YAKUGAKU ZASSHI
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ケースレポート
ミノサイクリン投与中に血小板減少症を発現した一症例
冨田 詩織 藤井 良平今井 雄介西山 徳人田中 雅幸打谷 和記村中 達也
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2023 年 143 巻 5 号 p. 477-479

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Summary

Drug-induced thrombocytopenia is associated with bleeding tendency and suggests the need for the immediate suspected drug withdrawal. Patients with drug-induced thrombocytopenia usually experience an acute drop in platelet (PLT) levels a week or two after starting a new medication. Thrombocytopenia has both immune and non-immune mechanisms. Minocycline (MINO)-induced thrombocytopenia is rare; thus, there are few studies of this condition. In the present study, intravenous administration of MINO led to thrombocytopenia. The female patient was 80 years old. She was receiving radiation therapy for tongue cancer and medication for pain control. She had fever and aspiration pneumonia and was being treated with an antibacterial drug. Empiric therapy consisting of intravenous administration of tazobactam/piperacillin was performed; however, inflammation and fever did not improve. The bacterial drug was changed to vancomycin and cefmetazole. Sputum culture was positive for Enterobacter cloacae thus, we changed her treatment to MINO. Seven days after starting MINO, PLT levels were low; however, they recovered when treatment was stopped. Our findings suggest that MINO may rarely cause severe thrombocytopenia; thus, it is necessary to observe the patient’s blood collection.

緒言

薬剤性血小板減少は出血傾向を来すこともあり被疑薬の速やかな中止が必要である.薬剤投与が初めての場合は,血小板の体内でのターンオーバーにより7–14日後に血小板減少が発現する.薬剤を中止すると血小板数の増加が1–2日以内にみられ,7日以内に正常値に回復する.13血小板減少症のリスク因子は同定されていないが,骨髄機能抑制,肝障害,腎障害が認められる場合,又は自己免疫性疾患の診断を受けている場合には発現頻度が高くなる傾向がある.高齢者ほど使用薬剤が多くなることから血小板減少を発症するリスクが高まる.テトラサイクリン系抗菌薬のミノサイクリン(minocycline: MINO)はグラム陽性・陰性菌,リケッチア,クラミジアなどに抗菌スペクトラムがあり,肺炎や蜂窩織炎に使用される.有害事象として悪心,食欲不振,発疹,めまい,肝障害があり,報告は少ないが稀に血液障害を認める.4 MINOにより血小板減少を認めた症例報告はAddarioらのみである.5今回,MINO投与中に血小板減少を認めた希少な症例を経験したので報告する.

症例

1. 症例

80歳,女性,体重47.8 kg,身長146 cm, BMI 22.4.併存疾患として糖尿病があり,当院にて舌部分切除術施行歴,疼痛コントロール目的で入院歴がある.MINO開始前の検査データは白血球数5200/µL,赤血球数301万/µL,血色素量9.0 g/dL,血小板数22.0万/µL,尿素窒素7 mg/dL,血清クレアチニン0.40 mg/dL,クレアチニンクリアランス85 mL/min, aspartate aminotransferase 15 U/L, alanine aminotransferase 10 U/L,総ビリルビン0.4 mg/dLであった.

2. 経過

胃痛と嘔吐を繰り返し,腸炎疑いにて再入院となった(第1病日).セフメタゾールナトリウム(cefmetazole: CMZ)注2 g/dと補液で加療することで腸炎は改善したが,第6病日に舌部のcomputed tomography(CT)検査を行ったところ舌周囲の造影効果の増大を認めたため,舌がんの根治目的で放射線療法(70 Gy/35 fr)を開始することとなった(第16病日).放射線療法により腫瘍が縮小傾向にあったが,第62病日に発熱を認め,CT検査より誤嚥性肺炎が疑われ,タゾバクタム/ピペラシリン水和物注13.5 g/dによる治療が開始となった.第63病日から放射線療法は中断することとなったが,第70病日に放射線療法を再開し第72病日に完遂することができた.その後も誤嚥性肺炎に対し,継続してタゾバクタム/ピペラシリン水和物注で治療を行うも炎症所見の再上昇と発熱を認めたため,効果が乏しいと判断した.第94病日にバンコマイシン塩酸塩(vancomycin: VCM)注800 mg/dとCMZ注2 g/dの併用に変更した.痰培養よりEnterobacter cloacaeが同定され,第106病日に検出菌に感受性のあるMINO注200 mg/dへ変更し(MINO投与1日目),MINO投与14日目に血小板数が2万/µLへ低下した.MINOを投与していた期間内(第106–120病日)及び,VCMとCMZ投与期間内(第94–106病日)に新規開始薬,中止薬はなく,薬剤師はMINOが被疑薬と考え中止を医師に提案し投与終了となった.中止した翌日の検査値より血小板数が改善傾向に転じ,投与中止後7日目には12.5万/µLに改善した(Fig. 1).皮膚の内出血の自覚症状はなく,過度に出血する傾向はなかった.入院後から第89病日まで疼痛コントロール目的でアセトアミノフェンが使用され,第37病日から退院時(第128病日)まで不眠に対してクロルプロマジン注12.5 mg/dを連日使用していた.重篤な血小板減少が改善し状態が安定したため,外来でフォローする方針となったが,患者が在宅医療を希望したため,以後は訪問診療を実施する近医で経過観察することとなった.

