X線分析の進歩
Online ISSN : 2758-3651
Print ISSN : 0911-7806
50 巻
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解説
  • 永井 宏樹, 椎野 博, 中嶋 佳秀
    2019 年 50 巻 p. 23-32
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    高感度分析が可能なポータブル蛍光X線装置の開発を行った.高感度化を実現するために分光器として,二重湾曲型結晶モノクロメータの開発を行った.単色化機能を備えたポータブル蛍光X線装置の開発により高感度での測定を可能とした.また,K線用とL線用の2種類のモノクロメータを用いたポータブル蛍光X線装置の開発も行った.近年では,高分子窓検出器を搭載し,真空チャンバー機構を備えた軽元素対応ポータブル蛍光X線装置の開発も行った.本稿では,これらの装置開発技術について紹介する.

  • 片岡 由行
    2019 年 50 巻 p. 33-48
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    蛍光X線分析におけるファンダメンタルパラメータ法(FP法)は,理論的な蛍光X線強度計算を利用する方法である.FP法の応用例として半定量分析がスクリーニング分析などに広く利用されてきたが,それ他の機能については,利用されている分野が限定されていると見受けられる.

    本稿では,FP法の解説を目的として,FP法の基本要素である理論強度計算とFP法について,3つの応用の概要と代表的分析例を示す.1つ目は,検量線法と同様に品種ごとに標準試料を測定して元素ごとの測定強度と理論強度の相関を示す感度曲線を作成し,試料分析時に理論強度が測定強度に一致する組成を求める方法である.次に,FP法による理論強度計算を利用して得られたマトリックス補正係数を利用した検量線法で,通常の限定された含有率範囲では,FP法と同等の補正効果があり,鉄鋼,セメントなどJIS,ISOで定められた規格分析法の1つとして採用されている.3つ目の応用は,試料品種ごとの標準試料を必要とせず,金属,酸化物などの最小限の試料情報のみで分析が行える半定量分析で,定性分析で検出された元素とその強度からFP法を用いて定量値を求める方法である.

  • 石井 慶造
    2019 年 50 巻 p. 49-66
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    PIXEは,Particle Induced X-ray Emissionの頭文字を取ったもので,荷電粒子による原子の内殻電離によってX線が発生する現象を指す.これを元素分析に利用したのがPIXE分析法である.PIXE分析法は,簡便でしかもppbの感度でほとんどの元素を同時に分析できることに加えて試料中に含まれる元素の空間的濃度分布も測れる画期的分析法であるため,現在,医学,生物学,水産学,農学,地質学,岩石学,環境,考古学,資源探索,半導体や金属などの材料科学,化学,宇宙物理学,地球科学,犯罪捜査等の試料の分析,食物等の汚染検査など幅広い分野に応用されている.荷電粒子ビームを試料表面上に照射し走査すると,各元素の2次元空間分布が得られる.さらに,ビームをμmサイズまで絞ると,細胞内の各元素の分布が観察できる(マイクロPIXE分析).試料を純金属ターゲットにすると高強度で特性X線が発生するので,これを点X線源としたミクロン領域を観察できるCTが可能となる(ミクロンCT).元素のX線吸収端を用いると100 μmサイズの物体の内部の元素の空間分布を非破壊で調べることができる.福島第一原子力発電所事故の後,放射性セシウムの食物,土壌の分析にPIXE分析,マイクロPIXE分析,ミクロンCTが役立った.

  • 米田 哲弥, 辻 幸一
    2019 年 50 巻 p. 67-70
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー
  • 伊豆本 幸恵, 松山 嗣史, 吉井 裕, 辻 幸一
    2019 年 50 巻 p. 71-78
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー
原著論文
  • 薄木 智亮, 伊藤 亜希子, 安達 丈晴, 速水 弘子, 山中 恵介
    2019 年 50 巻 p. 79-90
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    筆者らは蛍光収量法による軟X線XAFSに生じる自己吸収効果の補正法を検討してきた.今回,鉄酸化物,水酸化物を対象に自己吸収の補正をしたスペクトルを用いて化学状態分析の可能性を検討した.用いた自己吸収補正法は,(1)金属元素の吸収端域で酸素の蛍光収量PFY(O)の逆数をスペクトルとする逆蛍光収量法IPFYと(2)金属元素の蛍光収量PFYをPFY(O)で除する蛍光収量比法PFYRである.価数の異なったFeO,Fe3O4,Fe2O3のスペクトルは両補正法ともケミカルシフトを示し,化学状態分析は可能である.IPFYでは,膜厚や粉末,ペレットなどの試料形態によって強度が大きく変化するが,PFYRでは強度はほぼ一定となり試料間の比較が容易となる.水酸化物と酸化物のスペクトルはIPFY,PFYRともにケミカルシフトがなく,O K-edge XAFSにわずかな形状差が認められた.

