X線分析の進歩
Online ISSN : 2758-3651
Print ISSN : 0911-7806
51 巻
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解説
  • 阿部 善也
    2020 年 51 巻 p. 1-10
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    高エネルギー放射光を利用したX線分析技術を文化財や環境試料へと応用し,その物理・化学的な性状を明らかにすることで,その来歴を化学的に読み解くことが可能となる.本稿では,環境試料への応用例として福島第一原発事故由来の放射性エアロゾル,文化財への応用例として国内の古墳で出土した2点のガラス製容器に関する研究を解説する.放射性エアロゾルの研究では,縦横約1μmに集光したマイクロビームX線をプローブとした複合的なX線分析により,その詳細な物理・化学的性状を解明しただけでなく,事故最初期の原子炉内の状況を推定することができた.古代ガラス製容器の研究では,化学組成を指標とした生産地の推定により,地中海沿岸のローマ帝国や西アジアのサーサーン朝で作られたガラス製品であったことを解明し,シルクロードを通じた数千kmに及ぶ物質移動を化学的に実証した.社会的な興味・関心の強いこれらの試料へと最先端のX線分析技術を応用することは,その重要性および有用性を社会に示す格好の実例になると考えられる.

  • 吉井 裕
    2020 年 51 巻 p. 11-24
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    本研究は,東京電力福島第一原子力発電所廃炉現場の建屋内で溜まり水等が見つかった際に,そこにウランが含まれないことを保証することを目的としたものである.そのために,ウランの検出下限を目標以下まで引き下げることが必要となり,このことは,高感度なウラン分析法を開発することと同義である.手法開発にあたり目標としたのは,検出下限が法令上のウランの排出基準である20 mBq/cm3の1000分の1を下回ることである.一般に,比放射能が極めて低いウランは放射線計測による検出が困難であり,排水中のウランの分析では数Lに及ぶ試料を乾固したうえでα線計測を行う.ところが,建屋内でたまり水等が見つかった場合,一つ一つの試料は少量で,かつ多数であると考えられる.従来法では少量の試料溶液中のウランを迅速に分析することは困難であり,新しい手法の開発が求められている.本研究では,全反射蛍光X線分析を用いて建屋内で見つかる可能性のある溜まり水等に含まれるウランを分析する手法を開発した.このような試料溶液には周囲の瓦礫由来の成分が含まれていると考えられる.そこで,模擬ウラン汚染瓦礫浸漬液として瓦礫純水浸漬液にウラン含有他元素標準液を添加したものを用意した.この溶液から,固相抽出法でウランを抽出して,卓上型全反射蛍光X線分析装置で分析したところ,検出下限は法令排水基準の100分の1は下回ったものの,目標には達しなかった.続いて,固相抽出によるウラン抽出液を10倍に濃縮して分析したが,検出下限は法令排水基準の450分の1ほどであり,これも目標を達成するには至らなかった.そこで,アクチニドを効率よく吸着できる素材として注目を集めている酸化グラフェンに着目した.これを用いてウランを抽出・濃縮することにより,法令排水基準の1000分の1という目標を達成することができた.この方法を用いることにより,廃炉の過程で作業環境を含む周辺環境における溜まり水等にウランが漏洩していないことを法令排水基準の1000分の1未満の精度で保証できる.

  • 小林 康浩
    2020 年 51 巻 p. 25-30
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    メスバウアー分光は固体の電子状態測定,特に鉄原子の状態測定に広く用いられている.メスバウアースペクトルから得られる主なパラメータとしては原子の価数を反映したアイソマーシフト,磁気モーメントを反映した内部磁場,原子周囲の対称性を反映した四極子分裂の3つがある.メスバウアー分光測定には一般的には放射性同位体(RI)線源をγ線源として用いるが,RI線源の代わりに放射光を光源として用いるメスバウアー分光法がいくつか開発され,高輝度,高指向性という放射光の利点をメスバウアー分光へ持ち込むことができるようになっている.これらの手法の中から通常のメスバウアー分光とほぼ同様のスペクトルを得ることができる2つの手法について紹介する.

