2023 年 143 巻 12 号 p. 1027-1038
The coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic has had a major negative effect on the number of patients visiting pharmacies in Japan. The decrease in pharmacy visits during the pandemic compared with the pre-pandemic period may have increased the likelihood of adverse health outcomes; thus, it is important that pharmacy pharmacists take measures to prevent health disadvantages. In this study, we distributed a questionnaire survey to 104 pharmacy pharmacists (mainly in Kagoshima and Kumamoto Prefectures), and investigated changes in the extent of implementation and perceptions of measures considered necessary to protect patients’ health between the pre-pandemic and pandemic period. The results showed that the proportions of respondents “sharing patient information between primary care doctors and pharmacy pharmacists” and conducting “follow-up after prescribing medications mainly via telephone” increased between the pre-pandemic period and September 2022. The perceived necessity of the above two measures, as well as “online medication instructions” and “a prescription refill system,” increased during the same period. However, the proportion of respondents who perceived “0410 correspondence,” which was introduced during the pandemic, as a necessity did not change. Moreover, many pharmacists indicated that, at their own discretion, they continued to correspond with patients in relation to the above, and to respond to specific requests during normal daily practice. Our results could help community-based pharmacists tackle serious public health problems, such as COVID-19.
2019年12月,severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV2)による新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)が,中国の武漢市で確認された.その後,世界各国での急速な感染拡大により,世界保健機関(WHO)によって2020年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」が宣言され,同年3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明されている.1)
日本の場合,2020年1月14日に神奈川県内の医療機関でCOVID-19の最初の発生が報告されているが,2)日本政府は感染拡大を抑制する目的で,2023年1月の時点で計3度の緊急事態宣言を発出している.3,4)この緊急事態宣言は,日本国民の働き方や就業環境に大きな影響を与え,テレワークや在宅勤務等に従事する労働者が大幅に増加した.特に全国一律に発出された第1回緊急事態宣言(2020年4月7日–5月25日)発出前と発出後を比較した場合,働き方としてテレワークを実施していると回答した割合が2倍以上に増加した.一方で,対象地域を限定した第2回以降の緊急事態宣言では,対象宣言地域であっても第1回目のような大幅なテレワークの増加は認められず,緊急事態宣言に対する国民の意識の変化も指摘されている.5)
COVID-19感染とそれに伴う緊急事態宣言を中心とした人流の抑制は,国民の病院,診療所等への受診にも影響を与えた.日本医師会の調査では,診療所の外来と在宅医療の総件数の減少が報告されているが,6)このような受診控えによる影響は,その近隣に位置する薬局にも認められた.日本薬剤師会の調査によれば,保険薬局の処方箋受付回数が2020年2月から5月にかけて大幅に減少したことが報告されており,6月から10月にかけて回復傾向はみられたものの,11月以降再び減少に転じ,12月及び2021年1月は減少で推移した.7)この傾向は地方でも同様で,日本薬剤師会の医薬分業進捗状況(保険調剤の動向)から得られたCOVID-19流行拡大後から2023年2月までの鹿児島県及び熊本県における処方箋受付回数の推移は,全国平均と比較して一致した傾向を示している.8)また,COVID-19新規陽性者数の推移も,全国平均と鹿児島県及び熊本県で同様の傾向を示していた.9)
このような社会情勢に対応するため,厚生労働省医政局医事課,厚生労働省医薬・生活衛生局総務課は,2020年4月10日に「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱い」(以下,0410対応)の事務連絡を行った.10)これは,「新型コロナウイルス感染症が急激に拡大している状況の中で,院内感染を含む感染防止のため,非常時の対応としてオンライン・電話による診療やオンライン・電話による服薬指導について,希望する患者に活用できるよう制度を見直し,できる限り早期に実施する.」とされた「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を踏まえ,医療機関,薬局等に周知されたものである.この0410対応に基づいた診療により,患者は直接病院や診療所を受診する必要がなくなり,薬局も電話やオンラインによる服薬指導を行い,処方薬の自宅への配送等が可能となった.一方で配送費の負担,薬代金の精算,また医療機関及び薬局と頻繁な電話,オンラインによる連絡が必要となるなど課題も多い.11)また対面での服薬指導の方が,患者は薬剤師との距離感を近く感じることが報告されており,12)この点が損なわれることが懸念される.
