女性学
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30 巻
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特集
  • 古久保 さくら, 荒木 菜穂
    2023 年30 巻 p. 6-12
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     「ジェンダー化された表象とフェミニズム」とは、女性学では長らく議論の続いてきたテーマである。しかし、性差別に声を上げてきた歴史へのリスペクトを持ち現代に継承する一方、表象を楽しむ自由も、という各論併記で終わらせてはいけない。我々はこのテーマとどう向き合っていけばよいのか。

     吉良報告では、美術史における表象への解釈にみられる性差別やジェンダーによる非対称性への批判の歴史、それらにたいする美術界の反応にもジェンダー的な問題がみられることについて、多様な事例ともに紹介された。前之園報告では、性差別の文脈で批判されやすい二次元美少女キャラという表象について、ジェンダーや差別のしくみを知りつつ、楽しむための考え方の道筋や方法論の提案があった。田中報告では、現在のメディア状況や性的表象をめぐり対立が起こる背景、性差別表現がさまざまな新たなネットメディアに無批判に継承されたり、女性向け性メディアにも性差別的な内容が散見されたりする複雑な状況において、差別や暴力の批判の戦略をどのように練り直したらいいのかという重い問題提起がなされた。質疑等も通じ、性差別を批判しつつ、楽しむためのルールを伴う制度やリテラシーなどの必要性、その際、対話や、さまざまな意見が交わされる機会が重要であることが総括的に確認される場となった。

  • ―ジェンダー美術史の視点から
    吉良 智子
    2023 年30 巻 p. 13-23
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     近年おもにオンライン上で起こるいわゆる「炎上」と呼ばれる現象は、ジェンダーと表象に関連したケースが多い。表象は単なる「現実世界の反映」ではなく、それを生み出した側の「欲望の表出」であり、さらには現実世界に積極的に働きかける力を有している。しかしそうした作用について学ぶカリキュラムは義務教育にはないため、表象をめぐる権力関係について社会的認知が浸透していない。その結果としてジェンダー化された表象をめぐる、フェミニズムと反フェミニズム間のかみ合わない議論の発生や、両者のどちらにも参入しない大多数を占める第三のオーディエンスの存在がある。

    「視覚表象をめぐる社会構造の見取り図」において、社会には、表象を中心に「作り手」、「受け手」、「注文主や作品の媒介者」といったステークホルダーが存在する。作品もステークホルダーも社会の中に存在し、表象の創造や解釈をする相互的緊張関係にある。表象と社会とは相互に影響関係を持ち、社会やその中で生活する作り手や社会の構成員らによる欲望は表象となって、その作品はまた社会の持つイデオロギーの一翼を担う。

     膠着化した議論の前進のためには、第三のオーディエンスを包摂する形で、表象読解にかんする教育の機会を社会に提供していく取り組みといった、共通した議論の枠組みの構築が必要ではないだろうか。

  • 前之園 和喜
    2023 年30 巻 p. 24-38
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本稿は、美少女キャラ(一般的には萌えキャラとして知られる)をめぐる議論の精緻化をめざす。

     まず、ジェンダー平等の観点から美少女キャラ広告を批判する議論が2つの点で問題を抱えていることを指摘する。①美少女キャラすべてが性的であるかのように想定する実態と乖離した議論に終始している。②先行研究との接続を欠く傾向があるために、性的な見た目への批判のみにとどまり、女性学が批判してきた他の側面を見落としがちである。これらの問題を克服するため、女性学や運動体による女性広告批判を参照することで、次の3軸からの美少女キャラ広告の分析を提案する。すなわち、①見た目が性的であるか否かの軸、②キャラや物語などに問題があるか否かの軸、③女性を用いることに意味や必然性があるか否かの軸、の3軸である。

     次に、3軸からの美少女キャラ広告の分析をとおして、どの観点においても問題を持たない美少女キャラ広告がたしかに存在することを指摘する。そして、美少女キャラはフィクションゆえに特有の問題および可能性も持っていることを考察する。一面的に美少女キャラを否定するのではなく、現実に即した丁寧な議論が求められるのである。

