習開発の概要,学習効果の検証方法,データ分析の結果について記している。本研究から,提案した指導原理を取り入れた学習は児童の鑑賞に対する積極的な姿勢や美的リテラシーを育成するために有効であり,「美的イメージの形成」と「造形的特質の知覚」の2要素から構成される美的リテラシーの発達は,質的な相違によって,前者に関しては4段階,後者に関しては3段階で表されることが明らかになった。

  • ―ドイツ・ニュルンベルクの小学校における言語活動に力点をおいた授業実践を通して―
    根元 貴代, 太田 朋宏
    2017 年 49 巻 1 号 p. 273-280
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    グローバル化の流れの中で最も直接的で重要な課題は言葉の問題である。我が国においても増加する外国人労働者や将来の経済状況を考えれば国の根幹を担う教育も,彼らを労働力としてだけではなく同じ「人間」として受け入れるべきである。よって従来の母国語の向上を図る教育方法の他に,外国人2世にも向かい合える言語教育活動を充実させる課題は美術教育も避けては通れない。本研究はすでに多民族国家のような人口比であり,外国人2世とドイツ人家庭の児童が混在するニュルンベルク市において,美術教育が如何にその課題に取り組めるか授業実践を通しての考察である。言語能力形成期の児童を対象に言葉と造形表現を丁寧に結びつける授業を試みた結果,双方の能力を高める可能性を見出せたと考える。言語活動が造形表現という非言語系の媒体を介することが,多くのバイリンガル児童が感じている言葉,民族,宗教の壁を超え,文化の差をすり合わせる可能性を示している。

  • 根山 梓
    2017 年 49 巻 1 号 p. 281-288
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は繁野三郎(1894–1986)の図画教育に注目し,自由画運動が北海道の小学校教師に与えた影響について報告し,考察するものである。繁野は大正4年(1915)に札幌師範学校を卒業後,大正9年(1920)まで栗山尋常高等小学校(現在の夕張郡栗山町内)に勤務し,その後昭和5年(1930)まで札幌北九条尋常高等小学校に勤務した。大正5年(1916)から翌年にかけて繁野が教育雑誌に投稿した「現代的毛筆画帖取扱案」と,教育雑誌が伝える昭和2年(1927)の繁野による図画の研究授業,同年に札幌市役所から発行された『図画教育の理論と実際』における繁野の執筆箇所を分析した結果,資料に示される繁野の考え方が二つの時期において異なることが確認された。約10年間の繁野の取り組みを探るなかで大正後期に発行された『北海タイムス』を調査した結果,繁野の勤務校をはじめとする札幌市内の学校が自由画展覧会に熱心に応募していたことが確認された。

  • ―昭和20~30年代の図画作品に注目して―
    蜂谷 昌之
    2017 年 49 巻 1 号 p. 289-296
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文は,昭和20年代から30年代にかけて制作された約6,300点の図画作品を手掛かりに,一地方の学校における図画教育実践の検証を試みるものである。まず,昭和戦後期の図画教育の状況をふまえ,作品を所蔵する学校の関係資料等を参考に,図画の指導体制や教育活動,職員の研修等に関する調査を行った。その上で,この間に制作された作品のテーマや表現方法等を分析し,当時の図画教育実践の実態を考察した。調査の結果,この期間には主に静物画,風景画,人物画,考案画が制作され,期間の中頃から抽象画や木版画が新たな題材として加わったことが明らかとなった。表現方法には,自由に,大胆に表現する傾向が現れており,創造性や個性の伸長という戦後我が国の美術教育観を代表する考えがこの時期に形成され,その理念が新しい題材とともに教育実践に定着したことがうかがえた。

