植生学会誌
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原著論文
東北地方太平洋沖地震の津波後に自然に再生したクロマツ低木疎林と生育基盤盛土上に植林された海岸防災林の植生およびその表層土壌環境
山ノ内 崇志曲渕 詩織川越 清樹平吹 喜彦黒沢 高秀
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2021 年 38 巻 2 号 p. 191-208

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抄録

1. 東北地方太平洋沖地震による津波被災地において,海岸防災林再生事業による生育基盤盛土造成・植林直後の植林地4カ所と植林によらずクロマツ低木疎林が回復した再生地5カ所の植生を比較し,あわせてそれぞれで表層土壌環境を調査した.

2. 調査地全体(54方形区)で111種の維管束植物が確認され,50種が再生地と植林地に共通し,34種は再生地のみ,27種は植林地でのみで確認された.確認された種の50.5%が多年草,29.7%が一年草,また25.2%が外来植物,9.9%が海岸植物であった.

3. modified TWINSPANによる解析では,第一分割で再生地を多く含む群と植林地を多く含む群に分かれ,最終的におおむね調査地ごとにまとまりのある7つの植生型に区分された.nMDSによる解析では植被率と強い相関を有する第1軸に沿って再生地と植林地が配置され,さらに再生地は海岸植物の種数と強い相関を有する第2軸に沿って広く配置された.

4. 表層土壌環境は,pH,透水係数,ECについて20方形区間で有意差が認められたが,再生地と植林地の群間の比較では有意な差は検出されなかった.主要な植物群落の指標との間では,総出現種数とD20,海岸植物の種数と平均ECの間にそれぞれ有意な相関が認められたが,相関係数は小さかった.

5. 植林地は木本,林縁・林床に多い植物,海岸植物の種数が少ない点で再生地とは種組成が大きく異なっており,盛土を伴う海岸林造成によって広く植生が改変されている実情が明らかとなった.植林地と再生地の植生の差は,盛土の造成による繁殖器官の消失の影響が大きいと推測された.

6. 表層土壌環境は調査地点間で差が大きく,再生地と植林地という単純な対比は妥当ではないと考えられた.また,粗粒で透水性が高く,土壌ECが低い環境により多くの海岸植物種が出現することが示唆されたが,両者の属性間の順位相関係数は小さく,より精密な調査が必要である.

7. 生育基盤盛土上の植林地でも,現地由来の砂を撒き出すことにより海岸植物が増加することが示された.このような処置により,植林地を海岸植物の生育地としても機能させうる可能性がある.

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