YAKUGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1347-5231
Print ISSN : 0031-6903
ISSN-L : 0031-6903
総説
医療用医薬品の品質問題と安定供給
伊豆津 健一 阿部 康弘栗田 麻里吉田 寛幸
著者情報
ジャーナル フリー HTML
電子付録

2023 年 143 巻 2 号 p. 139-152

詳細
Summary

Several good manufacturing practice (GMP) compliance issues and their associated quality problems that have been revealed since 2020 have led to large-scale recalls and supply suspensions of drug products in Japan. This paper provides an overview of the causes and countermeasures for supply disruptions of low-molecular-weight chemical pharmaceutical agents, focusing on quality-related issues. A recent increase in the use of generic drugs emphasized the importance of strengthening active pharmaceutical ingredient (API) supply chains and ensuring GMP compliance among drug manufacturers. In addition, increasing recalls in the drug products of certain marketing authorization holders due to storage stability problems strongly suggests the need to improve their development process considerably. Other measures to stabilize the supply of pharmaceuticals, including increasing stockpiles of APIs, were also discussed.

1. はじめに

2020年から複数の後発(ジェネリック)医薬品メーカーで発覚した不適切な製造管理と品質問題は,大規模な製品回収と供給停止により医薬品の不足を招き,医療に大きな影響を与えた.1この問題に対し業界と行政は,損なわれた医薬品への信頼を取り戻すため医薬品の製造管理及び品質管理の基準(good manufacturing practice: GMP)遵守を徹底するための社内体制の改善と,無通告査察など監視の実行性向上策を相次いで打ち出した.一方で自然災害や原薬供給の停止など様々な要因による医療用医薬品の供給障害は以前から発生しており,同じ有効成分を含む製品が各国同時に不足する例も増えている.後発医薬品の活用が先行した欧米では,がん治療薬を含む大規模な医薬品の不足が2000年以降に多発し,医療の基盤を損なう大きな問題として行政を含めた取り組みが強化されてきた.2,3本稿では低分子の化学薬品を中心とした医療用医薬品の供給障害について,その原因と各国の状況を概観し,品質関連の原因による不足発生の抑制策を考察する.なお内容は筆者らの個人的な意見であり,所属組織のものではない.また参考用日本語図表をSupplementary materialsとした.

2. 医療用医薬品の供給障害例と影響

2020年12月に発生した小林化工(株)の製品による健康被害,及び日医工(株)での調査で表面化した製造管理の問題などを受けて,後発医薬品メーカーでの製造状況の確認と,薬事監視としての広範な調査が集中的に行われた.1その結果,2社以外にも複数の企業で申請書記載以外の方法による製造など多くの問題(GMP違反等)が確認され,業務停止など行政による処分が行われた.4処分後も出荷の再開には技術及び薬事面の改善に長期間を要する製品も多く,同じ有効成分を含む他社製品にも様々な形での供給調整が生じた.2021年9月時点の調査では,欠品又は出荷調整(限定出荷)となった品目が医療用医薬品の約20%(後発医薬品の約30%)に上り,5このうち後発品での欠品・出荷停止は全体の4.8%(686品目)を占める.出荷再開には製剤処方等の変更を含めた抜本的な対策が必要として,販売中止予定の製品も多いとされる.6

この大規模な医薬品不足が生じる前から,国内では原薬の調達や製品の品質課題や,自然災害などの問題による供給障害が発生していた.近年の例として,モルヒネ塩酸塩など注射用麻薬製剤の製造工程での機器の誤設定による着色(2018),7サルタン類医薬品などへの微量の変異原性物質混入(2018–),8セファゾリン原薬への異物混入(2018),9東日本大震災での工場被災によるレボチロキシンナトリウム水和物の供給停止(2011),10などがある.特にセファゾリン及び代替薬の不足は,感染症治療や外科手術への影響が大きく,医薬品の安定供給が医療全体での重要課題として取り上げられるきっかけとなった.11,12

製品供給の障害による臨床での医療用医薬品の不足は,生命に係わる不可逆的な影響が生じる可能性を持つ重大な問題である.医療用医薬品の不足による医療への影響は,治療対象となる疾患,代替薬の有無,供給障害の規模や期間などに左右される(Table 1 and Supplementary Table 1).当然ながら処方薬は個々の患者に最適なものが選択されており,適切な代替薬がない場合に生じる直接的な影響とともに,代替薬との作用や薬剤学的な特性の違いによっても,提供される医療の水準に差が生じる.米国で発生したノルアドレナリン製剤の大規模な不足では,敗血症ショックに対する第1選択であるノルアドレナリンの代替としてフェニレフリンを用いた病院における,死亡率の上昇が広範な調査から報告された.13そのほかにも医療用医薬品の不足により,患者と医療機関は本来不必要なコストを様々な形で負担することになる.