そのほか,入院治療の必要がない軽症者等の新型コロナウイルス感染症患者は,自宅療養又は宿泊施設等での療養とされ,医師が電話や情報通信機器を用いて診療を行い,必要な薬剤を処方することも可能となった.その際,医師は,自宅療養又は宿泊療養する軽症者等に対する処方であることがわかるよう,処方箋の備考欄に「CoV自宅」又は「CoV宿泊」と記載する必要がある.10) 0410対応等に基づいた処方箋の発行は徐々に増加しており,2020年4月24日の時点で全医療機関のうち,電話や情報通信機器を用いた診療を行うことが可能な医療機関は9.7%(10812件)であったが,2021年4月末には15.2%(16843件)と増加した.13)さらに改正薬機法や診療報酬改定に伴い,COVID-19流行期間中の2020年9月1日に服薬フォローの義務化,14) 2022年4月1日にはリフィル処方箋が導入された.15)これらの導入は,かかりつけ医を始めとした医療機関等との連携強化や2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局に再編することを意図したものであり,16) COVID-19流行に関係なく従来から導入が予定されていた施策である.
一方でこれらの施策はCOVID-19による患者の受診抑制対策や,患者の健康面での不利益を避けることが可能な手段にもなり得る.そのため,これらの施策も含めたCOVID-19流行下での様々な医療提供体制に対し,薬局薬剤師がどのような認識を有し,実践していたのか検証することは,今後の医療提供体制を考えるうえで重要である.しかしながら薬局薬剤師がどの程度それらの必要性を認識し,また実践していたのかという点についての報告はなく,その必要性の認識度や実践度がCOVID-19流行前後でどのように変化しているのかについても不明である.
そこでわれわれは,主に鹿児島県や熊本県で勤務する薬局薬剤師を対象に,患者の健康面での不利益を避けるために重要と考えられる,「かかりつけ医との患者情報の共有」,「服薬フォロー」,「オンライン服薬指導」,「0410対応(CoV自宅,CoV宿泊を含む)」,「リフィル処方箋」についてアンケート調査を行い,COVID-19流行前後でその実践度や必要性の認識の変化を調査した.さらにこれらの項目に対する今後の対応についても,その意向を調査した.本研究は,これらの調査結果を通し,将来起こり得る新興感染症のパンデミックを想定した医療提供体制に関して示唆を得ることを目的とした.
主に株式会社ツール・ド・メディケーション(鹿児島県)及び株式会社ハートフェルト(熊本県)が運営する薬局に勤務する薬局薬剤師を中心とした161名に対し,Google Formsを利用した無記名方式のWebアンケート調査を行った.調査対象の薬局に対する除外基準は設定しなかった.調査期間は2022年10月で,各々の薬局薬剤師に自身の過去を振り返ってもらう形式でアンケート調査を行った.
2. アンケートの作成COVID-19流行前後での変化を検証するために,COVID-19流行前,2020年4月から5月の第1回緊急事態宣言中及び2022年9月の3時点を振り返りの時期として設定した.アンケート調査の具体的な質問項目は,アメリカ疾病予防管理センター17)や海外の薬剤師会18,19)が,COVID-19流行下での薬局対応として作成したガイダンスや日本の薬局等で推奨している「かかりつけ医との患者情報の共有」,16)「電話を中心とした服薬フォロー」,20)「オンライン服薬指導」17,18,21)について尋ねた.これらの質問項目は,海外で同様に行われているアンケート調査も参考にした.22)さらに「0410対応」10)と「リフィル処方箋」23)についても質問項目を作成し,それぞれの質問項目に対して必要性と実践度を尋ねた.ただし,「オンライン服薬指導」と「リフィル処方箋」の実践度は,日本の薬局において実践可能となった2022年9月のみとし,「0410対応」の必要性及び実践度についても,第1回緊急事態宣言中及び2022年9月のみとした.なお,この「0410対応」には,CoV自宅又はCoV宿泊を含む形式でアンケート調査を行った.
