植生学会誌
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38 巻, 2 号
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原著論文
  • 深町 篤子, 星野 義延
    2021 年 38 巻 2 号 p. 133-145
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
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    電子付録

     多種が共存できる仕組みの解明は生態学における重要なテーマのひとつである.近縁種間の共存に焦点をあてた研究は共存機構の理解に有効である.なぜならば,近縁種間では系統的な制約によって似た特徴をもっており,共存機構の解釈で広く用いられるニッチ分化からの説明が最適ではなくなる場合があるためである.私たちは,攪乱が立地を特徴づける渓畔林に生育する,小型草本のネコノメソウ属Chrysosplenium(ユキノシタ科)の種の共存に焦点をあてた.中央日本の渡良瀬川上流域の65ヶ所の渓畔林で植生調査と環境の記録を行い,ネコノメソウ属の種の共存と林冠タイプと地形タイプへの選好性をファイ係数の算出と並べ替え検定により解析した.その結果,5種のネコノメソウ属の種は共存関係にあり,似通った立地選好性を示した.5種は,遷移後期種であるシオジが林冠で優占する林で,重力だけではなく水に起因する攪乱で形成,維持されている地形に生育する傾向が見られ,重力のみに起因する攪乱で形成され,ケヤキ林が成立する立地を忌避していた.これらの結果は,ネコノメソウ属の種の林分スケール(102-103 m2)での系統学的集合,生態学的集合を示すものである.一方で,相対的に先駆種であるサワグルミが同様の地形に優占した林には,イワボタンとコガネネコノメソウの選好性はみられず,長期間の攪乱の痕跡がみられない地形に成立したサワグルミ林には選好性がみられた.これらのことから,長命なシオジが優占するまでの期間,立地の安定性が保たれたことが,5種の集合に重要であったと考えられた.また,あらゆる攪乱に影響を受ける移住と定着の機会が種間で類似し,共存に重要であったと推測した.

  • 大利 卓海, 瀨戸 美文, 山下 貴裕, 比嘉 基紀, 石川 愼吾
    2021 年 38 巻 2 号 p. 147-159
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
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    1. 農地周辺の半自然草地には,人為的攪乱(火入れ・刈り取り等)に依存して個体数を維持する草地生植物が数多く生育している.しかし,農業の近代化・集約化に伴う土地改変,農薬の過剰利用,人口減少に伴う管理放棄によって,かつて普通に存在していた草地生植物の種多様性の低下が懸念されている.攪乱に依存して個体数を維持してきた多くの草地生植物のうち,具体的にどのような生態的特性をもつ種が減少傾向にあるのかについて,十分な知見は得られていない.

    2. 本研究の目的は,生育地が減少している草地生植物の普通種に共通する生態的特性を明らかにすることである.土地利用の異なる高知県の里地16地域において,水田畦畔や畑法面,道路脇・林縁法面など草地生植物の生育が可能な刈り取り草地に100 mのライントランセクトを15本設置し,草地生植物50種の出現回数を調査した.草地生植物45種を採取して,葉形質から生活史戦略性(耐ストレス戦略性,荒れ地戦略性)を評価し,生態情報(匐枝・走出枝・横走根茎の有無,つる性の別,草丈,風散布・重力散布の別,広葉草本の別)を収集した.以上のデータをもとに,出現回数と草地生植物の生態的特性との関係性について検討を行った.

    3. ライントランセクト調査の結果,チェックリスト掲載種(計23科50種)すべての生育が確認された.里地16地域に設置した240本のライントランセクトのうち,出現回数の多かった種は,ススキ,イタドリ,ゲンノショウコであった.出現回数の少なかった種は,コシオガマ,センボンヤリ,キジムシロであった.本研究では,既存の文献情報をもとに調査地域で生育が確認されている種のみを対象にチェックリスト調査を行ったが,種によって出現回数が多い種がいる一方で少ない種もいることが明らかとなった.

    4. 植物標本が採取できた45種について,一般化線形混合モデルと赤池情報量基準(AIC)による総当たり法を用いて,出現回数と相関の高い生態的特性を解析した結果,AIC最小モデルでは葉形質より算出した耐ストレス戦略性と重力散布の別,草丈が選択された.変数の重要性は,重力散布の別(0.74),耐ストレス戦略性の二乗項(0.73),草丈(0.52),広葉草本の別(0.48),耐ストレス戦略性の一乗項(0.45),風散布の別(0.43),荒れ地戦略性の一乗項(0.33),つる性の別(0.33),匐枝・走出枝・横走根茎の有無(0.32),荒れ地戦略性の二乗項(0.31)の順で高かった.