  • V. EGOROV, E. EGOROV
    2019 年 50 巻 p. 91-97
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    Paper presents short characteristic of the waveguide-resonance mechanism of quasimonochromatic X-ray fluxes featured for planar extended slit clearances with nanosize width. There is discussed properties of planar X-ray waveguide-resonator with simplest design and composite waveguide-resonance structure. The phenomenological model of its functioning is presented in details.

  • Yasuji MURAMATSU, Wanli YANG, Jonathan D. DENLINGER, Eric M. GULLIKSON
    2019 年 50 巻 p. 99-104
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    We experimentally determined the X-ray absorption edge in the C K region of graphite using selectively-excited X-ray emission spectroscopy. The selectively-excited X-ray emission measurements of normal X-ray fluorescence, resonant inelastic X-ray scattering (RIXS), and X-ray Raman scattering (XRS) using synchrotron radiation were performed at the Advanced Light Source. The spectral border between RIXS and XRS can be evaluated from the relationship between the energy positions of the main emission peaks and their excitation energies. Thus, the X-ray absorption edge in the C K region at the lower limit of RIXS is 284.1 eV for graphite.

  • 仲西 桃太郎, 中野 ひとみ, 藤原 裕子, 藤井 義久, 辻 幸一
    2019 年 50 巻 p. 105-112
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    木材は昔から構造材料として使用されてきたが,腐朽や虫害に弱いという欠点がある.一般に銅系の防腐剤を木材に注入し腐朽や虫害に対処しているが,注入量不足,注入された防腐剤の不均一性などの問題点がある.今までの研究では,木材中の銅を確認するために切断する必要があった.木材を切断せず全サンプル検査するために,非破壊・非接触的に木材に注入された防腐剤の注入量を評価する方法が求められている.そこで,本研究では微小部蛍光X線分析法を用いて,元素の分布の取得を試みた.試料として防腐処理を施したオウシュウアカマツ材を用い,当研究室で作製した微小部蛍光X線分析装置を用いて測定した.試料表面と断面のCuとCa,KのXRFイメージング画像を取得した.木材の組織構造に応じて,銅の浸透深さが異なることが分かった.また,銅の蛍光X線の検出可能深さをランベルト-ベールの法則から計算した理論値と,実際に実験を行い得られた結果との比較を行った.

  • 氷見 翼, 小林 亮平, 丸茂 克美
    2019 年 50 巻 p. 113-136
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    ハンドヘルド型蛍光X線分析計(PXRF)を用いて25個の地質標準試料(火成岩,堆積岩,河川堆積物の粉末試料)に含まれるアルミニウム,ケイ素,カルシウム,チタン,マンガン,鉄,亜鉛,鉛の特性X線強度を測定し,地質試料分析用の検量線を作成した結果,アルミニウム,ケイ素,カルシウム,チタン,亜鉛,鉛で相関係数が0.95を超える良好な検量線が得られた.マンガン,鉄の検量線の相関係数はそれぞれ0.87と0.93であった.

    コンプトン散乱補正(C/R比補正)を行うため,各標準試料のRh Kα線のレイリー散乱線とコンプトン散乱線の強度を測定し,各特性X線強度のコンプトン散乱補正(C/R比補正)を行った結果,マンガンと鉄の検量線の相関係数はそれぞれ0.93と0.98に改善された.また,Rh Kα線のコンプトン散乱線の発生量は標準試料の鉄含有量が増加するほど減少する傾向にある.