  • Wenbing YUN, Sylvia JY LEWIS, SH Lau, Benjamin STRIPE, 大垣 智巳
    2020 年 51 巻 p. 31-40
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    X線分析装置向けに開発された高輝度X線源と高集光X線ミラーについて解説する.X線源のターゲットを微細構造にすることにより,高輝度でX線エネルギー選択可能なX線の発生が可能となった.高集光X線ミラーは,軸対称な放物面でX線を2回反射させるラボ装置用を開発した.本技術を用いたX線分析として,蛍光X線分析,X線吸収分光,X線CTの測定事例について報告する.

原著論文
  • 新部 正人, 堀川 裕加, 徳島 高
    2020 年 51 巻 p. 41-48
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    揮発性物質や液体を大気圧下で,安価でかつ簡便に軟X線分光測定できる吸収分光装置を新規に開発した.この装置は厚さ100 nmの薄型SiN自立膜を圧力隔壁とし,Heを満たした容器中に試料を置くことにより,電子収量法および蛍光収量法を用いて,試料の自由表面の軟X線分光測定ができる.この装置を用いて,標準固体試料,揮発性の高い固体試料,および水など数種類の液体試料について,O-K,C-K,Ti-L端における軟X線吸収スペクトルを大気圧下で測定することができた.

  • 松山 嗣史, 山内 葵, 岩崎 正寛, 林 和則, 辻 幸一
    2020 年 51 巻 p. 49-56
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    全視野型蛍光X線イメージング法は,試料広範囲にX線を照射し,試料から放出される蛍光X線をX線用2次元カメラで観測することで,未知試料中の元素分布像を取得する方法である.様々な分野での適応が期待される一方で,取得される元素分布像の解像度の向上が求められている.そこで,主に医療分野で注目されている圧縮センシングという情報処理技術を全視野型蛍光X線イメージングに適応することによって,高画質な元素分布像の取得を目指した.本研究では,銅とチタンからなる金属試料に本手法を適用することによって,その有用性が示された.

  • 中野 和彦, 駒谷 慎太郎, 坂東 篤, 内原 博, 辻 幸一
    2020 年 51 巻 p. 57-63
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    本研究では,ポリキャピラリーX線レンズを用いた微小部蛍光X線分析の空間分解能を向上させるため,共焦点蛍光X線分析装置の装置構成を大幅に変更することなく,簡便に空間分解能を向上させる“非共焦点配置”による空間分解能の向上を検討した.非共焦点配置では,通常の共焦点配置から入射側と検出側の焦点を意図的にずらし,両者の焦点が合致する領域を狭めることで,空間分解能の向上をはかった.非共焦点配置にすることで,得られる蛍光X線強度は減少するものの,その空間分解能は,深さ方法,面内方向ともに10 %以上向上した.

  • 小野田 麻由, 中野 ひとみ, 山﨑 宏志, 田中 悟, 駒谷 慎太郎
    2020 年 51 巻 p. 65-79
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    考古学試料や鑑識試料の貴重で微量な粉体試料を定量分析する際には,非破壊で測定できる蛍光X線分析法が一般的な方法として用いられる.粉体試料の測定は,ルースパウダー法や加圧成型法等で試料を成型して測定するが,微量の粉体試料の場合は試料を成型することが難しい.本研究では,微量な粉体試料でも高精度に定量するため,X線顕微鏡と微量粉体試料用に開発した試料ホルダーを用いて分析を行った.1つの標準試料を用いて感度係数を補正する一点校正fundamental parameter method(FPM)で定量分析することで,試料が1 mgでも,認証値が1.0 mass%以上の主成分元素において定量精度が高いことがわかった.

  • 上原 章寛, 及川 将一, 田中 泉, 石原 弘, 武田 志乃
    2020 年 51 巻 p. 81-90
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所の廃炉作業にともない,ウランをはじめとする核燃料物質の体内動態に関する科学的知見が強く求められている.本研究では粒子線励起X線分析(PIXE)を用いて体液中の元素を,微少量の試料で簡便・迅速に定量するため,尿の滴下試料の作製法を検討した.ウランの模擬元素として,ウランに類似したエネルギーに特性X線を有するイットリウムを用いた.滴下径の縮小は検出感度の向上に寄与するため,乾燥後の滴下試料径変化について試料液性と試料支持体素材の両面から評価を行った.尿を硝酸にて5および10倍に希釈して0.5-5 μLを滴下試料とし,乾燥させた滴のサイズや性状を検討した.また,滴下する支持体(ポリプロピレンフィルム)に四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂を加工した結果,尿を硝酸にて10倍希釈し1 μL滴下した試料が最も再現性良く滴を縮小化されて乾燥できた.イットリウムを含む尿を硝酸にて希釈した1 μLの滴下試料を乾燥後マイクロPIXE測定した結果,液滴中のイットリウムはほぼ均一に分散していたこと,1-50 μg/gのイットリウム濃度を定量可能であることが分かった.

