2023 Volume 143 Issue 1 Pages 77-84
It is crucial to evaluate the photostability of drugs. However, it requires a longer period of time to evaluate the photodegradation of compounds because extended light exposure to the compound is required to detect photodegradation products with the help of the commonly utilized technique of chromatography. Therefore, a simple and easy approach to estimate the photostability of the compound is required particularly for the initial screening of the drug candidates. It was reported in our previous manuscript that, focusing on ultraviolet–visible (UV/vis) spectrometry, the area under the spectrum curve in the ultraviolet-A (UVA) range (AUSCUVA) are closely related to the photodegradation of indomethacin polymorphs. In this study, the solid-state UV/vis absorption spectra of compound A polymorphs, indomethacin complexes and some small molecule compounds were determined and analyzed to check the applicability of this method. AUSCUVA are closely related to the photodegradation of compound A polymorphs as well as indomethacin. On the contrary, no close relation was observed between AUSCUVA of indomethacin complexes and their photodegradation. Additionally, the result indicated that the differences in their solid-state UV/vis absorption spectra were observed between photosensitive and photostable compounds. Photosensitive compounds show absorption in UVA range, while photostable compounds exhibit less absorption. In conclusion, the solid-state UV/vis absorption spectra of small molecular compounds might provide the key information on the photosensitivity.
医薬品原薬及び製剤について,光照射による医薬品の安定性及び光分解物の毒性を十分に評価することは重要である.一般に,光安定性については,総照度120万lux·h以上かつ総近紫外放射エネルギーとして200 W·h/m2以上の光に曝された試料を用いる必要があり,1)サンプルの準備に長い時間が必要である.更に,薬物毎に液体クロマトグラフィーのような適切な分析方法が必要となるため,光安定性の評価には,多大な労力と時間が必要である.
簡便な光安定性の評価法が,特に初期スクリーニングの段階で,必要と考えられるが,曝光サンプルの調製及びクロマトグラフィーによる分析方法を必要としない簡便な手法が数例報告されている.固体UV吸収スペクトルを用いたタモキシフェンクエン酸塩の結晶多形間の光安定性の比較,2)及びフロセミドの共結晶の光安定性3)である.
一方で,290–700 nmの範囲に吸収を示さない化合物の場合は,光毒性評価は不要とされている.また,290–700 nmの範囲に吸収を示す化合物であっても,モル吸光係数が1000 L/mol/cm以下であれば,光毒性評価は不要とされている.4)このように光毒性の評価においては,紫外可視吸収スペクトルがスクリーニングの指標として汎用されている.
このような状況を背景に,われわれはインドメタシンをモデル化合物として使用して,その結晶多形において,固体UV吸収スペクトルの紫外線A波(ultraviolet-A: UVA)領域の曲線下面積(area under the spectrum curve in UVA: AUSCUVA)と光分解率との間に正の相関関係を示すことを明らかにした.更に,インドメタシンの結晶多形においては,AUSCUVAから光分解率を定量的に予測可能であることを報告している.5)
ところで,医薬品として原薬をそのまま用いることもあるが,多くの場合,溶解性や安定性を考慮して最適な結晶形を選択したり,塩や複合体が調製されている.そこで,本報告では,インドメタシンの結晶多形で認められたAUSCUVAと光分解率との関係性の一般性を確認する目的で(1)結晶多形を有する化合物A,(2)インドメタシン複合体,(3)化学構造の異なる低分子化合物を用いて,AUSCUVAを指標として化合物の光安定性を比較評価できるかについて検証した.
アセタゾラミドはメルク株式会社(東京),トリメブチンはLKT Laboratory(St. Paul),インドメタシン,サッカリン,メグルミン,L-アルギニン,アセトニトリル,トリフルオロ酢酸,硫酸バリウムは富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪),L-リジン,フロセミド,スピロノラクトン,トロメタミン(tromethamine: TRIS)は東京化成工業株式会社(東京)より購入した.化合物A,化合物B及び化合物Cは住友ファーマ株式会社(大阪)で合成したものを使用した.各化合物の化学構造をFig. 1に示した.試験には,Milli-Q製造装置(Merck Millipore, Darmstadt)により製造した精製水を使用した.その他の試薬・試液は特級規格のものを使用した.
