2023 年 143 巻 3 号 p. 281-295
Although the need for homecare medicine for children is increasing in Japan, few studies have focused on the role of pharmacists in this area. The purpose of the present study was to clarify the practice process of pharmacists in pediatric homecare medicine and develop a practice model. Three pharmacists with experience in homecare medicine for children participated in semi-structured interviews. The data were analyzed using the modified-grounded theory approach (M-GTA). The analysis generated 8 categories and 21 concepts. The practice of pharmacists in homecare medicine for children is the pharmacotherapy management process, and it aims at “enabling the transition from hospital to home for children and continuity of their homelife with family” in collaboration with other professions. Above all, the two concepts of “optimization of prescription and device selection to enable the hospital-to-home transition” and “optimization of prescription and device selection for ensuring patient safety” form the core of clinical decision making in the pharmacotherapy management process. By integrating these two optimization concepts, the transfer of patients to home can be undertaken smoothly, leading to safer pharmacotherapy in the lives of patients and their families. Furthermore, pharmacists considered clinical decision making from two perspectives: “the child’s growth-based approach” and “homelife-based approach.” The foundation of these practice processes comprised “professional responsibilities” and “consideration of families’ feelings.”
医学や医療技術の進歩を背景として,この半世紀における日本の新生児救命率は世界最高水準を継続し,小児医療の救命率も大きく上昇している.これに伴い人工呼吸管理や栄養管理などの医療的ケアを必要としながらも在宅生活に移行する医療的ケア児は増加傾向にあり,全国的にみても2020年度の在宅の医療的ケア児は推計で約2万人とされ,この10年間で2倍増となっている.1)医療的ケアを継続しながら成長する子どもたち(以下,患児)の原疾患や医療的ケアの種類は様々である2)が,医療依存度が高いことから,患児が日中を過ごす通いの場の不足3)や患児の医療的ケアを日常的かつ恒常的に支える家族の心身の疲労や社会的孤立4)への支援が喫緊の課題となっている.
これらの課題を受けて,患児や家族への支援は,2016年の障害者総合支援法及び児童福祉法の改正により,保健・医療・福祉・教育・労働等の関係機関の連携体制の構築に始まり,2021年の医療的ケア児支援法の成立によって,その動きは加速されつつある.特に,多職種連携による小児在宅医療が推進されている中で,医薬品や医療機器の安全かつ確実な供給体制の確保と充実における薬剤師の積極的な参加と薬学的な観点からの貢献は重要であると思われる.5)
しかし,国内の小児在宅医療に関して薬剤師の立場から言及した論文はほとんどなく,科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency: JST)が提供するJ-GLOBALの文献検索で,タイトルに「小児」and「在宅or訪問」and「薬剤師or薬局or調剤」のキーワードを含み,記事区分が原著論文であるのは3文献,6–8)短報も3文献9–11)のみであった.また,小児在宅医療における医療従事者の役割に関する研究では,看護師を中心としたものは多数あるものの,薬剤師に関する報告を見い出すことができない.小児在宅医療における多職種連携に関する報告も数多くあるが,その中に薬剤師に関する記述はわずかであり,12)小児在宅医療に係わる薬剤師像はまだ明確ではない.9) 2021年7月に日本薬剤師会にて実施された「医療的ケア児に対する薬学的ケアの実態調査」13)では,在宅人工呼吸療法・在宅気管切開管理・在宅経管栄養法・在宅中心静脈栄養法(home parenteral nutrition: HPN)等を要する幅広い年齢層の医療的ケア児の薬学的ケアに地域の薬局が係わっており,医療的ケア児の調剤を行ううえで特別に配慮すべき薬学的管理の実態も浮かび上がりつつある.14)また,2021年8月には厚生労働省の「令和3年度成育医療分野における薬物療法等に係る連携体制構築推進事業」15)の一環として,10都府県薬剤師会における医療的ケア児の在宅医療に対応した薬局薬剤師養成のためのモデル事業がスタートしている.今後の医療的ケア児の在宅医療及びそれを支える薬剤師の育成の推進に向けては,小児在宅医療に係わる薬剤師の役割を定式化することが課題となる.
本研究では,小児在宅医療に係わる薬剤師にインタビューを行い,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスを明らかにし,実践モデルを構築することを目的とした.本研究の成果として,小児在宅医療に求められる薬剤師の役割を明らかにすることで,小児在宅医療を担う薬剤師の育成に向けた教育的示唆を与えることができると考える.
小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスを明らかにし,実践モデルを構築する.
2. 用語の定義本研究における用語を,以下の通り定義する.
小児在宅医療における薬剤師の実践プロセス:薬剤師が,基礎となる科学的知識と調剤に係わる技能や態度を統合して用いて,様々な価値観が存在する小児在宅医療の現場において,患児と家族のQOLの向上又は維持を目指す薬物療法に関する考えを定め,責任を持って提供する過程と定義する.
実践モデル:実践プロセスの要素とそれらの相互の関係を定式化して表したものとする.
3. 研究デザイン本研究は,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスを,修正版grounded theory approach(modified-grounded theory approach: M-GTA)を用いて明らかにする質的帰納的研究である.Grounded theory approachは,アメリカの社会学者バーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスの二人によって1960年代に考案された研究方法論であり,16)人間科学,社会科学における実践的科学論として国際的に高く評価されている質的研究の方法論である.17)木下によれば,M-GTAは,grounded theory approachの方法論を体系的に具体化したものであり,18)社会的相互作用に関する人間行動の説明モデルを生成するものである.19)分析においては,半構成的面接法によるインタビューデータを前提とし,20)データに内在する文脈性の理解として,個人の中に存在する意味や個人と他者との関係性の中に存在する意味を解釈するものである.21)そして,分析テーマと分析焦点者,分析ワークシートといった方法論としてのデータ処理の科学的手続きを重視することで,データの意味の解釈の確からしさの確証を検証することを可能とし,生成された概念や理論の客観性を担保するものである.22)
M-GTAは,ヒューマンサービス領域における,複雑で変化を伴う社会的相互作用とプロセス的性格を持つ現象の解明に適しているとされている.23)小児在宅医療における薬剤師の実践は,患児や家族に対して医療サービスとして提供される行動であり,人間と人間が直接的にやり取りをする社会的相互作用が含まれる.また,その社会的相互作用は,患児の病状や患児の成長・発達及び患児と家族の日常生活とそのニーズの変化に対応する形で展開されるといったプロセス的性格を持つ.加えて,その社会的相互作用の背景にはミクロ的レベルでは薬剤師自身の思考・認識,価値観や信念,感情の動きが,マクロ的レベルでは薬事法・保険制度,組織やシステムといった医薬品や医療機器の供給体制のあり方も係わる複雑な現象であると推察されることから,本研究で扱う現象の解明として,M-GTAの有効性が期待できると考えた.