  • 武田 志乃, 吉田 峻規, 沼子 千弥, 及川 将一, 上原 章寛, 田中 泉, 石原 弘
    2020 年 51 巻 p. 91-96
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    組織構造と対応した元素分布様態の把握は,生命金属の機能を理解する上で重要である.無処置・無染色で組織構造を把握することができれば,SR-XRFやmicro-PIXEのような非破壊元素分析と組み合わせ,生命金属動態解析のための有力なツールになり得る.本研究では,ラット腎臓試料を用い,自家蛍光を利用した組織構造と元素局在部の抽出を試みた.励起波長520-550 nm,蛍光波長580 nm以上あるいは励起波長470-490 nm,蛍光波長515-550 nmの蛍光フィルターを用いることで,糸球体や尿細管の判別が可能な組織像を得ることができた.また,ウランを投与すると腎臓の髄質外辺部(OSOM,皮質と髄質に挟まれた領域)でリン濃集部が出現するが,リンのmicro-PIXEイメージングとよく対応した蛍光画像が得られ,目標とするPIXEと良好のマッチングが示された.

ノート
原著論文
  • 大渕 敦司, 笠利 実希, 小池 裕也
    2020 年 51 巻 p. 107-117
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    純物質が存在しないモンモリロナイトを解析対象結晶相として,Rietveld 解析による定量性を評価した.マトリックスとしての廃陶器,赤玉土にモンモリロナイト量既知のJCSS-3101参考粘土試料と,内部標準物質としてコランダムを一定量添加した試料に対して Rietveld 解析を行ったところ,解析値と調製値は良く一致した.なお解析用の試料は,V形混合器で60分間混合して均一な試料とした.ベントナイト中のモンモリロナイトは,エチレングリコールを用いた定方位試料を作製することで含有の有無を確認した.ベントナイト中のモンモリロナイトのRietveld定量値は,モンモリロナイト(001)反射の回折強度を,内部標準物質であるコランダム(104)反射の回折強度で除することで検量線を作成して検証した.Rietveld解析法によるベントナイト中のモンモリロナイトの定量値と検量線法による定量値の相対誤差は1.2 %であり,両者の値はほぼ一致した.モンモリロナイト既知量のJCSS-3101参考粘土試料を用いることで,Rietveld解析の定量性を評価することが可能であった.

  • 河合 潤, 岩井 信
    2020 年 51 巻 p. 119-140
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    シンクロトロン放射蛍光X線(SR-XRF)分析の問題点を,和歌山ヒ素カレー事件の鑑定分析に基づいて調査研究した.この事件では,亜ヒ酸の缶が異なれば,不純物として含まれるアンチモンのX線ピーク強度が違うことを立証するために,住友金属鉱山株式会社製As2O3の25缶がSPring-8 BL08Wで測定された.鑑定を行った中井泉は,缶が異なれば不純物元素アンチモン(Sb)の蛍光X線ピーク強度が変化したという趣旨の証言をした.ところが,Sb濃度が同一であったにもかかわらず,Sb/As蛍光X線強度比が異なると証言した場合が複数存在した.一方では,林真須美関連亜ヒ酸は,パターン認識によってカレーに入れられた亜ヒ酸と同一の蛍光Ⅹ線スペクトルであると結論された.SR-XRFの測定精度は悪く,測定ごとに強度はばらつき,濃度が近接したSR-XRFスペクトルは,偶然のばらつきによって,同一であるかのように見えたり異なるかのように見えたことを示した.これらの事実に基づいて,SR-XRFによる定量分析値の信頼性は低いことを結論した.SPring-8のSR-XRF検量線は一応は直線であるが,実測値はその直線からのばらつきが大きいことが原因であると結論した.