    これらの地質標準試料をPXRFで分析し,アルミニウム,ケイ素,カルシウム,チタン,マンガン,鉄,亜鉛,鉛含有量をファンダメンタルパラメータ(FP)法で計算し,認証値と比較した結果,いずれも相関係数が0.99を超えることが明らかにされた.PXRFを用いた鉱山地帯や土壌汚染地での現場分析におけるFP法の有用性が確認された.

  • 氷見 翼, 小林 亮平, 丸茂 克美
    2019 年 50 巻 p. 137-149
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    ハンドヘルド型蛍光X線分析計(PXRF)を用いて富山市内の公園土壌の現場化学分析を行い,FP法で亜鉛含有量を調べた結果,中島北公園で287 mg/kg,布瀬公園で213 mg/kg,布瀬南公園で287 mg/kg,神通川南緑地公園で237 mg/kg,大沢野運動公園で145 mg/kg,富山県総合運動公園で384 mg/kgの亜鉛を含む土壌が見つかった.

    これらの亜鉛含有量が高い土壌を採取し,風乾・粉砕した後,地質標準試料を用いて作成した亜鉛検量線を使って亜鉛含有量を調べた結果,現場分析値と非常に異なる土壌が多く確認された.こうした公園土壌中の亜鉛は不均一に存在していると考えられる.一方,鉛検量線を用いて,風乾・粉砕した土壌を分析して得られた鉛含有量は,現場分析値に類似した値であり,鉛が土壌中に均一に,恐らく土壌粒子表面への吸着態として含まれているものである.

    検量線分析法で得られた亜鉛と鉛の重量比(Zn/Pb)を調べると,一部の公園土壌のZn/Pb は亜鉛・鉛鉱山の廃水によって汚染された水田土壌のZn/Pbと同様に,約3であることが判明した.この汚染水田には最大で288 mg/kgの亜鉛が含まれている.一方,Zn/Pbが有意に3より高い公園土壌は,道路周辺や駐車場の近くから採取されている場合があり,自動車のタイヤの摩耗に起因する亜鉛が含まれている可能性がある.

  • 中野 ひとみ, 阪口 真以, 安保 拓真, 駒谷 慎太郎, 大澤 澄人, 岩崎 余帆子, 近藤 萌絵, 田口 かおり, 森 直義, 辻 幸一
    2019 年 50 巻 p. 151-160
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    美術品や絵画の測定では,試料を傷つけないよう,非破壊・非接触での方法が求められる.蛍光X線分析はこの目的に対して適した技術の1つである.元素画像を得るために,微小X線ビームを用いた分析法が開発されてきた.安全に絵画の測定を行うために,試料と装置間での作動距離(Working Distance:WD)を従来の装置よりも長くできる集光素子を開発した.本発表ではモノキャピラリー内壁に金のコーティングを施し,全体を回転楕円体に設計することにより,従来よりも集光効率が高くWDを大きくできる集光素子(長作動距離モノキャピラリー集光素子)を用いた絵画用X線分析顕微鏡を開発し,これを用いてフィンセント・ファン・ゴッホの絵画作品(ポーラ美術館収蔵)の絵具層分析に応用した結果を報告する.

  • 奥野 真里, 江畑 翔一, 西川 寿規, 小川 裕彌, 矢野 陽子
    2019 年 50 巻 p. 161-168
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    分子集合体の結晶構造は分子の構造に関係している.分子構造の研究にはフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)が広く用いられている.そこで我々は市販のFT-IRを組み合わせたエネルギー分散型X線回折装置を開発した.エネルギー分散型X線回折装置は,X線源として3 kWのタングステンターゲットのX線管球をもちい,検出器にはCd-Te放射線検出器をもちいた.また入射X線がATR-FTIR装置の試料位置に照射されるように設計した.その結果ココアバターは,脂肪酸の炭化水素鎖がトランス型からゴーシュ型へ変化し,それとともに融解することを確認した.

