YAKUGAKU ZASSHI
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一般論文
ウィズコロナ時代の新たな医療に対応できる人材の育成を目指した臨床準備教育におけるオンライン服薬指導実習の試み
河野 奨 加地 弘明毎熊 隆誉吉井 圭佑田坂 祐一出石 恭久北村 佳久名和 秀起島田 憲一中西 徹森 秀治洲崎 悦子塩田 澄子
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2023 年 143 巻 12 号 p. 1047-1056

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Summary

The coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic has considerably affected several social services. The Ministry of Health, Labour, and Welfare has partially revised the Pharmaceuticals and Medical Devices Law and established legislations on permanent online medication instructions. Based on these social needs, the development of human resources to provide online medication instructions is vital. Therefore, we developed a training program for providing online medication instructions in preparatory clinical education. Pharmacy students who had conducted medical interviews with standardized patients participated in the training. Educational outcomes were evaluated using an objective multiple-choice test and free description before and after practical training. The median number of correct answers on objective tests on the legislation on online medication instructions increased significantly. Based on the free description analysis, students were able to comprehend the influence of communication environment on the quality of medication instructions. Based on the results of the direct evaluation using objective testing and indirect evaluation by analyzing the free descriptions, they also acquired the skills necessary for providing online medication instructions. Therefore, this training program can contribute to mastering the provision of online medication instructions.

緒言

2000年代初頭から医療に関連する情報提供,質の向上,効率化,及び安全対策の観点から医療の情報化,デジタル化が進められ,診療録の電子化(電子カルテ),オーダリングシステム,レセプト電算処理シムテム(レセプトコンピュータ)が導入された.2010年台にレセプトが原則電子請求になり,2017年には400床以上を有する病院の電子カルテ普及率が85.4%になった.2020年代には電子化された医療情報を行政や大学,製薬メーカーが公衆衛生活動や学術研究に活用する2次利用が期待されている.そのような状況の中,医療の質向上のために遠隔地にいる専門医による診療支援や在宅において安心できる療養の継続を目的として,2018年度の診療報酬改定でオンライン診療が制度化された.1

2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)の影響を受け,社会のサービスの在り方が大きく変化した.特に人の移動や接触を回避しつつ,社会生活を営むために情報通信技術(information and communication technology: ICT)が大きな役割を果たし,オンライン会議が盛んに行われた.医療や教育も例外でなく,ビデオ会議システムを活用したオンライン診療,オンライン授業が行われ,オンラインで行われるコミュニケーションの利点や課題などの特徴2も明確になってきた.この影響を受けて,厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報機器を用いた診療等の時限的・特例的な取り扱いについて」(令和2年4月10日厚生労働省医政局医事課,医薬・生活衛生局総務課事務連絡)を発出した.その後,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行について(オンライン服薬指導関係)」(薬生発0331第17号 令和4年3月31日厚生労働省医薬・衛生局長通知),「オンライン服薬指導の実施要領について」(薬生発0930第1号 令和4年9月30日厚生労働省医薬・衛生局長通知)が発出され,オンライン服薬指導の法的根拠が整備された.

このように社会情勢が大きく変化するなか,大学においても,変化に対応できる医療人の育成が求められている.その一環として,文部科学省よりウィズコロナ時代の新たな医療に対応できる医療人材3すなわち,これまでの薬物療法の実践的な能力に加えて,デジタルトランスフォーメーション(digital transformation: DX)等の手法を活用することにより従来の実習では獲得できなかった能力を修得した人材の育成が求められている.COVID-19以前から実施が可能であったオンライン診療は,関連する報告例はいくつか存在するが,4,5薬剤師によるオンライン服薬指導に関連する研究例はまだ少なく,薬学部学生を対象とした教育についてはほとんどない.そこで,本研究では,オンライン服薬指導で必要となる法的な根拠や配慮を理解し,オンラインと対面それぞれのコミュニケーションの違いを意識したうえで,適切にオンライン服薬指導を実践できるようになることを目的とし,オンライン服薬指導実習のプログラムを構築し,そのアウトカムについて評価した.

方法

1. 調査対象

就実大学薬学部(以下,本学)4年次生71名に臨床準備教育の一環として,薬学共用試験実施前の4年次後期の実務実習事前学習において3日間の日程でオンライン服薬指導実習プログラム(以下,本プログラム)を行った.対象者は3年次に標準模擬患者(standardized patient: SP)と医療面接のロールプレイを経験し,4年次前期にSPに対して一般用医薬品の患者対応を経験した学生である.

