女性学
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トランス・オーラルヒストリーの視点―
北米の研究動向を中心に
武内 今日子
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2022 年 29 巻 p. 144-149

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抄録

 本稿は、北米のトランス・オーラルヒストリー研究の動向を整理し、典型的に見られた分析視点を示すものである。トランス・オーラルヒストリー研究は、第一に、医学など専門家による言説の影響を受けやすく、可視化されにくいトランスジェンダーの人々の声を記録し、重要な出来事に関する複数の解釈を浮かび上がらせようとしてきた。しかし、人々の声を歴史化することによってアイデンティティが再規定されやすいという側面もある。そこで第二に、カテゴリー集団を自明視せずに、「トランスジェンダー」などのカテゴリーが人々に可能にしてきた経験の変遷も描かれてきた。第三に、インタビューの場面における研究者と研究協力者との相互作用に着目し、研究協力者が出来事を想起するときの情動的な反応や、感情的に非規範的なエピソードの解釈をめぐる可能性と困難が指摘されてきた。第四に、都市においてトランスジェンダーの人々が働き、生きぬいていく仕方が、都市文化や当事者同士のネットワークと密接に結びついている様子が描かれてきた。これらは、言語的、文化的違いがあるとはいえ、日本においてトランス・オーラルヒストリー研究の分析視点や方法を定めるうえでも示唆的である。

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© 2022 日本女性学会
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