  • 陳 自義, 細見 凌平, 川上 洋司, 辻 幸一
    2019 年 50 巻 p. 169-175
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    蛍光X線分析法(XRF)は非破壊的に試料の分析が可能な手法であり,工業材料の分析など多くの応用例がある.その中でも共焦点型蛍光X線分析装置では特定の微小領域の蛍光X線のみを検出することができる.この共焦点型蛍光X線分析装置を用いて,微生物腐食の進行過程をモニターすることを試みた.試料として用いた鋼板表面から溶出する鉄の水溶液中での溶出過程が可視化された.

  • 古里 拓巳, 井上 史之, 辻 幸一
    2019 年 50 巻 p. 177-184
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    人体においてミネラルは大きな働きをしている.そのためミネラルの過不足を知ることは健康診断のために重要である.しかし,恒常性により血液中のミネラル濃度は一定に保たれており,血液検査ではその異常を調べることができない.一方,毛髪はミネラル情報を取り込み保持しているため,体内のミネラル濃度を調べることができる.そこで,ICP-AES/MSといった分析法よりも,より簡便・迅速な毛髪中の元素定量法を検討することとした.本研究では,卓上型の蛍光X線分析装置を用いて,散乱X線内標準法による毛髪の定量を検討した.その結果,毛髪中のS,Ca,Znについて定量することができた.しかし,CaやZnなど含有量の小さな元素においては定量結果のばらつきが大きくなった.また試料形態に依存するため,毛髪の試料準備法が重要であることが分かった.

  • 伊豆本 幸恵, 松山 嗣史, 石井 康太, 酒井 康弘, 吉井 裕
    2019 年 50 巻 p. 185-196
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    東京電力福島第一原子力発電所の廃炉過程において様々な放射性物質に汚染された可能性のある瓦礫等の廃棄物が発生することが予想される.このうち,ウランは半減期が長いために放射線計測で定量することが困難である.瓦礫表面のウラン汚染を定量する方法として,汚染瓦礫から成分を酸で溶出させた後,誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)により質量分析を行う手法が一般的であるが,有機物除去のために灰化処理を施す必要があり,分析に時間がかかる.もう1つの方法として,試料の灰化が不要な全反射蛍光X線(TXRF)分析法を挙げることができる.本研究では,ウランに汚染されたコンクリートの酸溶出液をTXRF分析する手法について検討し,ICP-MS分析と比較した.標準的なICP-MSによる分析法における検出下限値0.002 ng/mLと比較して,TXRF分析におけるウランの検出下限値1.7 ng/mLはおよそ1000倍となったが,総分析時間はICP-MSの場合の1/3程の約6時間であった.

  • 上田 和浩, 池永 和幸, 田村 智行, 角屋 誠浩
    2019 年 50 巻 p. 197-205
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    プラズマエッチング装置のY2O3内壁材からの異物発生を抑制することを目的に,プラズマ照射時間を変えたY2O3膜を用意し,Y2O3結晶の結晶子サイズと残留応力を評価し,異物発生量との比較した結果,(1)プラズマを照射すると表面の圧縮残留応力が増加し,結晶子が微細化すること,(2)プラズマ照射による結晶子の微細化は40~50 nmで飽和すること,(3)異物発生が少ない内壁材ほど,結晶子サイズが小さいことが分かった.内壁材からの異物発生は,フッ素ガス系プラズマ照射により,内壁材表面がフッ化され,Y2O3結晶表面が膨張し,結晶にクラックが発生し,結晶子が微細化し,一部が微小異物として飛散することが原因と考えられる.内壁材の低異物化には,内壁材の結晶子サイズを小さくすることが有効である.

  • 新井 沙季, 中村 和之, 中井 泉
    2019 年 50 巻 p. 207-222
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    古代ガラスの化学組成は原料や製作地を反映することから,著者らは古代・中世のガラスビーズに着目して蛍光X線分析を用いて,これまで起源推定を行ってきた.中世の本州では,ガラスの流通が衰退していたが,同時期の北海道ではアイヌ文化期と呼ばれる独自の文化が興っており,ガラスの流通が盛んであった.我々はそのアイヌ文化期の北海道の遺跡出土ガラスビーズに着目して研究を行った.分析の結果,カリ鉛ガラス(K2O-PbO-SiO2)とカリ石灰ガラス(K2O-CaO-SiO2)の2タイプが流通していることが明らかとなった.アイヌ文化期の最初期のガラスを分析すると,アイヌ文化期になると流通したガラスタイプが大きく変化することも明らかとなった.さらに北海道全域のガラスを化学分析すると,カリ石灰ガラスは化学組成の面から中国で製作された可能性が高いことを示唆することができ,アイヌ文化期の北海道に流通したガラスビーズの概要を解明することができた.