この必要性及び実践度を尋ねる回答選択肢として,5段階の回答選択肢を提示した.必要性を尋ねる5つの回答選択肢は,“ほとんど必要だとは感じていない (感じていなかった)”,“あまり必要性を感じていない (感じていなかった)”,“何とも言えない”,“ある程度,必要性を感じている (感じていた)”,“必要性を感じている (感じていた)”と設定した.実践度を尋ねる5つの回答選択肢の場合,“ほとんど実践していない (実践していなかった)”,“あまり実践していない (実践していなかった)”,“何とも言えない”,“ある程度実践している (実践していた)”,“実践している (実践していた)”とした.
その他の質問項目として,年齢,性別,薬剤師経験年数,勤務地が鹿児島県内,熊本県内,あるいはそれ以外の都道府県か尋ねる質問項目も設けた.
最後に「かかりつけ医との患者情報の共有」,「電話を中心とした服薬フォロー」,「オンライン服薬指導」,「0410対応」,「リフィル処方箋」の5項目に関する今後の対応として,“何もしない”,“緊急事態宣言が発出された段階で検討を行う”,“まん延防止等重点措置が発出された段階で検討を行う”,“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”,“日常的に,その必要性を薬剤師が判断し,検討を行う”の5つの回答選択肢を提示し,その意向を調査した.実際にWebアンケート調査で用いたアンケート質問項目をSupplementary materialsとして提示する(Supplementary material Fig. 1).これらのアンケート質問項目の作成は,薬剤師1名と医師1名の下で原案を作成し,原案を更に別の薬剤師1名と医師1名が確認したうえで,4名で議論を行い,アンケートを完成させた.
3. 倫理的事項アンケートの冒頭,本研究の目的や無記名でのアンケート調査であることを明示し,アンケートへの参加の是非について同意の有無を確認する項目を設定した.同意の許諾が得られなかった場合,その時点でアンケート調査が終了する設定を行い,回答者が具体的な質問に回答する必要がないように配慮した.
本研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,崇城大学薬学部生命倫理委員会の承認を得て行った(承認番号2022-1).
4. 統計学的解析アンケート調査結果は,調査対象薬局薬剤師の属性(年齢,性別,薬剤師免許取得後の年数,勤務場所)について,簡潔にまとめた.また質問項目について,バルーンプロットを用いて時点毎に図示を行い,COVID-19流行前,緊急事態宣言中,2022年9月の3時点の経時的な変化について,必要時にJonckheere Terpstra検定を行った.ただし,実践度の場合,個々の薬剤師によって判断が異なる可能性があることから,“ほとんど実践していない (実践していなかった)”と“あまり実践していない (実践していなかった)”を,また,“ある程度実践している (実践していた)”と“実践している (実践していた)”をそれぞれ統一し,3段階評価としたうえで解析を行った.これらの検定統計解析はR(version 4.0.3)を用いて行い,p value <0.05を有意とした.
Webでのアンケート調査を行い,161名に調査依頼を行ったところ,104名から回答が得られた(回収率64.6%).回答した薬局勤務薬剤師は,鹿児島県内勤務者41名,熊本県内勤務者42名,その他の都道府県勤務者21名だった.性別は男性53名,女性51名で,年齢構成は20歳代12名,30歳代48名,40歳代25名,50歳代8名,60歳代11名,薬剤師免許取得後の経験年数は5年未満10名,10年未満28名,10年以上35名,20年以上20名,30年以上6名,40年以上5名であった.
2. 必要性と実践度「かかりつけ医との患者情報の共有」を実践している(実践していた)と回答した薬剤師の割合は,COVID-19流行前(ある程度実践あるいは実践51.9%),緊急事態宣言期間中(ある程度実践あるいは実践54.8%),2022年9月(ある程度実践あるいは実践63.5%)で,実践割合の経時的な増加傾向が確認された(p=0.06)[Fig. 1(A)].その必要性に関する認識についてもCOVID-19流行前(ある程度必要51.9%,必要33.7%),緊急事態宣言期間中(ある程度必要46.2%,必要34.6%),2022年9月(ある程度必要41.3%,必要49.0%)と,増加傾向が確認された(p=0.05)[Fig. 1(B)].
