雑草研究
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紀伊大島の水田におけるスブタのフェノロジーおよび繁殖特性の一観察
山河 重弥王 旻山口 裕文
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2003 年 48 巻 3 号 p. 109-116

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抄録

希少植物スブタ (Blyxa echinosperma (Clarke) Hooker) の水田での生活史と生育を明らかにする目的で, 和歌山県紀伊大島において, スブタの発生程度と水田の特徴を調べ, 一水田でのフェノロジーと繁殖特性を観察した。スブタは, 年間を通じて湛水状態にある水田で安定してみられ, 除草剤が使用されていても生育していた。スブタは, コナギ (Monochoria vaginaris (Burm. f.) Presl var. plantaginea (Roxb.) Solms-Laub.) やイヌホタルイ (Scirpus juncoides Roxb. var. ohwianus T. Koyama) などより2週間ほど遅れて6月上旬から出芽を始め, 個体数は6月下旬まで増加した。その後, 定常状態を維持し, 水稲収穫時には撹乱により個体数が減少した。その時に生じた裸地に新しい実生が多数出現し, 秋期に個体数のピークが観察された。7月中旬に植物体の大きい30葉以上を付けた個体から開花が始まり, 開花は次第に29葉以下の小さな個体でもみられた。個体あたりの果実数は8月から10月にかけて増加した。果実あたりの種子数は果実の長さに比例し, 個体当たりの種子数は個体の生体重が重いほど多くなる傾向にあった。水稲収穫後に発生する小型個体も少数であるが一定量の種子を生産した。個体サイズに依存して果実と種子を長い期間にわたって形成し, 埋土種子を形成するスブタの特徴は, 水田の水管理に伴う水環境の変化や季節的な雨量変化など水供給量の大きな変化に対しても後代を確保できるように機能していると考えられる。

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