  • 笠利 実希, 大渕 敦司, 小池 裕也
    2019 年 50 巻 p. 223-231
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    日本粘土学会が頒布しているJCSS-3101参考粘土試料に含まれているモンモリロナイトを,実験室系のX線回折装置による透過法測定結果を用いたRietveld解析により定量した.X線回折法による粘土鉱物の定量分析の課題である選択配向を,試料の加圧充填を必要としない透過法測定により解決した.標準試料を必要としないパターンフィッティング法の1つであるRietveld解析を用いて,JCSS-3101参考粘土試料に内標準物質としてコランダムを添加することで結晶相と非晶質を定量した.モンモリロナイト,石英,非晶質の定量値はそれぞれ,28.1±0.4,1.1±0.6,70.8±1.4 mass%となった.石英の定量値は,標準添加法による定量値(1.09±0.02 mass%)と近い値が得られた.

  • 井上 昂哉, 大根田 祐人, 保倉 明子
    2019 年 50 巻 p. 233-248
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    三次元偏光光学系エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いて,コマツナ試料中に含まれる微量元素の定量分析を行った.全てのコマツナ試料(国内産95試料,中国産2試料の計97試料)で13元素(P,S,Cl,K,Ca,Mn,Fe,Cu,Zn,Br,Rb,Sr,Ba)を検出することができた.また,最適な測定条件を検討して測定した結果,重元素であるBaに関しては1.6 ppm,そのほかの元素についてはサブppmレベルでの検出限界が得られ,簡便な微量元素分析が実現可能となった.検出された13元素のうち,8元素(Mn,Fe,Cu,Zn,Br,Rb,Sr,Ba)の定量分析を行った.ICP-OESを用いて定量分析のクロスチェックを行った結果,蛍光X線分析結果とほぼ一致した値が得られ,本法の信頼性が示された.さらに,Baを除く7元素の定量値を用いて,多変量解析による産地判別を試みた.その結果,全地域を明確に判別することは難しかったが,特徴のある地域や限られた地域間を識別できる可能性が示された.

  • 澤田 啓二, 篠田 弘造, 助永 壮平, 鈴木 茂
    2019 年 50 巻 p. 249-260
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    特殊鋼製鋼スラグを想定した,CaO-SiO2系ガラス状固化試料におけるFeおよびCrの化学状態を,各金属のK吸収端XANES領域におけるX線吸収分光(XAS)測定により調査し,試料中FeとCrの価数存在比をそれぞれ算出した.その存在比は溶融時の酸素分圧,塩基度(wt%CaO/wt%SiO2)を指標とする試料の組成,FeとCr各々が単独か共存かに影響を受け,大きく変化した.特に,価数を変化させ得る異金属が共存することによる価数存在比の変化は,同条件下で各金属単独の場合における価数によって異なることがわかった.より複雑な多元組成である実工程でのスラグ中金属の化学状態が単純でないことは容易に予想されるが,その調査および製綱工程の設計に指針を与える強力なツールとして,XASを利用した分析手法の適用が有効であることが示された.

