女性学
Online ISSN : 2436-5084
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29 巻
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特集
  • 海妻 径子, 荒木 菜穂
    2022 年 29 巻 p. 6-11
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

      In the 2020’s Annual Symposia, we focused on “Postfeminism” as a social phenomenon/ assertion/movement, which accepts the fundamental values of feminism, like gender equality. Even though in “Postfeminism,” these values are considered the goals already achieved, or as the goals hard to reach by feminism connected with inflexible female identity. To analyze the complexness of “Post-Feminism,” three panelists reported their findings. The first report was by KIKUCHI Natsuno on the effect of neoliberal capitalism on the Japanese phenomenon of “Post-Feminism.” The second report was by TAKAHASHI Yuki, on the young females in their twenties who surrender their freedom from gender roles to seek their liberty for sexual attractiveness. The third report was by CHIKAMOTO Satoko, on the female’s struggle today in consumers’ cooperative societies, the alternative organization for anti-capitalism consumption and production, which had attracted many “housewives’ activists” in the 1980s.

      Through these reports, we could recognize the importance of figuring out the phenomenon invisible from a superficial perspective, like selecting “self-motivated” femininity, abandonment “low-productive in the capital society” females in trouble, and the difficulties of protest to patriarchy. Moreover, we need to critique it and make a commitment to minorities.

  • 菊地 夏野
    2022 年 29 巻 p. 12-22
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

     本論は、ポストフェミニズム論がどのようなものなのか概略を示し、日本の文脈で読解することを目指した。まず英米のポストフェミニズム論の概要を整理し、加えてネオリベラル・フェミニズム概念を紹介した。次に、ポストフェミニズム論でいう「ネオリベラル・ジェンダー秩序」を日本の政治経済において具体的に考察した。さらに、ポストフェミニズムの状況が変化し、「新しいフェミニズム」と言われている社会現象を分析した。最後に、そのようなポストフェミニズム状況を変革し乗り越えるために求められる視座を「99%のためのフェミニズム」を例として構想した。

  • 高橋 幸
    2022 年 29 巻 p. 23-37
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

     ネオリベラリズム政権によってフェミニズムが簒奪され、「官製フェミニズム」が進む社会状況のなかで見られるようになった、メディア上のポストフェミニスト的言説パターンについて報告する。

     英米では、バックラッシュ後の1990年代から、現代を「フェミニズム」以後の時代と捉えるポストフェミニスト的言説パターンが登場した。それは、大きく次の二つの特徴を持つ。第一に、「現代では性別にかかわらず実力次第で誰でも活躍できる」というネオリベラリズム的・個人主義的主張。第二に、恋愛や結婚、性の場面をおもに念頭に置きつつ、性別らしさを重視する主張である。また、「ポストフェミニスト」という語が人口に膾炙するようになった90年代のアメリカでは、マクロレベルで見ても、性別役割意識の低下が停滞するという動向の変化が起こっている。日本でも、2000年代のバックラッシュと、その後の政府主導の女性労働力化の促進のなかで、ポストフェミニスト的な言説パターンが見られるようになっており、性別役割意識の低下の停滞も見られる。2000年代日本の「めちゃ♥モテ」ブームを分析すると、「モテ」を目指して性的魅力を向上させようとする営みやコミュニケーションのなかで、性別二元論的な性別役割が再生産されていることがわかる。

     このようなポストフェミニスト的言説パターンは、アンチフェミニズムとは異なる形でフェミニズムを無効化するように働く可能性がある。そのため、これに対する新たな対抗言説を構築していくことがフェミニズムの喫緊の課題となっている。

  • 近本 聡子
    2022 年 29 巻 p. 38-51
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

     かつて、一部は消費者女性みずからの、また多くは社会運動をしていた男性たちのビジネスモデルとして発展してきた、生活協同組合運動(活動)。だが英国の女性消費者運動が「買い物は投票行動」というスタンスで企業と対峙したのに対し、日本は「安全・安心な食べ物」を調達・商品開発に特化していった。

     2000年代になり貧困層を除き食ニーズが達成された後、消費者運動も消沈気味、かつ安全性も生協独自基準で厳しい選別をする生協は、数少ない。女性組合員が95%弱を占め、2000万人以上の組合員が日常の買い物をする組織だが、性別役割分担をみると、男性稼ぎ手モデルが少し崩壊している動きが見えるのは2018年調査くらいから、若年層に限定的に、である。2015年の全国組合員調査では、食事のマネジメントを担うのは9割女性であった(回答者女性自身のみ)。30年この構造はほぼ変わらず、職場でのジェンダー平等への改善が先行しているのではと考えている。

     「主婦」ではないが、食事マネジメントを一手に引き受けている母親たちは、ワンオペ育児から解放されていない。コロナ禍で、再び女性の「食べさせる」というケア労働量が強化され、職業生活に影響が出ている。日本の家族内でジェンダー平等が達成されたなど考えられない。かつて、いわゆる「女なみ平等」をめざす運動の代表であった生協組合員によるワーカーズ・コレクティブなどの仕事起こし運動が、労働者協同組合法成立(2020年)によって男女ともに「地域で役に立つ」仕事づくり運動になろうとしている。