4. 研究対象者M-GTAは度数による分析ではないため,インタビューの人数が最低何人必要かといった判断基準はなく,24)一人あたりのデータ量と内容の詳しさ等のデータの質を重視する.20)本研究では,小児在宅医療の経験のある薬剤師の絶対数そのものも少なくインタビュー人数が限られることが予想されたため,ディテールに富む内容のデータを収集する必要性20)から,保険薬局での小児在宅医療の経験があり,かつその経験に関連する学会発表や講演・執筆歴を持つ薬剤師歴20年以上の薬剤師を研究対象者の条件として設定した.
5. データ収集5-1. データ収集期間・時間2020年1月21–28日にインタビューを実施した.インタビューはA, B, Cの順に行い,インタビュー時間は1名あたり平均93分(86–96分)であった.
5-2. データ収集方法半構成的面接法により研究対象者1名に対して1回,インタビュアー3名(主となるインタビュアー1名,補助となるインタビュアーが2名)でインタビューを実施した.主となるインタビュアーが中心となって研究対象者に対して,インタビューガイド(Q1.どのようなお子さんとかかわったことがありますか? Q2.そのお子さんはどのような問題を抱えていましたか? Q3.課題解決のためになさったことを教えてください.Q4.なぜそのような手段をとったのですか? Q5.なぜそのような手段がとれたのですか? Q6.その結果どのような反応がありましたか?)に基づき問いかけ,小児在宅医療における実践場面・状況・内容について自由に語ってもらった.また,補助となるインタビュアーは,研究対象者の回答が設問内容と関連しているかを把握しながら,適宜,トピックを更に掘り下げたり,回答の意味内容を確認するような介入を行った.インタビューは許可を得てICレコーダーに録音し,その内容は匿名性を保持した形でテキスト化し分析データとした.
6. データ分析方法6-1. 分析テーマM-GTAにおける分析テーマとは,これから分析で明らかにしようとする問いにあたるものであり,25)次項に示す分析焦点者を行動の主体とした社会的相互作用のうごきの特性を説明できる概念やモデル生成の作業を方向づけるものである.26)本研究では「小児在宅医療における薬剤師の実践プロセス」とした.
6-2. 分析焦点者M-GTAにおける分析焦点者とは,分析のために設定される抽象的存在であり,その人間の視点を介してデータの解釈を行うものである.26)本研究では「小児在宅医療に係わる薬剤師」とした.
6-3. 分析の手順M-GTAでは分析データから概念生成を行う作業用のフォーマットとして分析ワークシートを用いる.概念名,定義,具体例,理論的メモからなり,生成される概念のひとつごとに完成させていくものである.26)
まず,分析テーマと分析焦点者の視点から分析データをみていき,関連する箇所を具体例として分析ワークシートに転記した.転記した具体例を,分析焦点者である小児在宅医療に係わる薬剤師にとってどういう意味になるのかという視点で解釈した内容を簡潔な文章で定義欄に記入し,定義を更に凝縮した言葉を考え概念名を記入した.27)それ以降は既に抽出された概念の類似例や概念の新規生成に着目しながらデータを継続して分析し,ワークシートの具体例の追加や概念生成を繰り返した.27)
また,複数の具体例と定義や概念名との対応関係を確認して修正するなかで,定義と概念名を定式化した.27)データから概念を生成し,概念の相互比較から概念を抽象化したカテゴリーを生成した.28)この一連の作業に関連して浮かんだ疑問及び解釈上のアイデアを理論的メモ欄に記録した.
最終的に,分析テーマで設定した問いに対する結果であるプロセスを説明できること,つまりデータの追加をみても概念やカテゴリーの新規生成には発展せず,中核をなすカテゴリーを中心としたカテゴリー間の構造が変動せずにカテゴリー相互の関係性が安定していると判断したのちに,分析結果を確定した.29)そして,分析テーマの現象を,カテゴリーと概念間の関係を図示化した結果図と,主要なカテゴリーを用いて簡潔に文章化したストーリーラインとしてまとめた.30)なお,分析過程における共同研究者間との議論と検討により,分析ワークシートの更新作業を行いながら共同研究者間で統一した記録を残しつつ,分析結果の信頼性と妥当性を確保した.
以下,本文中において,カテゴリーは《 》,概念は〈 〉で示す.データの一部を引用する場合は‘ ’で括る.また,引用したデータの文末のアルファベットは当該概念に関する具体例が得られた研究対象者を示し,同じ概念が導かれた研究対象者を( )付で示す.
6-4. 概念生成の提示まず,分析データの‘無菌室を作った第一号店なので,そこに自分が配属され,自分は選んでもらったんだ,だったら頑張んなきゃいけないんだなっていう気持ちでしたね.’に着目し,この箇所を含む文脈を具体例として分析ワークシートに転記した.これを「地域において無菌調剤室を備えた薬局が希少ななかにあってもHPNを担う保険薬局としての社会的な役割を自覚し,自分が頑張らなければならないという義務感情を伴う心構えを持つこと」と定義し,〈HPNを担う責任感を持つこと〉と概念名を付け,データとの最初の接点とした.M-GTAでは,最初の接点はデータから分析研究者自身が導くこととなっている.31)この箇所に着目した理由は,3名の研究対象者がインタビューの早い段階で同様に語り,分析テーマと関連性があると判断したためである.この概念を比較分析の出発点として分析を進め,概念を随時追加していった.別の研究対象者のデータ中から‘組織立って多くの患者さんに,クオリティーの高い,サービスを提供していくっていうのがやっぱり使命だから’を含む文脈に着目した際は,当初は〈HPNを担う責任感を持つこと〉と同じ概念に属する具体例と解釈していた.しかし,責任感は義務感情を伴う反面,使命感は前向きな熱意を含む感情であることから別概念であると解釈し直し,これを「調整手順が複雑かつ汚染リスクの高い小児HPNを無菌的に調製し,多くの患児に安定供給するための仕組みをつくる熱意を持つこと」と定義し,新たな概念としての〈HPN供給について広く安定的な体制づくりへの使命感を持つこと〉を生成した.
6-5. 倫理的配慮本研究は,「ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則」及び「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従い,計画書を遵守して実施した.研究対象者に,研究の目的・意義,研究の対象と方法,研究への自由意思参加と同意取消しの自由,研究結果及び公表における個人情報の守秘扱い,研究への参加の有無による不利益はないこと等を文書と口頭で説明し,同意書にて同意を得た.本研究は,帝京大学医学系研究倫理委員会で審査を受け承認を得た(承認番号 TUCI-COI 19-1117).
