2005 年 79 巻 2 号 p. 79-86
無脊椎動物における遊離D-アミノ酸研究は意外に長い歴史をもっている. 昆虫類では1950年代にナガカメムシの血中にD-アラニンが, カイコにはD-セリンが存在することが確認され, 後者ではserine racemase活性も検出されている. 水生無脊椎動物では1977年に初めてマダコの脳にD-アスパラギン酸が見いだされ, 1980年には数種エビ, カニ類筋肉および肝膵臓にD-アラニンが確認されている. その後10年ほどの間に二枚貝における分布が検討され, アサリ, ハマグリなどの異歯亜綱の種には多量のD-アラニンが存在するものの, イガイやマガキなど翼形亜綱の種にはほとんど見られず, 代わりにムラサキイガイやキヌタレガイにはD-アスパラギン酸が存在することが明らかにされてきた. ヤマトシジミ外套筋にはalanine racemase(ARase)活性も確認されている. 1990年代に入るとHPLCやGCを用いるD-, L-アミノ酸の分別定量が可能になった. 著者らは特にエビ, カニ類や二枚貝におけるD-アラニンの生理機能に興味をもち, これまで幾つかの検討を行ってきた.