Table 1. Factors Affecting the Impact of Drug Supply Disruptions
Type of diseaseImpact of the disease on life and death
Irreversibility of disease progression
Effects on chemotherapy, surgery, etc.
Availability of alternative medicines and alternative treatments
Impact of quality of life
Number of patients
Type of productsProduction volume and share
Stock status
Shortage period
Availability of substitute products

すべての医薬品は不足発生の可能性を持つが,その要因とリスクの大きさは有効成分と製剤の構造や工程の複雑さ,原薬の調達先,先・後発品間など製品により大きく異なる.14一般に高分子量の有効成分やドラッグデリバリーシステム(drug delivery system: DDS)製剤は相対的に工程の複雑化や保存安定性の問題を生じやすく,その解決の技術難度も高い.また製剤に用いられる有効成分(原薬)の安定供給には,メーカーの技術力と管理水準が大きく影響する.先発医薬品(特許期間終了後の長期収載品を除く)は,需要状況の把握による計画的な生産が可能ながら,同成分の他社製品による代替ができないため,供給障害が臨床での不足につながり易い.一方で後発医薬品では,生産量の変動や低コスト化の圧力を背景とした原薬調達の難しさを持つほか,企業間の技術力や法令遵守体制の差が供給の安定性を大きく左右する.なお長期収載品やいわゆるオーソライズドジェネリックの安定供給リスクは,製品毎の原薬調達方法や生産状況により大きく異なるものと考えられる.

3. 医薬品不足の主な原因

医療用医薬品の不足は様々な理由で生じ,正確な情報に基づく対策は,安定供給の確保に不可欠となる.1517欧米では供給問題の拡大とともに,個々の原因の明確化と分類により対策が進められた.医薬品の製造は原薬と製剤の2段階で行われ,それぞれが供給不足のリスクをはらんでいる.臨床での医薬品不足は,製剤に対する需要の増加と,製剤工程を中心とした技術面,管理面の課題及び原薬調達の問題による供給の障害により生じる(Table 2 and Supplementary Table 2).原薬不足の原因も同様な形で分類される.

Table 2. Cause of Prescription Drug Shortages
CategoryCause
Increasing demand
Increasing demand of productsSpreading of infectious disease
Good evaluation of new drugs and formulations
Shortage of competitive products
Decreasing supply
Quality-relatedGMP non-complianceViolations in process operations
Non-compliance of equipment and facilities
TechnicalMalfunction of equipment/facilities
Response to new regulations
Stability problems
API and excipient supplyIncreasing demands and supply disruptions
Withdrawal by management decisionIncreasing competition
Low price
Large-scale disasters, Infectious disease pandemicFailure of equipments/facilities
Supply chain disruption
Geographical Issues/CyberattacksSupply chain disruption
System failure

3-1. 製剤の需要増加

感染症による患者数の想定以上の増加や,新薬又は新製剤への高評価による需要増に生産が追いつかない場合は,医薬品の不足につながる.例として米国での新型コロナウィルス感染症拡大期には,重症患者を対象とした鎮静剤や気管支拡張剤の需要増により大規模な不足が発生した.18他社製品の供給障害による代替需要でも,供給調整など外見上で類似した状況が生じる場合がある.

3-2. 法令違反(コンプライアンス問題)に起因した品質問題

製剤工程におけるGMPなど各種規定の違反による供給の停止は,欧米における医薬品不足の要因として継続的に大きな割合を占めてきた.14国内では品質問題による健康被害の発生後の調査や点検で,複数の製造所で規定違反の問題が一斉に噴出したことにより,多数の品目で製品回収や供給停止が生じた.4承認書と異なる方法による製造や記録の不備など製造管理上の規定違反は,医薬品に求められる品質保証を困難にすることから,コンプライアンス関連の品質問題として扱われることが多い.若しくはより端的に,独立した「法令違反」区分とされる場合もある.GMP違反には製造工程での手順の逸脱とともに,規定された水準を満たさない機器・設備による製造も該当する.違反の多発を受けて,調査等で検出された問題に対する製品の回収や,業務改善命令,業務停止処分などの基準が厳格化された.19なお製造管理の問題により業務停止命令の対象となった事業所の製品のうち,医療上の重要性が高く,同種の医薬品や他社製品の供給による十分な代替が困難のものの一部は,品質に直接影響する問題がないことを確認できる場合に限り対象から除外し,「業務停止命令除外品目」として安定供給が確保できるまでの間,製造と供給を継続される措置がとられる場合がある.

3-3. 技術的課題による品質問題

製剤工程におけるコンプライアンス問題以外の要因による供給障害も,医薬品不足を起こす原因として大きな割合を占める.これらは技術的課題による品質問題と総称され,製品が製剤設計の問題や製造設備の不調などにより規格を満たさない場合とともに,製品が有効期間内に規格範囲を外れる安定性の問題が該当する.一部の調査では,製造所の生産能力(キャパシティー)超過や火災による機器の喪失などによる生産の障害も,この技術的課題による品質問題に分類されることがある.16このほかに,安全対策などを目的として導入された微量のニトロソアミン類の混入管理など,新規規制に対して既存薬の対応が困難な事による出荷停止なども,ここに区分される.製剤工程の技術的な問題が製品の一部に発生する場合には,問題が出荷後に把握される場合もある.その例として,注射用麻薬製剤での着色やナファモスタット・メシル酸塩製剤へのガラス片の混入による回収(2019)がある.