2. オンライン服薬指導実習で用いた機材と人的資源

カメラ付きノートパソコン(ASUS Expert Book B1400C, CPU: Intel CORE i5,メモリ:8 G, ASUSTeK Computer Inc., Taipei),タブレット端末(Lenovo Tab K10,レノボ・ジャパン合同会社,東京),電子血圧計(NBP-1BLE, Bluetooth®無線通信対応),非接触式体温計(NT-100B, Bluetooth®無線通信対応),パルスオキシメーター(マイティサットマルチN, Bluetooth®無線通信対応),オンライン服薬指導用アプリケーションとしてニプロハートライン™(以上,ニプロ株式会社,大阪)を用いた.ネットワーク環境は学内Wi-Fiを用いて実施した.人的資源は本学教員のほか,機材トラブルに対応するためにニプロ株式会社より協力を得て実施した(以下,本学教員とニプロ株式会社の協力者を合わせてファシリテータとする).

3. オンライン服薬指導実習プログラム

本プログラムの概要をFig. 1に示す.1日目はオンライン服薬指導に関する社会的な背景・根拠・配慮に関するプレテストを実施したのちに,修得すべきオンライン服薬指導に関連した社会的背景や法的根拠について講義を実施した.また,学生のオンライン服薬指導に対する理解度の向上を促すことを目的として,大学の講義室と就実大学薬学部附属薬局(しゅうじつ薬局)をネットワークで結び,しゅうじつ薬局の薬剤師(薬剤師役:しゅうじつ薬局)と本学教員(患者役:大学の講義室)によるオンライン服薬指導のロールプレイを実施した.その後,ニプロハートライン™の使用方法を説明したのち,2日目のロールプレイで用いるシナリオ及び場面設定について説明した.オンライン服薬指導の場面は「糖尿病又は高血圧患者の初回診察3週間後のフォローアップの場面(場面1)」,「2回目の診察直後薬剤交付時の服薬指導の場面(場面2)」の2場面を設定した.なお,1日目終了時に学生に対して,本シナリオにおいて薬物療法を適切に実施するために必要な処方薬の効果判定や副作用モニターに関する情報とその収集方法について各自事前調査するように指示した.

Fig. 1. Schedule of Online Medication Instructions Practice

2日目は学生を6–8名/グループに分け,さらに,各グループを場面1で薬剤師役を行うAチームと患者役を行うBチームに分け,他のチームの話し声,マイクのハウリング防止,服薬指導の適切な実施場所の再現を目的に,それぞれのチームを別々の小教室(定員10名)に分け,1チーム1部屋とした.まず,事前調査内容の共有を目的としたスモールグループディスカッション(small group discussion: SGD)を実施した.SGDでは,薬剤師チームにはハートライン™の使用法や血圧や血糖値などデータの活用方法,薬剤情報提供書の共有方法などについて指導し,オンライン環境下における患者情報の収集方法について話し合うよう指示した.一方,患者チームには患者背景(性格や治療に関する思い,食事や嗜好品などの生活習慣)について記載したシートを配布し,オンライン服薬指導の場面までの物語を作成するよう指示した.両チームの準備が整ったことを確認したうえでロールプレイを実施した.

オンライン服薬指導のロールプレイでは,薬剤師役はニプロハートライン™をインストールしたカメラ付きノートパソコンを,患者役はニプロハートライン™をインストールしたタブレット端末を用い,両チームの端末を学内Wi-Fi環境下で紐付けて実施した(Fig. 2).なお,ハートライン™にあらかじめ保存されている血圧や血糖値などの臨床検査データや薬剤情報提供書は画面共有をしながら必要な服薬指導を行い,その場で必要となった検査データはBluetooth®無線通信対応医療機器(血圧計,パルスオキシメーター,非接触式体温計)を用いて,薬剤師役の指示の下患者役がその場で測定し,患者役が測定データをニプロハートライン™に転送して共有した.

Fig. 2. Overview of Online Medication Instructions Practice

場面1のロールプレイが終了後,得られた患者情報を基に医師への情報提供書などのプロダクト作成を行った.その後,場面2のロールプレイに向け,オンライン服薬指導のプロダクトを部屋に残したままAチームの学生とBチームの学生の部屋を入れ替えて,役割の交換を行った.場面2の実施前に,各チームは部屋に残されたプロダクトを確認し,患者情報の引き継ぎを行うSGDを行った後に,場面2のロールプレイを実施した.2日目の最後には当日の振り返りとして,オンライン服薬指導のメリットとデメリットを題材としてSGDを行った.