  • 篠田 弘造, 田口 武慶
    2020 年 51 巻 p. 141-146
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    環境分析に有用なXANES測定を,現場で行うことを想定し実験室規模のX線吸収分光測定装置を用いた測定および化学状態分析を試みた.環境物質中の対象元素は微量であることが多く,蛍光収量法の適用が欠かせない.本研究では環境物質例として環境負荷の大きく異なる価数の特定が重要なCrを微量含むものを対象に,微弱な蛍光X線の計測に,大受光面積を有するゲルマニウム半導体検出器SSDおよびエネルギー分解能の高いシリコンドリフト検出器SDDを用いた測定を実施した.結果,SSDではエネルギー分解能が十分ではなく微弱な蛍光X線と強い散乱X線の分離が不十分でS/B比が低い上に,発光点から受光面までの距離が近づけられないために十分な受光立体角が確保できず計測強度を稼ぐことができなかった.十分な積算時間をかければCr(III)とCr(VI)を識別できる品質のデータを得ることができたが1日以上の測定時間を要する.一方SDDを用いた場合は,受光素子は小さいものの蛍光X線発光点に受光部を近づけることができ,計測強度,S/Bともに向上して,現実的な測定時間でCr価数を判別可能なデータを得ることができた.このように,1 kW程度のラボX線源で十分に化学状態のモニター観測が十分可能であることが示された.

  • 平野 孝史, 小貫 祐介, 星川 晃範, 富田 俊郎, 佐藤 成男
    2020 年 51 巻 p. 147-156
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    鉄鋼材料の高温下におけるミクロ組織観察には,中性子回折を用いたRietveld texture解析が有効である.Rietveld texture解析では回折強度をもとに相分率や集合組織を解析することができる.ただし,回折強度は原子の熱振動をパラメータとする等方性温度因子(Biso)により変動し,Bisoの解析精度が相分率,集合組織解析に影響すると考えられる.本研究では,鉄鋼の中性子回折測定結果をもとにRietveld texture解析におけるBisoの相分率,集合組織解析への影響を調査した.高温中性子回折では,原子の熱振動により高次回折の強度減衰が著しくなることが確認された.低次から高次の回折強度の減衰を明確に観測することで文献値と同等のBisoが求められ,妥当なフェライト,セメンタイトの相分率が得られることが確認された.一方,意図的にBisoを変動し解析を行うと,集合組織解析への影響は小さいが,相分率解析に偏差が生じることが確認された.妥当なBisoを得るためには低次から高次にかけた回折ピークの減衰を検出する必要があるが,温度や積算時間などによって検出できる回折指数領域は変化する.そこで,Bisoを正しく見積もり,妥当な解析結果を得るのに必要な回折指数領域の調査を行った.フェライト相のBisoを正しく見積もり,妥当な相分率を得るためには最低でも低次から高次までの回折ピークを11本以上検出し,解析に用いる必要があることが確認された.

  • 伊藤 佑弥, 中村 亮太, 藤原 学, 原田 忠夫, 大澤 力, 吉田 圭吾, 飛田 有輝, 村松 康司
    2020 年 51 巻 p. 157-168
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    プロキラルであるアセト酢酸メチルの不斉還元合成の際に,鏡像体の一方のみを効率的に生成する触媒の不斉修飾材として用いられるL-酒石酸ナトリウムのNa(1s,2s,2p)電子に関わるX線光電子(Na(1s,2s,2p)XPS)スペクトルをそれぞれ測定した.また,その関連化合物として,種々のナトリウム化合物の測定を行い,それぞれの比較からナトリウムイオンが関わる化学結合状態を明らかにした.XPSスペクトル測定時に,Na(1s,2s,2p)電子に関わるオージェ電子(Na KLL AES)スペクトルのエネルギー領域も測定し,ナトリウム化合物のオージェパラメータを求めた.これらの検討により,不斉修飾材として最も高い光学収率を与えるL-酒石酸ナトリウムが他のナトリウム化合物よりかなり大きな値のオージェパラメータを有していることがわかった.それに対し,L-酒石酸ナトリウムにアセト酢酸メチル(MAA)を付加するとその値は低下し,他のナトリウム化合物とほぼ同じ値となった.さらに,L-酒石酸およびそのアルカリ金属塩(Li,Na)については,炭素原子と酸素原子のK吸収端X線吸収スペクトル(C,O K-edge XANES)を測定した.XANES スペクトルのエネルギー分解能は,XPSスペクトルよりもかなり高いため,L-酒石酸塩単体間だけでなくL-酒石酸塩とそのMAA複合体のスペクトルとの比較も行った.L-酒石酸塩単体と複合体のスペクトルピークの形状は,外殻のNa(2p)電子が関与するスペクトルを除きそれぞれ互いによく似ていた.これらの結果より,MAA付加によりナトリウムイオンの最外殻の電子状態がわずかに変化し,それをNa(2p)XPSスペクトルピークやオージェパラメータから確認できたと考えられる.