この数年間に医薬品の保存安定性の問題が,多数の製品回収と供給停止の形で顕在化した.医薬品には有効期間内にわたり品質規格を維持することが求められ,その確認のため開発時の安定性試験とともに,承認後の製品の品質保持の確認を目的とした定期的な保存品の試験(安定性モニタリング)が実施される.2020年以降に法令(GMP省令と施行規則)の改正により安定性モニタリングの実施が明示されたことと,品質問題を契機とした製造管理の見直しが重なり,一部メーカーで長期保存品の規格試験が改善作業の一環として集中的に行われた.4そこでの有効成分含量や不純物量,溶出性の規格不適合の多発により,特定の後発医薬品メーカーの製品を中心とした回収や長期の出荷停止が多発した(Fig. 1 and Supplementary Fig. 1).図の製品数には,行政処分の対象となった製造所で供給停止後に安定性の問題で出荷再開に至っていない品目は含まれない.安定性モニタリングで規格を逸脱した製品では,原因把握や問題となるロットの範囲特定など事後対応が難しく,供給の長期停止につながる例も増えている.

Fig. 1. Number of Recalls Associated with Quality Problems in Stability Monitoring of Ethical Pharmaceutical Products, Excluding Blood Products, Listed in PMDA Recall Information Homepage

製剤の生産における比較的新しい技術課題として,微量不純物の規制導入や強化への対応があげられる.このうち発がん性(変異原性)不純物は一般的な不純物よりも低濃度で安全性の問題を起こすため,厳しい評価と管理を求める医薬品規制調和国際会議ガイドラインM7(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use: ICH-M7)が新薬の開発時を対象に導入された(2015).その後に起きたバルサルタン原薬へのニトロソアミン類(N-nitrosodimethylamine: NDMA等)の混入問題を受けて,安全性確保の観点からM7を基にした管理基準がサルタン系医薬品に設定され,基準を超える製品の回収が進められた.ほかにもメトホルミン塩酸塩錠,ラニチジン塩酸塩錠などから,管理指標を超える量のNDMAが検出され回収された.国内では2021年からほぼすべての医薬品を対象に,ニトロソアミン類混入のリスク点検が実施されている.製剤工程以降でのニトロソアミン類の混入や生成のリスクは,特定の場合に限定されるため,規制強化への対応は原薬の選択や管理を中心とした問題として捉えられることが多い.

3-4. 原薬の不足

原薬の確実な調達は製剤の安定した製造と供給の基礎である.原薬生産国としてインド及び中国が占める割合が急速に増加しており,20国内で生産される後発医薬品に用いられる原薬のうち,承認書記載のすべての工程を国内で実施する原薬は3割強とされる.加えて工程の複雑化や要求される管理水準の上昇により,成分毎の供給メーカーは世界的にも限定される傾向にあるため,単一の原薬工場での問題発生が多くの国で同時の供給問題につながる例が増えている.また製品によっては添加剤や容器,投与デバイスの不足が原薬不足と同様の供給問題を招く場合がある.

原薬の不足を招く原因は多岐にわたり,それらは需要増とコンプライアンス問題,原料(中間体)の供給障害など,製剤の供給障害の原因に近い形で分類することができる.原薬製造でのコンプライアンス問題の例として,ラノコナゾール,スルバクタムナトリウムなどの輸入原薬を用いて国内で製造された製剤が,原薬製造所のGMP不適合を理由に回収された.21,22またセファゾリン原薬では,不純物混入や中間体供給の問題など技術課題による供給の停止が,臨床での逼迫による感染症治療と外科手術での大きな問題を招いた.9,23設備面の問題により原薬供給に障害が生じた例として,タゾバクタム・ピペラシリン水和物の製造所事故,エペリゾン塩酸塩の製造所火災などがある.そのほかに原薬生産の化学工業としての特性から,製造所に対する環境基準などGMP以外のレギュレーションの強化による供給障害が,インド及び中国産原薬で報告されている.海外で生産される原薬の管理状況把握は大きな課題であり,後発医薬品メーカーと医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency: PMDA)により様々な取り組みが行われている.24

3-5. 経営上の判断による製造休止,撤退

製剤の継続的な供給確保は,国内における後発医薬品の大規模な使用促進策の開始直後から医療関係者の懸念事項であり,基本計画(アクションプログラム及びロードマップ)においても施策上の柱とされた.25,26しかし一部メーカーでは企業統合や重複した製品の整理や経営方針の変更などの理由で,数十品目単位での供給停止と薬価削除が繰り返されてきた.製品の供給停止は医療機関における追加的な在庫管理や銘柄変更による患者への説明などが生じるだけでなく,代替となる他社製品の状況により供給不足につながる.

