和温療法学会誌
Online ISSN : 2760-3393
心臓リハビリと和温療法の併用による交感神経活性抑制効果
後藤 有貴 吉田 和弘
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2024 年 2 巻 p. 26-29

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Abstract

和温療法の臨床的応用は多彩で、多くの疾患の治療・予防に効果を発揮している。一般的に交感神経活性はLF/HF比等で評価され、和温療法によってLF/HF比が低下する事が知られている。今回交感神経活性が亢進し、疼痛出現した症例と高血圧症を呈した症例の2例を報告する。運動療法も低強度から中強度で行うことで交感神経活性の抑制が認められているが、交感神経活性亢進の状態が長く続いている症例に関しては週1回の運動療法では交感神経活性の抑制が乏しかった。そこで和温療法を週1回併用し、一定期間継続することで徐々に交感神経活性が抑制され、症状の改善を認めた。今回の症例では運動療法のみでは改善が乏しかった交感神経活性に対して和温療法が著効し、交感神経活性が亢進している症例では運動療法との併用が有用であるということが示唆された。

Ⅰ. 要旨

循環器疾患では交感神経活性亢進となりやすく、その状態が続くと他疾患を合併するリスクも高くなる。運動療法のみでは症状の改善が難しかった症例に対して和温療法を併用した。

1例目は腰部脊柱管狭窄症(高度狭窄)による疼痛により、歩行が困難となった80歳代男性、2例目は更年期障害による症状と高血圧症によって動悸や睡眠障害が生じた50歳代女性である。結果、交感神経活性が亢進状態の場合は運動療法のみではなく和温療法の併用が有用であると示唆された。

Ⅱ. 背景

和温療法の臨床的応用は多彩1),2)で、多くの疾患の治療・予防に効果を発揮する。循環器疾患では交感神経活性となりやすく、その状態が続くと他疾患を合併するリスクも高くなると言われており3)、そのことから今回は自律神経機能の是正について着目した。

一般的に交感神経活性はLF/HF 比等で評価される。和温療法による内皮機能の改善や内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)発現の増加は、LF/HF 比を低下させ自律神経が正常化する4)。しかし、自律神経活動は精神状態や気分のほか、前日の睡眠状況や、運動歴、月経周期等にも影響する為厳密な統制は難しい5)ため、当院では LF/HF 比に加えてストレイン心エコー(Myocardial Work; MCW)での心尖部の心筋仕事量も評価項目としている。心尖部には交感神経終末が多く存在しており6)、 MCW は心尖部の心筋仕事量を評価できる為である。

運動療法では運動強度の30~40%にとどめることで交感神経活性の抑制効果が明らかとなっており5)、そのため当院の心臓リハビリにおいては心肺運動負荷試験(CPX)の実施で得られた嫌気性代謝閾値(AT)の30%~40% 程度の負荷を設定し個々に応じたプログラムを組み対応するよう工夫を行っている。

今回、これまでの治療に和温療法を加えることで症状改善へ繋がった2症例に関して報告する。

Ⅲ. 方法

症例1

80歳代男性、高血圧症にて当院通院中。2年前より右下肢の痺れや下肢痛が増悪。100m程度の連続歩行も何度も休憩を挟まなければ困難となり、整形外科紹介受診。腰部脊柱管狭窄症(L2/3-4/5の高度狭窄)と診断された。手術適応であるが本人の希望で保存療法となった。当院では集団心臓リハビリを実施していたが疼痛が増悪していた為、疼痛の改善目的に和温療法が併用となった。

和温療法は15分の加温と30分の保温を1回として実施。頻度は週1回、計10回を1クールとし、効果判定として10回目の和温療法直後にストレイン心エコー(Myocardial Work; MCW) を実施。交感神経活性の評価として心拍変動スペクトル解析(LF/HF 比)も併せて評価した。その後1週間以内に血管内皮機能検査(FMD)を実施した。

症例2

50歳代女性、4年前の月経不順時期より動悸や睡眠障害・ホットフラッシュの様の症状を自覚。高血圧症もあり当院外来へ受診された。アムロジピン錠5mg と桂枝茯苓丸が処方され経過をみていたが、改善がみられなかった為心臓リハビリが開始となった。更年期障害による自律神経調節異常もあると考えられ、高血圧症が改善しなかった為和温療法を併用した。