3日目はプログラム全体の振り返りとして,2日目に行ったオンライン服薬指導のメリットとデメリットの自由記述内容について履修者全体で共有し,本プログラムの理解度を測定するためにポストテストを実施した.

4. 調査内容

本プログラムの学習効果を評価するため,1日目の初めにプレテストを実施した.2日目には,その日のプログラムが終了した後で,オンライン服薬指導のメリット及びデメリットについて自由記述で尋ねた.3日目にプレテストと同様の内容でポストテストを実施した.

プレ,ポストテストはオンライン服薬指導に関する社会的な背景・根拠・配慮に関して全11問(Table 1)について「当てはまる」「どちらとも言えない」「当てはまらない」の3件法で尋ねた.テストは,設問6を除く10問が「当てはまる」が正答となり,設問6が「当てはまらない」が正答なるように作成した.本プログラムの学修効果はテストの正答数及び各設問の解析対象者を分母とする正解者数の割合を正答率としてプレ,ポストテストで比較して行った.そのほかに,自由記述として「オンライン指導時及び投薬後のフォローアップ時に必要になると考えているもの」について尋ねた.

Table 1. Changes in Comprehension of the Legislation on Online Medication Instructions

No.Pre-testPost-testp Value
1初回からオンライン服薬指導を行うことができる.0.090.45<0.001a)
Online medication instructions can be provided from the start.
2映像及び音声による対応が必要である.0.900.960.683
Online medication instructions require video and audio support.
3かかりつけ薬剤師が行うことが望まれている.0.650.99<0.001a)
Online medication instructions are best provided by family pharmacists.
4診療の種類にかかわらず処方箋に基づく調剤が行われていれば,オンライン服薬指導が可能である.0.350.580.002a)
Regardless of the type of medical care, providing online medication instructions is possible as long as the drug is dispensed based on a prescription.
5薬剤師がオンライン服薬指導で可能だと判断した場合は,どの剤形でも可能である.0.260.580.001a)
If the pharmacist determines that online medication instructions are possible, the dosage form becomes irrelevant.
6服薬指導計画を策定したうえで実施しなければならない.0.060.280.001a)
Online medication instructions must be provided after formulating a medication instruction plan.
7患者に対して,情報の漏洩に関する責任の所在を明確にする必要がある.0.880.960.289
Pharmacists need to clarify to patients who is responsible for information disclosure.
8メリットとして,患者宅の残薬管理状況を確認できることがある.0.550.830.001a)
The advantage of online medication instructions is that patients can check the management status of remaining medications at home.
9薬剤師,患者双方の本人確認が必要となる.0.960.990.617
Online medication instructions require identification from both the pharmacist and the patient.
10薬剤の交付は指導後に行われる.0.520.87<0.001a)
When using online medication instructions, the medicine is supplied after guidance has been provided.
11薬剤師,患者双方の同意なく第三者が参加しないように患者に求めることができる.0.390.71<0.001a)
Both pharmacists and patients may be asked not to involve third parties in online medication advice without mutual consent.
全体 Total5 (5–6)c)8 (7–9)c)<0.001b)

a) Significant difference between pre- and post-test using McNemar’s test. b) Significant difference between pre- and post-test using Wilcoxon rank-sum test. c) Median (lower quartile–upper quartile).

5. 集計及び解析に用いたソフト

集計及び解析にはMicrosoft Excel for Mac(ver. 16.70, Microsoft, Redmond),R(ver. 4.2.2, The R Foundation for Statistical Computing, Vienna),及びRコマンダー(ver. 2.8-0)を用いた.対応のある2群間の比較にはWilcoxon符号付順位和検定又はMcNemar検定を用い,有意水準を1%として,p<0.01の場合に有意差ありとした.自由記述の解析にはKH coder 3(3. Beta. 03a)を用いて解析を行った.

6. 倫理的な配慮

本研究は,就実大学・就実短期大学 教育・研究倫理安全委員会よって承認を受けて実施した(承認番号:265).対象者には本研究内容,研究への参加と成績評価が無関係であること,個人を特定できないよう符号化してアンケート結果を解析すること,解析結果を学会等で発表することを文書で説明し,文書で研究参加の同意を取得した.テスト及びアンケート結果の解析には研究参加に同意が得られた学生を対象に解析した.テストはプレ,ポストテストを比較するために記名式としたが,解析時には個人を特定できないように符号化した.

