2024 年 2 巻 p. 19-25
近年、糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病の増加にともない、動脈硬化性心血管疾患は増加傾向にある。下肢動脈疾患 (LEAD ; Lower extremity artery disease)と、その重症型である包括的高度慢性下肢虚血 (Chronic limb-threatening ischemia : CLTI)の頻度も増加している。LEADの治療には、運動療法、薬物療法、血行再建術といった包括的介入が必要であるが、CLTIは、治療が困難な症例も多く下肢切断を余儀なくされる。さらに、下肢切断後の予後も非常に悪いことが報告されており、切断を回避することが重要である。私たちの施設では、CLTI症例に対して、理学療法士が中心となって積極的に和温療法に取り組んでいる。ここでは、当院でのCLTIの和温療法を行った症例を提示するとともに理学療法士の役割を紹介する。
Recently, atherosclerotic cardiovascular disease (ASCVD) has a tendency to increase due to increasing life style related disease, such as hypertension, diabetes mellitus, and dyslipidemia. Peripheral artery disease is one of the ASCVD and is a part of systemic atherosclerotic lesion. The frequency of chronic limb-threatening ischemia (CTLI) which is severe condition of lower extremity artery disease (LEAD) is increasing. LEAD is treated by exercise therapy, medication, revascularization, and comprehensive treatment, however, the treatment for CTLI is difficult and some cases need to lower limb amputation. And it has been reported that the case with lower limb amputation has a poor prognosis. So, it is important to avoid lower limb amputation. In our institute, physical therapist actively performs Waon Therapy for CTLI patients. I introduce the role of physical therapist for Waon Therapy with some case presentations.
現在、末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease(PAD))は、「末梢動脈が種々の原因で狭窄、閉塞して生じた循環障害」と定義されている。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣病による動脈硬化は、脳・頚動脈、冠動脈、末梢動脈などの「全身の動脈」にも併せて生じることが多く、それら臓器の循環障害も生じることが多い。また、PAD は「全身の動脈硬化性血管病変の一部分症」として捉えられる必要があり、2017年のESC/ESVS ガイドラインでPAD は冠動脈疾患と大動脈疾患を除く全ての急性、慢性動脈疾患の総称であり、下肢動脈疾患は、LEAD;Lower extremity artery disease として区別されている1)。さらに、以前は高度の重症下肢虚血をcritical limb ischemia:CLI と呼んでいたが、現在では下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染などの下肢切断リスクを持ち、治療介入が必要な下肢の総称として包括的高度慢性下肢虚血(Chronic limb-threatening ischemia:CLTI)と呼ばれている。
