本稿の目的は、フィールドワークという営みを通して地域医療に携わる医師と人類学者との関係について、両者の間にある類似点に着目しながら両者の対話と連携の可能性について考えることである。筆者は、医師と人類学者との関係について、長期の滞在、専門用語と民俗用語(方言)、他者理解への道、「相対化」から自分を発見する、という4つの観点から論じる。そして、もう一つ、人類学者が現地で人々から信頼を得ることがフィールドワークの要であるように、地域医療を実践する際に、医師もまた患者や家族に受け入れられることが重要となる。ところで、医師が信頼されるためには、まずは医師が患者を信頼する必要がある。このことはフィールドワークをする人類学者も同様に、現地の人たちへの信頼が不可欠であることに気づくことになる。これらの一連のフィールドでの態度で鍵となるのは、どちらも相対化という態度であり、それは医療の臨床実践と人類学のフィールドワークから培われるものである。医師たちにとっての相対化とは、目の前の患者を理解しようとする態度から生まれているが、それは自分が変わるという営みが鍵となる。医師と人類学者との対話を通して、医学と人類学の共通する点を手掛かりに両者の間の協働が可能であることに気づき、今後フィールド経験を通してともに学び合うことができることを指摘する。