植生学会誌
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原著論文
尾瀬ヶ原の湿原植物群落に生じたシカ増加前後50年間の種組成変化
吉川 正人星野 義延大志万 菜々子大橋 春香
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2021 年 38 巻 1 号 p. 95-117

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抄録

1. 尾瀬ヶ原の湿原植生に対するシカ個体数増加の影響を明らかにするため,高層湿原,中間湿原,低層湿原,林縁低木林および河畔林のうち,代表的な10の群集・群落について植生調査を行い,1960年代に得られた同一の群集・群落の調査資料と種組成や生活形組成を比較した.

2. 1960年代との種組成の差異は,高層湿原や中間湿原の群落よりも,低層湿原 (クロバナロウゲ-ホソバオゼヌマスゲ群集,ミズバショウ-リュウキンカ群集,ノダケ-ゴマナ群落) や林縁低木林および河畔林の群落 (ノリウツギ-ウワミズザクラ群落,ハルニレ群集) で大きかった.

3. 生活形組成では,多くの群落で大型の直立広葉草本の割合が減少し,叢生グラミノイドや小型の非叢生グラミノイドの割合が増加していた.種組成の違いが大きかった群落は,大型の直立広葉草本を多く含む群落であった.

4. 群落間の種組成の類似度は,中間湿原と低層層湿原の相互の群落間で1960年代よりも大きくなっており,群落間の種組成が均質化する傾向が認められた.

5. 以上から,尾瀬ヶ原においてはとくに低層湿原と湿原周縁部の低木林や河畔林にシカの影響が強く表れていると考えられた.そのため,これらの群落を優先的に保全することが重要であることを提起した.

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