敬心・研究ジャーナル
Online ISSN : 2434-1223
Print ISSN : 2432-6240
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  • ― デベロップメンタル・ネットワークの視点から ―
    坂本 理郎
    2025 年9 巻1 号 p. 1-13
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、デベロップメンタル・ネットワーク(Developmental Network:DNと略)の視点から、初期のキャリア発達を促す職場の人間関係のマネジメントについて論じることにある。筆者は、Hall, D.T.が示した「関係性アプローチ(relational approach)」という考え方に依拠して、組織によるDNのマネジメント可能性について探究してきた。

    これまでに筆者が実施してきたいくつかの実証的研究の結果から、DNのマネジメントを可能にする要因として、①その人が従事する職務の特性(タスク多様性や相互依存性、あるいはそれらを包含するチームワークという職務特性)と、②職務特性や部下の特性に適合的な直属上司のかかわり行動という2点を見出すに至っている。この結果を基にして、①職務設計によるDNの形成促進、②職務特性を意識した若手社員の配置、③職務特性と部下個人の特性に適合的な直属上司の関わり行動、といった実践的示唆を提示した。最後に、これらの知見が教育機関における職業教育に与える示唆を述べた。

  • 曽倉 恵里子
    2025 年9 巻1 号 p. 14-23
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    本ケースは、母親や主治医、その他支援者の期待、あるいは勧めてくれた路線に乗るために努力するが、それらが自分の意思との間に相克を生じ、うつ症状が悪化するというパターンを繰り返していた。この悪循環のために、本ケースの「自立」は失敗し、それが本人の自己肯定感の低さや希死念慮へ繋がっていることが理解できた。本ケースは、筆者とのかかわりを通して、依存関係にあった母親から自立し、自分自身の目標に向かって歩み始めることができた事例である。この間の筆者の支援は、本ケースが自分自身の気持ちに気づき、意思を持って行動していくことを支援したプロセスであった。したがって、当初から意図していたわけではないが、結果的に本人の「自立」ではなく、「自律」への支援であったと言える。本人の個別の課題に沿って、「自立」と「自律」への支援を混同しないことが、ソーシャルワーカーには必要と実感したので、本ケースの事例を報告し、考察を加えた。

  • ― 最高裁判所2024(令和6)年7月3日大法廷判決 ―
    梶原 洋生
    2025 年9 巻1 号 p. 24-29
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    1948(昭和23)年に制定された日本のいわゆる旧優生保護法は、特定の疾患や障害を有する人々に対して、本人の同意なしに不妊手術を強制することが可能であるという条項を含んでいた。実際に、多くの人々に適用され、手術が実施されてきた。近年、この法律に対する違憲判決が立て続けに出て、社会に波紋が広がっている。そして2024(令和6)年7月3日に、係る国家賠償請求事件についての最高裁判所大法廷判決が出た。ここでも、同法の手術に関する規定が憲法に違反するとの判断が示されたのである。本件国家賠償請求事件の裁判資料を入手して整理したので、これを報告し若干の文献的考察を加えることとする。

  • ― 大学学園祭企画にて実施した腰痛予防・改善プログラムの実践報告 ―
    包國 友幸
    2025 年9 巻1 号 p. 30-37
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    促通を用いて即座に身体を動かしやすくするなどの効果(即時効果)を実感することができる運動プログラムは1997年に開発された。本研究は2024年11月のA大学学園祭においての実践報告であり、目的はその運動プログラムの効果を検証することである。対象者はA大学学園祭腰痛予防・改善講座参加者の中から質問用紙の提出のあった男性15名、女性22名であった。質問紙による調査項目とその結果を以下に示した。(1)NRS調査では腰に対する主観的な感覚が運動後に有意に改善した(p<0.01)、(2)対象者の年齢区分では40歳代と50歳代が最も多かった。(3)運動後の腰や体の感覚については「とてもすっきりした」が65%、「ややすっきりした」が30%、(4)運動プログラムを実施してどのように感じたかでは「大変良い」が68%、「良い」が27%、(5)自由記述では肯定的内容がほとんどであった。

  • 宮嶋 淳
    2025 年9 巻1 号 p. 38-48
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    本稿においては、「いじめ問題」への社会の認識や動向の変遷を、いじめ防止対策推進法の制定前後の研究や政策に焦点をあてレビューした。

    その結果、法の制定前においては、「いじめ問題」への対応は「学校内」で行われるものであり、教育学や心理学をメタ認知として対応がなされ、学校現場の苦悩が如実に活字化されてきた。そして、法の制定後は子どもの人権侵害を予防し、子どもの教育を受ける権利を保障する方向で法が機能しはじめ、「いじめ問題」への対応が社会化したと解釈できた。

    子ども・教職員・学校・地域社会のウェルビーイングの実現には、「いじめ問題」の克服に向けた努力が全国民・全人類に欠かせないと示唆された。

  • 東根 ちよ, 吉田 直哉
    2025 年9 巻1 号 p. 49-56
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    本稿は、農村地域を含め都市化が進行する今日、地域福祉研究が「都市」をどのように捉えてきたのかを、論文レビューを通して明らかにするものである。論文レビューの対象期間は、1970年から1984年である。高度経済成長期の余韻が残る同期間の地域福祉研究では、都市住民は多様性が高くまとまりがないという「アトム化」の言説と、画一化し大衆としてまとまっているという「マス化」の言説が併存していた。加えて、アノミー化に伴う孤立・孤独を「人間性の喪失」「組織化を妨げるもの」として捉え、社会的病理・逸脱行動が発生する都市という批判的見方が固定化されていることがうかがえた。そのような都市認識からは、都市の地域福祉は実践上、多くの困難に直面しているという悲観的な言説が生じやすく、活力がある、新しい発想や理論が生じるというような、積極的な要素を抽出する言説の磁場が生じづらい状況があった。

  • 吉田 直哉, 東根 ちよ
    2025 年9 巻1 号 p. 57-64
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    本稿は、農村地域を含めて都市化が進行しつづける現在、地域福祉研究が「都市」をどのように捉えてきたのかを、論文レビューを通して明らかにするものである。論文レビューの対象期間は、1985年から2023年である。1980年代半ば以降、それ以前の一体的・総体的な都市像とは異なり、内部に多様性をはらむ、セグメント化されたシステムとしての都市像が示され始めた。一方で、都市に対する規範的な見方も残存しつづけている。2010年以降、動的に生成される非同一的な都市の特性を把捉する試みは充分な成果を生み出せておらず、都市認識は固定化・陳腐化している状況がうかがえた。

  • ― 若者自立塾事業との関係から ―
    檜垣 昌也
    2025 年9 巻1 号 p. 65-72
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    本稿は<ひきこもり>に関する考察の一つである。

    本論での論考の中心は「若者自立塾事業」との関係である。<ひきこもり>が認識されて久しいが、「自立を目指す」から、「自律の維持」へというように、厚労省は支援の指針を大きく転換させた。

    しかし、このような転換が必要になることは、「若者自立塾事業」の廃止の時点でわかっていたことである。そこで本稿は「若者自立塾事業」と関連施策の検証から、このことを確認することを目的とする。

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