Balloon sizes reflect respondent proportions. Proportions are rounded to the second decimal place and displayed to the first decimal place.
2020年9月に義務化された「電話を中心とした服薬フォロー」を実践している(実践していた)と回答した薬剤師の割合は,COVID-19流行前(ある程度実践あるいは実践21.2%),緊急事態宣言期間中(ある程度実践あるいは実践43.3%),義務化後の2022年9月(ある程度実践あるいは実践39.4%)であり,COVID-19流行前後で実践割合が増加していた(p=0.007)[Fig. 2(A)].また,その必要性に関する認識については,COVID-19流行前(ある程度必要47.1%,必要6.7%),緊急事態宣言期間中(ある程度必要46.2%,必要15.4%),2022年9月(ある程度必要57.7%,必要20.2%)と経時的な増加傾向が確認された(p<0.001)[Fig. 2(B)].
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われわれはオンライン服薬指導や0410対応の実践度についても調査を行った.2022年9月の時点でオンライン服薬指導を実践している(ある程度実践あるいは実践)と回答した薬剤師は,10.6%であった[Fig. 3(A)].薬局薬剤師が考えるその必要性については,COVID-19流行前の時点(ある程度必要28.8%,必要3.8%),緊急事態宣言中の時点(ある程度必要40.4%,必要16.3%),2022年9月(ある程度必要45.2%,必要25.0%)と経時的な増加傾向が確認された(p<0.001)[Fig. 3(B)].一方,0410対応の場合,実践している(実践していた)と回答した薬局薬剤師は,緊急事態宣言期間中(ある程度実践あるいは実践59.6%),2022年9月(ある程度実践あるいは実践63.5%)と大きな増減はなく(p=0.66)[Fig. 4(A)],その必要性に対する認識も変化を認めなかった(緊急事態宣言期間中(ある程度必要48.1%,必要30.8%),2022年9月(ある程度必要51.9%,必要29.8%)(p=0.82)[Fig. 4(B)].
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さらに,「リフィル処方箋」の2022年9月時点での実践度も調査した.その結果,実践している(ある程度実践あるいは実践)と回答した薬局薬剤師が14.4%であった[Fig. 5(A)].また,その必要性についても認識を調査したところ,COVID-19流行前(ある程度必要19.2%,必要4.8%),緊急事態宣言期間中(ある程度必要21.2%,必要8.7%),2022年9月(ある程度必要28.8.%,必要9.6%)と経時的に増加する傾向を示した(p=0.06)[Fig. 5(B)].
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最後にわれわれは,「かかりつけ医との患者情報の共有」,「電話を中心とした服薬フォロー」,「オンライン服薬指導」,「0410対応」及び「リフィル処方箋」の5項目について,今後どのような状況で対応を検討すると考えているか,薬局薬剤師の意向を調査した(Fig. 6).回答選択肢は,“何もしない”,“緊急事態宣言が発出された段階で検討を行う”,“まん延防止等重点措置が発出された段階で検討を行う”,“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”及び“日常的に,必要性を薬剤師が判断し,検討を行う”の5つとした.
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その結果,「かかりつけ医との患者情報の共有」は,COVID-19など感染症の流行に関係なく,63.5%が“日常的に必要性を薬剤師が検討”と回答した.「電話を中心とした服薬フォロー」は,“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”と回答した割合が45.2%,“日常的に,必要性を薬剤師が判断し,検討を行う”と回答した割合が45.2%であった.「オンライン服薬指導」は,18.3%が“日常的に,必要性を薬剤師が判断し,検討を行う”と回答したが,“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”と回答した薬剤師が52.9%で最も高かった.「0410対応」に関する回答割合は,“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”が59.6%と高く,“日常的に,必要性を薬剤師が判断し,検討を行う”も18.3%と一定数の割合で認められた.最後に「リフィル処方箋」については,“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”及び“日常的に,必要性を薬剤師が判断し,検討を行う”と回答した割合がそれぞれ45.2%,13.5%と高かったが,その一方で,30.8%が“何もしない”と回答しており,他の項目とやや異なっていた.