    5. 以上の結果,攪乱に依存して個体数を維持してきた多くの草地生植物のうち,生育地が減少しつつある草地生植物に共通する生態的特性として,重力散布で耐ストレス戦略性が高いこと,草丈が小さいことが共通する可能性が示唆された.

  • 江間 薫, 黒田 有寿茂, 石田 弘明
    2021 年 38 巻 2 号 p. 161-173
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
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    1. 伝統的な棚田の畦畔法面に広がる草原(以下,畦畔法面草原)は,数百年以上にわたって利用・管理されてきた半自然草原である.本研究では,兵庫県の日本海側地域から淡路島(瀬戸内海側地域)までの広範囲を対象に畦畔法面草原の植生調査を実施し,その種組成・種多様性が地域によってどのように異なるのか,また,種組成・種多様性と気候条件の間にどのような関係があるのかを明らかにすることを目的とした.

    2. 植生調査データを一覧表にまとめて表操作を行った結果,調査対象とした畦畔法面草原は三つの群落単位(タイプA,タイプB,タイプC)に区分された.

    3. 兵庫県を北部(本州部の日本海側地域),南部(本州部の瀬戸内海側地域),淡路島の3地域に区分したところ,タイプAとタイプCはそれぞれ北部と南部だけに分布し,タイプBは南部と淡路島に比較的多く分布していた.

    4. DCAによるスタンドの序列化を行った結果,スタンドは群落単位ごとにまとまって分布する傾向がみられ,種組成が群落単位間で明らかに異なることが確認された.また,種組成は北部,南部,淡路島の間で異なる傾向が認められた.

    5. 群落単位間の種組成の相違はタイプAと他の2タイプの間で特に大きいことがわかった.また,暖かさの指数,年降水量,冬季降水量,非冬季降水量,最深積雪はタイプAと他の2タイプの間で有意に異なっていた.さらに,DCAの1軸スコアとこれらの変数との間には強い有意な相関が認められた.これらのことから,タイプAと他の2タイプの種組成の相違は気温,降水量,降雪量の違いを複合的に反映していると考えられた.

    6. 調査区(1 m2)あたりの在来種数と多年生草本種数はタイプB,タイプCよりもタイプAの方が有意に多かった.順位相関分析の結果,これらの種数と暖かさの指数,最深積雪の間にはやや強い有意な相関が認められた.このことから,群落単位間の在来種数と多年生草本種数の相違は気温と降雪量の違いを複合的に反映していること,また,気温と降雪量はこれらの種数に対してそれぞれ負の相関と正の相関があることが示唆された.

  • 並川 寛司, 北村 系子, 松井 哲哉, 石川 幸男
    2021 年 38 巻 2 号 p. 175-190
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
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    1. 北海道南西部の奥尻島と渡島半島,および東北地方北部において,ブナ林の種組成を比較するために,奥尻島17箇所,その対岸にある渡島半島10箇所,下北半島および北上山地9箇所,白神山地5箇所,合計41箇所に調査区を設定し,植物社会学的な植生調査を行った.また,東北地方日本海側沿岸部のブナ林について,文献資料から7箇所の植生資料を得た.

    2. 奥尻島から得た17の植生資料についてTWINSPANの手法を用い植生型を区分した結果,2つの植生型(I型とII型)が区分され,I型はさらに2つの亜型(Ia型とIb型)に区分された.各植生型に区分された調査区の標高をみると,Ia型,Ib型,II型の順にその標高範囲は低くなっていた.

    3. 奥尻島の標高300 m以上には亜寒帯性の要素がみられ,それ以下には暖温帯性の要素がみられることについて,前者は山頂効果,後者は対馬暖流による気象の緩和が原因であることについて考察した.

    4. 全て(48)の植生資料についてTWISPANの手法を用い植生型を区分した結果,2つの植生型(A型とB型)が区分され,それぞれさらに2つの亜型(A1およびA2型とB1およびB2型)に区分された.A1型には,奥尻島で区分されたI型の調査区の全て(14調査区)と渡島半島の最北の2つの調査区が含まれた.また,B1型には奥尻島で区分されたII型の調査区の全て(4調査区)が含まれた.