化合物Aに溶媒を添加して80°Cに加温して溶かし,5°Cで保管することにより調製した.I型結晶にはアセトン,II型結晶には2-プロパノールを溶媒として使用した.
3. インドメタシン複合体の調製われわれの報告6)に従い,インドメタシンとカウンター分子をモル比1 : 1で混合し,溶媒を添加して80°Cで10–30分間撹拌した.25°Cで24時間振とうした後,溶媒を除去することにより調製した.なお,インドメタシン–サッカリン複合体及びインドメタシン–リジン複合体にはエタノール,インドメタシン–アルギニン複合体には2-プロパノール/水(9 : 1)混液,インドメタシン–メグルミン複合体にはトルエン,インドメタシン–TRIS複合体には,アセトニトリルを溶媒として使用した.
4. 粉末X線回折測定粉末X線回折装置には,D8 ADVANCE(ブルカージャパン株式会社,横浜)を使用した.測定条件は,X線源:CuKα,電圧40 kV,電流:40 mA,走査速度:3.6°/min,測定角度範囲:5–40°である.
5. 示差走査熱量測定示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry: DSC)には,DSC Q1000(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社,東京)を使用し,昇温範囲10–300°C,昇温速度10°C/分にて,窒素雰囲気下で測定した.
6. 熱重量測定熱重量測定(thermogravimetry: TG)には,TGA Q500(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社,東京)を使用した.昇温範囲 室温~300°C,昇温速度10°C/分にて,窒素雰囲気下で測定した.
7. 光安定性の評価光照射装置として,D65ランプを搭載したLT-120A-WCD(ナガノサイエンス株式会社,豊中)を用いた.シャーレ内の各化合物を25°Cで総照度が120万lux·hに達するまで光照射装置内で保存した.なお,この場合の総近紫外放射エネルギーは200 W·h/m2以上であった.化合物を含むシャーレ表面をアルミホイルで覆って,遮光した状態で,光照射装置内で同様の条件で保存して得た試料を比較対照とした.なお,D65ランプは波長300 nm以上の光のみを放射する.波長が短く,エネルギーが高い紫外線B波(ultraviolet-B: UVB)(波長:280–320 nm)の光をほとんど含まないため,本検討ではUVBの影響を考慮する必要はない.
8. 光分解率の測定HPLCとして,LC-20Aシリーズ(株式会社島津製作所,京都),分析カラムとしてSunFire C18(4.6 mm i.d.×75 mm, 2.5 µm,日本ウォーターズ株式会社,東京)を使用した.HPLCの条件として,カラム温度30°C,流速1 mL/min,注入量5 µL,検出波長を各薬物の極大吸収波長に設定した.移動相として,(A)0.05%トリフルオロ酢酸水溶液及び(B)0.05%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルを用いて,以下の条件でグラジエント分析を行った.
溶媒(B):10%→70%(30分のlinear gradient)
9. 固体UV吸収スペクトルの測定積分球ISR-240(株式会社島津製作所,京都)を搭載した紫外可視分光光度計(UV-2450,株式会社島津製作所,京都)を使用し,測定範囲200–800 nmにて拡散反射スペクトルを測定した.吸収スペクトルは反射率をKubelka–Munk変換することにより得た.
化合物Aの結晶の粉末X線回折パターンをFig. 2に示す.それぞれの結晶は,異なる粉末X線回折パターンを示し,結晶多形であることを確認した.熱分析の結果をFig. 3に示す.I型結晶は138°C付近に発熱ピーク及び130°Cと144°Cに吸熱ピークを,II型結晶は144°C付近に吸熱ピークを示した.I型結晶の138°C付近の発熱ピークは,II型結晶への転移であると考えられた.したがって,I型結晶が準安定形結晶,II型結晶が安定形結晶であることが示唆された.
The solid line and dash line represent heat flow (w/g) and weight (%), respectively.
インドメタシン複合体の粉末X線回折パターンは既報5)と同じ粉末X線回折パターンを示し,インドメタシン–サッカリン複合体は共結晶,その他のインドメタシン複合体は塩であると判断した.