  • 初田 隆, 額尓敦
    2017 年 49 巻 1 号 p. 297-304
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,感覚横断的な活動を通して感性的側面より環境意識を高めるための造形プログラムを開発し,主に小学校での実践可能性を探ることである。教員養成大学の院生(現職教員を含む)16名を対象に試行実践を行い,受講者の活動状況やプレ・ポストテストの記述内容から,プログラムの効果を分析・考察した。プログラム受講者は,感覚横断的な活動を通して,自らの感覚や感性,想像力が開かれていく実感を味わうとともに,美術を通したコミュニケーションの効果や,美術を通して環境や平和などの問題に触れることの重要性を改めて感じ,図工・美術という教科の持つ今日的な可能性に気づくことができた。

  • 花澤 洋太
    2017 年 49 巻 1 号 p. 305-312
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は東日本大震災発生以降,仙台のNPO法人SOAT★1と連携して仙台を中心に現在に至るまで創作活動を通したワークショップを実践している。本稿では2011年9月〜2012年2月にかけて行った東北復興折り鶴プロジェクトPaper cranes for Japan世界からやってきた10万羽の折り鶴たち「Gift by Gift for a Better World」から2016年度東京学芸大学特別開発研究プロジェクトまでの実践事例を取り上げ被災地における創作活動の必要性を考察する。NPO,大学連携で学生と共に行う活動はコミュニケーション形成活動であり専門性を生かした直接的な人的教育,被災地支援の実践の重要性,ワークショップの可能性を検討する。

  • 林 牧子, 髙橋 敏之
    2017 年 49 巻 1 号 p. 313-320
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本論は,個人コラージュ,集団コラージュ,個人フィンガーペインティング,集団フィンガーペインティング,集団カッティングの5種類で構成されている造形的イメージワークが,参加者の自他理解に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。これらのワークが,参加者に及ぼす影響は以下の通りである。(1)自己への言及は,集団ワークと,フィンガーペインティングにおいて生起率が高い。(2)他者への関心は,集団ワークにおいて生起率が高い。(3)否定的反応は,集団フィンガーペインティングと,コラージュにおいて生起率が高い。(4)肯定的反応は,個人ワークと,フィンガーペインティングにおいて生起率が高い。(5)集団カッティングは,否定的反応率が低く,肯定的反応率が高い。以上の結果より,各ワークは,独立した機能を持ちつつ,相互に関連し合い,参加者の自他理解を促すことが明らかになった。

  • 隼瀬 大輔
    2017 年 49 巻 1 号 p. 321-328
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    今日の教育は,国際化する社会ゆえ,日本の「伝統」という視点が必要になっている。美術において「伝統」を扱う代表的な分野の一つが工芸といえるが,工芸における「伝統」の解釈は時代背景や制度等により多様である。美術工芸,伝統工芸,産業工芸では,それぞれの方法で「伝統」を守り,「工芸」全体の価値を高め,広げてきたといえる。そして,それらの中に「手仕事の意義の模索」という共通する「連続性」を見いだすことができた。また,「伝統」とは単なる模倣ではなく,時代に即し再解釈を行い,新たな「伝統」を「創造」してきたことによって継承されてきたということを明らかにした。また,「作り手」側だけでなく「使い手」の育成の必要性も示した。本論では,工芸における伝統の解釈について,現代から俯瞰することで明らかにし,今後の工芸分野教育への視座を提示することを目的とした。

  • ―作品『FOUR SEASONS TREE』を通して―
    一鍬田 徹
    2017 年 49 巻 1 号 p. 329-336
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    ホスピタルアートに関わる研究は,近年,様々なアプローチで取り組まれるようになってきた。現状ではまだそれが一般的になっているとは言いがたいが,先進的な病院における実践例も報告されている。これはアートによる癒しの効果が,より注目されるようになってきたことに他ならない。その背景には時代が進むにつれて,機能や効率だけではない医療のあり方が問われるようになってきたことがあり,超高齢化社会が進む現代日本にとっても喫緊の課題の一つである。この状況の中で,本論は筆者自身が制作者として取り組んだホスピタルアートの実践(屋外での立体作品制作)に対して,医師・薬剤師・看護師・事務職員・業者・患者等に依頼したアンケート調査の結果に基づき,作品の制作過程や意図と,その受容を検証し,そこから明らかになる成果と課題をもとに,病院におけるアートのあり方について,一つの考察を試みるものである。

