抄録
岩手県下の平地農村,山間農村および漁村の10地域の40〜79歳の健康な住民を対象として食物調査を実施し,摂取した食品中に含まれるナイアシン量,トリプトファン量をそれぞれ算出して総ナイアシン当量摂取量を求め,高齢者におけるナイアシンの摂取状況について検討した.1.食事摂取量は60〜79歳の高齢者において減少するが,エネルギー摂取の充足率ではほぼ所要量を満たしていた.しかし,生活活動強度の重い漁村の男性においてはエネルギー充足率が80%で,生活活動に見合ったエネルギー量を摂取していないことが認められた.2.60〜79歳の高齢者の一人1日当たりの平均総ナイアシン当量摂取量は,全地域の平均で,男性が29,4mg,女性が24,7mgであった.男性,女性とも地域による摂取量の差は認められなかった.3.60〜79歳の高齢者のナイアシン摂取量の平均所要量に対する充足率の全地域の平均は,男性が209%,女性が223%であり,いずれも所要量を大きく上回っていた.4.総ナイアシン当量摂取量のうち,食品中に含まれるナイアシン量とトリプトファン由来のナイアシン当量との比は,漁村においては1.0,平地農村および山間農村においては0.9であった.以上の結果より,高齢者の総ナイアシン当量摂取量が所要量を充分満たしていることが分かった.しかし,調理によりナイアシンが損失し,しかも調理方法によって損失量が異なるので,調理方法を考慮する必要もある.