    5. 全ての植生資料を対象に区分されたA1型,A2型,B2型は,地理的に異なる分布を示した.A1型は奥尻島とその対岸の渡島半島北部に,A2型は渡島半島南部(北緯42°以南)から青森県下北半島の下端から青森県と秋田県の県境付近,さらに北上山地にかけて分布し,B2型は東北地方日本海側沿岸域に分布していた.一方,B1型は,奥尻島および渡島半島にそれぞれ4調査区,津軽半島と北上山地東部にそれぞれ1調査区が分布し地理的な分布にまとまりは見られなかったが,奥尻島と北上山地東部を除くと,渡島半島の南部から下北半島および津軽半島を含む地域に分布していた.

    6. 奥尻島の主要な植生型であるA1型の種組成をみると,渡島半島北部のブナ林と本州のブナ林の識別種であるツルツゲが出現するとともに,渡島半島北部のブナ林と同様亜寒帯森林の要素であるダケカンバ,ツバメオモト,シラネワラビの出現がみられた.一方,ミヤマイタチシダ,シノブカグマ,ウワミズザクラ,ツルアリドオシなど東北地方北部を含む本州日本海側のブナ林に高い頻度で出現する種が比較的高い常在度を示した.

    7. 奥尻島の低標高地に分布する植生型B1型は,A1型とともに,渡島半島南部において積雪期間の短い地域に分布する亜群集の識別種によって特徴づけられた.

    8. 奥尻島のブナ林は,渡島半島北部,渡島半島南部および東北地方北部を含む本州日本海側のブナ林と組成的な類似性を持ち,比較対象とした本土各地のブナ林の組成的な違いが奥尻島ブナ林には圧縮して見られた.

  • 山ノ内 崇志, 曲渕 詩織, 川越 清樹, 平吹 喜彦, 黒沢 高秀
    2021 年 38 巻 2 号 p. 191-208
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
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    1. 東北地方太平洋沖地震による津波被災地において,海岸防災林再生事業による生育基盤盛土造成・植林直後の植林地4カ所と植林によらずクロマツ低木疎林が回復した再生地5カ所の植生を比較し,あわせてそれぞれで表層土壌環境を調査した.

    2. 調査地全体(54方形区)で111種の維管束植物が確認され,50種が再生地と植林地に共通し,34種は再生地のみ,27種は植林地でのみで確認された.確認された種の50.5%が多年草,29.7%が一年草,また25.2%が外来植物,9.9%が海岸植物であった.

    3. modified TWINSPANによる解析では,第一分割で再生地を多く含む群と植林地を多く含む群に分かれ,最終的におおむね調査地ごとにまとまりのある7つの植生型に区分された.nMDSによる解析では植被率と強い相関を有する第1軸に沿って再生地と植林地が配置され,さらに再生地は海岸植物の種数と強い相関を有する第2軸に沿って広く配置された.

    4. 表層土壌環境は,pH,透水係数,ECについて20方形区間で有意差が認められたが,再生地と植林地の群間の比較では有意な差は検出されなかった.主要な植物群落の指標との間では,総出現種数とD20,海岸植物の種数と平均ECの間にそれぞれ有意な相関が認められたが,相関係数は小さかった.

    5. 植林地は木本,林縁・林床に多い植物,海岸植物の種数が少ない点で再生地とは種組成が大きく異なっており,盛土を伴う海岸林造成によって広く植生が改変されている実情が明らかとなった.植林地と再生地の植生の差は,盛土の造成による繁殖器官の消失の影響が大きいと推測された.

    6. 表層土壌環境は調査地点間で差が大きく,再生地と植林地という単純な対比は妥当ではないと考えられた.また,粗粒で透水性が高く,土壌ECが低い環境により多くの海岸植物種が出現することが示唆されたが,両者の属性間の順位相関係数は小さく,より精密な調査が必要である.

    7. 生育基盤盛土上の植林地でも,現地由来の砂を撒き出すことにより海岸植物が増加することが示された.このような処置により,植林地を海岸植物の生育地としても機能させうる可能性がある.

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