研究対象者は,保険薬局にて小児在宅医療の経験を有する3名(以下,A–Cの記号で示す)の薬剤師であった.研究対象者Aは薬剤師歴30–35年の男性で,これまでに係わった医療的ケアを要する小児科患者数(以下,医療的ケア児数)は約250名であった.研究対象者Bは薬剤師歴25–30年の男性で,これまでに係わった医療的ケア児数は約40名であった.研究対象者Cは薬剤師歴30–35年の男性で,これまでに係わった医療的ケア児数は約500名であった.分析データは1名あたり平均33286字(29936–38266字)であった.
分析の結果,21の概念と8つのカテゴリーが生成された.結果図(Fig.1)とストーリーラインを示す.
小児在宅医療における薬剤師の実践は,〈家に帰りたい・家族として当たり前に暮らしたいという思いに応える〉ための《患児・家族の地域生活への移行・継続の実現》を目指した薬物療法のマネジメント・プロセスであり,〈看護師とのチームワーク形成〉や〈医療機器を含む院外処方支援〉といった《他の専門職との協働》の下で実践される.
薬物療法のマネジメント・プロセスの諸要素,つまり,この実践モデルで重要なのは,〈院外処方できない医薬品に対する代替案の提案〉や〈地域では適応外の医療機器・医療用具に対する代替案の提案〉を行う《地域生活を可能とする医薬品・医療機器への最適化》と,〈複数の注射薬の配合変化を防ぐための化学的安定性の考慮〉と〈化学的変化を防ぐための医薬品と医療機器の化学的相互作用の考慮〉と〈カテーテル感染を防ぐための微生物学的リスクマネジメント〉とをふまえたうえで処方提案する《患児の安全を確保する医薬品・医療機器への最適化》であり,臨床判断の中核をなしている.
次に,この実践モデルで重要なのは,小児在宅医療の薬物療法に係わる薬剤師が,《地域生活を可能とする医薬品・医療機器への最適化》と《患児の安全を確保する医薬品・医療機器への最適化》の統合をはかり臨床判断をくだすうえで,《患児の成長をふまえたアプローチ》と《家族の生活をふまえたアプローチ》の2つの視点を基にして熟考していることである.《患児の成長をふまえたアプローチ》では,〈就学機会の確保のための夜間のみの周期的な中心静脈栄養法(total parenteral nutrition:以下,TPN)への対応〉,〈運動機能の発達に応じた輸液の重量調節〉,〈HPN離脱を見据えた食支援〉を視野に入れていた.一方,《家族の生活をふまえたアプローチ》では,〈頻回受診のストレスから解放するためのHPN長期処方と分割調剤〉,〈介護者の休養を確保するための投与スケジュールの簡素化〉,〈家族の日常性確保のための訪問頻度の最小化〉を視野に入れている.《患児の成長をふまえたアプローチ》と《家族の生活をふまえたアプローチ》は,患児・家族が地域生活に移行・継続するうえで抱える問題を対象化することを意味している.これらの熟考のうえで,臨床判断の最適解である処方の提案や調剤・供給方法に結びつけることによって,目の前にいる患児一人ひとりと家族の思い描く生活への移行と日常性の継続が可能となるのである.
そして,この実践モデルの基盤は,小児在宅医療を担う薬剤師の《専門職としての責務》と《家族へ寄り添う思い》といった姿勢から成り立っている.《専門職としての責務》とは,〈HPNを担う責任感を持つこと〉,〈HPN供給について広く安定的な体制づくりへの使命感を持つこと〉,〈HPN供給を途切れさせない信念を持つこと〉,〈臨床問題の解決へ向けた追究心を持つこと〉を意味する.《家族へ寄り添う思い》とは,〈家族としての生活と日常性の尊重〉を最優先とし,〈家族の不安の軽減〉や〈家族の感情の傾聴と共感〉に努めることを意味する.以上のような,薬学的観点から介入できる実務者としての《専門職としての責務》と,一医療人として利他的観点から介入できる癒し手としての《家族へ寄り添う思い》の両側面が,薬剤師の実践プロセスを支えていることが浮き彫りになった.
2. カテゴリーと概念の説明8つのカテゴリーと21概念を,代表的なデータを用いて説明する.
2-1. 《Enabling the transition from hospital to home for children and continuity of their homelife with family:患児・家族の地域生活への移行・継続の実現》このカテゴリーは,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスの帰結を示し,1つの概念から構成された.後述する他のカテゴリーは,この帰結を生み出すための条件や前提として位置づけられるものであった.言い換えれば,《患児・家族の地域生活への移行・継続の実現》は小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスの目指す終着点でもあり,実践プロセスの各要素の原動力にもなっていた.
〈Responding to families’ hopes for their homelife with family:家に帰りたい・家族として当たり前に暮らしたいという思いに応えること〉
地域において対応可能な薬局が極めて限られる小児用HPNの供給を通じて,患児の在宅移行を実現し,患児や家族の思い描く生活像に最大限近づけるようにすること.
‘生活,自宅の普通の生活ですね.目が覚めた時にお父さんお母さんがいて,兄弟がいて,病室の天井ではなく,家のやはり雰囲気っていうのが,それが,当たり前のことですけれども,このお子さんは生まれてからまだ家に一度も帰ってないので,その当たり前のことがなにも出来てない状況です.だから,当たり前の状況をなんとか,実現してあげたい,たぶんそれを親御さんたちは一番望んでることだと思いますので,そこにやっぱり,最大限近づけるようにする.’(A),B,(C).
2-2. 《Collaboration with other professions:他の専門職との協働》このカテゴリーは,小児在宅医療における薬剤師と他の専門職との協力関係や信頼関係を築く行動を示し,2つの概念から構成された.専門医療機関という強固な組織内だけではなく,地域の医療職までも包含する緩やかな連携の中で,薬物療法のマネジメント・プロセス全体を安全・円滑に進行させる多職種間の相互作用である.
〈Forming teamwork with nurses:看護師とのチームワークの形成〉
患児や家族にとって,より安全で適切な薬物療法や医療的ケアが遂行されるように,看護師と協働体制を築くこと.
‘最初〇〇君がうちにいた時に,その看護師さんが一緒にいるときに行ったんですよ.例えば針の固定の仕方とか,まあ消毒の仕方とか,もうこう,教えてもらいながら,〇〇君は結構筋緊張が強くてですね,その緊張を起こすと,ポートに入れた針が浮いちゃうっていう話をまあ,お母さんから聞いていて,じゃあそれだったらあっちの○○(病院)の使ってる針の方がきっと固定しやすいだろうな(と提案した).たぶん,そこで看護師さんにこうやって固定して絆創膏をこう止めて~みたいな話を聞いてなかったら,想像みたいなのはできなかったのかもしれない.’(A),(B),C.
