貝類学雑誌
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下部白亜系および中部中新統の泥岩より産した化学合成二枚貝・スエモノガイ科の新属 Nipponothracia
蟹江 康光坂井 民江
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1997 年 56 巻 3 号 p. 205-220

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抄録

北海道中央部に分布する前期白亜紀の後期アルビアンの前期(106 Ma), と三浦半島の中央部に分布する中期中新世初期(15 Ma)の地層から産出した, ともに良く似るスエモノガイ科の二枚貝化石を検討した。三浦半島の葉山層の粘土岩から採集された化石は, Shikama(1968)によってThracidora giganteaと命名された。しかし, 本種は殻が非常に大きく(殻長約140 mm), 厚く, 殻頂が中央にあり, その外形は楕円形で, 殻の後端に切断面がない, という特徴はワタゾコスエモノガイ属Thracidoraと大きく異なることから, 本属は同属に含まれない, との結論に達した。一方, 北海道三笠市の幾春別川支流の奔別(ぽんべつ)川の中部蝦夷層群下部のシルト岩から採集されたスエモノガイ科化石は円形に近い楕円形で, 三浦半島産の化石よりさらに大型(約180 mm)で, 厚い殻はよく膨らんでいる。この2種類のスエモノガイ科化石はスエモノガイ科の中で形態が特異であるので, これらをスエモノガイ科の新属としてNipponothracia属(ニッポンスエモノガイ)を提唱する。北海道の白亜紀(106 Ma)の新種N. ponbetsensisと三浦半島の中新世(15 Ma)のN. giganteaは両種とも泥岩中から合弁で産出し, 周辺に炭酸塩のコンクリーションを伴う。Nipponothracia属は, 化学合成細菌を体内に共生させていることが知られているSolemya属, Calyptogena属, Conchocele属と共産しているので, Nipponothracia属もこれらの属と同様の生態をもつ化学合成動物と考えられる。

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© 1997 日本貝類学会
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