抄録
TRGの生合成と代謝並びにその生理作用に関して,当研究室で得られた成果の概略は以下のようである:1)各種食品中におけるTRG含量を測定したところ,コーヒー豆には最も含量が高く,さらに海産の魚介類たどにも多く含まれていることが明らかになった.2)TRG生合成酵素であるニコチン酸メチルトランスフェラーゼの分布を検討したところ,海産の魚介類や植物に高い比活性が検出されたが,陸棲動物や微生物にはその活性は全く検出されたかった.コーヒーの葉とハマグリ中の本酵素の基本的性質を明らかにした.3)TRGからNiAへの加熱による熟分解的変換を検討Lたところ,180℃以上でこの変換が起こることが明らかになった.実際にコーヒー豆を焙煎することによって,TRG含量は低下するのに反して,NiA含量は増大することやコーヒー中のNiAのビタミンとしてのbioavailabilityを,幼若ラットの成長試験で確認した.これらの結果から,コーヒーはNiAの給源として重要た飲料であることが分かった.さらに酵素的なTRGの脱メチル化反応について検討したところ,本酵素活性は動物・植物・微生物界に広く分布していることが明らかになり,TRGのNiAへの再利用系の存在が示唆された.また比活性の高かったブタ肝臓中の本酵素の基本的性質を明らかにした.4)TRGの動物に対する影響を,幼若ラットに経口投与して検討したところ,大量に投与してもすみやかに尿中に排泄されて,成長,血液中や肝臓中のNAD・NADP濃度,尿中へのナイアシン代謝産物の排泄バターンなどに,なんら影響を及ぼさなかった.また植物に対する影響をアオウキクサを用いて検討したところ,顕著な生育促進効果のあることを見いだした.以上のような一連の研究結果から,TRGは不活性な再利用されないナイアシンの最終代謝産物ではなく,酵素的あるいは非酵素的(熱分解的)にNiAに再変換され,ビタミンとして再利用され得る有用な生体成分で,一種のNiAの貯蔵形であることが明らかになった.