〈Support for doctor’s out-of-hospital HPN prescription with medical device:医療機器を含む院外処方支援〉
医薬品のみならず,院外処方せんへ記載できる医療機器に関する情報提供も含めて,積極的に処方提案し医師と連携すること.
‘やはり必要なカロリーとか水分量とかがあると思うので,それに見合うように,病院で使われている薬剤から,院外の処方であれば,これが適当ですよ,妥当ですよっていうところをお医者さん,病院の方に提案をしていくことをしました.(略)処方権はお医者さんなのですが,もうこれで提案するので,これで,このまま処方を書いてくださいっていうような内容にして,医療連携室にはお渡しして,それをお医者さんの方で判断して,問題ないんじゃないかというところで,(院外処方箋を)書いてもらって継続してった.’(A),B,(C).
2-3. 《Optimization of prescription and device selection for ensuring patient safety:患児の安全を確保する医薬品・医療機器への最適化》このカテゴリーは,医薬品や化学物質等の生体への影響を理解するための科学的知識と,調剤に関する技能的知識を,患児や家族の状況に応じて調整しながら,より安全な薬物療法へ導く行動を示す.最適化の対象には,医薬品・医療機器・調剤・処方・供給を含むこととし,3つの概念から構成された.
〈Consideration of chemical stability of injectables to prevent changes in mixed solutions:複数の注射薬の配合変化を防ぐための化学的安定性の考慮〉
主薬が最も安定した状態を保持できる液性となるよう製剤設計されている注射薬を,2種類以上混合して使用する際に,酸塩基反応やpH変動による含量低下や変色・沈殿を生じないよう,液性に配慮しながら混合手順を考えること.
‘元となる高カロリー輸液に,いろいろ薬剤を注入していく順番として,これはたぶん,薬剤師だからできたのかなと思うんですが,やはり一番考えなければいけないのが配合変化ですね.変性.持ち帰った後の状態も想像しながらですね.いろいろ調べました.(略),混注していく順番の手技をこれなら大丈夫かなっていうのを考えました.(略)最初のその作る段階の順番を考えるっていうところも,頭を使ったかなと.もう薬学,薬科大で学んだ,勉強した薬理であったり,薬剤学であったり,色んなのをこう集約しながらやったような気がします.(略),一番は液性ですね.pH値で,沈殿するとか,色が変わるとか,配合変化とか,一番そこが,関わってくると思うので,pH値をみて,この近いpHのものであれば,混ぜて大丈夫だろうと.当然pHが離れている,酸とアルカリ混ぜれば沈殿するのは当たり前なので,そこは避けて,最適だと思われる,方法で混ぜた.’(A),B,(C).
〈Consideration of chemical interaction between injectables and devices to prevent changes in chemical properties:化学的変化を防ぐための医薬品と医療機器の化学的相互作用の考慮〉
医薬品が医療機器を介して投与される医療的ケア児の薬物療法において,医薬品と医療機器・医療器具の接触面に注目し,その素材と医薬品の反応性に注意を払い,薬効低下や小児特有の有害事象を防ぐよう考えること.
‘カテーテル(の種類は)いっぱいあるんですよ.(略),たくさん種類があって.薬って,その中に入ってるものがわからないと,適正な処方が出せないんですよ,本来ね.(略),どういう薬が対応してるとか,どういう風にやったらいいのかとか,(略),カテーテルを作ってるメーカーがこれでいいですって言ってもそれは違うよねっていう風に言わないといけない.’ A.
〈Risk management applying microbiology to prevent catheter related blood stream infections:カテーテル感染を防ぐための微生物学的リスクマネジメント〉
中心静脈内に留置されたカテーテルに菌が付着して生じるカテーテル関連血流感染について,微生物学的要因を把握したうえで,その影響を回避もしくは最小化する対策を講じて患者の安全を守ること.
‘一番気を付けたのは,やはり感染ですね,ポート感染が一番怖いので,感染を起こさない手技ってなると,やはり,なるべく混注といいますかね,(略),そこに入れる回数をなるべく少なくした方がやはり感染のリスクは少ないので,いくら無菌調剤でやっているとはいえ,なるべく,その手間をかけずに,でもしっかり,その子の1日分の水分や栄養が入る薬剤を作って,(略),自宅で保管しながら使ってもらうという状況にしました.’(A),B.
2-4. 《Optimization of prescription and device selection to enable hospital-to-home transition:地域生活を可能とする医薬品・医療機器への最適化》このカテゴリーは,医薬品や医療機器に関する知識と,それらが適用される社会制度や法律に関する知識をすり合わせて調整し,病院の中で行われてきた薬物療法を地域へ安全かつ円滑に引き継ぐための行動を示す.最適化の対象には,医薬品・医療機器・調剤・処方・供給を含むこととし,2つの概念から構成された.
〈Showing alternatives for medicines that cannot be handled legally at out-of-hospital pharmacies:院外処方できない医薬品に対する代替案の提案〉
入院中に使用していた注射薬がすべて院外処方に適用できるとは限らない状況で,保険薬局での取り扱いの認められていない注射薬を選別し,院外処方可能な他の医薬品への変更を,投与経路の変更も含めて提案すること.
‘病院の中で出せるお薬,点滴とか,注射薬は(略)院外処方として,その薬剤が出せるかどうかっていうのが,まずポイントで,そこで出せない,制限がかかっている,(略),院外処方としては不適当です,となってしまうと,そこから何に変えればいいかっていうところを退院支援の時に,退院支援をする先生方と相談をしなければいけない.’ B.
〈Showing alternatives for off-label use of medical device or equipment:地域では適応外の医療機器・医療用具に対する代替案の提案〉
医療的ケア児の医療と不可分である医療機器の在宅使用に法的問題が存在する32)中で,在宅使用が想定されていない医療機器を選別し,使用できる方法を探して入院中と同様の医療を継続できるよう提案すること.
‘重症感染症,の小児で抗ウイルス剤を使わなきゃいけない患者さん.定時的に落としたいんだけど在宅用のポンプが使えない(略)その抗ウイルス剤は,粒子径が大きくて,TPN用のフィルターは通らない.(粒子径)0.2(µm)ぐらいだとTPN用の在宅用の機械は使えないんすよね.だから,(略),ポンプを貸してくれるメーカーさんを探し(医療機関に紹介し)た.その子はその点滴が家でできなければ,おうちに帰れなかったんですよ.(略),でも帰せるよねって.こういうことをやったらって,そういうのを伝えてあげる.’ A.
2-5. 《Child’s Growth based approach:患児の成長をふまえたアプローチ》このカテゴリーは,薬物療法に関する知識やその周辺知識を用いて,子ども本来の成長や発達に伴う自由な活動や教育機会の確保,及び機能回復に応じた摂食嚥下機能獲得のための働きかけを示し,3つの概念から構成された.
