植生学会誌
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原著論文
高知県の里地で生育地が減少している草地生植物の生態的特性
大利 卓海瀨戸 美文山下 貴裕比嘉 基紀石川 愼吾
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2021 年 38 巻 2 号 p. 147-159

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抄録

1. 農地周辺の半自然草地には,人為的攪乱(火入れ・刈り取り等)に依存して個体数を維持する草地生植物が数多く生育している.しかし,農業の近代化・集約化に伴う土地改変,農薬の過剰利用,人口減少に伴う管理放棄によって,かつて普通に存在していた草地生植物の種多様性の低下が懸念されている.攪乱に依存して個体数を維持してきた多くの草地生植物のうち,具体的にどのような生態的特性をもつ種が減少傾向にあるのかについて,十分な知見は得られていない.

2. 本研究の目的は,生育地が減少している草地生植物の普通種に共通する生態的特性を明らかにすることである.土地利用の異なる高知県の里地16地域において,水田畦畔や畑法面,道路脇・林縁法面など草地生植物の生育が可能な刈り取り草地に100 mのライントランセクトを15本設置し,草地生植物50種の出現回数を調査した.草地生植物45種を採取して,葉形質から生活史戦略性(耐ストレス戦略性,荒れ地戦略性)を評価し,生態情報(匐枝・走出枝・横走根茎の有無,つる性の別,草丈,風散布・重力散布の別,広葉草本の別)を収集した.以上のデータをもとに,出現回数と草地生植物の生態的特性との関係性について検討を行った.

3. ライントランセクト調査の結果,チェックリスト掲載種(計23科50種)すべての生育が確認された.里地16地域に設置した240本のライントランセクトのうち,出現回数の多かった種は,ススキ,イタドリ,ゲンノショウコであった.出現回数の少なかった種は,コシオガマ,センボンヤリ,キジムシロであった.本研究では,既存の文献情報をもとに調査地域で生育が確認されている種のみを対象にチェックリスト調査を行ったが,種によって出現回数が多い種がいる一方で少ない種もいることが明らかとなった.

4. 植物標本が採取できた45種について,一般化線形混合モデルと赤池情報量基準(AIC)による総当たり法を用いて,出現回数と相関の高い生態的特性を解析した結果,AIC最小モデルでは葉形質より算出した耐ストレス戦略性と重力散布の別,草丈が選択された.変数の重要性は,重力散布の別(0.74),耐ストレス戦略性の二乗項(0.73),草丈(0.52),広葉草本の別(0.48),耐ストレス戦略性の一乗項(0.45),風散布の別(0.43),荒れ地戦略性の一乗項(0.33),つる性の別(0.33),匐枝・走出枝・横走根茎の有無(0.32),荒れ地戦略性の二乗項(0.31)の順で高かった.

5. 以上の結果,攪乱に依存して個体数を維持してきた多くの草地生植物のうち,生育地が減少しつつある草地生植物に共通する生態的特性として,重力散布で耐ストレス戦略性が高いこと,草丈が小さいことが共通する可能性が示唆された.

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