  • 中井 泉, 平山 愛里, 阿部 善也, 小野 慎之介, 星野 真人, 上杉 健太朗, 八木 直人
    2019 年 50 巻 p. 261-269
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    絵画の絵具の同定をシンクロトロンX線吸収端イメージングで実現できるか検討を加えた.ターゲット元素の吸収端の上下100 eVの2つの異なるエネルギーで,2つの吸収画像を取得し,2つの画像を差し引くことにより,元素の分布画像が得られた.実験は兵庫県のシンクロトロン放射光施設(SPring-8)で行った.X線吸収端イメージングはBL20B2(長さ215 mのベンディングマグネットビームライン)で大きなサイズ(12×1 cm2)の単色ビームを利用して行った.実験システムは,絵画試料用のθ-Zステージとフラットパネル検出器(12×12 cm2)で構成されている.モデル試料の場合,塗布した絵の具の配置と元素の分布はよく一致しており,この方法によって絵画の素早い元素イメージングが可能であることがわかった.油彩画試料では,12 keV以上の吸収端エネルギーを持つ元素の元素イメージングで,この手法が有用であることを実証した.さらに,PbとCdのイメージングから,描画時の筆の跡を詳細に観察することができ,2種の絵の具を重ねて描いたのではなく,混ぜて描いたことが明らかになった.

  • 堀越 晟仁, 宮澤 拓実, 松下 直矢, 向 雅生, 横山 政昭
    2019 年 50 巻 p. 271-283
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    陸上に生息する節足動物のオオアゴ(牙)の先端部には,Znの蓄積が見られる種と見られない種が確認されている.その中の昆虫網(六脚亜門)でも,オオアゴの先端部においてZnの蓄積が見られる種と見られない種が確認されている.そこで,本研究では昆虫網の甲虫目に着目し,2亜目21種についてX線分析顕微鏡でオオアゴの先端部における金属元素の分布を調べた.その結果,甲虫目では,他の昆虫網の生物と異なり,Znの蓄積は見られず,その代わりにオオアゴ先端部にMnが顕著に蓄積する種が存在することを見出した.なお,現在のところ甲虫目以外でのこのようなMnの蓄積は確認されていない.

  • 今川 一輝, 村松 康司, 矢澤 哲夫, Eric. M. GULLIKSON
    2019 年 50 巻 p. 285-290
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    ホウケイ酸ソーダガラス(Na2O-B2O3-SiO2 glass system)におけるホウ素原子の配位構造を識別するため,ホウケイ酸ソーダガラスと参照試料(h-BN,B2O3)のB K端XANESを測定した.Na2B4O7のσ*ピークは3配位ホウ素からなるB2O3に対して3.1 eVの低エネルギーシフトを示した.Discrete Variational(DV)-Xα法によるホウケイ酸ソーダガラスモデルの電子状態密度計算から,このσ*ピークの低エネルギーシフトは4配位ホウ素に由来することを確認した.これより,B K端XANESのσ*ピークからホウ素原子の配位構造を明らかにできることを示した.

  • 山本 孝, 宮園 拓自, 栗本 彰人
    2019 年 50 巻 p. 291-298
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    タンタル酸リチウム単結晶を積層させたユニットの焦電特性に基づく放電およびX線発生挙動について,結晶形状および真空度による相違を検討した.大気下での室温~400 Kの温度変化サイクルに伴う放電現象はいずれも積層型結晶ユニット側面で観察された.放電回数は同一形状の板状単結晶を使用したユニットの方が形状不揃いの結晶を同一枚数積層させたときより5倍多く,側面に絶縁グリースを塗布すると大幅に抑制された.放電は積層した板状結晶の間隙で起こり,加熱時には数秒から1分間の短時間のスパイク状のX線が繰り返し発生した.X線の最高エネルギーは1 Paと10-4 Paでは相違なかったが,やや1 Paの方がスパイク状X線の発生頻度が高かった.スパイク状のX線発生および放電挙動の要因について議論した.

  • 中西 康次, 森田 善幸, 田中 覚久, 木内 久雄
    2019 年 50 巻 p. 299-311
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    充放電動作中の全固体電池の硬X線XAFS測定を実施するため,operando硬X線XAFS用全固体電池セルを開発した.開発したセルは小型のアルミニウム製真空チャンバで,一般のグローブボックス中で試料のセッティングが可能である.全固体電池の電極深さ方向の情報を得るためにバルク敏感な部分蛍光収量法と表面敏感な全電子収量法が可能である.このセルと表面汚染銅箔を用いたXAFS測定からTEYとPFYで明らかに検出深さの異なる情報が得られた.また,評価用全固体電池のLiCoO2正極のoperando XAFS測定より,充放電動作中の全固体電池電極の反応挙動を観察することができた.これらの結果から開発したセルが全固体電池の充放電反応メカニズム解析に有効であることがわかった.