〈Responding to cyclic TPN during night to obtain school opportunities:就学機会の確保のための夜間のみの周期的なTPNへの対応〉
医療的ケアがあると普通学級に就学できない状況33)に対して,日中は医療的ケアから解放されるよう,夜間のみの周期的なTPNを検討し対応すること.
‘TPNとか薬の処置があるとね,学校(普通級に)行けないですもんね,基本的にね,(略),だから,日中(学校に行っている間)は投与しないで,頑張る.(略),例えばデバイスの問題もいろいろ工夫もできるだろうし,手技上の問題もいろいろあるだろうし,点滴だの,経腸栄養だのやってないときの処理の仕方というか,そういうものの工夫も必要だろうし,そういうのがちゃんと工夫してあげられれば就学もできる.(略),四六時中点滴やる必要もほんとはなくて,ある一定の成長があった時には,じゃあ時間を少し切り替えましょうかっていうのもやっぱりお話してあげる.’ A.
〈Adjustment of fluid weight depending on development of motor function:運動機能の発達に応じた輸液の重量調節〉
ハイハイやつかまり立ち等の患児の運動機能の発達に伴い,患児自身が輸液を医療機器ごと背負って自由に活動できるように,輸液の交換タイミングの変更や,輸液バッグを分ける等の輸液の重量を軽くする工夫をすること.
‘動くようになってくると,寝てるときは結構大きい点滴でも全然よくて,ぶら下げておくだけでよくて.で,動き出すと,やっぱり大きい点滴じゃ,今度は持って歩くようになると,やっぱり,重たいとリュックサックと一緒でゴトンと後ろに倒れてしまったりとか,動けなくなっちゃったりとかするので,そういうときに,夜寝るときに,点滴バックを交換して,で,動き出すときには少し軽くなっていますよっていう,そういうちょっとした,タイミングの変更とか,あとは,まあ入れ物も小さい入れ物に小分けにしてあげる.’ A.
〈Helping to select nursing food looking ahead to be free from HPN: HPN離脱を見据えた食支援〉
患児の残存腸管機能の回復に応じてHPNに頼らず生活できるよう,34)患児の体質や嚥下機能に適した食品を選んで紹介し,家族による日常的な摂食嚥下訓練を支援すること.
‘(最終的には経口摂取できるようになり)訪問薬剤(管理指導)を卒業できた例なんですけども(略)介護の嚥下食で使うような食材があるんですけども,それもいろいろ調べて,この子に合う柔らかさ,メニューとか,そういうのが取り揃えられる,値段も,そこそこ手ごろでっていうところで,いくつか紹介させていただいて…’ B.
2-6. 《Homelife based approach:家族の生活をふまえたアプローチ》このカテゴリーは,患児の保育者と医療的ケアの介護者の2つの役割を負わねばならない保護者の生活背景を把握したうえで,薬物療法に関する知識やその周辺知識を用いて,家族の日常性の確保と患児や家族のQOL向上又は維持を目指す働きかけを示し,3つの概念から構成された.
〈Short-cycle HPN dispensing for long-term prescription to release stress from frequent visit to hospital:頻回受診のストレスから解放するためのHPN長期処方と分割調剤〉
院内処方で高カロリー輸液を受け取るために頻回に病院を受診しなくてすむように,院外処方箋でHPNが長期的に処方されるよう働きかけ,薬局で分割調剤して定期的に交付すること.
‘TPNの子は(略)先生(病院の医師)から薬もらわなきゃいけないんで.(略),その子もお母さんも,週に二回病院に,しかも大学病院で,1日かかって受診して薬もらってくるみたいな.(略),それが院外処方箋で定期的に,ある程度長期的にお薬が交付されて,しかも先生方も混ぜ合わせをしなくてよくて.そうすると子どもも学校にもちゃんと行けるし.(略)お母さんも(病院に)行く回数も減るし,パートに行けましたとか,そういう経済的にも豊かになるんですよね,一つ薬局が絡む(分割調剤する)ことでね.’ A,(C).
〈Simplification of dosing schedules to provide respite to caregivers:介護者の休養を確保するための投与スケジュールの簡素化〉
HPNの投与や交換を含む頻繁な医療的ケアによって,十分な休養がとれない介護者の睡眠や休息の時間を作り出すために,医薬品の剤形や投与時間を工夫したり,医療的ケアを簡素化したりすること.
‘お母さん寝てる時間あんまりないんですけど,朝六時に起きて,シソ油注入したり,エレンタールPを胃ろうからやってたり,この手技がわーっと続いて,もう休まる暇ないですよね.(略),お父さんお見送りとか,兄弟もいるんで兄弟お見送りみたいな.(略),簡素化してあげるとやっぱり,お母さんの手技的に少し間ができる.間を,一時間でも作ってあげるってのが多分大事だと思うんすけど.(略),多分いろんな剤形工夫したりとか,投与時間工夫したりとかしたりすると,やんなくてもいいものって多分出来てくる.’ A.
〈Minimizing frequency of visits by pharmacists so as not to disturb families’ ordinariness:家族の日常性確保のための訪問頻度の最小化〉
家族としての生活と日常性を尊重するために,他人が家に入るという状況を極力減らすよう訪問計画を考えること.
‘毎日届けるわけにはいかないので,この子の場合には,3日分・4日分と,分けて,週2回ご自宅に伺って,自宅で保管しながら使ってもらうという状況にしました.(略)このお子さんの家は,その子の点滴用にちっちゃな冷蔵庫を買ったようで,それでも1週間分は入らないので,やはり3日4日分入れて,いっぱいいっぱいになってしまうとこでしたけども,ちっちゃい冷蔵庫に納めなければいけない.(略)その家に入る,他人が家に入る,という状況をやはり減らしてあげたい.’ B.
2-7. 《Professional responsibilities:専門職としての責務》このカテゴリーは,責任を持って薬物療法を提供しようとする態度・公益増進に貢献する使命感・利他的奉仕の信念・自らの関与する学問分野への追究心など,小児在宅医療に係わる薬剤師の人間性や資質能力を示し,4つの概念から構成された.薬学的観点から介入できる実務者として,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスを支える基盤を構成する概念である.
〈Having a sense of responsibility for supply of HPN: HPNを担う責任感を持つこと〉
地域において無菌調剤室を備えた薬局が希少ななかにあってもHPNを担う保険薬局としての社会的な役割を自覚し,自分が頑張らなければならないという義務感情を伴う心構えを持つこと.
‘地域の調剤薬局でも,無菌調剤室,クリーンベンチ,クリーンルームというのを取りそろえるところが,(略)よほどの覚悟がなければ,資金がなければできないのですが,(略),設備,場所があったところで,(略),一から十までちゃんとできる手技を持っている人員が(略)私しかいなかったんですね.(略)自分は選んででもらったんだ,だったら頑張んなきゃいけないんだなっていう気持ちでしたね.’(A),B,(C).
