2018 年 50 巻 1 号 p. 113-120
本研究は,イタリア・ルネサンス期に活躍した,カルロ・クリヴェッリのテンペラ画に多用された石膏地盛り上げ技法について,実証実験を通して明らかにするものである。これまで,フラ・アンジェリコが描いたフィレンツェのサン・マルコ修道院のフレスコ壁画,『受胎告知』と『磔と聖人たち』の円光について,チェンニーノ・チェンニーニの技法書「絵画術の書」に則って実証実験を行ったところ,板絵テンペラ画の円光技法を転用したことが解明できた。次に,調査をルネサンス期前後におけるテンペラ画の工芸的装飾技法に拡大したところ,カルロ・クリヴェッリの傑作である『マグラダのマリア』(アムステルダム国立美術館所蔵)の石膏地盛り上げ技法に特異性が見られた。あえてルネサンス盛期に伝統的な板絵テンペラ画にこだわり,採用された彼の石膏地盛り上げ技法の再現と検証を行う。