     「ポストフェミニズム的状況」の代表的なものは、あいも変わらず「家族」と自助的労働を強化する「働く場」の身分制度ではないか。未婚率上昇は、差別回避最終手段に思える。

論文
  • ―掲載小説を手掛かりにして―
    趙 書心
    2022 年 29 巻 p. 54-75
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

     女性運動の先駆として有名な『青鞜』(1911年創刊) の研究において、「レズビアニズムの排除」が指摘されてきた。しかし、それが平塚らいてうが執筆した評論的な文章のみを分析して得られた結論であり、文学的な作品におけるレズビアン表象については検討されていない。本論では、『青鞜』における四つのレズビアン小説を、同時代の女性同性愛言説との関係性において読むことで、「レズビアニズムの排除」という理解を修正することを試みた。1913年前後〈新しい女〉の社会問題化をきっかけに、『青鞜』の女性解放論者の周りで女性同性愛をめぐる言説が多く浮かび上がってきた。『青鞜』の小説が、外部の同性愛言説に応答しながら、レズビアニズムに対する意味づけを更新していた。そこには「レズビアニズムの排除」に収まらない言語表現が確認できる。女性同性愛を揶揄するスキャンダルな言説に対し、小説はそれに対抗しまたはそれを攪乱している。さらに『青鞜』が性科学を用いてレズビアニズムを排除した以後も、小説には同性愛に承認を与え、排除に抵抗する言説が現れている。小説というジャンルには、従来見落とされてきた、『青鞜』におけるレズビアニズムの一つの水脈が見出せる。

  • 三上 純
    2022 年 29 巻 p. 76-104
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、グループ・インタビューとアンケート調査の分析を通じて、運動部活動におけるミソジニスティック/ホモフォビックな会話の実態と、それが性差別意識といかに関連しているのかを明らかにすることである。

     グループ・インタビューでは、男性のみの運動部集団において女性を性的客体とみなすミソジスティックな会話と、同性愛をタブー視するホモフォビックな会話があったことが語られた。アンケート調査の分析では、女性を性的客体、男性を性的主体とする意識と、ゲイに対する態度を従属変数とする重回帰分析を行った。その結果、性的マジョリティ男性は非対称な性的関係を肯定する傾向がみられたが、それは運動部活動におけるミソジニスティック/ホモフォビックな会話に媒介されたものであることが明らかになった。しかし、ゲイに対する態度についてはそうした会話に十分な媒介効果がみられなかった。なお、いずれの従属変数についても男女が生まれつき異なる存在であるとする考え方が強く関連していることが明らかとなった。

     本稿の分析から、性差別を助長すると考えられる運動部活動におけるミソジニーやホモフォビアに対処するためには、生物学的な男女の差異を自然とみなす状況を問い直すことが必要であると考えられる。

  • ―呉春生をはじめとする運動家の活動を中心に
    于 寧
    2022 年 29 巻 p. 105-128
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

     本論文では中国クィア運動史の研究に位置づけ、中国本土最初のクィア運動家の一人である呉春生を取り上げる。呉は1990年代に中国本土初期のクィア運動を牽引し、当時のクィアコミュニティに関する貴重な文献資料を残しているものの、その貢献にはまだ焦点が当たっていない。呉をはじめとする運動家の活動を中心に、彼が手掛けた当事者の「一人称の語り」を記録した書籍やドキュメンタリー映画を分析することを通じて、同性愛の非犯罪化と脱病理化がまだ実現されていなかった90年代初期の中国本土のクィア運動における当事者による同性愛言説の形成の歴史を振り返ろうとする。当時生まれた「専門家によるオフィシャルな医学・科学表象」対「当事者によるオルタナティブな文化・芸術表象」という図式のもと、専門家と呉をはじめとする当事者が、90年代半ばまでにそれぞれ行った社会調査、出版した書物、制作した映画を比較分析する。当時の専門家による同性愛言説を参照しながら、当事者の自己に対する語りの方式を分析することで、どのように異なる同性愛言説が形成されたかを明らかにすると同時に、これらの言説の限界も解明する。それは2000年代のクィアコミュニティにおける非対抗的な戦略を理解するのに有益なだけではなく、現在のクィア運動が直面する当局からの反動と対処のヒントになるであろう。

研究ノート
  • ―自然言語処理手法を援用した試み―
    長安 めぐみ
    2022 年 29 巻 p. 130-142
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/04/01
    ジャーナル フリー

     本研究では、デートDV予防教育が抱える困難性について考察した。デートDV予防教育を受けた高校生の事前と事後の問いの記述を解析した。手法は文脈から読み取り数値化できるコンテクスト解析を用いた。教育効果を実体であるエンティティの出現によって可視化した。私たち支援者が期待する「人権」や「ジェンダー」という言葉は、28位や29位といった低い位置にあった。しかし、「相手の気持ち」や「自分の気持ち」、「お互い」、「対等な関係」、「自分の意見」など、そこにつながる言葉がしっかり伝わっていた。よって予防教育は生徒たちに必要な情報提供を行っていることがわかった。そして、生徒たちの置かれている状況に合わせて各団体が独自の予防教育を行っていることがわかった。意味付けを人の手で行うコンテクスト解析は限界もあった。だが、今後も機械学習を活用して継続することで予防教育の効果について示すことができることがわかった。

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