〈Having a sense of mission for wide and stable supply system for HPN: HPN供給について広く安定的な体制づくりへの使命感を持つこと〉
調整手順が複雑かつ汚染リスクの高い小児HPNを無菌的に調製し,多くの患児に安定供給するための仕組みをつくる熱意を持つこと.
‘自分で調剤をして,自分で訪問をして,ってのは限界がある(略)組織立って多くの患者さんに,クオリティーの高い,サービスを提供していくっていうのがやっぱり使命だから,(略)ボランティア精神で頑張ってやっているよねっていう先生方いっぱいいらっしゃるんだけど,長続きやっぱりしないですよ.で,長続きしないのは誰に迷惑がかかるって患者さんに迷惑がかかっちゃうんですよね.’ A,(B).
〈Having a conviction to ensure continuity of supply for HPN: HPN供給を途切れさせない信念を持つこと〉
病院と地域間の保険制度の切れ目があるなかで,患児の生命維持に不可欠なHPNの供給を,病院から確実かつ円滑に引き継ごうとする強い考えを持つこと.
‘(院内で使用するTPNと在宅で使用するHPNは)薬剤が,薬品も違う,手技も違う中で作ったものがまた家に届く,それを使わなきゃいけないっていうところになると,親御さんが不安になるでしょうし,我々も同じ状態で,自分たちが作ったものが届いている状態(にしたかったので),退院時処方は申し訳ないんだけども出さないでくださいと,医療連携の方には言ったと思います.責任もって,退院した当日にでも,1個でも2個でも届けるから,そこはあの,何時になろうが,夜遅くなろうが,必ずやりますのでっていうことで,言ったと思います.’(A),B.
〈Having a mind to find a solution for clinical problems:臨床問題の解決へ向けた追究心を持つこと〉
小児在宅医療の薬物療法に関するエビデンスが乏しいなかにあっても,小児在宅医療における目前の問題を解決するために,臨床判断の根拠となる科学的根拠を納得のいくまで深く理解しようとする姿勢を持つこと.
‘正解は誰も分からなかったと思うので,やりながら,これは混ぜていいもの,これは混ぜちゃいけないものという,ハンドブックは色々出てるので,それもちょっと読み漁りながらですね.(略)一般的な書籍,注射の手技みたいなのは見ましたけど,それぞれの薬剤のインタビューフォームも全部目を通したうえで,ネットで紹介されている小児の輸液をやっている薬局の動画(略)をみて,処方の詳細自体はそれに近かったのでそれも参考になったかなあと思います.’(A),B,(C).
2-8. 《Consideration of family’s feelings:家族へ寄り添う思い》このカテゴリーは,家族にとっての安心できる暮らしを最優先し,家族の思いや価値観,感情の変化を大切にくみ取り,よき理解者として寄り添い,ときに家族の感情の吐露を促して家族の心の安定を図ろうとする姿勢を示し,3つの概念から構成された.一医療人として利他的観点から介入できる癒し手として,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスを支える基盤を構成する概念である.
〈Respecting homelife with family and their ordinariness:家族としての生活と日常性の尊重〉
医療従事者の頻繁な家庭訪問や医療的ケアを中心に家族の生活が規定されてくるといった非日常性の問題を抱えこまざるをえない背景を理解したうえで,一般的に家庭では当たり前とされる家族だけでゆっくり過ごす時間を大切に考え,配慮すること.
‘家族水入らずで,自由に過ごしてもらう,当たり前な生活があるわけ,始まるわけなので,それを楽しんでもらう,送ってもらえたら,いいかな.(略)在宅はというか,介護はですね,生活を見る場ですと.その生活に支障があることはなるべく,生活優先の場だから,その方の生きざまであったり,今まで何十年とこう生活してきた,ところを,足を踏み入れるわけなので,それを邪魔してはいけないんだ,というのをポリシーに持って.’(A),B,(C).
〈Reducing parents’ anxiety:家族の不安の軽減〉
在宅移行後の生活について家族の不安に焦点をあてながら,今後の不安を予測して事前に対策を立てること.
‘病院の先生とか看護師さんだけに会うんじゃなくて,必ずご本人とご両親には,入院中に面会というかお話をちゃんとして,こういう対応をさせてもらいますよとか,こういう頻度で訪問させてもらいますよとか,何か不安な点はないかとか,というのはお伺いをするんですね.(略)退院時の不安感というのが一番やっぱり患者さんに強くて,そこを少しでもハードルを下げてあげる.あと,どういう人がお家に来るんだろうという不安感みたいなものもあるので,自分が顔を見せることで,この人(面会した薬剤師)の同じ仲間の人がくるんだなって少し安心するというのもあったりとか.(略),そういう事前の情報はこういれといてあげるというのが,すごく大事ですね.やっぱり不安感を解消してあげるというのがすごく大事だと思いますね.’ A,(B),(C).
〈Empathic listening and understanding parents’ emotion:家族の感情の傾聴と共感〉
家族の語りに耳を傾け,家族の心の中にたまっていた言葉や感情に対して共感を示し,ときに癒すこと.
‘(ご両親は)ゆっくり自分の話を聞いてくれる場っていうのが,あんまりなかったみたいで,特に外来のドクターとか,訪問してくる看護師さんなんかも処置で忙しくて,(私は)愚痴を聞いてる方のが,圧倒的に,時間的に多かったかな.逆に,それが一番患者さんやご家族の役には立ってたんだろうなあという気はしますね.(略),納得しないまんま,医療の方が先にどんどん処置が進んでくっていうケースが結構やっぱり多くって,そういう意味で,自分の抱えてる疑問とか悩みを,解消しないまんま,来ちゃって.あんまり,そういったことを解消できる場も,ないんだみたいなところも,もう思い込んでるっていうか,思ってしまってるとこが結構あって.そういう意味では,逆に薬の話が出来なかった分,なんかそんな感じの話を聞いてた方が,多かったのかな.’(A),C.
小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスは,《患児・家族の地域生活への移行・継続の実現》を目指した薬物療法のマネジメント・プロセスであり,《他の専門職との協働》の下で実践されていた.
《患児・家族の地域生活への移行・継続の実現》を目指すことは,地域において調剤の対応可能な薬局が極めて限られる35)小児用HPNの供給を通じて,患児や家族の家に帰りたい・家族として当たり前に暮らしたいという思いに応えようとする薬剤師の指向性を意味し,薬物療法のマネジメント・プロセスを方向づける原動力になっていた.そして,《他の専門職との協働》である,患児の入院していた病院,地域の医療機関(かかりつけ医,訪問看護ステーション),保険薬局等の多機関多職種間との連携・協働といった相互作用によって,薬物療法の安全・円滑な進行が可能となり,患児の在宅移行の実現と,患児や家族の思い描く生活の継続を可能にしていた.