  • ―アートカードの分析と使用法の考察―
    深澤 悠里亜
    2017 年 49 巻 1 号 p. 337-344
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,鑑賞教育の必要性の高まりにより,学校と美術館の連携事業が注目されている。本研究では,鑑賞の導入に最適なものとして,遊びながら能動的に鑑賞をする姿勢を引き出すアートカードの使用を提案する。現在,アートカードを制作した美術館は増えているが,学校現場で多く使用されているとは言い難い。そこで本論では,まずアートカードの実態を探るため,日本全国のアートカードの調査から,制作年や特徴を比較し,教育的意義を5つにまとめた。その結果,初めのアートカードは手作りであったが,近年は補助ツールが豊富になり,その使用法にも展開が見られることが分かった。更に,鑑賞支援教材として,更なる可能性を確認するため,新たな遊び方の開発を行った。以上の考察に基づきアートカードは,その効果から,子どもだけではなく大人にも鑑賞の導入として使用できる可能性を示唆する。

  • ―「つくりながら考える」造形プロセスについての考察―
    福井 一真
    2017 年 49 巻 1 号 p. 345-352
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,「つくりながら考える」造形プロセスについての考察を深めるために,同プロセスを主軸とした授業実践「小さなタマの散歩道」を実施した。本授業は,段ボールを用いて5人一組でビー玉などを転がす散歩道(コース)をつくる活動である。活動の中で「つくりながら考える」ことが絶え間なく行えるように,制限時間や「時間をかけて転がる」などの5つのルールを設定した。本授業実践から2つの事例を抽出し,イメージの着想と変容についての考察を行った。事例1では,段ボールを切る・折るなどの行為からイメージを着想し,そのイメージが次の行為に展開していく様相を確認することができた。また,事例2では,段ボールの形状からアフォードされた情報を感じ取り,言葉として意味が立ち上がる前に,もしくはほぼ同時に,それまでになかった新たなイメージを獲得していたことついて考察した。

  • ―いのちの色をみる・つくる・感じるアートワークショップの検証―
    藤井 康子, 木村 典之
    2017 年 49 巻 1 号 p. 353-360
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,大分県の全国的にも特異な地形・地質の特色を生かした教科融合型の探究的な学びを幼稚園年長から小学校において実践し,その学習過程や記録を基に子どもの学びの質的評価を研究するものである。本プロジェクトは,平成28年から31年にかけて大分大学と大分県立美術館,大分県教育委員会等が連携して取り組むものである。研究目的は,美術館が研究実践校の小学校等で「地域の色を発見する美術体験プログラム」を実施し,大学がそれをきっかけにした色をテーマとした探究型学習を提案して,子どもの学びのプロセスを検証する。本論では,美術館が行った「地域の動物・植物・鉱物から色をつくり,見て,感じるいのちの色」の2つのワークショップ型授業事例について,文部科学省が示す「育成すべき資質・能力の三つの柱」に沿った学びの質的な分析の試みを示す。

  • 藤田 知里
    2017 年 49 巻 1 号 p. 361-368
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,粘土を用いた子どもの造形活動への適切な支援において,子どもが扱う粘土の硬さに着目し,子どもの造形活動と粘土硬度の関係性について明らかにするとともに,造形活動における適切な援助について考察することを目的とする。研究方法は子どもが練るのに適した粘土硬度の事前調査とそれに続く2回の実験結果の考察による。その結果,子どもが練るのに適した粘土硬度は硬度3程度であり,子どもが粘土の硬さから受ける印象,あるいは粘土の硬度そのものという両側面によって,続く造形活動に影響を与えることが明らかになった。実験の考察から,粘土に対して否定的な感情を持った子どもであっても,触覚はもちろんのこと,視覚,聴覚,運動感覚を始めとする身体感覚及び身体全体を使う活動や,共同で行いコミュニケーションを伴う活動を取り入れる等,活動や援助の工夫をすることによって,表現活動に踏み出すことができ,積極的に活動を発展させることができることを提示した。

