2020 年 51 巻 p. 81-90
福島第一原子力発電所の廃炉作業にともない,ウランをはじめとする核燃料物質の体内動態に関する科学的知見が強く求められている.本研究では粒子線励起X線分析(PIXE)を用いて体液中の元素を,微少量の試料で簡便・迅速に定量するため,尿の滴下試料の作製法を検討した.ウランの模擬元素として,ウランに類似したエネルギーに特性X線を有するイットリウムを用いた.滴下径の縮小は検出感度の向上に寄与するため,乾燥後の滴下試料径変化について試料液性と試料支持体素材の両面から評価を行った.尿を硝酸にて5および10倍に希釈して0.5-5 μLを滴下試料とし,乾燥させた滴のサイズや性状を検討した.また,滴下する支持体(ポリプロピレンフィルム)に四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂を加工した結果,尿を硝酸にて10倍希釈し1 μL滴下した試料が最も再現性良く滴を縮小化されて乾燥できた.イットリウムを含む尿を硝酸にて希釈した1 μLの滴下試料を乾燥後マイクロPIXE測定した結果,液滴中のイットリウムはほぼ均一に分散していたこと,1-50 μg/gのイットリウム濃度を定量可能であることが分かった.