抄録
伝統的な日本組織の人材調達では,内部労働市場からの調達が外部労働市場からの調達よりも重視されてきており,外部労働市場からの調達はほぼ新卒採用に限定されてきた。一方,市場環境の変化により,事業戦略や組織の変革を余儀なくされているにもかかわらず採用活動の変革に成功している組織は少ない。その主な理由として以下の二つに着目した。一つ目の理由は,採用は人材マネジメントシステムの一部であり,日本の雇用慣行により,既存の人事制度にその活動が制約されやすいからということ。二つ目は長期雇用・活躍を目的とした新卒採用は成果が出る前に次年度の採用を設計しなければならないということだ。本研究では,これらの問題を踏まえて採用変革に取り組んでいる事例を取り上げる。その事例を通じて,採用活動の変革を行う際には,そのプロセスのみならず,採用活動の前提となる入社後の人事施策なども見直し,人材採用システム全体を一貫性を持って設計することが重要であることと,最終的な成果が出るまで待たず,適切な中間成果を設定し,仮説に基づきながら採用設計を修正していくことの重要性が示される。