抄録
心理臨床においては、クライエントを「受容する」ことが重要な基本とされる。しかし、その「受容」概念はあいまいで、無条件に受容するということが可能なのか、受容することが変化を求めるセラピーと両立するのかといった概念自体が含む問題があり、長年議論がされてきているがいまだに整理されているとは言えない。基本となる概念が不明瞭ではさまざまな戸惑いや混乱を生じさせる。本研究では、人のあり方について「全関連性」「被規定性」「総力性」といった面があることから導き出される「そうあるしかない」というとらえ方を提出し、それによって「受容」概念を巡る混乱を整理することを試みた。そして、このようなとらえ方をセラピストがしっかりともっていることが心理臨床においては重要で、クライエントの自己評価によい影響を与えること、さらにそれが心理臨床の専門性と独自性になることを示した。