YAKUGAKU ZASSHI
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受賞総説
脳の病変診断を目指した新規COX-2イメージング剤開発に関する研究
山本 由美
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2023 年 143 巻 12 号 p. 983-987

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Summary

Cyclooxygenase-2 (COX-2) has attracted attention as a biomarker for neurodegenerative brain diseases. The aim of this study was to develop a COX-2 imaging agent for positron emission tomography (PET) that binds to and emits radiation from COX-2 in the central nervous system to diagnose brain lesions related to COX-2. To this end, the development of PET imaging probes by derivatizing non-steroidal anti-inflammatory drugs that bind to COX-2 was investigated. Herein, we present the findings of a series of studies on indomethacin and nimesulide derivatives. All five 11C-labeled indomethacin derivatives showed low brain uptake and were rapidly metabolized in vivo, indicating that they are inadequate COX-2 imaging agents. However, the evaluation of 11C-labeled indomethacin derivatives revealed an inverse relationship between the amount taken up by the brain and the lipophilicity of the compound, and that P-glycoprotein (P-gp) may be responsible for the low brain uptake of 11C-labeled indomethacin derivatives. To overcome the problems associated with 11C-labeled indomethacin derivatives, nimesulide was selected as a novel COX-2 imaging agent. Although the nimesulide derivatives were less lipophilic and unaffected by P-gp, all three 11C-labeled nimesulide derivatives showed low brain uptake and were rapidly metabolized. However, the 11C-labeled nimesulide derivatives were partially useful as brain-targeted COX-2 imaging agents because they bound specifically to COX-2 in the brain of mice and successfully imaged the regional brain distribution associated with COX-2. In the development of COX-2 imaging agents, in vivo stability of the compounds is a future objective.

1. はじめに

シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase: COX)は,アラキドン酸からプロスタグランジン類を産生する酵素である.COXには2つのアイソザイムがあり,COX-1とCOX-2とに大別される.このうちCOX-2は炎症により誘導されるだけでなく,脳に構成的に発現し,パーキンソン病やアルツハイマー病等の神経変性性疾患との関与が示唆されている.13

各種病態におけるCOX-2の働きを解明するために,生体内のCOX-2分布を時間的・空間的かつ定量的にトレース可能なpositron emission tomography(PET)やsingle-photon emission computed tomographyに適用するCOX-2イメージング剤の研究開発が国内外で進められてきた.46 2018年に報告された[11C]MC1という化合物が,世界初のCOX-2イメージング剤の成功例になり得るとして,ヒトを対象とした臨床研究が進められている状況ではあるものの,いまだ顕著な成功例はない.7,8

筆者は現在,脳におけるCOX-2由来の病変を診断可能な,新規COX-2イメージング剤の開発を目的として,COX-2に結合する非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drug: NSAID)を基本骨格とした誘導体を合成し,評価を続けている.9このうち,インドメタシン,及びニメスリドを母体骨格とした新規COX-2イメージング剤開発に関する研究内容をここに紹介する.

2. インドメタシンを母体骨格とした新規COX-2イメージング剤開発

インドメタシンは,COX-2選択性の低いNSAID(IC50 for COX-1=0.79 µM, IC50 for COX-2=11.8 µM)として知られているが,そのカルボキシ基に側鎖を導入することでCOX-2に対する親和性及び選択性が向上するという報告がある.1012そこで筆者は,様々な側鎖を有する6つのインドメタシン誘導体を設計,合成し,評価を行った(Fig. 1).13

Fig. 1. Chemical Structures of Indomethacin and Its Analogs

IC50 for COX-2 data derived from Ref. 13.

合成した6つの化合物のうち,カルバメート結合を有する化合物4を除くすべての化合物にCOX-2選択的阻害活性があることが明らかとなった.さらに炭素鎖が5のアミド化合物3及び炭素鎖が8のアミド化合物2は,COX-2選択的阻害薬として臨床使用されるセレコキシブに比べ,COX-2選択的阻害活性が高い結果となった.なお,炭素鎖が5のエステル化合物1はその化学的安定性からCOX-2阻害活性評価を行うことが困難であったが,既報によるとCOX-2に対するIC50は0.05 µMであるという.10

COX-2阻害活性のない化合物4を除く5つのインドメタシン誘導体に関して,各誘導体のインドール環に結合した–OCH3基を11C標識した結果,いずれの11C標識体も十分な量,比放射能,純度にて得ることができた.マウスを用いたin vivo生体内分布評価を行ったところ,各化合物のマウス脳への取り込み量は全体的に少なく,脳を標的とするCOX-2イメージング剤としては不十分な結果であると考えられる(Table 1).しかしながら,投与1分後における脳移行量と化合物の脂溶性(log P7.4)の関係に着目すると,これらの値には逆相関関係(r2=0.90, p=0.01)があることが判明した.Log P7.4値が最小であった[11C]6の投与1分後の脳移行量は1.84% injected dose(ID)/gと最も多く,今回評価を行ったインドメタシン誘導体に関しては,脂溶性が低いほど,投与後早期の脳移行量が多くなるものと考えられる.