結果

1. オンライン服薬指導実習プログラムの運用

1日目のデモンストレーション時に機材トラブルがあり,代替通信手段として携帯電話で通話しながら,互いの機材の設定状況を確認する必要性が発生した.

2日目は薬剤師役と患者役の教室を分けたため,1部屋の人数が3–4名と少数となり,比較的プライベートな空間になった.そのため,現実の患者宅や薬局のオンライン指導ブースのような環境を模倣することになった.ロールプレイを実施中,通信の突然の遮断のような服薬指導の継続が著しく困難になるトラブルが発生した.この場合はファシリテータが薬剤師役–患者役間の小教室を行き来すること(代替通信手段)で対応した.また,Wi-Fiやパソコンを用いているがゆえに発生する音声や映像の遅延のような,服薬指導中断とはならない程度の通信トラブルは学生自身で対応した.すなわち,互いに情報の理解度を確認しながら,必要に応じて聞き返したり,同じ説明を繰り返すことにより情報の補完を行っていた.

2. テスト成績及び自由記述の解析

履修者71名中69名から研究参加への同意が得られた(同意取得率97.2%).本プログラム前後でのオンライン服薬指導に関する社会的な背景・根拠・配慮に関する理解度の変化として,プレ,ポストテストの結果をTable 1に示す.プレテストと比較してポストテストでは正答数の中央値が5から8へと有意な増加が認められた.また,個々の設問に対する正答率もすべての項目で上昇しており,プレテストの時点で正答率が0.8を超える項目を除いて有意に増加していた.一方,服薬指導計画書の策定に関する設問6は正答率が0.06から0.28と有意に改善しているものの,他の項目より低かった.

本プログラム前後での「オンライン指導時やフォローアップの時に必要になると考えているもの」の変化として,自由記述での頻出語をTable 2に,共起ネットワーク図をFig. 3に示す.頻出語を比較すると,実習前では「薬」,「処方箋」,「直接」,「状態」のような対面型でも必要となるような語句が認められたが,実習後では「フォローアップ」,「通信環境」,「信頼関係」のような状況を示すような語句の頻度が高かった.実習前の共起ネットワークでは「パソコン」,「電子機器」,「カメラ」,「お薬手帳」,「処方箋」のような道具を示す言葉の共起関係が認められたが,実習後はこの共起関係が消失していた(Fig. 3A-1).共起ネットワークの変化として,「信頼関係」や「事前」準備,「服薬指導」に共起関係が認められ,更に「フォローアップ」も同じカテゴリーで共起関係が認められた.(Fig. 3B-1).実習後の特徴的な共起関係として,電子機器のトラブル対応(Fig. 3B-2),音声メインによる指導(Fig. 3B-3)に要約されるような語句が共起関係にあった.

Table 2. Changes in Top 20 Frequently Occurring Words Extracted from Free Descriptions before and after Training

Pre-testPost-test
RankExtracted wordsFrequencyRankExtracted wordsFrequency
1説明231フォローアップ26
explanationfollow-up
2指導222行う25
instructionsconduct
3223指導23
medicineinstructions
4服薬指導184確認22
medication instructionsconfirmation
5確認175服薬指導22
confirmationmedication instructions
6対面176通信環境21
in personcommunication environment
7情報167薬剤師18
informationpharmacist
8行う128対面17
conductin person
9用いる119説明16
useexplanation
10理解111016
understandingmedicine
11実際811場合15
actualcase
12処方812相手15
prescriptionpartner
13わかる813伝わる15
understandcommunicated
14場合714信頼関係13
casetrust relationship
15相手715理解13
partnerunderstanding
16伝える716スムーズ10
informsmooth
17見える617話す10
appeartalk
18処方箋618環境9
prescriptionenvironment
19状態619指導時9
situationduring instruction
20直接620事前9
directprior
Fig. 3. Co-occurrence Network of Extracted Words on the Important Factors for Online Instructions and Follow-up

A: Pre-test. B: Post-test.