3-6. 大規模な自然災害や感染症パンデミック

大規模な地震や水害など自然災害,感染症パンデミックは,予期しない急激な環境変化として医薬品の需要と生産,流通に大きな影響を与え,需要増と供給障害の両面で臨床での不足の原因となる.東日本大震災(2011)では,被災地での救急医療に必要な医薬品の需要増や広域でのサプライチェーン障害とともに,甲状腺機能低下などの医療に用いられるレボチロキシンナトリウム水和物製剤の供給が工場被災により停止し,操業再開までの間に委託先での製造,既承認の輸入製剤の緊急輸入などの対応がとられた.10

感染症によるパンデミック発生時には,治療薬需要の急増とともに,製造,サプライチェーンなどに様々な変化が生じる.新型コロナウィルス感染症の拡大期には,重症患者向けの大規模な医薬品不足が米国で生じた.また国内でもリポジショニング使用を意識した注文が,カモスタットメシル酸塩錠など複数の医薬品で急増し,本来の対象疾患に対する使用を確保するための出荷調整等が行われた.このほかに新型コロナウィルスの感染拡大期にはインドなど海外での一部工場の操業停止と,世界的な航空減便による輸送枠の減少などにより,原薬や中間体の供給逼迫と納入の大幅な遅れが生じた.27厳しい環境下で国内各メーカーでは,製造・供給の努力がなされた.

3-7. 地政学的問題と人為的なシステム障害

医薬品の供給に影響を与える外的・人為的な要因として,地政学的問題とサイバー攻撃等によるシステム障害があげられる.海外での政情不安や地域紛争,戦争など地政学的問題は,原薬工場の停止などの生産と輸送の障害をもたらす.前段階にあたる国際間の関係悪化で生じる貿易抑制への危惧も,後述する原薬の国内生産への期待の高まりの要因となった.さらに医薬品供給の新たなリスクとして,マルウェアなどを用いたサイバー攻撃による大規模なシステム障害の増加が懸念されており,一部の製品28では国内の供給への影響も既に発生した.医薬品の供給では,製造や製品輸送のシステムに対する直接的な攻撃とともに,製品のトレーサビリティや品質を保証するデータの消失などもリスクとなる.

4. 海外における医薬品不足

医療用医薬品の不足は,後発医薬品の使用拡大が先行した欧米で2000年以降に大きな問題となった.そのため国内での中長期的な対策を考えるうえで,各国の問題の発生状況や対策は有用な情報となる.29

4-1. 米国での医薬品不足

ハッチワックスマン法(1984)の成立以降,後発医薬品の使用が早くから進んでいた米国では,まずインドから,その後に中国から原薬と製剤の輸入が増加し,自由価格での競争の下で大幅な低価格化と使用増加が進んだ.2018年の調査では,原薬の88%,製剤の63%が海外生産とされる.14この過程でランバクシー社(印)など複数の企業でGMP違反など大規模な問題が発生し,U.S. Food and Drug Administration(FDA)は後発品の審査組織の拡充とともに,インド及び中国での事務所開設などにより海外製造所の薬事監視を強化した.30製品の不足は2000年以降に急増し,該当品目の優先審査等を規定したFood and Drug Administration Safety and Innovation Act(FDASIA)法の成立前には,251品目(2011年)に上った.14この法律と追加的な対策により2021年時点での新規の不足発生は41件まで減少した.一方で不足に至る品目は供給回復の困難なものが多く,不足状態が継続する製品は80件程度を推移している.31米国での不足の原因は,品質関連(61%),需要増(12%),天災(5%),生産中止(3%),不明(15%)とされる(2013–2017).製剤別では注射剤が約70%を占め,FDAが製品の安全確保の観点から無菌工程に求める生産管理の厳しさの,供給不足への影響も指摘されている.32

米国での医薬品不足に関しては,問題の背景と医療への影響や対応策について,多面的な検討が行われており,2020年には議会からの要請を受けたFDAの詳細な調査結果が報告された.14,31,3337米国は公的な薬価制度を持たないため需給状況による後発医薬品価格の変動が大きく,医薬品の価格決定への共同購買組織の力が強い.そのため後発医薬品の販売開始後に急激な価格低下が起こり,生産撤退と寡占化が進む品目が多い.この著しい低価格化により供給を長期的に確保していくための設備投資が進まないことが,製品規格や工程基準への不適合による供給停止の大きな原因と指摘された.14,38逆に不足時には大幅な価格上昇が起こる.また医薬品の不足がもたらす影響として,医療の質的低下とともに,代替薬の選択などに必要な医療コストの大幅な上昇が指摘されている.大学や大手病院コンサルタント会社の試算では,年間(2017年)で代替薬の調剤に約2.3億ドル(約300億円:関連薬の価格上昇分を含む)と,医療機関の経費として約3.6億ドル(約450億円)の追加的なコストが生じたとされる.39安定供給の基礎を強化する対策としてFDAは,下述するリスクマネジメント40及びquality management maturity(QMM)41の実施を提唱した.

