2023 年 143 巻 3 号 p. 257-260
Changing workplace attitudes toward clinical research is fostered by trial and error providing optimal therapeutic backgrounds and diverse ideas. On the other hand, students have many opportunities to learn while in university, and we hope that they will have hopes to contribute to team medicine and community health care, and still develop a research mindset. As one of the ways to achieve these objectives, students can be exposed to clinical research from an early point by sharing information with pharmacists and other professionals in the clinical field and working on their research projects. Our laboratory has been engaged in community health care challenges through collaborations with municipal hospitals and pharmacies in the region. In this context, we will introduce the connection between students and post-graduate education based on examples of graduation research worked on with pharmacists and professors of various professions. 1) Retrospective Study of Nutrition Risk Assessment Using Nutrition Tools: A research case study of a multidisciplinary collaboration on nutrition screening using three different nutrition assessment tools to clarify how nutritional endpoints affect nutrition risk assessment. 2) Validation of Causes and Countermeasures for Falls Using a Falls Assessment Score Sheet: Falls of the elderly in community health care. A case study of verifying fall prevention measures from the perspective of two factors: geriatric syndrome and multiple drug administration.
薬学6年制が開始され10年が経過し,卒後教育の充実も求められている.こうした中,病院及び薬局の臨床現場では日々の業務課題に加え,総合的な薬物療法の評価と実践能力の拡充,自己研鑽と教育の資質向上が求められている.1)実臨床での研究に対するアプローチは,個々の患者さんの背景や多様な考えに基づき,適切な治療支援のサポートをどのように行うかを試行錯誤することで育まれる.一方,大学在学中は学びのチャンスが多くある.大学内では,基礎研究に興味を持ち,低学年の頃から研究室に早期配属し,例えば,薬学とし製剤特有のdrug delivery system(DDS)研究に打ち込む学生もいる.一方,基礎研究に加えて,チーム医療や地域医療の貢献にも興味を持つ学生に研究マインドを養ってほしいとの思いがある.学生は臨床現場の薬剤師や多職種との間で情報共有を行い,研究課題として取り組むことにより早期から臨床研究に触れることができる.私自身が,基礎研究として製剤研究を介して,新たな薬物治療の視点の研究課題を行いつつ,臨床での問題解決に向けて,医療現場の薬剤師との議論は楽しみである.つまり,人材育成の視点では,学部学生の時代にどれだけ,多様な経験をするかが,社会人になったときの問題発見,解決の糸口になると考えられる.例えば,近年,「T型人材」という言葉がある.2)スペシャリストのことを「I型人材」,そして,ゼネラリストのことを「一型人材」,これを融合させて,「T型人材」と示すといわれている.I型人材の縦棒は専門性の深さを表し,一型人材の横棒は知識の広さを表すが,この両方を備えたT型人材は,専門領域にとらわれない広い視野で活躍できる,新しい人材タイプとされている.もし,学部学生のころから,臨床の薬剤師との交流を盛んに実施し,学部でも基礎力を臨床でどのように反映させ,活かすことができるかを考える機会があれば,将来,薬学性が薬学分野で活躍する際に一つの礎になると考えられる.しかし,そのチャンスを阻害する要因がある.その一つにヒト試験における倫理申請の必要性があげられる.ヒト試験研究は,実臨床において,ヘルシンキ宣言に基づいて,臨床ヒト研究を企画するうえで必須である.しかしながら,かならずしも,薬学部を持つ大学が附属病院や医学部を併設している訳でなく,卒業研究でヒト臨床研究を十分に実施できる状況ではない.しかし,薬学生が卒業し,臨床で解決したい問題に直面した際の解決として,研究テーマを掲げようとしても,ヒト臨床試験倫理審査書類を作成したことがないために,「研究ができない,やらない,あきらめる」という事象が少なからず生じているのではないだろうか.また,得られた結果をどのように分析・解析(統計処理)を行うか,という課題にも直面している可能性がある.
そこで,大学が臨床現場との研究融合を積極的に取り組むことで,薬剤師が時間を割いて作成する倫理審査作成への寄与,研究データの集計の効率化,そして学部学生は臨床現場における多職種連携の重要性を学ぶ機会となり,学生の意欲向上になると期待される.