薬物療法のマネジメント・プロセスの諸要素,つまり,この実践モデルで重要なのは,院外処方や在宅使用に適う医薬品や医療機器の代替案を提案する《地域生活を可能とする医薬品・医療機器への最適化》と,複数の医薬品間や医薬品と医療機器間での化学的安定性及びカテーテル関連血流感染の予防を考慮し,患児や家族の状況に応じた処方提案や調剤上の工夫を行う《患児の安全を確保する医薬品・医療機器への最適化》であり,臨床判断の中核をなしていた.この両者の最適化の統合によって,患児の在宅移行が安全・円滑に引き継がれ,患児と家族の生活におけるより安全な薬物療法が導かれていることが明らかとなった.
小児在宅医療における薬物療法において,この両者の最適化の統合は,一般の成人用製剤の処方や調剤と比較しても想像以上に複雑な薬剤師の臨床判断によって支えられていることもわかった.具体的には,院外処方や在宅使用に適う医薬品や医療機器の代替案を検討する際の,注射薬の液性や調剤後の長期的な化学的安定性への熟慮である.患児の在宅移行を実現するためには,入院中に使用していた医薬品や輸液用カテーテル等の医療機器のうち,院外処方や在宅使用に適用できないものを選別し,保険薬局での取り扱いを認められている医薬品36)や在宅使用が可能な医療機器,37)あるいは医薬品の投与経路の変更も含めての検討が必要となる.ここでは,単に調剤報酬制度で実現可能な医薬品や医療機器への変更のみを意味するのではなく,同時に,注射薬の液性や調剤後の長期的な化学的安定性を熟慮したうえでの変更をも兼ね備えなくてはならないのである.なかでも後者では,例えば,小児TPNでは年齢や疾患によって必要な水分量,栄養量が異なり,成人用のキット製剤の適応が限られる38)ため,糖・電解質の基本液に,アミノ酸製剤,ビタミンや微量元素製剤を適量,混注して使用しなければならないため,調剤における混合手順を吟味しなければならない.7)また,混合による輸液や製剤の配合変化を生じないようにするだけではなく,調剤の手順が複雑になるほど輸液や製剤の細菌汚染されるリスクも高くなるため,無菌調剤の手順も簡素化する必要がある.加えて,小児TPNでは3種類以上の注射製剤が用いられたり,7)散剤調剤においては成人用製剤の粉砕加工作業も含まれたりする6,8,10,39)ことも珍しくなく,混合調剤による配合変化はもとより,薬剤の粉砕によって生じる薬物動態の変化や成分の吸湿性をふまえた粉砕の可否も吟味しなければならない.40)さらに,小児TPNでは輸液用カテーテル等の医療機器を介した投与が長期間に及ぶため,医療機器の素材と医薬品の吸着や収着41)といった反応性にも注意をはらい,薬効低下や健康有害事象を防ぐことや,医療機器等の選択においてはその経済性42)をも吟味しなければならないのである.
次に,この実践モデルで重要なのは,小児在宅医療の薬物療法に係わる薬剤師が,《地域生活を可能とする医薬品・医療機器への最適化》と《患児の安全を確保する医薬品・医療機器への最適化》の統合をはかり臨床判断をくだすうえで,子ども本来の成長や発達に伴う身体機能や活動範囲に応じた処方提案や調剤・供給方法を模索する《患児の成長をふまえたアプローチ》と,患児・家族のQOL向上・維持をめざして43)処方提案や調剤・供給方法を模索する《家族の生活をふまえたアプローチ》の2つの視点を基にして熟考していることであった.
患児は成長・発達にともなった十分な栄養が確保できないことやHPNから離脱できないといった栄養や食事面での問題や,HPNをしているがゆえに就学が困難になるといった問題33)を抱えている.一方で,患児を介護する家族は,HPNの投与や交換を含む頻繁な医療的ケアによって十分な休養がとれないといった問題4)や,HPNの保存や処方上の問題から頻繁な病院受診を余儀なくされるといった問題を抱えている.さらに,患児とその家族の生活は,これまでに述べた問題から派生する身体的・心理的・社会的・経済的な負担を強いられるだけはなく,医療従事者の頻繁な家庭訪問や医療的ケアを中心に家族の生活が規定されてくるといった非日常性の問題44)を抱えこまざるをえない.
小児在宅医療に係わる薬剤師は,このような患児・家族の抱える問題を把握しつつ,次のような検討を行っていた.例えば,患児の日中の活動や就学機会の確保のために,夜間のみの周期的なTPN45)の投与を検討したり,輸液交換のタイミングや輸液重量の変更を検討46)したりしていた.また,処方箋の受け取りのための頻繁な病院受診やHPNの投与や交換によって,十分な休息や就労の機会のとれない介護者である家族の物理的・経済的な状況を考慮し,長期処方と分割調剤,医薬品の剤形や投与時間の工夫,といったHPNの投与や交換に係わる医療的ケアの簡素化を検討したりしていた.加えて,患児の成長や発達,患児や家族の生活状況の変化に応じて,繰り返しの検討がなされていた.これらの熟考のうえで,臨床判断の最適解である処方提案や調剤・供給方法に結びつけることによって,目の前にいる患児一人ひとりと家族の思い描く生活への移行と日常性の継続が可能となるのである.
そして,この実践モデルの基盤は,小児在宅医療を担う薬剤師の《専門職としての責務》と《家族へ寄り添う思い》といった資質・能力から成り立っていた.《専門職としての責務》とは,地域において無菌調剤室を備えた薬局が希少ななかにあってもHPNを担う保険薬局としての社会的な役割と責任を自覚し,患児の生命維持に不可欠なHPNの供給を病院から在宅移行へ確実かつ円滑に引き継ごうとする信念や,HPNをより多くの患児に安定的に提供する体制づくりに使命感を持つことを意味する.また,小児在宅医療の薬物療法に関するエビデンスが乏しいなかにあっても,基礎化学の知識や,小児の病態・成長・発達・栄養に関する知識,代替えとなる医薬品・医療機器や複雑な調剤手技の安全性に関する信頼性の高い情報を模索し,目の前の臨床問題の解決に向けた追究心を持つことを意味していた.《家族へ寄り添う思い》とは,一般的な家庭では当たり前とされる家族だけでゆっくりと過ごす時間を大切に考え配慮するといった,家族としての生活と日常性を尊重することを意味した.また,在宅移行時や在宅生活を継続していくうえでの家族のその時々の思いや感情の変化を大切にくみ取り,傾聴と共感を示したり,不安を軽減したり,ときに癒すことを通して,家族の心の安定を図ろうとすることを意味していた.つまり,《専門職としての責務》とは薬学的観点から介入できる実務者としての資質・能力であり,《家族へ寄り添う思い》とは一医療人として利他的観点から介入できる癒し手としての資質・能力を示すものであり,これらの両側面が,小児在宅医療に係わる薬剤師の実践プロセスを支えていることがわかった.
