雑草研究
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シメトリンとジメタメトリンのイネ品種およびタイヌビエの生育に対する異なる影響の発現機構
松本 宏チナウォン ソンバット石塚 皓造
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1987 年 32 巻 2 号 p. 129-135

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抄録

前報において確認された, シメトリンとジメタメトリンにおけるイネ品種およびタイヌビエの生育阻害活性の差異について, その発現機構を明らかにするために, 14C-で標識したシメトリンとジメタメトリンを用いて, それらの吸収, 移行, および代謝について比較・検討した。
供試植物としては, 前報と同様にイネ2品種 (日本晴, 早生統一) およびタイヌビエを用いた。薬剤の処理には, 前報で両薬剤の生育への影響に最も差が大きく現れた10-5M 24時間の根部処理を用いた。処理液は14Cの比放射能が等しくなるように調整し, 測定放射能での直接比較が出来るようにした。
根部からの吸収および移行は, 処理24時間後までの植物体の各器官中に含まれる14C量を, 試料自動燃焼装置-液体シンチレーションスペクトロメーター系で測定した。イネ品種においては, シメトリンとジメタメトリンの吸収速度にはほとんど差が認められなかった。一方タイヌビエではジメタメトリンの吸収速度が大きかった (第1図)。根部から茎葉部への移行率はすべての植物でシメトリンが高く, シメトリンの体内移行速度がより大きいことが明らかとなった (第2図)。両薬剤とも光合成阻害剤であるので, 茎葉部中におけるそれらの濃度は, それらの生育阻害活性の重要な指標と考えられるが, 吸収, 移行の結果としての茎葉中における14Cの濃度は, 日本晴ではシメトリン処理で高く, さらに他の植物よりも高い値を示した。早生統一とタイヌビエでは薬剤間の差は小さかった (3図)。
前報において, 日本晴はシメトリンに対して特異的な抵抗性があり, ジメタメトリンに対してはそれほど大きくはなく, 生育阻害の程度に明瞭な差のでること, また, 早生統一とタイヌビエは両薬剤に対してより高い感受性を示し, 生育への影響の薬剤間での差が小さいことを報告した。これらの生育に対する作用の特徴と吸収・移行の結果からは, 生育阻害活性の違いの要因として吸収, 移行を考えにくく, 他に要因があるものと考えられた。
次に, 植物体内における代謝について検討した。ここではこれまで報告した方法に従い, 90%メタノール抽出, さらに溶々分配を行って, 未抽出残さ画分, 水溶性画分およびジクロルメタン可溶性画分に分画した。未変化の親化合物はジクロルメタン画分に含まれた。日本晴はシメトリンを速やかに代謝, 分解し, 水溶性物質および未抽出の残さ中へと変化させた。それに比較して, ジメタメトリンはそれらの画分の割合が小さく, 代講速度がより遅いことが明らかとなった (第4図A)。早生統一でもシメトリンの代謝の方が早かったが, 日本晴と比べると速度が小さく, また, 2薬剤間の差も小さくなった (第4図B)。タイヌビエでは2薬剤間の差はほとんどなく, 共に代謝速度が日本晴と比較して非常に小さかった (第4図C)。薄層クロマトグラフィーによって親化合物の割合を測定したが, 同様の傾向が得られた (第1表)。
これらの結果から, 日本晴において, 2薬剤の生育への影響に差が明瞭に出る要因として, 日本晴のシメトリンに対する特に高い解毒能が指摘される一方, 構造が類似しながらジメタメトリンではその速度が小さくなることが明らかとなり, このことと前報で指摘した作用点での阻害力の差異が, 生育への影響の差異の主因であると考えられた。また他の供試植物においては, 両薬剤とも日本晴と比較して代謝速度が小さく, かつ薬剤間の速度差が小さいことが示され, このことが生育阻害が大きいことと薬剤間の差が小さい要因であると考えられた。

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