Fig. 1. Changes in Blood Plate Data

Elapsed day is shown after intravenous infusion of minocycline (MINO). Vancomycin (VCM), cefmetazole (CMZ), platelet (PLT).

考察

本症例は肺炎の治療として開始されたMINO投与中に血小板減少を認め,MINOの中止によって改善したことから,MINOによる薬剤性血小板減少症であったと考えられた.MINOの投与中止以外の処置はなく,輸血やグロブリン製剤の投与はしていない.

臨床においては複数の薬剤を使用していることがあり,薬剤性血小板減少の原因薬剤を一つに特定することは困難である場合が多い.一般に血小板が10万/µL未満あるいは投与前の測定値に対し50%以上の減少を認めた場合,血小板減少と判定される.薬剤性血小板減少症の診断基準6,7によると,血小板減少を来たす病態がほかにないこと,血小板減少が発現する前に被疑薬が開始され,中止後に血小板数は正常範囲内となり以降減少しないこと,被疑薬以外の薬剤では血小板数の変化を認めないこととある.本症例ではMINOを投与していた期間内に新規開始薬はなく,MINO中止後より血小板数が上昇し,投与7日目には12.5万/µLに改善した.薬剤性血小板減少の多くは被疑薬中止後数日以内に改善し始め,1週間前後で改善するとされている.3,8本症例ではVCM及びCMZの投与中止8日目以降も血小板数が減少しているため,MINO投与後14日目で発現した血小板減少においてVCMとCMZが被疑薬である可能性は低いと考えた.また,疼痛コントロール目的でアセトアミノフェンが使用されていたが,アセトアミノフェンを投与していた期間に血小板減少は認められず,MINO開始12日前に中止されていたためMINO投与後14日目に認めた血小板減少と関与が低いと判断した.また,Schamberg病としてMINOによる血小板減少を認めた症例報告では2ヵ月間のMINO投与により抗血小板抗体が産生され,MINO投与中止後も血中に抗体が残存することで発現した血小板減少と考察されている.5本症例はMINO投与中に発現した血小板減少であり投与期間も異なるため比較はできない.薬剤性血小板減少症の回復は半減期に依存し,半減期の4–5倍経過すると回復し始めるとの報告もある.9インタビューフォームによると単回投与でMINOの半減期は6時間とあり,中止後翌日より血小板数が回復し始める可能性も考えられる.一方で,テイコプラニン(teicoplanin: TEIC)はローディングを行うと半減期は30–50時間になるが,TEIC投与後10日目で認めた血小板減少の症例では,TEICの投与中止後1日目から血小板数が改善傾向にあり,TEICの投与中止後8日目で改善した.10半減期に係わらず原因薬剤の中止後早期に血小板数が改善し始めるするケースもあると考える.

放射線療法の急性期副作用として血球減少があるが,本症例では舌部に放射線療法完了後1ヵ月経過している.肝硬変の既往やリンパ節の腫脹所見はなかった.リンパ腫や全身性エリテマトーデス等膠原病の可能性は否定できないが,既往歴はなく主治医の判断で疑われなかった.血栓性血小板減少性紫斑病やヘパリン起因性の血小板減少では自己免疫反応を介した過剰な血小板の凝集による血栓形成が主体である.本症例では血小板凝集や血栓性を伴わず,ヘパリンの投与歴もなかったことから除外した.特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenia purpura: ITP)は,血小板膜タンパクに対する自己抗体が脾臓などの網内系細胞での血小板の破壊を亢進し,血小板減少を来す自己免疫性疾患である.薬剤性血小板減少症は免疫学的機序による血小板の破壊亢進が原因であることが多く,ITPと薬剤性血小板減少症の鑑別は難しい.ITPを発症すると成人では6ヵ月以上慢性的に持続するが,本症例ではMINOの投与中止以外の処置はなく,血小板減少時にステロイド等の薬剤も投与していない.皮下出血や紫斑は認めず,血小板数の回復も早期であったことからITPの可能性は低いと考えた.また,感染症により血小板数が減少することもあるが,MINO投与によりプロカルシトニンは陰性となり細菌感染も落ち着いていたことから可能性は低いと判断した.

以上より,本症例はMINO投与中に血小板減少を認めた希少な症例と考える.MINOは稀に著明な血小板減少を認める可能性があるため,血小板数の推移に注意する必要があると考える.MINOによる血小板減少は機序不明であり今後の症例の蓄積,機序解明に期待する.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

REFERENCES
 
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