3. 化合物A結晶形の光安定性と固体UV吸収スペクトル化合物Aの光分解及びAUSCUVAをTable 1に,固体UV吸収スペクトルをFig. 4に示す.いずれの結晶形においても,光照射による含量低下が観察され,光により分解することが明らかとなった.化合物AのI型結晶の粉体の色は,光照射により白色から黄色に変化し,分解率もI型結晶の方がII型結晶より大きい値を示した.これらの知見から,結晶形の違いにより,光分解性が異なることが明らかとなった.固体UVスペクトルによると,I型結晶とII型結晶は共にUVA領域(320–400 nm)に吸収を示したが,結晶形によって極大吸収波長が異なり,I型結晶は332.0 nm,II型結晶は327.5 nmに吸収極大を示し,II型結晶が小さいAUSCUVAを示した.
Sample | Photodegradation ratio (%) | AUSCUVA |
---|---|---|
Compound A (I) | 4.8 | 825.6 |
Compound A (II) | 3.0 | 562.9 |
インドメタシン複合体の光分解率及びAUSCUVAをTable 2に,固体UV吸収スペクトルをFig. 5に示す.Table 2に示す通り,いずれの複合体も光により分解することが明らかとなった.粉体の色は,光照射により白色から黄色に変化し,また,カウンター分子によって,光分解率が異なることが明らかとなった.すべてのインドメタシン複合体は,UVA領域(320–400 nm)に吸収を示したが,吸収スペクトルとAUSCUVAには複合体間で相違が認められた.
Sample | Classification | AUSCUVA | Photodegradation (%) | |
---|---|---|---|---|
Actual | Predicted | |||
Indomethacin–Saccharin | Cocrystal | 481.3 | 1.4 | 0.7 |
Indomethacin–Meglumine | Salt | 796.8 | 2.6 | 4.9 |
Indomethacin–Arginine | Salt | 456.8 | 2.4 | 0.6 |
Indomethacin–Lysine | Salt | 567.1 | 3.1 | 1.2 |
Indomethacin–TRIS | Salt | 747.1 | 2.0 | 3.6 |
種々の化合物の光分解率及びAUSCUVAをTable 3に,固体UV吸収スペクトルをFig. 6に示す.アセタゾラミド,フロセミド,スピロノラクトン及びトリメブチンは,光により分解することが明らかとなった.光分解が確認されたフロセミド,トリメブチンの粉体の色は,光照射により白色から黄色に変化した.対照的に,化合物B及び化合物Cでは,含量低下は認められなかった.各化合物の光安定性試験の結果,光による分解が観察されたアセタゾラミド,フロセミド,スピロノラクトン及びトリメブチンは,UVA領域(320–400 nm)に吸収を示した.一方,化合物B及び化合物CはUVA領域に吸収を認めなかった.光に安定な化合物については,AUSCUVAが極めて小さく,一方で,光に不安定な化合物については,化合物間で差はあるものの,比較的大きなAUSCUVAを示した.この結果から,AUSCUVAを指標に化合物の光安定性が評価できる可能性が示唆された.
Sample | Photodegradation ratio (%) | AUSCUVA |
---|---|---|
Acetazolamide | 1.9 | 34.5 |
Furosemide | 2.1 | 596.1 |
Spironolactone | 1.6 | 57.2 |
Trimebutine | 13.7 | 166.8 |
Compound B | 0.0 | 1.2 |
Compound C | 0.0 | 3.7 |
光反応の開始は,光吸収に伴う化合物分子の励起であるため,化合物による光の吸収の程度を指標に,光反応を定量的に評価することが可能と考えられる.一般に化合物の光吸収は,溶液状態で測定されるが,固体状態における光安定性を評価するためには,固体表面の光吸収の程度を指標とする必要がある.
結晶多形により,バイオアベイラビリティ,7)化学的安定性,2)製造性8,9)等に相違があることが知られており,光安定性についても同様に,相違があることが報告されている.10,11)化合物Aについては,Table 1に示す通り,I型結晶よりもII型結晶が光に対して安定であり,AUSCUVAはII型結晶の方が小さい値を示した.既にインドメタシンに関しては,個々の結晶形のAUSCUVAと光分解率には正の相関関係が認められることを報告している.5)化合物Aについても,AUSCUVAが小さいII型結晶の光分解率が小さかったことから,同様に,AUSCUVAから同一化合物の結晶多形の光安定性を比較することが可能であると考えられる.したがって,同一化合物であれば,AUSCUVAにより結晶多形の光安定性の比較が可能であることが示唆された.