4-2. 欧州での医薬品不足

欧州においても医療用医薬品の不足は深刻な問題となっており,原薬製造に用いられるアセトニトリルの供給障害による複数の医薬品の不足(2008)や,ニトロソアミン類の混入によるサルタン系医薬品の大規模な回収(2018–2019),イムノグロブリン製剤の需要増による継続的な不足等が報告されている.42欧州の特徴として,薬事規制と同様に医薬品不足への対策が,国別及びEuropean Medicines Agency(EMA)を中心とした地域全体での対応に分かれることがあげられる.各国では,確保の重要性が高い製品の備蓄や,自国語表示のない製品の緊急輸入承認のほか,公的医療保険制度での支払い基準(参照価格)を入手可能な医薬品に合わせて設定するなどの対応が,それぞれの判断でとられている.43一方でEMAは欧州医薬品規制首脳会議(Heads of Medicines Agencies: HMA)と共同でタスクフォース(Task Force on Availability of Authorised Medicines: TF AAM)を組織し,不足が見込まれる医薬品についての情報収集や医療機関への提供,供給問題発生時の各国間の調整などの機能を担っている.欧州の組織的な対応には,医薬品の特性(疾患の種類,代替薬の有無,該当する製品のシェア)と不足原因による重要度クラスの分類も活用されている.44

5. 安定供給の確保に向けた品質問題の低減

医療用医薬品の安定供給の確保は,直接的には製造販売業者(製販)の責務であるが,制度整備や行政による調整と医療機関の協力が必要な事項も多い(Table 3 and Supplementary Table 3).45ここでは国内での安定供給への取り組みについて,品質との関連を中心に紹介・考察する.

Table 3. Countermeasures against Shortages of Prescription Drugs
CountermeasuresImplementing entity
MAHMHLW/PMDA
Compliance improvementSetting appropriate regulations
Strengthening regulatory surveillance
Technical improvement of aseptic process
Solving technical issuesImproving development process
Understanding process factors affecting product quality
Testing of distributed products
Quality risk management
Early presentation of technical guidelines
Reflection of production costs in drug prices
Improving API procurementDouble sourcing
Domestic production of API
API stockpiling
International harmonization of standards and test methods
Reducing impact of supply withdrawalSetting common rule
Setting appropriate drug prices
Responding to disastersRisk assessment
Responding to problemsSharing and disclosing information on supply disruptions
Supply adjustment in case of shortage

5-1. GMP遵守など製造管理の向上

国内で流通する後発医薬品の特徴である製剤の高い国内生産比率は,平均的な製品の品質水準維持に寄与する一方で,一部メーカーでの不適切な製造管理と,「性善説」のGMP調査による問題把握の実効性低下をまねき,問題発覚後の大規模な回収と供給停止につながった.46この問題に対し規定遵守の体制を再構築するため,製販や製造業者での組織強化や薬事監視の大幅な見直しが行われた.2021年に医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部改正(改正GMP省令)が施行され,事実上の国際標準である医薬品査定協定及び医薬品査察協同スキーム(pharmaceutical inspection convention and pharmaceutical inspection co-operation scheme: PIC/S)ガイドラインとの整合化や,これまでの通知の取込みが進んだ.47この改正GMP省令では,安定性モニタリングの実施や,製造の委受託における製販と製造業者の役割の明確化,品質課題の報告,医薬品品質システムの導入による企業経営陣の責任の明確化,品質部門として試験検査にかかる業務(quality control: QC)を担当する組織と,品質保証にかかる業務(quality assurance: QA)を担当する組織の設置などに関する条文が,事前に行政通知などの形で運用されていたものも含めて,新設又は修正記載された.また製造におけるデータインテグリティの確保,重要な秤量等での作業者以外の職員の立ち会いなどが明示された.

薬事監視におけるコンプライアンス状況の確認として,都道府県とPMDAの協力による検査手法の向上とともに,立入検査の実施強化(回数増加,無通告査察),製品の試験との連携,問題が生じた際の業務改善・業務停止命令等の処分基準の要件明確化と厳格化などが行われた.19これらの対策の着実な実行がコンプライアンス問題の発生を防ぎ,今後の安定供給に有効に機能することが期待される.

GMPでは医薬品全体についての製造管理と品質管理に関する各種規定とともに,無菌医薬品の製造所における構造設備と製造管理の規定が定められている.前者に該当する作業規定の後発品メーカーにおける違反とは別に,無菌工程を中心とした機器・設備と管理手法の不適合も,国内でのコンプライアンス関連の大きな課題となっている.無菌医薬品の製造に関する規定は,設備と管理の設定やその妥当性判断に高度な専門知識が必要となることが多い.この領域では欧米での規定や求められる技術水準の変化が早く,グローバルな供給を標榜する国内製造所に対する海外当局の調査で問題が指摘され,国内向けを含めた生産が改善まで長期間停止する例も出ている.48国際競争力を持つ医薬品の安定供給確保の面からも,専門性が高い領域での規制と技術動向の継続的なキャッチアップと,それに必要な産官学の協力が今後より重要になる.

