近年おもにオンライン上で起こるいわゆる「炎上」と呼ばれる現象は、ジェンダーと表象に関連したケースが多い。表象は単なる「現実世界の反映」ではなく、それを生み出した側の「欲望の表出」であり、さらには現実世界に積極的に働きかける力を有している。しかしそうした作用について学ぶカリキュラムは義務教育にはないため、表象をめぐる権力関係について社会的認知が浸透していない。その結果としてジェンダー化された表象をめぐる、フェミニズムと反フェミニズム間のかみ合わない議論の発生や、両者のどちらにも参入しない大多数を占める第三のオーディエンスの存在がある。
「視覚表象をめぐる社会構造の見取り図」において、社会には、表象を中心に「作り手」、「受け手」、「注文主や作品の媒介者」といったステークホルダーが存在する。作品もステークホルダーも社会の中に存在し、表象の創造や解釈をする相互的緊張関係にある。表象と社会とは相互に影響関係を持ち、社会やその中で生活する作り手や社会の構成員らによる欲望は表象となって、その作品はまた社会の持つイデオロギーの一翼を担う。
膠着化した議論の前進のためには、第三のオーディエンスを包摂する形で、表象読解にかんする教育の機会を社会に提供していく取り組みといった、共通した議論の枠組みの構築が必要ではないだろうか。
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