  • 吉田 峻規, 武田 志乃, 及川 将一, 上原 章寛, 沼子 千弥, 石原 弘
    2019 年 50 巻 p. 313-319
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    硬組織と軟組織が共存する骨試料について,マイクロビームを用いた2次元元素分析に最適な凍結切片試料の作製法の検討を行った.硬組織病理試料作製で用いられている川本フィルムと元素分析で汎用のカプトン(ポリイミド)フィルムおよびポリプロピレンフィルムの粘着性タイプの3種類のフィルムを用いてラット大腿骨の骨薄切試料の作製を行い,薄切切片形状とPIXEによる各フィルムの含有元素の比較を行った.いずれのフィルムにおいても,切削する試料面にフィルムを強く密着させることで,硬組織・軟組織ともにある程度保持された凍結切片試料を連続して作製することができた.カプトンフィルムでは川本フィルムに比べ,軟組織にわずかに細かいき裂ができたが,概ね良好な薄切切片が作製できた.しかしポリプロピレンフィルムでは組織の一部欠落がみられた.また,川本フィルムとポリプロピレンフィルムには,Ca,FeやZnなどの生体必須元素がわずかに含有しており,元素分析には粘着性カプトンフィルムの方が適していることがわかった.

  • 平井 佑磨, 村松 康司
    2019 年 50 巻 p. 321-338
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    C K端XANESによる黒鉛系炭素材料の局所構造解析技術の開発を目的として,炭素六角網面の基盤となる縮合多環芳香族化合物に着目し,C K端XANESを測定するとともに,第一原理計算のCASTEPで計算XANESを算出して両者を詳細に比較した.そして,縮合多環芳香族化合物の局所構造とC K端XANESとの相関を調べた.第一原理計算CASTEPで算出した計算XANESを局所構造パターンごとに列挙し比較した結果,局所構造とC K端XANESには明確な相関があることを確認した.この相関を使えば黒鉛系炭素の局所構造を予測できる可能性が示唆された.

  • 正田 寛太, 村松 康司, 曾根田 靖
    2019 年 50 巻 p. 339-347
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    小型電子機器の放熱材に用いられるグラファイト超薄膜の開発に資するため,その原料であるベンズイミダゾベンゾフェナントロリン(BBL:benzimidazobenzophenanthroline)ポリマー膜の化学状態と配向性を明らかにすることを目的とした.具体的にはBBLポリマー膜のC K端,N K端,O K端のX線吸収端構造(XANES)を測定した.C K端XANESの入射角依存性から,BBLポリマー膜とグラファイト超薄膜の配向性は概ね一致することがわかった.さらに,第一原理計算によるXANES解析から,BBLポリマー膜は概ね単一モデルの化学状態にあると判断できたが,一部のBBLポリマー膜ではC K端とO K端のXANESにおいてピーク間の強度変化が観測され,分子間相互作用を考慮して解析する必要があることが示唆された.

  • 高原 晃里, 松田 渉, 日下部 寧, 池田 智, 森山 孝男, 西脇 芳典
    2019 年 50 巻 p. 349-357
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    法科学分野では,微小・微量試料の非破壊異同識別が重要である.ポリエステル単繊維中の微量金属元素を用いた異同識別に対する,卓上全反射蛍光X線分析(TXRF)装置の適用性を評価した.メーカーや年式の異なる自動車のトランクマット5試料から採取した黒色ポリエステル単繊維をTXRF測定した.TXRFスペクトルにはCa,Ti,Mn,Fe,Cu,Zn,Ge,Brが検出され,各繊維種のプロファイルは放射光微小部蛍光X線分析法(SR-μXRF)と類似の特徴を示した.TXRF法における試料形状や測定中心からの位置ずれによる強度ばらつきは,X線管球からのMo-Kα散乱線強度を用いた散乱線内標準法により補正できることがわかった.補正後の蛍光X線強度を用いた主成分分析(PCA)により,繊維種の分離を行った.TiおよびGeの補正強度を変数としプロットすることによって,繊維種の識別が可能であった.

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