Table 1. Summary of Brain and Blood Uptake 1 min after Administration and Lipophilicity of [11C]16a)

Brain uptake (%ID/g)b)Blood uptake (%ID/g)b)Log P7.4
[11C]10.47±0.0910.73±0.943.94
[11C]20.18±0.083.75±0.503.78
[11C]31.06±0.093.50±0.182.40
[11C]51.53±0.092.13±0.092.12
[11C]61.84±0.163.01±0.281.98

a)All data derived from Ref. 13. b)Radioactivity after intravenous injection of [11C]1–6 into mice. Mean±S.D. (n=4)

各種COX-2阻害剤を用いた阻害実験では,最も高いCOX-2選択的阻害活性を示した化合物[11C]3のマウス脳への分布が,セレコキシブ及びNS-398によって有意に阻害されたことから,[11C]3はマウス脳においてCOX-2特異的に結合していることが示唆された.

ここで,11C標識インドメタシン誘導体の生体内における安定性を評価したところ,いずれの11C標識化合物も投与後速やかに代謝されることが明らかとなった.[11C]1の投与30分後のマウス血漿をHPLC分析した結果,未変化体と保持時間が一致するピークは検出されず,単一の極性分子由来のピークのみが検出された.このピークのHPLC保持時間はインドメタシンの保持時間と一致していることから,[11C]1は生体内で加水分解を受けて,インドメタシンへと代謝されているものと推測される.他4化合物に関しては,投与30分後のマウス血漿中に14–32%の未変化体が確認され,放射性の代謝体は[11C]インドメタシンを含め複数検出された.マウス脳では,投与30分後において9–26%が未変化体として検出され,[11C]インドメタシンを含む3つの放射性代謝体の存在が確認された.これら生体内安定性評価の結果から,11C標識インドメタシン誘導体の脳移行量の少なさは,in vivoにおける速やかな代謝が影響しているものと推測される.

Blood–brain barrierには,P糖タンパク質(P-glycoprotein: P-gp)を始めとしたトランスポーターが数多く発現しており,特にP-gpは化合物の脳取り込みにおいて重要な役割を担っていることが知られている.1416今回,11C標識インドメタシンアミド誘導体[11C]2, 3, 5, 6に対するP-gpの寄与を調べるために,P-gp阻害剤であるシクロスポリンAを事前投与したマウスのin vivo生体内分布評価を行った.評価した4化合物すべての挙動にシクロスポリンAの影響が認められ,11C標識インドメタシン誘導体の脳取り込みは,P-gpがなんらかの形で関与しているものと考えられる.

今回評価した5種のインドメタシン誘導体はいずれも,脳への移行量が低く,かつ生体内で速やかに代謝されるという結果が得られたことから,COX-2イメージング剤としては不十分であった.しかしながら,一連のインドメタシン誘導体の評価結果より,A)脳移行量と化合物の脂溶性に逆相関関係が認められ,脂溶性が低いほど脳移行量が高いこと,B)P-gpの寄与により,脳移行量が低かった可能性があること,の2点が推測された.このことから,今後のCOX-2イメージング剤開発において,新たな方向性が示されたといえる.

3. ニメスリドを母体骨格とした新規COX-2イメージング剤開発

ニメスリドは,日本では未認可だが,海外で広く使用されているCOX-2選択的NSAID(IC50 for COX-1>100 µM, IC50 for COX-2=1.92 µM)である.1721分子量は308と比較的小さく,脂溶性もlog P7.4=1.61であり脳移行に適した値であるほか,P-gpの基質ではなく,生体内での安定性も報告されている.2226これらの特徴は,インドメタシン誘導体に関する研究によって明らかになった課題を解決している.そこで筆者は,ニメスリドのベンゼン環部位にメトキシ基あるいはヨウ素を導入した6つの誘導体を設計し合成,評価した(Fig. 2).2729

Fig. 2. Chemical Structures of Nimesulide and Its Analogs

IC50 for COX-2 data derived from Refs. 27 and 28.

合成した6つの化合物のうち,para-位に置換基を有するメトキシ誘導体9及びヨウ素誘導体12にCOX-2選択的阻害活性があることが明らかとなり,この結果は計算科学を用いたシミュレーション結果とも一致した.

