1. 北海道南西部の奥尻島と渡島半島,および東北地方北部において,ブナ林の種組成を比較するために,奥尻島17箇所,その対岸にある渡島半島10箇所,下北半島および北上山地9箇所,白神山地5箇所,合計41箇所に調査区を設定し,植物社会学的な植生調査を行った.また,東北地方日本海側沿岸部のブナ林について,文献資料から7箇所の植生資料を得た.
2. 奥尻島から得た17の植生資料についてTWINSPANの手法を用い植生型を区分した結果,2つの植生型(I型とII型)が区分され,I型はさらに2つの亜型(Ia型とIb型)に区分された.各植生型に区分された調査区の標高をみると,Ia型,Ib型,II型の順にその標高範囲は低くなっていた.
3. 奥尻島の標高300 m以上には亜寒帯性の要素がみられ,それ以下には暖温帯性の要素がみられることについて,前者は山頂効果,後者は対馬暖流による気象の緩和が原因であることについて考察した.
4. 全て(48)の植生資料についてTWISPANの手法を用い植生型を区分した結果,2つの植生型(A型とB型)が区分され,それぞれさらに2つの亜型(A1およびA2型とB1およびB2型)に区分された.A1型には,奥尻島で区分されたI型の調査区の全て(14調査区)と渡島半島の最北の2つの調査区が含まれた.また,B1型には奥尻島で区分されたII型の調査区の全て(4調査区)が含まれた.
5. 全ての植生資料を対象に区分されたA1型,A2型,B2型は,地理的に異なる分布を示した.A1型は奥尻島とその対岸の渡島半島北部に,A2型は渡島半島南部(北緯42°以南)から青森県下北半島の下端から青森県と秋田県の県境付近,さらに北上山地にかけて分布し,B2型は東北地方日本海側沿岸域に分布していた.一方,B1型は,奥尻島および渡島半島にそれぞれ4調査区,津軽半島と北上山地東部にそれぞれ1調査区が分布し地理的な分布にまとまりは見られなかったが,奥尻島と北上山地東部を除くと,渡島半島の南部から下北半島および津軽半島を含む地域に分布していた.
6. 奥尻島の主要な植生型であるA1型の種組成をみると,渡島半島北部のブナ林と本州のブナ林の識別種であるツルツゲが出現するとともに,渡島半島北部のブナ林と同様亜寒帯森林の要素であるダケカンバ,ツバメオモト,シラネワラビの出現がみられた.一方,ミヤマイタチシダ,シノブカグマ,ウワミズザクラ,ツルアリドオシなど東北地方北部を含む本州日本海側のブナ林に高い頻度で出現する種が比較的高い常在度を示した.
7. 奥尻島の低標高地に分布する植生型B1型は,A1型とともに,渡島半島南部において積雪期間の短い地域に分布する亜群集の識別種によって特徴づけられた.
8. 奥尻島のブナ林は,渡島半島北部,渡島半島南部および東北地方北部を含む本州日本海側のブナ林と組成的な類似性を持ち,比較対象とした本土各地のブナ林の組成的な違いが奥尻島ブナ林には圧縮して見られた.
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