2022 年 54 巻 1 号 p. 73-80
西野範夫「子どもがつくる学校と教育」(『美育文化』1996–2000)は,自身が関与した新学力観や学習指導要領の基本となる思想を4年にわたり論じた重要文献である。しかし,その厖大さと難解さから十分に検討されていない。筆者は難解さの要因を重畳な文体,無理な論理設定,現代思想援用と特定し,連載を論理整合的論述ではない「語り」とした。難解要因を除いて再構成される論理は以下のようになる。子どもは近代に汚染されてないので,大人や文化が見守れば,瞬間毎に意味生成を無限反復する根源的行為によって子どもの世界をつくる。それを保障するため「造形遊び」が教育の基本として構想された。子どもの論理としての造形行為はそれ自体が意味をもち,既存美術への基礎づけや計画化・系統化等の外部論理に馴染まない。しかし世界・他者との相互作用・相互行為が共同性を担保し,意味生成カウンセリングが子どもを救済する。