ここで,Caco-2細胞を用いたin vitro単層膜輸送実験により,ニメスリド誘導体7–12に対するP-gpの影響を評価した.各化合物のapical及びbasolateral相互の移行の比(efflux ratio)はいずれも1以下の値を示し,P-gpの影響は少ないものと推測される.さらに,P-gpの阻害剤ベラパミル(500 µM)を併用した阻害実験を行った結果,ニメスリド誘導体のうちCOX-2選択的阻害活性を有する9及び12のefflux ratioは,ベラパミル併用時においても有意な変化は認められなかった.Positive controlであるローダミン123(5 µM)のefflux ratioが,ベラパミル併用により17.16から0.71にまで有意に低下したことと比較しても,ニメスリド誘導体はP-gpによる影響を受けないものと考えられる.

次に,合成した6つの化合物のうち,メトキシ基を有する3つの化合物の11C標識合成に成功し,いずれの11C標識体も十分な量,比放射能,純度にて得られたことから,マウスを用いたin vivo生体内分布評価を行った(Table 2).COX-2選択的阻害活性を有するpara-メトキシ誘導体[11C]9のマウス脳への分布は,投与後1分で0.92%ID/gと低く,インドメタシン誘導体の結果と比べても改善は認められず,脂溶性やP-gp以外のなんらかの要素が脳移行を阻んでいるものと示唆された.

Table 2. Summary of Brain and Blood Uptake 1 min after Administration and Lipophilicity of [11C]79

Brain uptake (%ID/g)a)Blood uptake (%ID/g)a)Log P7.4b)
[11C]71.36±0.26.45±1.01.26
[11C]80.92±0.16.16±0.21.65
[11C]90.92±0.15.07±0.41.41

a)Radioactivity after intravenous injection of [11C]7–9 into mice. Mean±S.D. (n=4). b)Log P7.4 data derived from Ref. 27.

マウス頭部のPET撮像を行った結果,いずれの[11C]標識ニメスリドメトキシ誘導体も,投与後すぐに頭部へ移行したのち滞留することなく,速やかにwashoutする様子が認められた.さらに,para-メトキシ誘導体[11C]9in vivoにおける代謝について,マウスを用いて評価した結果,投与15分後の血漿中未変化体は8.6%しか存在せず,脳中の未変化体は2.5%と更に少なく,[11C]9は投与後速やかに代謝されていることが明らかとなった.これらのことから,11C標識ニメスリド誘導体の脳取り込みの低さもまた,11C標識インドメタシン誘導体と同様に,血漿中や脳中で速やかに代謝されたためと考えられる.

その一方で,各種阻害剤を用いた阻害実験の結果,[11C]9のマウス脳への集積は有意に阻害されたほか,ex vivoオートラジオグラフィによって,COX-2が定常的に発現している大脳皮質への局所分布が画像化されている(Fig. 3).このことから,para-メトキシ誘導体[11C]9は,中枢を標的としたCOX-2イメージング剤として有用な挙動を示したといえる.

Fig. 3. Ex vivo Autoradiographic Images (Coronal) of ddY Mice Obtained 15 and 30 min after [11C]9 Administration

Figure data derived from Ref. 29. Reproduced in part with permission from Biol. Pharm. Bull., Vol. 45(1) pp. 94–103 (2022). Copyright 2022 The Pharmaceutical Society of Japan.

11C標識ニメスリドメトキシ誘導体の評価の結果,COX-2選択的阻害活性を有する[11C]9もまた生体内安定性に難があり,脳移行量が少ないことから,COX-2イメージング剤として不十分であった.しかしながら,今回評価した[11C]9がマウス脳のCOX-2を特異的に認識しているその挙動から,生体内安定性の問題が改善されたならば,ニメスリド誘導体は良好なCOX-2イメージング剤になり得るものと期待される.

4. おわりに

インドメタシン誘導体,及びニメスリド誘導体のいずれも,COX-2イメージング剤として開発するにあたって,生体内安定性が大きな課題であることが明らかになった.今後は,生体内安定性の高い新たなニメスリド誘導体を探索するとともに,これまで明らかになったCOX-2イメージング剤として必要な要素を備えた新たな母体骨格を選択し,評価を進めていく予定である.

謝辞

本研究は,九州大学大学院薬学研究院の名誉教授である前田 稔先生のご指導の下で始めたものであり,謹んで感謝の意を表します.さらに,有益なご助言とご指導を賜りました,九州大学大学院薬学研究院の教授である大嶋孝志先生,東北医科薬科大学薬学部の教授である山本文彦先生に心からの感謝を申し上げるとともに,共同研究者としてご支援ご指導頂きました,東京都健康長寿医療センター研究所(旧 東京都老人総合研究所)の石渡喜一先生,豊原 潤先生,多胡哲郎先生に厚く御礼申し上げます.さらに,本研究を行うにあたり,ご支援頂いた東北医科薬科大学薬学部及び東京都健康長寿医療センター研究所の皆様に感謝申し上げます.なお,本研究の一部は科学研究費補助金(24791331, 26861015, 17K10372, 20K08088)の助成により行われたものであり,ここに御礼申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,2022年度日本薬学会東北支部奨励賞の受賞を記念して記述したものである.

REFERENCES
 
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