5-2. 技術的課題による品質問題への対応

医薬品の供給に影響を及ぼす品質問題の原因となる技術的な課題は,上述のように多岐にわたる.守るべき規定が明確なコンプライアンス関連の問題に比べ,この領域の課題への対応には科学面,薬事面の判断が重要となる.また製造段階だけでなく開発過程に原因が由来する課題も多い.そのため発生時の改善とともに,事前の対策によるリスク低減が大きな役割を持つ.課題発生の予防は医薬品のライフサイクルにおける,1)開発段階での製剤・工程の設計と工業化検討,2)市販後の原料や工程パラメーターの選択,3)継続生産に必要な課題の中長期的視点からの把握と改善,の3段階に分けて考えることができる(Fig. 2 and Supplementary Fig. 2).49

Fig. 2. Insufficient Formulation and Process Optimization as Factors Inducing GMP Incompliance Issues and Stability Problems

製剤の開発過程における十分な検討は,製造開始後の問題発生を予防する観点から特に重要であり,有効成分の特性と製品に求められる機能に合致するとともに,適切な品質を有する製品を一貫して供給できる製剤と工程の設計が求められる.50FDAのLionbergerらはICHガイドラインに対応した後発医薬品の製剤開発プロセスとして,①目標とする製品の品質特性の明確化(quality target product profile: QTPP,及びcritical quality attribute: CQA),②原薬と添加剤の特性把握,③製剤及び工程の設計,④重要工程パラメーター(critical process parameters: CPP)と重要物質特性(critical material attribute: CMA)の特定,⑤リスク評価とデザインスペース設定(任意),⑥工程のスケールアップと管理戦略の構築を提唱した.51,52リスク評価など検討の過程は,国内の後発医薬品でも2018年から申請資料となったコモン・テクニカル・ドキュメント(common technical document: CTD)への記載により,開発過程の妥当性を示す情報となる.また要求される製品品質を保証するために一定範囲にあるべき特性(CQA)に影響を及ぼす原材料,装置,工程パラメーターの特定は,製剤及び工程の最適化だけでなく,市販後におけるロット間での原料特性(原薬の粒子径など)の変化や,機器の特性変動(打錠機の摩耗など)に対する対応力を高めることにも寄与する.53

製剤開発における各種検討の重要性は,国内の後発品で起こったコンプライアンスと品質問題においても強く示された.製造管理の問題により行政処分を受けた複数の企業では,承認書記載以外の方法による製造の前段階として,規定に従った生産での品質規格を満たさない製品(out of specification: OOS)の多発が,調査報告書などで指摘されている.54また安定性モニタリングでの回収増加も,開発段階での安定性を重視した製剤処方の最適化や品質変動要因の把握などの不足を示すものと考えられた.製剤の保存による有効成分含量や溶出性の変化は,ロット毎の原材料や工程の様々な要因により影響を受けるため,安定性モニタリングで規格不適となる製品の発生を完全に防ぐことは難しい.一方で同じメーカーの複数の製剤が,断続的に安定性モニタリングで不適となる状況は,開発時からの問題を強く示唆した.安定性の問題は現在進められている工程コンプライアンスの改善後も,潜在的かつ影響の大きい安定供給リスクとなることが懸念される.そのため製品の開発段階での十分な検討の必要性が経営陣からも認識され,必要な人員と予算が投入される環境の構築が強く望まれる.

さらに中長期的な視点から問題の発生を抑制する目的で,安定供給に特化した製品毎のリスク評価と管理計画の策定が各国で進められている.40国内でも業界団体が作成したチェックリストを用いたリスクの自主点検が,安定供給の必要性が高い医薬品から行われた.55安定供給を目的としたリスク評価と管理の対象は,機器設備とともに原薬調達,新規制への対応など多様であり,部門間の情報共有も重要となる.製造所調査と並ぶ薬事監視の手段として,厚生労働省は公的試験機関による年間700–900品目の流通医薬品の規格試験を実施している.同試験で低率ながら確認される規格不適合品(10年間平均で約0.3%)は,それ自体が自主回収等の対象となる品質問題であるとともに,製造管理や安定性等技術的な課題を示唆する重要な情報となる.

6. 製剤の原材料確保

6-1. 原薬と製剤の備蓄

原薬の継続的な確保策として,これまで進められてきた調達先のダブルソース化などに加え,原薬の国内生産や備蓄に関する検討が内外で活発化している.56一般に後発医薬品のメーカー在庫は原薬と製剤を合わせて6ヵ月分程度とされ,原薬調達の問題は製剤の供給障害と臨床での不足に直結する.29,57原薬と製剤の備蓄は異なる目的で医薬品供給における重要性が注目されており,国や都道府県による製剤の備蓄は抗インフルエンザウイルス薬など非常時に用いられる医薬品を迅速に供給するための手段となっている.一方で製剤工程用の一般的な確保量を超えた原薬の積極的備蓄は,中期的な製品供給のレジリエンスを多くの品目で向上させるために有効な手段となる.その活用について,コスト負担とともに安定性確保など技術的な問題を含めた比較と検討が望まれる.

