本稿は、性暴力の問題をめぐって英語圏を中心に1960年代後半以降展開した「被害者言説」と「サバイバー言説」を取り上げる。近年、日本では精神医学・心理学の分野を中心として性暴力にあった女性の主体性に焦点を当てた研究が盛んに行われている。しかし、そこでは精神療法の開発や臨床研究などの技術論が積極的に受容されているのに対して、これと並行してジェンダーの問題を問うたフェミニスト研究者の議論はほとんど受容されていない。本稿は性暴力をめぐるフェミニズムと精神医療との往還に注目し、1960年代後半から2010年代にかけて「被害者言説」と「サバイバー言説」がいかに展開してきたのかを検討する。これによって、一見医療的介入を軽視するかに見えるフェミニスト研究者の議論が、じつはそこから取り残された人々の存在に目を向けようとする試みであることが明らかになる。こうした展開を振り返ることは、単なる医療化批判に留まらず、性暴力をめぐる日本のケアを考える手がかりになるであろう。