  • 高田 由美, 伊豆本 幸恵, 高村 晃大, 松山 嗣史, 酒井 康弘, 吉井 裕
    2020 年 51 巻 p. 169-177
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    東京電力福島第一原子力発電所の廃炉過程において,ウランに汚染された可能性のある瓦礫等が発生し,その迅速な分析が求められることが予想される.ウランは半減期が長いために放射線計測で定量することが困難であり,誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)により質量分析を行う手法が一般的である.しかし,この方法では有機物除去のために灰化処理を施す必要があり,迅速な分析には不適である.本研究では,ウランに汚染された瓦礫の表面を削り取ったものを模擬した試料を作製し,成分を酸溶出して,固相抽出法によりウランを抽出してから全反射蛍光X線(TXRF)分析法によりウランを定量する方法を開発した.さらに,ウラン抽出液を物理的に濃縮することによる検出下限の改善についても検討した.

  • 村松 康司, 丸山 瑠菜, Eric M. GULLIKSON
    2020 年 51 巻 p. 179-190
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    絶縁性のワイプ布に滴下した市販飲料の内容物の非破壊検出を目指し,この全電子収量軟X線吸収測定を試みた.測定はBL-6.3.2/ALSとBL10/NewSUBARUで実施した.内容物が希薄な飲料や,ワイプ布のセルロースと類似する炭水化物が主成分の飲料については,C K端,O K端ともにワイプ布とのXANESの差異がわずかで,検出は容易ではなかった.一方,たんぱく質や脂質が含まれる飲料については,ワイプ布とのXANESの差異が顕著にみられた.これより,ワイプ布に吸着した飲料の内容物,特に,たんぱく質や脂質の非破壊検出に全電子収量軟X線吸収分光法が有効であることがわかった.

  • Yasuji MURAMATSU, Jonathan D. DENLINGER, Eric M. GULLIKSON
    2020 年 51 巻 p. 191-197
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    Nondestructive analysis of the chemical states of the interface in Ru/B4C multilayers was achieved using soft X-ray emission spectroscopy in the B K and C K regions of the multilayer measured under X-ray standing-wave conditions. The Ru/B4C multilayer samples were selectively excited by monochromatized undulator radiation under X-ray standing-wave conditions at an excitation energy of 386 eV with an incident angle of 16°. Symmetrical differences in spectral features were observed between the on-standing-wave-conditions and the off-conditions at 386 eV (the Bragg condition). This symmetrical spectral feature change demonstrates that the chemical state differences in boron and carbon atoms between the interface and internal B4C layers are observable by soft X-ray emission measurements under the X-ray standing-wave conditions.

  • 村上 琴美, 吉野 広軌, 向 雅生, 横山 政昭, 沼子 千弥
    2020 年 51 巻 p. 199-210
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    X線分析顕微鏡を用いて21種類の甲殻類における臭素(Br)と亜鉛(Zn)のマッピング測定を行った.クルマエビなどの海水に棲息するの甲殻類の口器周辺にはBrが蓄積していることが確認された.淡水に棲息する甲殻類や陸上に棲息する甲殻類の中にもBrを蓄積している種が確認され,口器周辺にZnも蓄積している種がいることが確認された.海水にはBrがイオンとして含まれていることから,海水に棲息する種の硬組織にBrが確認されたと推察された.