3. オンライン服薬指導におけるメリット及びデメリット

2日目にオンライン服薬指導のメリットとデメリットについて自由記述で回答を求め,その結果の共起ネットワーク図をFig. 4に示した.メリットとしては,音声と映像を併用することで,「残薬」,「確認」,「バイタル」,「測定」,「見れる」が共起していた(Fig. 4A-1).実際の記述内容も「残薬などをその場で教えてもらえる」や「患者さんが自宅にいる場合,残薬を薬剤師が目で見て確認することができる」,「実際に自宅が見れるため,残薬の状況や,測定方法の適否を確認することができる」など10名(14.5%)の学生が回答していた.また,「患者」,「自宅」,「指導」,「受ける」,「人」,「気」,「相談」に共起関係が認められ(Fig. 4A-2),「周りに人がいないので,気兼ねなく質問や相談ができる」などの記述も認められた.「リラックス」,「話」,「聞く」のような語句も共起しており(Fig. 4A-3),「自宅だとリラックスして聞ける」のような記述があった.

Fig. 4. Co-occurrence Network of Advantages and Disadvantages of Online Medication Instructions

A: Co-occurrence network of advantages of online medication instructions. B: Co-occurrence network of disadvantages of online medication instructions.

一方,デメリットは「電波」,「状況」,「タイムラグ」(Fig. 4B-1)や「ネット環境」,「音声」,「途切れ」(Fig. 4B-2)などの通信環境に関連する語句や音声による情報伝達状況に関する語句の共起が認められた.「画面」,「小さく」,「見る(見にくい)」などの使用する端末に依存することがデメリットとして挙げられており(Fig. 4B-3),「患者の画面が小さいときは,画面共有しても見づらそう」の記述があった.共起ネットワークには反映されない少数意見ではあるが,「画面にいる人を見ていると,自分の目線が相手から見ると逸れてしまい.カメラを見ていると相手の様子がみえない」や「対面と比較して,集中力をかきやすく,指導内容がきちんと伝わらない可能性がある点」などの回答もあった.

考察

本研究は,臨床現場で使用される実機を用いたオンライン服薬指導実習のプログラム構築し,そのアウトカムについて評価した.

本プログラムを運用した結果,学生はトラブルが発生した場合の対処方法として,オンラインでの情報収集が著しく困難になるようなトラブルの場合,代替通信手段を事前に準備する必要があることが体験できた.また,自由記述の解析からは,情報を補完するために,情報の理解度を共有する聞き返し方などオンライン特有のコミュニケーション能力が必要となることが示唆された(Figs. 3B and 4B).映像を通信する手段において,通信トラブルは音声や映像の遅延を引き起こすため,情報の受信者の理解度に負の影響を与えることが示されており,6学生が服薬指導の継続に向けて情報の理解度を共有することの重要性を理解できたことを示していると考えられる.一方,薬剤師役と患者役の部屋を分けたことで,擬似的に薬局内や患者宅内が再現されたことにより,第三者のいない患者(役)のプライベートな空間となった.すなわち,1チーム1部屋に分けたことにより,学生は現実に即したオンライン服薬指導を実習できたと考えられる(Fig. 4A-2).さらに,オンライン服薬指導を実施するためには適切な環境が存在し,環境を整えることで対面と同等以上の質の高い薬物療法を提供できる可能性(Figs. 4A-2 and 3)を指摘している学生も認められた.

プレ及びポストテストの結果から,修得すべきオンライン服薬指導に関連した社会的背景や法的根拠に関する理解度については,客観試験の多くの項目で正答率の改善が認められた.これらの項目は1日目の講義だけではなく2日目に実習して体験できた内容であったことが実習後のメリット,デメリットに関連する記述(Fig. 4)及びポストテストの自由記述(Fig. 3B)から推測された.このうち設問3「かかりつけ薬剤師が行うことが望まれている」の正答率の上昇要因として,「オンライン指導時やフォローアップの時に必要になると考えているもの」の自由記述の抽出語に新たに「信頼関係」の語句が表れたり(Table 2)や共起ネットワーク(Fig. 3)の変化から学生はロールプレイを通じて体験することで理解できたと推測された.これまでにも,オンラインでは対面によるコミュニケーションより,その場の空気感の共有が難しいため対面より信頼関係が必要になること79が指摘されており,本プログラムの結果を支持している.一方で設問6は0.22ポイントの改善に留まり,自由記述の中にも「服薬指導計画の策定」に類似する語句は認められなかった.すなわち,本項目は1日目の講義では説明したが,2日目のSGDやロールプレイの中で直接体験しなかったことが影響した可能性も考えられた.