2. 本研究の新規性緒言で述べたように,国内の小児在宅医療に関して薬剤師の立場から言及した論文は散見されるものの,小児在宅医療における薬剤師の役割は明確にはなっていない.
そのなかで,本研究は,多機関多職種との連携の下に,小児在宅医療に係わる薬剤師によって実践されている,患児・家族の地域生活への移行・継続の実現を可能とする薬物療法のマネジメント・プロセスにおける諸要素となる21の概念と8つのカテゴリーを描き出しており,新規の知見であると推察される.
小林らの研究11)によれば,今後の小児在宅医療の促進に必要な薬剤師の行動目標として,「小児薬物療法における薬剤師の役割を理解し,実践できる」,「小児の病態に配慮した薬用量と剤形・投与経路提案ができる」,「小児を理解するための発達小児科学,小児疾病,母子・小児保健の概要を理解する」の3つが挙げられている.本研究では,小児在宅医療における薬剤師の役割として,臨床判断となる,院外処方や在宅使用に適う医薬品や医療機器の代替案の検討と,注射薬の液性や調剤後の長期的な化学的安定性への熟慮をふまえた医薬品・医療機器の最適化,を明らかにした.また,この臨床判断をくだすうえでは,小林らの言う小児の病態に配慮するだけでなく,患児の成長や発達,患児や家族の生活状況の変化に応じて,患児や家族のQOL向上・維持をめざした処方の提案や調剤・供給方法を繰り返し熟考するといった新たな視点を提供するものである.
3. 本研究から得られる教育的示唆今後の6年制薬学教育では,社会的ニーズの変化に応じ,患者や地域の課題を解決に導くことができる医療人材の育成が求められており,鈴木らの提示した「課題解決能力」と「人間関係を円滑に形成していく能力」及びそれらの能力と基礎薬学を関連付けたコンピテンシー教育が重要視されている.47)
本研究結果では,薬学の基礎となる学問を中心に,多機関多職種の連携・協働によって,患児や家族の抱える課題を解決に導く実践モデルが得られ,かつ,鈴木らの提示したコンピテンシー教育の内容をより具体化できるコンピテンシーを明らかにすることができた.この実践モデルでは,小児在宅医療を担う薬剤師に必要な資質・能力であるコンピテンシーとして,目の前にいる患児一人ひとりと家族の思い描く生活への移行と日常性の継続を可能にするための,薬学的観点から介入できる実務者としての資質・能力に加えて,一医療人として人間学的観点から介入できる癒し手としての資質・能力が重要となることが明らかになった.具体的には,基礎化学の知識はもちろんのこと,小児の病態や成長・発達に関する知識に加えて,小児の栄養に関する知識,代替えとなる医薬品・医療機器や複雑な調剤手技の安全性に関する信頼性の高い情報を模索し,目前の臨床問題の解決に向けるといった情報リテラシーが求められている.また,小児在宅医療を担う責任感,使命感,信念,追究心や,患児や家族の思いや感情,患児や家族の思い描く生活を理解しようとする感性,患児や家族をはじめ多機関多職種からなるチームアプローチにおける人間関係構築力が求められている.これらの資質・能力は,小児在宅医療を担う薬剤師としての重要なコンピテンシーであると推察される.本研究結果で得られた実践モデルと具体的なコンピテンシーの提示の下に小児在宅医療を担う薬剤師の教育プログラムを策定することが望まれる.
4. 本研究の限界と課題本研究は,薬剤師歴20年以上で,保険薬局にて小児在宅医療に係わった経験を持つ薬剤師3名を対象とした調査から得られた限りの知見である.しかしながら研究対象数は相対的には少ないものの,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスと実践モデルの主要な特徴を把握することができたと言える.
一方で,研究対象者の特殊性として,次にあげるような限界をみることができる.例えば,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスとして,本研究で明らかになったのは小児HPNを通した薬物療法におけるマネジメント・プロセスに比重の多くが占められている.この背景には,インタビューにおいて研究対象者が小児在宅医療に係わる中で最も困難であり優先課題となる事項を重点的に語ってもらった結果として,HPNへの対応に偏ってしまった経緯がある.このことは,小児在宅医療に係わる薬剤師にとってHPNへの対応が重要事項であることは確かめられた一方で,HPN以外の対応については明らかにできなかったことを示すものである.また,多機関多職種連携においても医師や看護師との相互作用の実態しか拾い上げることができなかった.さらに,小児在宅医療を担う薬剤師としてのコンピテンシーもその一端を明らかにしたにすぎない.
以上の研究対象者の特殊性からみた限界をふまえ,対象者数を増やしながらの検証を積み重ねていくなかで,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスとして出てくる新たな実践モデル,例えば,小児HPNに因らない要素,薬薬連携の実態,多様な資質・能力などをすくいあげていくための因子探索型の質的・量的研究による検証が今後の課題となる.また,本研究結果が小児在宅医療の薬剤師の実践プロセスの領域で実践的に活用されるなかで検証され,現象把握の範囲の精緻化と拡大化につながることが望まれる.
本研究では,小児在宅医療に係わった経験を持つ薬剤師3名への半構成的面接法によるインタビュー調査に基づき,M-GTAを用いて分析し,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスを明らかにし,実践モデルを提示することを目的とした.
小児在宅医療における薬剤師の実践は,《患児・家族の地域生活への移行・継続の実現》を目指した薬物療法のマネジメント・プロセスであり,《他の専門職との協働》の下で実践されていた.薬物療法のマネジメント・プロセスのなかでも,《地域生活を可能とする医薬品・医療機器への最適化》と《患児の安全を確保する医薬品・医療機器への最適化》の二つが臨床判断の中核となり,この両者の最適化の統合によって,患児の在宅移行が安全・円滑に引き継がれ,患児と家族の生活のなかでのより安全な薬物療法が導かれていた.また,その臨床判断をくだすうえでは,《患児の成長をふまえたアプローチ》と《家族の生活をふまえたアプローチ》の2つの視点から熟考されていた.そして,小児在宅医療における薬剤師の実践プロセスの基盤は,《専門職としての責務》と《家族へ寄り添う思い》から成り立っていた.
本研究にご協力くださった薬剤師の皆様,並びに,本研究の実施の機会を与えて戴いた帝京大学副学長 井上圭三先生,同大学薬学部名誉教授 小佐野博史先生に心より感謝申し上げます.
開示すべき利益相反はない.