2019 年 51 巻 1 号 p. 289-296
キューバのアーティスト,タニア・ブルゲラは,10年ほど前から自らの実践を「アルテ・ウティル(Useful Art)」と呼び,各地の美術館と連携してプロジェクトを進めている。Useful Artは,現実の社会のなかで作動すること,緊急性のある社会的な課題へ対応すること,参加者一人ひとりに有益な結果をもたらすこと,アーティストはプロジェクトを始めるが運営は参加者に引き継がれ,持続可能性をめざすことなどの特徴がある。このようなアートのあり方は,学校を飛び出して現実の社会の中で学びその力を活かす「社会に開かれた教育課程」を実施する日本の教育に示唆をもたらす。また,ソーシャル・プラクティスのアーティストが試みるコミュニティ結合は,シティズンシップ教育の重要な課題である。アートの試みは,青少年に既存の社会への適応を促す「社会化」ではなく,公共の問題に対する民主的な参加の文化を養う「主体化」をめざすものである。