2021 年 5 巻 1 号 p. 51-58
本稿は、臨時教育審議会の構成員であり、1989年改訂の幼稚園教育要領策定を主導した教育社会学者・河野重男の幼児教育論の特色を明らかにしようとするものである。河野の幼児教育論は、「自己教育力」という非認知的能力を育成するという要請に応えようとするものであった。河野は、近時の社会変動に対する悲観的認識を持ち、その欠陥を補うシステムとしての生涯学習社会構築の必要性を痛感していた。河野にとっての生涯学習とは、幼児期から一生を通じての、発達課題の適時的な達成によってなされていく経時的な過程であった。そして、生涯発達の基盤を成すことが幼児期における教育の意義であるとすると同時に、発達の道筋の不可逆性を強調したのである。