6-2. 国内での原薬生産

原薬生産の政策的な支援により調達リスクを軽減する動きとして,国内ではセファゾリンナトリウムやペニシリン系抗菌薬の出発物質となる6-アミノペニシラン酸の製造に対する補助が,医薬品安定供給支援事業(2020年度)として行われた.58また米国では半導体などと並ぶ経済戦略・安全保障の国策として,原薬と製品の国内生産強化が詳細な状況解析とともに打ち出された.59欧州議会も原薬工場の域内誘致を施策として進めている.60国内での原薬生産は安定供給への直接的な効果が期待できる一方で,必要な施設や製造装置等が高額となることから補助金等でサポート可能な品目は限られる.また生産開始後の供給は,輸入原薬とのコスト差を社会的に許容できる範囲内に抑えることが求められる.そのため対象品目の選択は,医療上の重要性や国際的な供給状況(原薬会社の数や国)など必要性とともに,国内で想定されるプロセスの生産の技術的又は経済的な競争力も重要な検討点となる.米国の計画では,連続生産など新技術を活用する生産への支援が重視された.59日本で原薬の国内生産を長期的に機能させるには,同じ課題を持つ欧米諸国と生産品目を分担し,相互供給により生産量拡大によるコスト低減を進めることも選択肢となる.医療用医薬品のサプライチェーン強靱化は,経済安全保障の推進と関連した観点からの取り組みも期待される.

6-3. 薬局方など公定書の規格・試験法の国際調和

医薬品の製造や製品品質の評価に関する基準の国際調和は,ICHガイドラインや,PIC/S GMP,日米欧で共通する三薬局方調和検討会議(Pharmacopeial Discussion Group: PDG)で調和された試験法等の形で,製品の国際的な開発や流通における試験の重複排除に貢献してきた.これらの制度は,海外生産された原薬の品質に対する漠とした不安感の低減にも寄与している.一方で薬局方の中で代表的な医薬品毎の品質規格を定めた各条では,各局間の収載時期の違いなどにより,求められる試験法や項目や規格値が異なる品目も一部で存在する.海外製造の原薬は米国薬局方(United States Pharmacopeia: USP)適合品として国際流通することが多い.そのため差異の例として日本薬局方(Japanese Pharmacopoeia: JP)で確認試験として大型機器を要する追加的な項目が設定されている場合には,JP適合品としての入手に必要な試験実施に供給元の協力が得られず,実質的に同等な品質であっても国内で使用できないなどの問題が指摘されている.57この問題を持つJP各条は限られると思われ,課題点の早期把握と適切な代替法設定など対応が望まれる.一方で不純物(類縁物質)などの規格値の差異は,製剤の品質水準にも直結するため,差異の原因や流通品の実態を含めた,より多面的な検討が必要と考えられた.

7. 企業,行政,医療機関の協力

7-1. 問題の早期把握と情報共有

医薬品の供給障害につながる情報の業界と行政,医療機関での共有は,他社での同成分の製品の生産増による不足発生の回避とともに,治療法や医薬品選択の計画的な変更により不足の影響を低減するためにも重要となる.米国ではFDASIA法により,医薬品不足の原因となる事象発生時の製販からの報告を義務化するとともに,流通に関するユーザー側からの報告も状況把握に活用している.EMAも製販等にリスク把握時の迅速な報告を求めた.61国内では医薬品の供給不安が発生し得る問題発生時の,厚労省への報告が,安定確保策の一環として要請され,早期対応に向けた義務化が検討されている.62

医薬品の供給課題に関する情報を広範な医療機関や患者と迅速に共有するため,各国でWebによる不足品情報の公開が進んだ.63米国ではFDAが不足状態にある製剤と理由及び供給中止となった製剤のリストを,64別に米国病院薬剤師会が銘柄毎の状況や供給再開予定など詳しい情報を公開している.65また欧州ではEMAと各国機関が情報公開の指針を作成し,対象品の製品名,有効成分,不足の理由,発生(予想)日の一覧(shortages catalogue)を公表している.66,67国内では後発医薬品の業界団体がWeb上で品切れや,供給調整の対象となる製品の状況と,製品毎の医療関係者向けお知らせへのリンクを示した.68また厚労省は製販の関連HPへのリンク69を掲載している.これら供給障害に関する情報提供は,本来の目的とは逆に医療関係者の不安感を高め,需給状況を悪化させるリスクへの注意も必要となる.国内では出荷状況に関連する用語を日本製薬団体連合会(日薬連)が定義し,製販から出荷量と対応状況の情報を組み合わせて公表することにより,医療機関と薬局での状況把握の促進が図られた.70

7-2. 医薬品不足への行政の関与と安定確保医薬品

各国で医療用医薬品の不足が大きな問題となるとともに,流通確保に対する行政の役割も大きくなっている.国内ではセファゾリンの問題を経て医療用医薬品の安定供給に特化した公的な検討が,厚労省の医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(安定確保会議)として2020年から行われた.会議では供給問題の発生を抑制するための具体策として,各社での平時からの製造工程についての把握,重要医薬品でのサプライチェーンのマッピング,原薬の継続的調達と複数ソース化,生産・供給リスクの評価等が示されるとともに,基礎的医薬品の薬価維持,不採算品の薬価引き上げ等が議論された.また同会議では医療用医薬品の不足発生時に企業や行政,医療機関のリソースを有効に活用するため,医療系学会が各領域で必要不可欠とする医薬品から,供給確保に対する行政の関与が優先される506成分を安定確保医薬品,うち21品目を行政が最も優先して対応に取組むカテゴリーAとして選定された.

