2019 年 50 巻 p. 349-357
法科学分野では,微小・微量試料の非破壊異同識別が重要である.ポリエステル単繊維中の微量金属元素を用いた異同識別に対する,卓上全反射蛍光X線分析(TXRF)装置の適用性を評価した.メーカーや年式の異なる自動車のトランクマット5試料から採取した黒色ポリエステル単繊維をTXRF測定した.TXRFスペクトルにはCa,Ti,Mn,Fe,Cu,Zn,Ge,Brが検出され,各繊維種のプロファイルは放射光微小部蛍光X線分析法(SR-μXRF)と類似の特徴を示した.TXRF法における試料形状や測定中心からの位置ずれによる強度ばらつきは,X線管球からのMo-Kα散乱線強度を用いた散乱線内標準法により補正できることがわかった.補正後の蛍光X線強度を用いた主成分分析(PCA)により,繊維種の分離を行った.TiおよびGeの補正強度を変数としプロットすることによって,繊維種の識別が可能であった.