これまでに当研究室では,地域の市中病院,薬局との連携を通じて地域医療の課題に取り組んできた.そこで,当研究室と外部医療施設と連携により,学生が主体的に参加した臨床研究事例について次の2つを紹介する.なお,本研究は城西大学の人を対象とする医学系研究倫理審査委員会の許可を受けている(承認番号:人医倫-2017-28A, 2019-12A).
入院時初期の患者の栄養リスク判定は大変重要で,栄養スクリーニングツールは,簡便かつ妥当評価の可能なものが理想である.Modified subjective global assessment(mSGA)は主観的包括的栄養評価(subjective global assessment: SGA)を入院患者に合わせて改変したものであるが,患者やその介護者の聞き取りが難しい場合,適切な評価が困難であり,妥当な評価の実施されない可能性が浮上している.5)そこで,栄養評価項目が栄養リスク判定に与える影響について検討することを目的とし,イムス富士見総合病院に入院した全患者(小児科を除く),1253名(平均年齢71.0±15.1歳)を対象にmSGA, malnutrition universal screening tool(MUST),mini nutritional assessment-short form(MNA-SF)による栄養スクリーニング判定を実施し,6–8)比較・検討することでより妥当な栄養評価ツールの探索及び評価項目の検討を行った.
その結果,mSGA, MUST及びMNA-SFによると,それぞれ15.1, 31.4, 24.2%が栄養不良であった.判定に起因する評価内容として,body mass index(BMI)はすべてのツールにおいて多く使用されており,そのほかにmSGAでは褥瘡,MNA-SFでは自力歩行や神経・精神的問題の「有・無」を多くの患者で評価していた.また,mSGAと比較し,MUST及びMNA-SFは栄養不良者が増加する傾向にあったが,栄養不良と判定される患者はそれぞれ異なっていた.
すべてのツールにおいて,BMI評価は判定に大きく影響しており栄養評価に必須であることが確認された.また,mSGA及びMUSTにおいては,食事減少及び体重減少の影響していることが確認された.それらに加え自力歩行を評価するMNA-SF(Table 1)は,mSGAと比較して評価項目数が少なく簡便であり,妥当なツールであることが確認された.また,結果を集計・考察するうえで,学生は医療スタッフとの意見交換が学びの機会となった.
A | Has food intake declined over the past 3 months due to loss of appetite, digestive problems, chewing or swallowing difficulties? | |
0= | severe decrease in food intake | |
1= | moderate decrease in food intake | |
2= | no decrease in food intake | |
B | Weight loss during the last 3 months | |
0= | weight loss greater than 3 kg | |
1= | does not know | |
2= | weight loss between 1 and 3 kg | |
3= | no weight loss | |
C | Mobility | |
0= | bed or chair bound | |
1= | able to get out of bed/chair but does not go out | |
2= | goes out | |
D | Has suffered psychological stress or acute disease in the past 3 months? | |
0= | yes | |
1= | no | |
E | Neuropsychological problems | |
0= | severe dementia or depression | |
1= | mild dementia | |
2= | no psychological problems | |
F | Body Mass Index (BMI) (weight in kg)/(height in m2) | |
0= | BMI less than 19 | |
1= | BMI 19 to less than 21 | |
2= | BMI 21 to less than 23 | |
3= | BMI 23 or greater |
本研究では埼玉県の中でも平均寿命が長い秩父市にある秩父市立病院との共同で,転倒転落アセスメントスコアシートの評価を行った.また,入院時の患者の転倒転落アセスメントスコアシートの評価を元に転倒と薬剤及び生化学的評価の観点から転倒転落の要因と対策について後ろ向き試験を行った.転倒転落アセスメントスコアシートの評価の結果,65歳以上の高齢者が約90%を占めており,秩父市立病院入院転倒患者は,フレイルが疑われる患者及び身体的抑制により日常生活動作に活動制限のある患者が多くいた.また,転倒転落既往がある患者は,再び転倒転落事例を生じる可能性が確認された.入院処置により身体的抑制が寄与し,活動抑制がある患者及び栄養状態がかならずしも良好とはいえない患者において,転倒転落のリスクがあることが確認された.生化学的観点からの評価の結果,BMI分類で低体重に分類される患者はBMI分類で肥満に分類される患者よりtotal protein(TP),albumin(Alb),hemoglobin(Hb)の値が低いことが示された.以上のことから,転倒転落事象を減少させるためには入院時に転倒転落アセスメントスコアシートを用いて患者の栄養状態,筋肉量を反映させる必要があると推測される.9,10)また,患者の栄養状態を生化学的観点から評価することで転倒転落を事前に予防できることが推測される.