本研究では,将来起こり得る新興感染症のパンデミックを想定した医療提供体制において,薬局薬剤師が対応可能な手段5項目を設定し,それぞれの必要性と実践度について,薬局薬剤師にアンケート調査を行った.
「かかりつけ医との患者情報の共有」では,ある程度を含み必要性を感じている(感じていた)薬局薬剤師がCOVID-19流行前85.6%から,2022年9月には90.3%へ増加していた[Fig. 1(B)].また実践度でも,ある程度実践あるいは実践している(実践していた)と回答した薬局薬剤師はCOVID-19流行前51.9%から2022年9月には63.5%へ増加していた[Fig. 1(A)].海外での報告でもCOVID-19への対応に関し,薬剤師と他の医療職との連携が強まったことが報告されている.24)これらのことからわれわれの調査結果においても,多くの薬剤師が従来からかかりつけ医との連携を認識及び実践していたことに加え,COVID-19流行を通して,よりかかりつけ医との連携の重要性を認識したことが示唆された.
「電話を中心とした服薬フォロー」は,義務化された2020年9月以降,ある程度を含み必要性を感じている(感じていた)薬剤師が77.9%と大幅に増えていた[Fig. 2(B)].これは処方日数が徐々に長期化され,薬局で投薬後,服薬状況,保管状況,副作用の発現の有無などの確認が重要視されてきたことに起因する.しかし,その実践度は2022年9月現在,ある程度実践あるいは実践していると回答した薬局薬剤師が39.4%と半数も超えていない[Fig. 2(A)].COVID-19は発症から10日前後で急激に悪化する例も報告されており,25)投薬後の服薬フォローは患者状態を把握するために重要な手段となる.近年では電話ではなくSMSやLINE, AIを用いた自動送信機能等による服薬フォローを行うことも可能になっているため,20,26)これらの手段も積極的に併用することで,実践度を高めることが求められる.
2020年9月の運用開始に先立ち,2020年4月の0410対応開始時点から実質解禁となった「オンライン服薬指導」は,COVID-19感染等のリスクが減り,COVID-19拡散の危険性もないメリットが報告されている.27)今回の調査における「オンライン服薬指導」の実践度は,2022年9月の段階で,ある程度実践あるいは実践していると回答した薬局薬剤師は10.6%にとどまった[Fig. 3(A)].ある程度を含み必要性を感じている(感じていた)薬局薬剤師はCOVID-19流行前から徐々に増えて,2022年9月で70.2%に達しており[Fig. 3(B)],必要性と実践度に大きな乖離がみられた.今回の結果と同じく,海外のアンケート調査においてもオンライン服薬指導は98%を超える回答者が肯定的な認識を示したのに対し,その利用実績は20.2%にとどまっている.22)この理由として,対応する薬剤師の資質や薬局の機器環境がまだ整っていないことが報告されており,28)オンライン服薬指導の普及は世界共通の課題である.
「0410対応」は,必要性及び実践度ともに緊急事態宣言中,2022年9月の段階において大きな変化がなかったが,これはいずれでの時点でも多くの薬局薬剤師が0410対応の処方箋を調剤し,必要性を感じている(感じていた)と回答した結果であると考えられた[Figs. 4(A) and (B)].2020年2月以降,COVID-19流行が定期的に起こり,医療機関,診療科を問わず0410対応の処方箋を発行していることが,この結果の要因であると考えられる.そのため「0410対応」は,今後新興感染症のパンデミックが起こった際にも,有効な手段となり得ることが示唆される.