  • ―新しいメディアという視点から
    田中 東子
    2023 年30 巻 p. 39-50
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本報告では、昨今SNS上で論争の的になっている、メディアコンテンツや広告におけるある種の女性表現について、いくつかの具体的事例を扱いつつデジタル化時代のメディア理論やメディア文化論の観点から、以下の4点について説明を試みる。第一に、シンポジウムの開催の意図と先行するお二人の発表を受けて、「メディアと女性の表象」というテーマの大まかな見取り図を示しつつ論点を整理してみる。第二に、女性表象に対する第二波フェミニズムによる運動の成果を踏まえ、従来型メディアにおけるステレオタイプ表象や女性を表現する言葉遣いの改善、ジェンダー平等なコンテンツ作りに向けた内部考査の徹底化などが見られたことを確認すると同時に、その限界について考える。第三に、ポピュラー文化領域での女性自身による自由な性表現(レディースコミックスなど)、男性性のモノ的消費(BL、女性の二次創作の過激化、男性アイドル受容など)、女による女の消費(百合作品)の文化領域が拡大し、「萌え絵」への批判があたかもダブルスタンダードのように見えてしまうという点を検討する。第四に、その後のメディア技術の変化およびアナログ媒体からデジタル媒体への変容によって、様々なコミュニティの境界線が消滅し、私的領域と公的領域のシームレス化といったメディア環境の刷新が起こったことを理論的に説明すると同時に、「女性の表象」をめぐる対話の困難さとそれを超える可能性について検討してみたい。

論文
  • 合場 敬子
    2023 年30 巻 p. 52-72
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本論文は私立の男女共学高である南風高校(仮名)の女子高生32人へのインタビューを基に、女子高生の体毛除去について考察した。女子高生の多くは、脇毛、脛毛、腕の毛を除去していた。体毛の除去を始めた理由と継続している理由は、体毛を他人に見せてはいけないという規範への同調と「想像された自己」の構築であった。南風高校の特定のクラスの女子にとって、脇、腕、脛の体毛を除去するということが最低限の身だしなみ実践となっていたので、それをしないという選択肢はなくなっていた。その結果として腕、脛の体毛を除去しない女子高生は、他者からの非難は受けていなかったが、自分に対する嫌悪を抱いていた。今や、体毛の部位や年齢層によっても異なるが、脇毛、脛毛、腕の毛の除去は、日本社会において、10代から20代の女性にとって身だしなみになっていると考えられる。したがって、生理的に体毛の除去ができない女性であっても、体毛の除去をしていないことで、他人から身だしなみをきちんとしていない人として非難される可能性がある。これは不当なことであり、体毛の除去は女性の身だしなみという規範は、変えていく必要がある。

  • ―1960年代以降の英語圏のフェミニストによる「被害者 - サバイバー言説」の展開に着目して
    井上 瞳
    2023 年30 巻 p. 73-91
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     本稿は、性暴力の問題をめぐって英語圏を中心に1960年代後半以降展開した「被害者言説」と「サバイバー言説」を取り上げる。近年、日本では精神医学・心理学の分野を中心として性暴力にあった女性の主体性に焦点を当てた研究が盛んに行われている。しかし、そこでは精神療法の開発や臨床研究などの技術論が積極的に受容されているのに対して、これと並行してジェンダーの問題を問うたフェミニスト研究者の議論はほとんど受容されていない。本稿は性暴力をめぐるフェミニズムと精神医療との往還に注目し、1960年代後半から2010年代にかけて「被害者言説」と「サバイバー言説」がいかに展開してきたのかを検討する。これによって、一見医療的介入を軽視するかに見えるフェミニスト研究者の議論が、じつはそこから取り残された人々の存在に目を向けようとする試みであることが明らかになる。こうした展開を振り返ることは、単なる医療化批判に留まらず、性暴力をめぐる日本のケアを考える手がかりになるであろう。

  • ―職業のジェンダー化に関する考察
    永山 理穂
    2023 年30 巻 p. 92-114
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

     ある職業が女性的なものとしてジェンダー化されるとき、そこで働く従事者たちは、職業に付与されるジェンダー化された形象をどのように解釈するのだろうか。本稿はこの問いを、美容職に従事する女性たちの語りに着目することによって明らかにすることを目指す。先行研究において美容職従事者は、女は美しくなければならないという「美の神話」の「エージェント」とされるか、劣悪な条件のもと労働に従事する「犠牲者」として論じられてきた。このような議論においては、彼女たちの解釈実践や労働のありようを理解しようとする視点が抜け落ちてしまう。そこで本研究は、2021年1月から4月に実施した美容職女性29名へのインタビュー・データを用いて自らの職業に対する女性たちの解釈を検討する。そのさい、女性労働研究が概念化してきた「女性職」概念に2つの定義(「女性の職場」、「女性向きの仕事」)を与え、分析の補助線とする。分析の結果、美容職女性たちは人口に膾炙した「美容職=女性的」というイメージをただ単に受容しているのではなく、ときにはそれを棄却したり、あるいは戦略的に利用したりしながら自らの職業アイデンティティを構築していることが示された。そして彼女たちの解釈は、ジェンダー規範の再生産にも変動にも関わりうるフェミニズムにとって両義的なものであることが示された。

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