Ⅳ. 結果

症例1では初診時(図A)よりも疼痛が悪化した運動療法時(図B)のMCW の方が心尖部の赤い部分が増大しているが、その後、和温療法を併用(図C)する事で心尖部の赤い部分が減少した。運動療法のみの実施時では NRS10であった疼痛が、和温療法を併用した後は NRS1-5へと改善し、 100m以上の連続歩行も休憩無しで可能となった。 FMD は運動療法時0.4%であったが和温療法併用後 4.8%まで改善。LF/HF 比では運動療法時2.35であったが和温療法併用後1.52まで改善した。

図1

症例1のMyocardial Work の変化

症例2では初診時のMCW(図A)は心尖部が赤く、交感神経活性亢進を示していた。運動療法と薬物療法を1年間継続したがMCW(図B)は心尖部が赤く、交感神経活性亢進のままであった。和温療法を併用後のMCW(図C)は中心部の赤い部分が増大してしまっていた。FMD は運動療法のみでは4.4%、和温療法併用では4.8%で著明な改善は見られなかったが、和温療法を開始後は血圧の低下や動悸等の自覚症状の改善をみとめた為、患者の希望もあり和温療法を一旦中止した。中止後の持続効果を判定する為、1カ月後に再度心エコーを行ったところ、MCW(図D)の心尖部の赤い部分は減少していた。血圧の変化に関しても運動療法実施中は高血圧を維持していたが和温療法を併用したことで改善がみられた。(図

図2

症例2のMyocardial Work の変化

図3

症例2の血圧変動

Ⅴ. 考察

1例目では腰部脊柱管狭窄症により長期間もの間、改善しない疼痛に悩まされADL の低下やそれによるQOL の低下も生じていた。神経圧迫や血流障害に加えて様々な要因が複雑に絡み合うことで中枢性の疼痛感作7)を生じ、より複雑になっていたのではないかと考えられる。中枢性の疼痛感作とは、脊髄後角での侵害刺激の細胞間伝達、下降性疼痛抑制経路、神経の可塑性などにより、中枢神経系においても疼痛伝達の修飾が行われることである7)。これにより低刺激でも疼痛が誘発されるような状態が持続することは交感神経活性が亢進する要因となっていたと考えられ7)、そのような状況で運動療法を行っても可動域や姿勢に制限がかかり緩和が難しかったのではないかと考える。

和温療法の導入が疼痛改善に繋がった理由としては、連続実施により交感神経活性が抑制され、一酸化窒素(nitric oxide; NO)の産生増加により血管内皮機能が改善した2)ことにより、血流障害が改善され、発痛物質の停滞の解除が疼痛の軽減に繋がり、中枢性の疼痛感作の軽減の一助になっていた可能性を考える。

2例目では和温療法直後の心エコーでは心尖部の過活動が増大している結果となった。原因として、交感神経活性亢進状態では、心尖部の交感神経終末6)が興奮し、過活動の結果となったのではないかと考えられる。交感神経活動を規定するもっとも重要な部位は脳であり、脳幹部に最も重要な心臓血管中枢あるいは血管運動中枢と呼ばれる部位が存在する8)。その部位は外側延髄腹外側野(rostral ventrolateral medulla; RVLM)であり、 RVLM は血圧・循環血液量・酸素飽和度など様々な情報を末梢から受け、上位中枢からの情報を統合し、最終的な交感神経活動を規定する重要な部位である8)。RVLM における活性酸素種(reactive oxygen species; ROS) が交感神経活性を亢進させ、高血圧の神経性機序に関与している8)。また、 RVLM におけるNO は交感神経活性抑制により降圧・心拍数低下作用を有することが分かっている8)。また、NO は脳内にも存在し、シナプス伝達に関わっている。脳内、特に血管運動中枢におけるNO と ROS のバランスの異常が高血圧の神経性機序に大きく関与している8)。和温療法により脳内のNO が生産され、交感神経活性が抑制されたことにより高血圧・動悸・睡眠障害が改善したと考えられる。

Ⅵ. 終わりに

交感神経活性が亢進状態となった為、運動療法のみでは十分な治療効果が得られなかった症例に対しても和温療法の併用により交感神経活性が抑制された。和温療法はより患者のQOL や予後の改善に繋がる治療だと実感した。

交感神経活性が亢進状態の場合は運動療法のみではなく和温療法の併用が有用であると示唆された。

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