2022年4月の診療報酬改定で導入された「リフィル処方箋」は,アメリカで1951年,イギリスで2002年及びフランスで2004年から導入されていたが,29)今回の調査で,COVID-19流行前及び制度導入前から日本の薬局薬剤師はその必要性を感じていた.また,その必要性もCOVID-19流行前の24.0%から2022年9月時点で38.4%へ増加していた[Fig. 5(B)].しかしながら,ある程度実践あるいは実践していると回答した薬局薬剤師は14.4%にとどまっていた[Fig. 5(A)].日本保険薬局協会の調査によると,2022年10月単月では26%の薬局でリフィル処方箋を応需しているが,その半数以上は1回のみの応需であり,4回以上応需している薬局は10.8%と,30)今回の研究結果と同程度である.2022年度に開始したリフィル処方箋は,患者の通院負担軽減や薬局薬剤師介入による残薬対策,医療費削減などを目的とした制度であり,15,23) COVID-19流行に関係なく従来から導入が予定されていた制度である.しかしながら,この制度が積極的に運用された場合,患者の通院負担が減少するため,結果としてCOVID-19のような新興感染症のパンデミック時における感染リスク軽減につながる可能性がある.そのため,感染症対策という観点からも,リフィル処方箋の積極的な社会的周知が望まれる.
2. COVID-19など感染症流行時における薬局薬剤師の今後の対応COVID-19流行第7波のピークを過ぎた2022年9月時点で,今後COVID-19並びに他の新興感染症が流行した際の薬局薬剤師の対応について意向を確認した.その結果,「かかりつけ医との患者情報の共有」は63.5%の薬局薬剤師が,“日常的に,必要性を薬剤師が判断し,検討を行う”と回答した(Fig. 6).これは前述の「かかりつけ医との患者情報の共有」の実践度の割合63.5%と一致しており[Fig. 1(A)],薬局薬剤師が服薬情報提供書やお薬手帳などを活用し,普段からかかりつけ医と連携を取っていることを示唆する結果である.「電話を中心とした服薬フォロー」は,“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”と“日常的に,必要性を薬剤師が判断し,検討を行う”と回答した割合が45.2%と同程度であった(Fig. 6).義務化されたことによる服薬フォローへの薬局薬剤師の意識向上に加え,かかりつけ薬剤師制度や地域支援体制加算により24時間対応を行っている薬局が多く,日常的に患者から疑問,質問に電話等で対応していると考えられる.「オンライン服薬指導」及び「0410対応」は,半数以上の薬局薬剤師が“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”と回答した(Fig. 6).これは患者の有効時間の活用やCOVID-19感染防止のための対応に主眼を置いているためと考えられるが,今後は薬局薬剤師側からも家庭における残薬,薬の保管状況の把握及び在宅患者の臨時薬対応の提案として,積極的に利用を促すことが必要である.「リフィル処方箋」に関しても,“日常的に,患者の要望に応じて,検討を行う”が最も多く45.2%であったが,他の手段と異なり”何もしない”が30.8%と多く,特徴的であった(Fig. 6).アンケート調査を行った時点でリフィル処方箋の運用開始後約6ヶ月経過していたが,ほとんどあるいはあまり実践していないと回答した薬局薬剤師が74.0%と多く[Fig. 5(A)],あくまで医師指示や患者希望で,リフィル処方箋が発行されると考えている.しかしながら前述のように,リフィル処方箋は医療費削減,薬剤師による積極的な薬剤管理,副作用対策31)及び通院機会の減少によるCOVID-19など感染防止対策など,患者のメリットになることが多い.そのため,医薬連携のより一層の強化や患者への声かけ等を通し,リフィル処方箋の推進を図ることが薬局薬剤師の今後の重要な仕事の一つとなり得る.
3. 本研究の制限本研究にはいくつかの研究の制限が存在する.第一に薬局薬剤師を対象として行ったアンケート調査の対象者数に制限があった点である.2023年1月現在,鹿児島県875店舗,熊本県871店舗の保険薬局が存在しており,今回の調査対象店舗とは異なる店舗に所属する薬局薬剤師の中には,オンライン服薬指導やリフィル処方箋等を積極的に活用している薬剤師が存在する可能性がある.