  • 飛田 有輝, 村松 康司
    2020 年 51 巻 p. 211-221
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    炭素材料の酸化状態分析に必要なO K端XANESのデータベースを拡張するため,様々な酸素官能基をもつ液体脂肪族化合物のO K端XANESを測定し,第一原理計でXANESを解析した.アルコール,エーテル,ケトン,アルデヒド,カルボン酸,エステルがもつ酸素官能基のO K端XANESは,他の固体脂肪族化合物や芳香族化合物に結合する酸素官能基のXANESと概ね一致した.ただし,カルボニル炭素がsp2炭素と隣接する場合,この軌道混成によってO K端XANESのπ*ピークが分裂する.したがって,カルボニル基が不飽和脂肪族炭素に結合する炭素材料をO K端XANESから指紋分析する場合には,不飽和結合の位置に注意する必要があることを明らかにした.

  • 正岡 佳純, 小貫 祐介, 佐藤 成男
    2020 年 51 巻 p. 223-230
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    六方晶金属に対するラインプロファイル解析の補正法を検討するため,マグネシウムに対する引張変形中の中性子回折を行った.Williamson-Hall法に対し結晶方位に対する弾性異方性,および結晶子微細化の異方性の補正を行った.Krönerモデルから多結晶の結晶方位ごとの弾性定数を求め,弾性異方性による回折ピークの拡がりを補正した.マグネシウムは弾性異方性が小さいため,マグネシウムに対する弾性異方性補正の効果は小さいことが確認された.結晶子微細化の補正モデルとして回転楕円体を利用した.結晶子形状は変形初期において,マグネシウムのすべり面である{0001}面内に大きく,その法線方向に小さい円板状であることが確認された.この異方性は変形が進むと緩和した.一般に金属材料のラインプロファイル解析においては弾性異方性の補正に着目されることが多いが,六方晶金属においては結晶子微細化に対する異方性補正が不可欠であることが示された.

  • 正田 寛太, 村松 康司, 曾根田 靖
    2020 年 51 巻 p. 231-239
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン(BBL:benzimidazobenzophenanthroline)ポリマー膜を焼結して作製するグラファイト超薄膜の開発に資するため,BBLポリマー膜の軟X線吸収スペクトルを第一原理計算により解析した.BBLポリマー膜はa軸に対して-10°の傾斜角を持つ斜方晶系の構造をもつとして,このバンド計算からC K端,N K端,O K端の計算XANESを求めた.計算XANESの主要なピークの位置は実測XANESのピーク位置をほぼ再現した.また,ポリマーが積層することによるピーク強度変化も算出でき,ポリマー間の分子間相互作用の影響が示唆された.しかし,実測XANESで観測された特徴的なピーク強度比は計算XANESでは再現できず,実際のBBLポリマー膜の構造は単純な積層構造ではなく,さらに複雑であると考えられる.

  • 高橋 学人, 高原 晃里, 渡辺 充, 本間 寿, 倉岡 正次, 小沼 雅敬
    2020 年 51 巻 p. 241-250
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    蛍光X線分析法(XRF)はファインセラミックスのような難溶性材料に対する理想的な定量分析法の一つである.本研究では,C,N,Oの非破壊定量分析,特に試料調製と測定条件について検討を行った.標準物質の窒化けい素粉末はブリケットに成形し,波長分散型蛍光X線分析装置で測定を行った.この測定系では,試料室の真空度の低下とブリケット表面への汚染物質の付着が主な誤差要因であったが,検量線法による評価によりC,N,Oの定量分析が可能であることを示した.

  • 藤井 健太郎, 加藤 大, 藤井 紳一郎, 月本 光俊, 秋光 信佳
    2020 年 51 巻 p. 251-259
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/07/05
    ジャーナル フリー

    リボ核酸の一種であるアデノシン三リン酸(ATP)は,生体エネルギー供与物質として様々な生化学反応へエネルギーを供給している.また同時に,遺伝情報の仲介物質であるメッセンジャーRNAを合成するための基質として,さらには細胞間情報伝達物質としても働く.本研究では,放射線によりATPに生じた放射線障害が,ATPの持つ生物学作用にどのようにかかわっているかに注目して,その生物学的効果への寄与を解析することを試みた.そして,ATP分子の構造変化はがん細胞の放射線感受性に変化を生じさせている可能性を示唆する結果を得た.

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