医薬品供給のリスクが想定される場合や,供給障害につながる問題が生じた場合の当局の対応として,工程の変更や代替品の緊急輸入に必要な手続きの優先審査のほか,上述の業務停止命令除外品の設定など,薬事面での手続きや判断も重要となる.大規模な不足が生じた場合の行政判断の例として,FDAは市場に残るエピネフリン製剤を有効活用するため,一部ロットの有効期間を特例的に延長した.71また安定確保会議では供給不足が生じる際の対応が医薬品供給調整スキームとしてまとめられた.62このスキームでは医薬品の特性や不足の理由に合わせ,他社により同成分の製剤が供給可能な例から,供給不足により治療の中断等が生じる場合(重大事象)に厚労省が行う当該医療機関への供給指示に至るまで,各段階を想定した対応が示された.医薬品の供給が限られる状況で,必要性の高い患者に製品を適切に分配するための方法は,今後も議論を通した改善が望まれる.不足の影響を軽減するうえで医師と薬剤師の役割は大きく,関連学会による代替薬や代替治療の検討は,対応の判断に重要な情報となっている.72また不足が予想される医薬品に対する発注の必要最低限への抑制など,医療機関と薬局の判断も状況悪化を抑制するために重要となる.73同会の検討は原薬調達の改善を念頭に開始されたため,連続して発生したコンプライアンス問題による供給障害は想定を遙かに超えた規模であったが,準備過程にあった対応策は混乱の低減に寄与した.

8. 適切な製品の持続的な流通

医薬品の安定供給を確保するうえで,製造所の運営に不可欠な人的リソースや設備など長期的な計画による投資の重要性は各国で共通する.一方で医療用医薬品の製造や品質状況は製品を購入する医療機関から見えにくく,一般的な後発医薬品の銘柄選択では価格(薬価と納入価との差)が重視されるため,薬機法上の義務となるGMP遵守以外の長期的な取り組みにコストをかけた製品は,競合時に不利となることが多い.そのため医療機関が適切な製品を選択するための情報提供は,安定供給の基礎として重要な意味を持つ.

この対策としてFDAは,安定供給の基盤となる製造所の状況を医療機関や医薬品の共同購入組織に情報提供する事業(QMM)を2022年に開始した.41QMMではFDAが製造所の薬事監視の重点化を目的としてGMP調査や品質マネジメント状況の検討から組織内で作成した水準の指標(quality metrics)を活用し,管理状況に関連したその他の情報と合わせて医療機関等に提供される.

一方で国内では製品の品質状況の提供と薬価の設定方法が,適切な製品の安定供給を支える役割を担っている.品質関連の情報としてジェネリック医薬品品質情報検討会が,厚労省と公的試験機関が実施する一斉(規格)試験の結果とともに,製品の不純物量や溶出挙動比較など詳細な評価のデータを医療用医薬品最新品質情報集(ブルーブック)としてWeb掲載し,製品の改善と銘柄選択を補助する取り組みを2008年から続けている.7477QMMと検討会の活動は評価対象の差はあるものの,適切な製品選択に向けて薬事上の義務以外の情報を提供する点が共通する.

国内では薬価が医療用医薬品の実質的な価格上限となることから,後発品や長期収載品の安定供給には,薬価の水準や設定方法が果たす役割が大きい.国際的に医薬品の原材料価格が上昇する中で,安定供給と国民の医療費負担増の抑制を両立させる薬価水準のあり方は,2022年から開始された有識者検討会の主要テーマとしても取り上げられた.78一般的に後発医薬品や長期収載品はライフサイクルの進行とともに全体の需要が減少し採算も悪化するが,代替策が不十分な状況での製品供給の撤退は,海外で長期にわたる医薬品不足の大きな原因となっている.国内でも後発医薬品の使用量が安定期に入り,製品の絞り込みが各メーカーの経営課題とされる.品質問題の原因となった製販の能力を越える品目数の開発と同様に,生産量が過度に少ない製品をメーカーが多数抱え続けることも,品質管理面から望ましい状況とは考え難い.個別製品の撤退について,医療への影響を抑えるとともに,特定メーカーに負担を集中させないルールを策定していくことも必要と考えられる.

9. まとめ

医療用医薬品の安定供給は製販の責務であるとともに,国民生活に直結する課題として各国の薬事当局による対策が進められている.国内では一部企業の製造工程でのコンプライアンス問題が大規模な供給不足を招き,医療機関と患者に大きな影響を与えた.一方で供給障害の要因は多様であり,安定性モニタリングでの規格不適合の発生による回収の増加は,製剤学・薬剤学を活用した開発段階での検討による製品品質の頑健性向上の重要性を示した.安定供給の確保には企業の努力とともに,品質と生産の持続性を重視した製品が選択され,必要なコストが負担される環境の整備も重要となる.

謝辞

本研究の一部は,AMEDの課題番号JP22mk0101220の支援を受けた.

利益相反

筆者らは国立医薬品食品衛生研究所で,医薬品の試験業務及びジェネリック医薬品品質情報検討会の事務局業務を担当している.ほかに開示すべき利益相反はない.

Supplementary Materials

この論文のオンラインにSupplementary materials(電子付録)を含んでいる.

REFERENCES
 
© 2023 公益社団法人日本薬学会
feedback
Top