第二にアンケート調査は2022年10月に行い,過去を振り返る形式で調査を行っているため,調査結果が思い出しバイアスの影響を受けている点である.そのため,COVID-19流行前や緊急事態宣言中のようなアンケート調査期間から遠い時期の記憶について回答者の記憶が不鮮明となり,回答結果の正確性に影響を与えた可能性がある.その結果,回答者がこの時期の回答として,自身が社会的に好意的に捉えられる“ある程度,必要性を感じていた”や“必要性を感じていた”,“ある程度実践していた”,“実践していた”を選択した可能性は否定できない.しかしながら思い出しバイアスが2022年9月時点での薬剤師回答に影響を与えた可能性は低いため,COVID-19流行前後で必要性や実践度の認識が増加したことは間違いない結果だと考えられる.
第三の制限として,調査した薬局の状況について,実態を把握する詳細な調査を行わなかった点がある.例えば0410対応における麻薬及び向精神薬の処方や,抗悪性腫瘍剤,免疫抑制剤等の処方には一定の条件があることから,10)これらの薬剤が記載されている処方箋を応需する機会が多い薬局とそれ以外の薬局では,0410対応数にばらつきが生じている可能性がある.また,処方箋を応需する主な診療科の違いによっても0410対応数が異なるかもしれない.さらに薬局の立地や感染症対策が可能な構造32)であるかなどの薬局側の要因も関係する可能性がある.このような詳細な調査を行えば調査薬局全体での傾向に加え,状況の似た薬局毎に細分化した解析も可能であるが,その一方で条件設定が複雑となり,解析が恣意的になるかもしれない.そのため本研究では調査薬局全体での傾向を確認することを優先し,このような項目を尋ねる調査は行わなかった.今後,今回の結果を踏まえて0410対応を含めた詳細な条件設定を行い,調査研究を続けていく予定である.
第四の制限として本研究は,主に鹿児島県と熊本県を対象とした研究であるため,本研究結果が全国の薬局薬剤師の状況として一般化できるとは限らない点が挙げられる.しかしながら,われわれのアンケート調査結果では鹿児島県と熊本県の間で薬局薬剤師の地域差を認めず,またCOVID-19新規陽性者数及び処方箋受付回数の推移は全国平均と両県において同様の傾向を示した.このことから,全国においても今回の調査結果と同様の状況である可能性が考えられる.
薬局薬剤師は地域医療の担い手として,平時に加え緊急事態宣言などの自粛要請期間においても,患者の不利益にならないように,適切な医療提供体制を構築することが求められる.今回の研究結果から,現状で薬局薬剤師が行えるいくつかの対応手段について,その必要性及び実践度の実態把握をすることができた.おりしも薬局において対物業務から対人業務への転換を図られている中,各質問項目における薬局薬剤師が考える必要性や実践度は,COVID-19流行前後で経時的に高まってきていた.一方で,オンライン服薬指導やリフィル処方箋を扱ったことがある薬局薬剤師はまだまだ少なく,必要性と実践度に乖離がみられた.この乖離を埋めるためには,これまで以上にかかりつけ医との連携や患者とのコミュニケーションを重視し信頼を得る必要があることに加え,ホームページ等を利用した積極的な情報発信も重要であり,薬局薬剤師の行動力が試されている.
COVID-19流行が継続している中で,薬局薬剤師の現状把握を行った本研究の結果は,薬局薬剤師の地域における将来起こり得る新興感染症のパンデミックを想定した医療提供体制の構築を考えるうえで,一助となる可能性がある.
本研究遂行に当たり,有益なご助言及び調査にご協力頂きました株式会社ツール・ド・メディケーション及び株式会社ハートフェルト各薬剤師に深く感謝申し上げます.本研究の立案及び調整にご協力頂きました株式会社ツール・ド・メディケーション代表取締役 原口憲顕氏に深く感謝申し上げます.
乘越 悠,松永右司は株式会社ツール・ド・メディケーション取締役,稲葉一郎は株式会社ハートフェルト代表取締役,永田芳郎は株式会社ツール・ド・メディケーション代表取締役である.
この論文のオンラインにSupplementary materials(電子付録)を含んでいる.