2023 年 30 巻 p. 92-114
ある職業が女性的なものとしてジェンダー化されるとき、そこで働く従事者たちは、職業に付与されるジェンダー化された形象をどのように解釈するのだろうか。本稿はこの問いを、美容職に従事する女性たちの語りに着目することによって明らかにすることを目指す。先行研究において美容職従事者は、女は美しくなければならないという「美の神話」の「エージェント」とされるか、劣悪な条件のもと労働に従事する「犠牲者」として論じられてきた。このような議論においては、彼女たちの解釈実践や労働のありようを理解しようとする視点が抜け落ちてしまう。そこで本研究は、2021年1月から4月に実施した美容職女性29名へのインタビュー・データを用いて自らの職業に対する女性たちの解釈を検討する。そのさい、女性労働研究が概念化してきた「女性職」概念に2つの定義(「女性の職場」、「女性向きの仕事」)を与え、分析の補助線とする。分析の結果、美容職女性たちは人口に膾炙した「美容職=女性的」というイメージをただ単に受容しているのではなく、ときにはそれを棄却したり、あるいは戦略的に利用したりしながら自らの職業アイデンティティを構築していることが示された。そして彼女たちの解釈は、ジェンダー規範の再生産にも変動にも関わりうるフェミニズムにとって両義的なものであることが示された。