上記,2つの事例とも地域市中病院との連携研究であり,薬剤師以外に栄養士及び看護師との連携した研究である.今回の2施設は,既に,6年制薬学の卒業生も入職しており,薬学生への教育にも熱心な施設である.地域連携によるメリットとして大学側及び学生は,1)臨床現場の栄養療法について知ることができる,2)チーム医療で活躍する薬剤師の立場に触れる機会ができる,3)臨床研究のテーマとなり学会発表などの機会が増える,4)倫理/統計など座学で学んだことの実践を行うことができる,そして,5)学生が臨床現場の臨場感を体験できる,などの利点が考えられる.一方,医療施設側としても,大学との連携により,1)膨大なデータの処理で時間と費用を要さない.2)外部介入があることで院内へのアプローチができる,3)学会発表/論文作成に協力して取り組むことができる,4)未来の薬剤師の教育に携わることができる,5)最近の薬学生を知る機会となる,などがあげられる.
研究を通して,網羅的に学生のみならず医療者への教育連携に効果があると考えられる.医療の急激な進歩により,専門知識やスキルを持つスペシャリストの必要性が高まっている.一方で,多様化の時代が到来し,グローバル化や医療環境の変化などに対応できる人材,いわゆるゼネラリストが注目されるようになった.しかし,スペシャリストは,一つの分野に特化し,他の分野との融合が困難になる場合があり,ゼネラリストは他の人材に対する優位性が示せないのが難点と考えられる.そのため,セーフテイーマネージメントである多様な専門知識やスキルを持ちつつ,幅広い知見も持つ人材が,多様化の時代に必要とされる.そのためには,新しいことにチャレンジする,正解のない中で答えを導き出す,アナロジー思考で行動する,などを大学教員は学生へ卒業研究を通して身につけさせるべきである.そして,基礎力と応用力の素養を有したハイブリッド人材の育成が必要である.2つの事例を経験により,大学と医療現場が融合研究を行うためには,予想もしない障壁を乗り越えなくてはならない.臨床現場の優先は患者・家族への適切な医療サービスである.臨床と大学との融合にはお互いの時間を接合する架け橋役が必要である.そのために薬学部の実務家(臨床)教員は,架け橋役として適度な匙加減(薬匙加減)を知っている.そして,聞き役にもなり,学生のニーズと臨床のニーズを融合させ,より適切な医療サービスへ貢献できる研究がスムーズに運ぶものと確信している.
最後に,大学教員はZ世代と言われる,学生へどのような支援をすべきか悩まされることもある.しかし,学びは止められない.だからこそ,大学教員は学生に協働活動を体験させ,T型人材及びハイブリッド人材を輩出すべきである.人材を「人財」として,将来の医療をしょって立つ後進の育成に力を注ぐべきである.
本発表に並びに研究にご協力をいただきました,秩父市立病院 副院長(薬剤部長)神山 英範 先生,秩父市立病院 薬剤部 磯田 明宏 先生,イムス富士見総合病院 院長 鈴木 義隆先生,イムス富士見総合病院 薬剤部長 上野 拓 先生,新戸塚病院 薬剤部長 亀村 大 先生,板橋中央総合病院 薬剤部 荒木 淳一 先生,群馬大学医学部附属病院 薬剤部長 山本 康次郎 先生に深謝いたします.また,城西大学薬学部栄養治療学研究室,及び薬局管理学研究室の教員,卒業生並びに配属生に感謝いたします.
開示すべき利益相反はない.