文化人類学研究
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特集論文 特集1 在来・地域知と科学知の融合はいかにして可能か?
序 自然資源・環境に関する在来・地域知のサステナビリティ
井上 真
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2023 年 24 巻 p. 1-19

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抄録

 グローバルな環境政策のアリーナにおいて、ローカルな在来・地域知は科学知によって切り捨てられるものではなく、むしろ重要な役割を果たすことが期待されるようになっている。これに関連する様々な言説は、科学知の圧倒的なパワー、妥当性、有効性を大前提としつつ、在来・地域知を再認識・再評価しようとしている点で共通している。在来・地域知と科学知との関係性は理念的に、(1)科学知への在来・地域知の「組み込み」、(2)科学知の「飼い慣らし」による在来・地域知への「取り込み」、(3)在来・地域知と科学知を「使い分け」たり「棲み分け」たりする「調整」、(4)新たな知や制度を創り出す「融合」、に整理される。このなかで在来・地域知をできる限り科学知と対等に位置づけようとしている「調整」や、その先にある「融合」は如何にすれば実現可能なのか、が本稿および本特集の課題である。

 論理的な観点から導出できる方法は2つある。第1は「共存」である。これは、在来・地域知と科学知は対等であり相互に尊重しあい、かつできる範囲で相互不干渉な状態を維持するか、あるいは「調整」を試みる理想主義的選択肢である。第2は、「戦略的シンプリフィケーション」である。これは、マジョリティー社会で承認を受けやすい価値に着目し、その価値を在来・地域知に付与する作業を当事者と「良心的な外部者」による協働作業で実施するプラグマティズム的選択肢である。

 これらの選択肢を国家政策として実現させるためには、当事者による認識に加えて、より広い社会のなかで在来・地域知がどのように認識され、位置づけられているのかを把握し、必要に応じて変革を試みることや、経済的な利益配分の面からの検討も不可欠である。このような問題にアプローチするためには学際的な研究・議論が不可欠であり、文化人類学や地域研究はそれを主導する高い潜在力を有している。

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© 2023 現代文化人類学会
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