2023 年 81 巻 1-4 号 p. 39-46
マツカサガイ属は1属1種と考えられていたが,遺伝子解析によって3群(Pronodularia cf. japanensis 1~3 in Lopes-Lima et al., 2020)とされた。しかし,マツカサガイのタイプ産地は「Japan」としか記載がなく,マツカサガイの学名に該当する個体群は3群のどれか確定されていなかった。そこで3群の殻形態比較により,マツカサガイのタイプ標本に最も近い形状を示す地域個体群(北東本州固有種 P. cf. japanensis 3)を確定し,本種の再記載を行った。また,タイプ標本の採集地が江戸(東京)周辺の関東地方と推測された。
なお,広域分布種と東海固有種とされる2群はそれぞれ有効種なのか不明確で,今後更なる遺伝学的および形態学的な解析を進める必要がある。
Pronodularia japanensis(Lea, 1859)マツカサガイ
レクトタイプ:NHMUK 1965181(ロンドン自然史博物館),殻長48.3 mm,殻高27.8 mm,殻幅15.2 mm。
タイプ産地:日本(詳しい地名は不明。ただし,東京近郊の関東地方と推測された。)
分布:東北から関東地方の太平洋側に固有。
形態:殻は細長く,平たい。前縁は丸く,後縁は角張る。殻表面には逆V字状の彫刻があり,後背縁の放射肋は明瞭である。殻表は暗褐色で,真珠層は白色である。幼生は亜円形で,殻長と殻高が等しい。
生態:小川や用水路の礫~砂泥底に生息する。
繁殖:流下幼生は5月から9月にかけて見られる。
備考:他の2群とは遺伝的に異なっている。また,他の2群より殻が平たく,殻幅比(SW/SL)が0.364以下であれば本種と同定可能(正判別率=75%)。