LEAD の最終病態であるCLTI は、以前より予後の悪いことが知られている。TASC ⅡによればCLTI の予後は両下肢温存で生存可能な症例が 45%、切断例が30%、死亡例が25% と予後が厳しいことが報告されている2)。2015年に発表された CLTI 患者の自然経過に関する系統的レビューでは、観察期間の中央値12ヶ月で累積死亡率22%と高値であることが報告されている3)。また、近年の報告としてはBEST CLI trial で治療が介入できた患者の5年累積死亡率は40-50% と高いことが報告している4)。治療デバイスなどの進歩があっても CLTI は依然として予後不良の疾患であることは変わっていないことを示唆している。また、無症候性下肢虚血例の5年生存率は健常例の75% に留まる5)など症状がみられない症例においても予後が良好とは言えず積極的に治療を考えるべき病態である。
LEAD の治療には、運動療法、薬物療法、血行再建術といった包括的介入が必要であるが、CLTIの治療は、困難な症例も多い。和温療法は、CLTIの状態であっても座位が保持できれば実施することができ、LEAD に対する効果も証明されている。私たちの施設ではCLTI 症例に対して、理学療法士が中心となって積極的に和温療法に取り組んでいる。ここでは、当院でのCLTI の和温療法を行った症例を提示するとともに理学療法士の役割を紹介する。
福岡大学病院(以下、当院)は、1973年8月に福岡市城南区に開院した病床数771床を有する特定機能病院である。2011年1月に新診療棟(現中央棟)開院に伴いハートセンターを開設され病棟内に心臓リハビリ室を置き、その中に遠赤外線乾式サウナ治療室を設置し当院での和温療法を開始した。心不全患者のみならず下肢閉塞性動脈硬化症患者へ和温療法が導入されており、近年は重症下肢虚血患者への実施例が増えている(図1)。また、当院では、循環器内科、形成外科、内分泌糖尿病内科と共同でフットケアチームを形成し各専門分野が集まり、最良な治療ができるようにスケジュール調整を行っている。
切断が必要となる症例では、術前に血管内治療(EVT:endovascular therapy)や和温療法を実施することにより良好な結果を得た症例を経験している。その際、断端・創部へ圧力・負担が掛からないよう移動する必要があり、その間の筋力維持や移動手段の確保目的に理学療法士が関わっている。

当院の紹介
症 例:60才代男性
診断名:両側包括的高度慢性下肢虚血
既往歴:労作性狭心症、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病
生活歴:職業: 自営(建設設計)、妻と戸建て住宅に居住
喫煙歴あり65歳頃より禁煙。飲酒なし。食事は妻が調理したものを摂取。運動習慣なし。
現病歴)20XX 年 Y 月に巻き爪を契機に両側第 1趾に潰瘍形成し A 内科にて外来加療されたが
2ヶ月後に B 病院にて両下肢 EVT 施行した。大幅な改善なく3ヶ月後に当院へ入院した。
1. 初回入院当院にて右浅大腿動脈- 下腿動脈にEVT 施行し、再度、4ヶ月後に右膝窩動脈 - 後脛骨動脈に対して更に EVT 施行した。左側は血管狭小化が強くバルーン挿入困難であり、入院期間中に和温療法導入となった。5日間の和温療法施行後は外見上劇的な変化はみられなかったが皮膚灌流圧が20~ 50mmHg 改善した(図2)。入院期間中の四肢運動機能としては特筆すべき問題点みられなかったが、連続歩行距離は、70m に留まりリハビリ介入として15watts 負荷の自転車エルゴメーターを10~15分間駆動を実施した。

初回和温療法
退院後は、当院の循環器内科と形成外科で外来フォローを継続したが、約3ヶ月後に C 病院で左膝窩 - 後脛骨動脈 Bypass を施行された際に右足趾の切断を勧められたが希望されず、保存的加療で経過観察したが徐々に右足趾の壊死範囲が拡大した。Bypass から3ヶ月後に当院循環器内科に入院され、翌月、右下肢に EVT 施行した。前脛骨動脈と腓骨動脈は閉塞していたが、後脛骨動脈から足趾までの血流が確認され横断的中足骨切断術(TMA)は可能と判断された。淺大腿動脈内のステント拡張を実施された後、当院形成外科に転科し TMA を施行された。術後経過良好で循環器内科へ転科、創治癒を促進させるため和温療法とレオカーナを施行された。和温療法は、計12日間実施され、皮膚灌流圧は右足部で10~30mmHg の低下がみられたが左足部は60~70mmHg 上昇した(図3)。和温療法開始前より理学療法による介入をしており、下肢筋力は徒手筋力評価にて概ね4レベルで起居~起立・立位までの基本動作は自立レベルであった。しかし、杖を使用し除圧サンダル着用した状態でトイレ移動程度の歩行に留まっていた。下肢筋力訓練と15W の自転車エルゴメーターを約1ヶ月間継続し、除圧サンダル装着下にて100m 程度の連続杖歩行が可能となった。

