文化人類学研究
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研究論文
パラオ口頭伝承のテクスト化をめぐる人々の実践
――ことばの物象化に着目して――
紺屋 あかり
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2019 年 20 巻 p. 60-82

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抄録

 本稿では、島の固有言語の次世代継承が危惧される昨今のミクロネシアのパラオを対象に、口頭伝承のテクスト化をめぐる人々の実践について検討する。ここでは、口頭伝承という身体化された知識を、テクスト化を通じてかたちを帯びたもの――紙媒体や電子媒体などの資料――へと転回させる、ことばの物象化に特に着目して分析を行う。

 オセアニアを対象とする近年の言語人類学研究においては、オーラリティとリテラシーとの相互的関係性や、識字法をめぐる地域固有性の検証 [Besnier 1988: 732] がすすめられている。これらの分析は、オングによる声と文字との二項対立的見方 [Ong 1982] への批判的視座に立脚しており、声から文字という一方向的な近代化の流れの図式における理解ではなく、両者をボイシング (voicing) ――ことばを行為すること――の一つの実践形態と定位し直す立場が取られている [Finnegan 1988, Besnier 1988, 1995]。このことから明らかなように、オセアニアの口頭伝承について分析する際、オーラリティとリテラシーの差異への着目だけではなく、ことばをめぐる行為遂行性の検討が重要であることがわかる。

 パラオでは公用語としてパラオ語と英語が使用されていて、人々は、家庭、学校、職場、地域コミュニティなどで日常的に両方の言語を使い分けながら生活を営んでいる。修学や労働でグアムやハワイなどの英語圏に移住する人も多く、また、逆に海外労働者の受け入れに伴い、国内での英語使用の機会も増えている。インターネットの普及やグローバリゼーションの状況下において、若年層を中心とするパラオ語離れが顕著にみられるなか、口頭伝承の次世代への継承は、当該地域において切迫した課題となりつつある。

 本稿では、上記の言語人類学的研究の流れと現代におけるパラオ語離れの現状をふまえつつ、パラオ社会における口頭伝承のテクスト化の今日的状況とその特質を明らかにする。ここでの分析は、口頭伝承のテクスト化を生活実践として取り入れはじめた日本委任統治領期以降から現在までを対象としており、特にローカルレベルでの口頭伝承のテクスト化の実践と、アメリカ信託統治領後期に始動したナショナルレベルでの文化促進運動における口頭伝承の採集・調査の事例に着目する。

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© 2019 現代文化人類学会
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