Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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原著
太平洋北西部産スギノハウミウシ属(裸鰓目・スギノハウミウシ科)の1種Dendronotus primorjensis Martynov, Sanamyan & Korshunova, 2015の分子系統解析による分布域確認と,D. robilliardiおよびD. kalikalの分布記録的報告
Tatiana Korshunova中野 理枝Karin FletcherNadezhda SanamyanAlexander Martynov
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2019 年 77 巻 1-4 号 p. 1-14

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抄録

Dendronotusスギノハウミウシ属は裸鰓目スギノハウミウシ科に属するウミウシの仲間で,背面の両側に樹枝状突起が生じるのが特徴である。Dendronotus primorjensis Martynov, Sanamyan & Korshunova, 2015のタイプ産地は日本海のロシア側の沿岸で,中野(2004)が宮城県女川から日本初記録を報告した。しかし写真のみの報告であったため,今回北海道臼尻で得た標本を用いて分子系統解析を行った。その結果,臼尻産の個体はD. primorjensisであり,本種は日本東北部以北の沿岸にも分布することが確認された。本種には日本初記録地に因み,和名としてオナガワスギノハウミウシが提唱されている(中野,2018)。次にDendronotus robilliardi Korshunova, Sanamyan, Zimina, Fletcher & Martynov, 2016が青森県竜飛岬から報告された。本種のタイプ産地は太平洋北西部のカムチャツカであるが,竜飛岬産の個体は特徴的な外部形態からD. robilliardiであると考えられる。D. robilliardiは太平洋北東部,北アメリカ沿岸からも報告されている。本種には種小名に献名された研究者に因み,和名としてロビラードウミウシが提唱されている(中野,2018)。最後にDendronotus kalikal Ekimova, Korshunova, Schepetov, Neretina, Sanamyan & Martynov, 2015が千島列島から報告された。本種のタイプ産地もカムチャツカであるが,外部形態と分子系統解析,および歯舌形態から千島列島産の個体はD. kalikalであることが確認された。D. kalikalのタイプ産地以外からの報告は今回が初めてである。本種には形態的特徴および種小名の意から,ソメワケスギノハウミウシの和名を新唱する。

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© 2019 日本貝類学会
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