  • 本田 悟郎
    2017 年 49 巻 1 号 p. 369-376
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,ジョン・デューイ『経験としての芸術』における芸術論を再考し,この芸術論における経験のあり方とその意義を明らかにすることを目的とする。デューイの理論は,近代以降の芸術と教育の関係性についての深い考察であり,芸術活動における「芸術鑑賞」「芸術受容」「美的体験」「美的性質」などを,経験を軸に概念づけている。また,この芸術論から今日の芸術教育について再考する。デューイは芸術的な活動を美術作品だけではなく,日常の生活にも求め,芸術を大きな枠組みで捉えたのである。そして,芸術作品を作ることと見ることを共に創造的な活動として論じている。美的性質を伴った経験が,豊かな美的経験となるのである。本研究の成果のひとつに,デューイの芸術論が今日の芸術教育におけるコミュニケーション概念を先見的に捉えていたことを指摘する。

  • ―アール・ブリュットの観点からのアプローチ―
    松實 輝彦
    2017 年 49 巻 1 号 p. 377-384
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    嶋本昭三(1928–2013)は前衛美術グループ「具体美術協会」の中心メンバーとして活躍し,世界的に評価された美術家であった。本研究では,嶋本のさまざまな活動から,教育者としての姿に注目した。とりわけ彼の芸術教育活動のなかに一貫してみられる「アール・ブリュット」への関心に焦点を合わせ,アプローチを試みた。最初に新人教師時代の嶋本に大きな影響を与えた,教育活動の指導者である曾根靖雅との関係について検討した。そして嶋本が関わったふたりのアール・ブリュットの表現者である友原康博と藤山晃代について,その活動を初期の段階から振り返って考察した。友原は中学生の時に,特異で個性的な試作品を大量に創作した。藤山は高校生の時に始めたさをり織りを主体に,旺盛に造形活動を展開した。彼らの活動を通して,嶋本が自身の創作活動と併行しながら実践した芸術教育活動の意義を明らかにした。

  • 箕輪 佳奈恵
    2017 年 49 巻 1 号 p. 385-392
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文では,イスラム諸国における美術教育の包括的な特色と傾向について,特にイスラムという宗教との関連性に焦点を当てて明らかにした。イスラムを文化的基盤とする世界では,人物・動物表現が忌避されるなど美術表現に関してある種のタブーが存在することが知られているが,イスラムを国教とする敬虔な国々であっても,美術教育に相当する教科は存在している。それらの教科は概して,子どもの自己表現を重んじる近代美術教育の流れを汲むものであり,イスラムに関連する表現を学ぶような例は皆無である。しかし,多くのイスラム諸国において,人物・動物表現に対する是非や個人主義的な美術表現への疑問といった,イスラムと美術教育とのデリケートな問題が生じていることが明らかとなり,ムスリムの子どもに適した美術教育の必要性が考察された。

  • 哲学対話ワークショップの手法を用いた現代美術作品鑑賞の提案
    宮田 舞, 山内 保典, 岡田 猛
    2017 年 49 巻 1 号 p. 393-400
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,哲学対話ワークショップの手法を用いた現代美術鑑賞のプロセスとその効果を検討した。鑑賞者の意味生成的な鑑賞を促進するためには,鑑賞者自らが美術鑑賞のイメージを問い直すことが重要である。そこで,芸術そのものを問うという特徴を持つ現代美術作品の鑑賞に,哲学対話という手法を導入したワークショップを実施した。哲学対話とは,考えを深めることを目的とした対話実践であり,問いを明確化するプロセスを重視する。取得した録画・録音データ,参加者への質問紙,インタビューデータを,ワークショップでの議論における美術鑑賞活動への言及と,現代美術に対するイメージの変化の観点で分析した。その結果,(1)多くの参加者が現代美術に対するイメージを変化させ,自由で多様な解釈が可能なものとして捉えるようになったこと,(2)哲学対話を行う中での美術鑑賞に関わる議論が,参加者に多様な観点をもたらしたことが明らかになった。

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