2回目和温療法
CLTI 患者の歩行能力は、疼痛により離床・活動頻度が著しく減少し跛行を来している例が圧倒的に多い。末梢動脈疾患ガイドラインでは、感染創を有する症例以外は積極的なリハビリテーション介入を推奨されている。また、創部・断端への圧力・負担がかからないよう車椅子から遠赤外線乾式サウナ治療室間を移乗するために介助テクニックを駆使する必要があり、運動による下肢血流維持目的と併せて理学療法士による介入が必要不可欠である(図4)。

理学療法士としての関わり
CLTI は、安静時下肢痛または難治性潰瘍を呈する LEAD の最重症型であり、血行再建術の適応となる。血行再建術には、外科的バイパス術(BSX: bypass surgery)と EVT があり2022年の日本循環器学会・日本血管外科学会合同ガイドライン6)において BSX が可能な症例に対しては、EVT より自家静脈を用いた BSX が推奨されている。しかし、本邦では、透析患者や全身状態が悪い患者が多く、 EVT を選択することが多いのが現状である。EVTにおいてステントや DCB 治療は発展しているが、膝下動脈領域の EVT においては現在保険診療下で使用可能なものは古典的バルーン拡張のみである。 CLTI に合併した膝下病変は、バルーン拡張後の再狭窄率は3ヶ月で70% と高率である7)。すでに安静時疼痛が強く、皮膚病変を伴っている CLTI 症例では、血行再建のみで治療が完結することは難しく、創傷管理や栄養管理、リハビリテーションを含めた全身管理が必要であり、多科による多職種診療(multi-disciplinary care team;MDT) を行うことで切断回避率や創傷治癒率が有意に改善することが報告されている8)。
今回、私たちの施設の MDT の一環として CLTI に対する和温療法の実践について報告した。和温療法は、慢性心不全の治療として発展してきたが、慢性閉塞性動脈疾患に対する有効性はすでに知られているが、LEAD に対する効果も報告されている。LEAD 患者連続20名に対して和温療法を1日1回、週5回、10週間施行した結果、疾痛、足関節 / 上腕血圧比(ABI)、6分間歩行距離、下肢血流量は有意に改善した9)。また、コントロール群(薬物療法のみの群10例)と薬物療法に和温療法を追加した和温療法群(11例)(1日1回、週5回、 6週間)を比較した前向き無作為比較試験では、和温療法6週間後に、ABI、6分間歩行距離、血管内皮前駆細胞のマーカーである CD34の mRNAの発現量はコントロール群に比べて有意に増加すると報告されている10)。また、臨床研究だけでなく、その機序の解明のためマウスを使った実験の報告もある。Apo E 欠損マウスの左側後脚の大腿動脈を結紮・除去して下肢虚血モデルマウスを作成して、和温療法群と和温療法非施行群に分けて、レーザードプラ計を用いて下肢血流を測定すると、結紮後5週後にはコントロール群に比べて和温療法群で下肢血流は有意に増大した。和温療法は血管新生因子である eNOs の蛋白発現を著明に増加させ、虚血肢の血流を改善した。さらに、和温療法は、eNOs を活性化する Hsp90 蛋白を著明に増加した。HSP90の抑制剤を投与すると和温療法による下肢血流の増加は抑制された。以上より、 LEAD に対する和温療法の効果発現の機序として、分子生物学的には、Hsp90・eNOS の産生が増幅して、虚血肢の血管新生作用を促進し、全身の血管機能および血流の改善をもたらす11)。
私たちの施設でも、今回の症例の他にも多くのLEAD 患者に対して和温療法を行い、その効果を実感している。CLTI でない症例では、医師や看護師といったスタッフでの和温療法中の管理は容易であるが、下肢切断後や感染創がある症例では、トランスファーやポジショニングに工夫が必要であり、その分野に専門知識をもった理学療法士が重要な役割を果たすと考える。現在、和温療法に携わる理学療法士は決して多くはないが、今後理学療法士が積極的に和温療法指導士を取得し現場に参加することでより多くの下肢救済につながると期待できる。
重症下肢虚血に対し和温療法が奏功した症例と理学療法士の介入の役割とその重要性を紹介した。重症下肢虚血症例では、移動困難、除圧が必要な症例も多く、安全に和温療法・運動療法を実施するには理学療法士による介入が必要である。現在、和温療法に携わる理学療法士は決して多くはないが、今後理学療法士が積極的に和温療法指導士を取得し現場に参加することでより多くの下肢救済につながることが期待できる。