われわれは,前報5)において,インドメタシンの結晶多形に関して,AUSCUVAと光分解率との間に正の相関が観察されることを示し,その回帰式に基づいて,AUSCUVAからインドメタシンの各結晶多形の光分解率の予測の可能性を示唆した.そこで,インドメタシンの結晶多形で得た回帰式(y=0.0062x−3.3516, y: ln(光分解率),x: AUSCUVA)が結晶多形だけでなく,インドメタシン複合体にも適用可能か否かを確認するため,本回帰式を用いて,インドメタシン複合体のAUSCUVAより,光分解率を推定した.Table 2にPhotodegradation(%)Predictedとして示す.残念ながら,これらの予測値と実測値との間には0.7–2.3%の乖離が認められた.また,インドメタシン複合体については,Fig. 7に示す通りAUSCUVAと光分解率との間には相関が認められなかった.これは,塩や共結晶のような複合体の場合,カウンターイオンやカウンター分子が存在するため,結晶多形と比較すると,固体表面に露出する薬物分子の数が相対的に少なく,受光した薬物分子数が少ないことが一因である可能性が考えられる.
われわれは固体UV吸収スペクトルを用いた塩と共結晶の識別法において,化合物が塩を形成することにより,固体UV吸収が増大することを報告している.6)全UV領域の光吸収の程度は振動子強度を意味すると考えられる.原子や分子が光を吸収すると,電子状態が遷移するが,振動子強度とは,電子状態の遷移のしやすさを表す量として用いられる.化合物が塩を形成する場合,フリー体とカウンター分子の間に電荷移動が生じ,イオン結合が形成される.振動子強度は水素結合により増大することが報告されており,12,13)水素結合よりも強固なイオン結合の形成は振動子強度を大きく増大させると考えられる.一方,化合物が共結晶を形成する場合,フリー体とカウンター分子間にファンデルワールス力による分子間結合が形成されるが,水素結合よりも弱いため,分子間相互作用に伴う振動子強度への影響は極めて小さいと考えられる.つまり,塩の場合は,振動子強度が無視できないほど増大していることが想定される.したがって,固体UV吸収スペクトルによるフリー体とその複合体の光安定性の比較は更に困難と考えられた.
化学構造が異なる低分子化合物に関しては,Fig. 8に示す通りAUSCUVAと光分解率との間に相関は認められなかった.これは,光分解のメカニズムが多様であり,ニフェジピン,レセルピンやニカルジピンのようにデヒドロ体が生成する場合,14–18)ニモジピンのようにニトロ基が転移したデヒドロ体が生成する場合,19)クロルジアゼポキシドのように環構造が再構成される場合,20)並びに,フロセミドのように加水分解が誘発される場合21)等が報告されている.また,クロロキンやプリマキンのように複数の分解物を生成する場合も報告されている.22,23)各化合物は,化学構造に起因する特有のメカニズムで光分解し,光分解に必要なエネルギーが異なるため,化学構造が異なる化合物の光安定性を固体UV吸収スペクトルにより比較することは困難であると考えられた.
固体UV吸収スペクトルにより,同一化合物の結晶多形の光分解率を定量的に予測可能であり,また,UVA領域の光吸収の有無により,低分子化合物の光安定性を定性的に予測可能であった.固体UV吸収スペクトルによる光安定性予測は,曝光サンプルを必要とせず,また,液体クロマトグラフィーのような化合物に応じた評価方法が不要である.本手法は,化合物の光安定性評価の初期スクリーニング方法として有用であると考えられる.
化合物Aの結晶多形においては,インドメタシンの結晶多形と同様に,AUSCUVAが大きくなると光分解率が増加した.したがって,本手法は結晶多形などの同一化合物に対する光安定性の比較に適用可能であると考えられる.更に,光に不安定な化合物はUVA領域に光吸収を認め,対照的に,光に安定な化合物はUVA領域に吸収を認めず,固体UV吸収スペクトルに明確な相違が認められた.フリー体とその複合体のUVA領域の吸収を用いて,それらの光安定性を比較することはできないものの,固体UV吸収スペクトルは,低分子化合物の光安定性評価の初期スクリーニング法として活用可能であると考えられる.
木口屋祥仁は住友ファーマ株式会社の社員である.