Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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原著
人口構造物によって隔てられた隣接する2地点間に見られるクロタマキビ形態の適応的差異
山崎 友資 五嶋 聖治
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2012 年 70 巻 1-4 号 p. 1-10

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抄録
港の内側と外側においてクロタマキビLittorina sitkana(Philippi,1845)の形態・生態的差異を比較し,それぞれの環境に対して適応的か否かを検討した。港の内外は幅約1 mのコンクリート壁で分断されている。港の内側の基質は人工的にセメントで固められており,色は黒い玉石とコンクリートの灰白色がモザイク状に分布する。捕食者と考えられるイソガニHemigrapsus sanguineusの存在は調査期間中に確認された。波圧は,外側と比較して弱い。一方,港の外側の基質は天然の岩礁で,表面は灰白色のイワフジツボChthamalus challengeriで覆われており,調査期間中にイソガニは確認されず,波圧は強い。港の内側に生息する本種の殻色は全体的に暗褐色で,貝殻は堅く,貝殻表面の構造は滑らかで,足のサイズは比較的小さいといった形質を持つ個体が非常に多い。一方,港の外側では,貝殻の殻頂部は灰褐色であるが成長の途中で灰白色へ変化し,貝殻は壊れやすく,貝殻表面はリブレットで覆われ,足のサイズは比較的大きいといった形質を持つ個体が非常に多い。イソガニを用いた捕食実験の結果,捕食者と同所的ではない外側の個体のみ捕食された。水流耐性実験では,波圧が弱い内側の個体の耐性が低かった。港の内外で見られる形態・生態的差異は,それぞれの環境に対して適応的なものであると考えられた。
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© 2016 日本貝類学会
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