メリットに関する記述を解析したところ,今回使用したニプロハートライン™にはビデオ会議機能があるため,特にフォローアップの場面(場面1)では,残薬の管理状況をパソコンやタブレット端末に備えられているカメラから映像として確認することができた.さらに,適切に血圧などの測定が行うことができているか薬剤師役–患者役間で映像と音声で確認しながら実施した様子が認められた(Fig. 4A).オンラインでの薬物療法の実践には,音声だけでなく映像を補助的に活用できるため,学生は自宅での薬剤の管理状況や残薬の量について,映像を通して目視で確認することができた.これまで電話による音声のみで行われていたフォローアップに対して,ビデオ会議機能を活用したオンライン服薬指導の有用性を認識できたものと考えられた.このことは,設問8「患者宅の残薬管理状況を確認できることがある.」の上昇量にも影響を与えていると考えられる.

同様にデメリットに関する記述を解析したところ,患者側が使用するタブレット端末の大きさが問題点として抽出された.すなわち,画面共有機能を使用して資料を薬剤師役–患者役間で共有しながら服薬指導を実施する場合,患者側として用いたタブレット端末の画面サイズが10.3型では,薬剤情報提供書を画面共有した際に文字が小さくなり,患者側からの視認性が低下していたことが示唆された(Fig. 4B).一方で,画面の大きさについて薬剤師役視点での回答が確認できなかったことから,薬剤師側で用いたパソコンのように14型以上の画面サイズが文字情報を伝えるために必要であることも示唆された.さらに,共有している画面を見れば,相手と視線が合わず,相手と視線を合わせるためにカメラを見れば,共有画面を見ることができないような,オンライン服薬指導に用いているハードウェア上回避が難しい問題点79を指摘する学生も少数ではあるが認められた.

本プログラムでは,実際の医療現場で用いられているハードやソフト用いて,日常想定される通信環境の下,薬剤師役と患者役の部屋を分けて実施した.その結果,オンラインを活用した薬物療法の実践に関連する特徴的な能力として,対面でのコミュニケーション能力に加えて,通信トラブルに対応するコミュニケーション能力が必要なことが示された.また,学生は円滑にオンラインでの薬物療法を実践するためには,機材トラブルに対応するスキルや準備が必要となること,更に実施場所,ハードウェアの構成や条件,通信環境について留意しなければいけないことを体験し修得できた.さらに,互いに役割を交換したことで,学生は薬剤師視点に加えて患者視点を体験することができた.以上のように本プログラムは,今後必要となるオンライン服薬指導に対応できる人材を育成するのに貢献できることが示唆された.

本研究の限界として,通信トラブルを始めとする種々のトラブルには,筆者らが意図的に発生させることが難しいトラブルも存在する.しかし,現実社会おいてオンラインを用いるサービスには,トラブル発生のリスクが常に存在するため対処方法を理解する必要性が高く,オンライン服薬指導の実施要領においても必要な技能とされている.10このため,発生したトラブルについて蓄積し,共有することはICTを活用した薬物療法の質向上に貢献できる可能性がある.また,学生が修得できたと考えられる多くの能力やスキルが,自由記述の解析による間接評価のため,かならずしも実際の患者を対象としたオンラインでの服薬指導が直ちに実施できるように養成されたとは限らない.しかしながら,本研究ではオンライン服薬指導を行うために必要とされる知識のうち11の項目について,客観試験にて直接評価を行った結果,プログラムの前後で実施したテストの正答数の中央値や各設問の正答率が有意に上昇しており,筆者らの意図した教育効果を得ることができた.すなわち,円滑にオンライン服薬指導を進めるうえで必要な法的な根拠や配慮を学生は理解できたと考えられる.今後は,本研究の成果を基に,学生がオンラインによる服薬指導のメリットをより実感し易いプログラム構成及び学生のパフォーマンスを直接評価できる評価系を構築し,薬剤師を対象としたオンライン服薬指導研修プログラム構築に応用したい.

謝辞

本プログラムは,文部科学省 大学改革推進補助金「ウィズコロナ時代の新たな医療に対応できる医療人材養成事業」により,情報通信機器の拡充,通信環境の改善など学習環境の整備を行い実施した.

本プログラムを実施にあたり,資料提供及び有益なご助言を賜りました.東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学特任研究員 岡﨑光洋先生,技術協力を賜りました.ニプロ株式会社事業戦略室 八木愼治様に厚く御礼申し上げます.

利益相反

筆者らは本プログラムを実施するにあたり,ニプロ株式会社事業戦略室八木愼治様より機材トラブルに関する対応について非金銭的な支援を受けた.

REFERENCES
 
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