YAKUGAKU ZASSHI
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Symposium Reviews
Development of Synthetic Polymer-based Nanomachine for Cancer Diagnosis and Therapy
Nobuhiro Nishiyama
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2023 Volume 143 Issue 5 Pages 443-447

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Summary

This paper introduces the research of nanomachines utilizing boron chemistry. Boron neutron capture therapy (BNCT) has beeing attracting increasing attention as a minimally invasive cancer treatment, and p-boronophenylalanine (BPA) has been approved as a potent BNCT drug. However, intratumoral retention of BPA remains to be improved. Recently, we have developed a BPA delivery system [poly vinyl alcohol (PVA)–BPA] utilizing PVA. PVA–BPA altered the uptake pathway of BPA by cancer cells and significantly improved the intracellular retention in cancer cells. in the in vivo experiments, PVA–BPA showed improved tumor accumulation and a remarkable tumor growth inhibition upon thermal neutron irradiation. On the other hand, a useful delivery system of bioactive proteins has been strongly demanded. In this study, we have developed the ternary complex micelles for the protein delivery utilizing tannic acid (TA) and block copolymer containing a boronic acid group. The ternary micelles improved the blood retention and tumor accumulation of the loaded proteins, and realized a tumor tissue-selective enzymatic reaction in the enzyme delivery.

ホウ素は,新元素薬剤開発において,近年,注目がとみに高まっている.ホウ素原子を含有した薬剤として多発性骨髄腫に対するプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブが承認されており,2020年には世界初のホウ素中性子捕捉治療(boron neutron capture therapy: BNCT)用ホウ素薬剤としてp-ボロノフェニルアラニン(p-boronophenylalanine: BPA;販売名ステボロニン)が承認された.また,ボロン酸化合物は,生体内のレクチンと同様に糖などの多価水酸基化合物とボロン酸エステルを形成することが知られており,これを利用した免疫賦活化のための人工レクチン,グルコース応答性ゲル,がん細胞のシアル酸を標的とするリガンド分子の研究が行われている.筆者は,合成高分子を利用した薬物送達システム(drug delivery system: DDS)の研究開発を行っているが,近年,ホウ素を利用したナノマシンに注力している.本稿においては,その具体例として,BPAの送達システムとボロン酸を利用したタンパク質送達システムを紹介したい.

BNCTは,ホウ素10Bと生体にとって安全な熱中性子線の核反応により生成される高エネルギーのヘリウム核(α粒子)とリチウム原子核(7Li)によってがん細胞を破壊する治療法である.α粒子と7Liの飛程距離は10 µm程度なので,BNCTではホウ素薬剤を取り込んだ細胞のみを死滅させることができ,細胞レベルの放射線治療とみなすことができる(Fig. 1).BPAは切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がんを対象としているが,BPAはがん細胞選択的に取り込まれるために正常組織を傷つけずにがんを根治させることが可能となる.

Fig. 1. Nuclear Reaction by Irradiation of 10B with Thermal Neutrons

BPAががん細胞選択的に取り込まれる機序に関しては,BPAは構造中にフェニルアラニン構造を有しており[Fig. 2(A)],がん細胞で過剰発現するアミノ酸トランスポーター(L-type amino acid transporter 1: LAT1)によって取り込まれることで説明されている.1一方,BPAの欠点としてはLAT1が交換輸送体であるために細胞外BPA濃度の高いときは細胞内に移行するが,細胞外BPA濃度の減少によって細胞内のBPAが細胞外に排出されてしまうことが挙げられる[Fig. 2(B)].1このため,BPAは熱中性子線照射中も点滴投与する必要がある.この問題を解決するために,筆者は,ポリビニルアルコール(poly vinyl alcohol: PVA)とBPAのボロン酸エステル形成に基づくPVA–BPAを開発した[Fig. 3(A)].2 PVA–BPAは,PVAとBPAを水中で混合することで簡便に調製することができ,側鎖にLAT1により認識されるフェニルアラニン構造を保持しているためにがん細胞との相互作用を示すが,LAT1を通過することができないためにエンドサイトーシス経路によって細胞内に取り込まれる.その結果,PVA–BPAは,エンドソーム/リソソーム内に隔離され,LAT1の交換輸送に基づくBPAの細胞外への排出を抑制できるものと考えられる[Fig. 3(B)].

Fig. 2. Chemical Structure of BPA (A) and Cellular Uptake of BPA via LAT1 (B)
Fig. 3. Formation of PVA–BPA (A) and Its Cellular Uptake Pathway (B)

PVA–BPAは,側鎖に多くのBPAを結合していることから多価相互作用によってBPAよりも高い細胞内取り込み量を示すことが確認され,LAT1阻害剤により細胞内取り込みが阻害されたことからLAT1選択性が維持されていることも確認された.担がんマウスを用いた動物実験においては,PVA–BPAはBPAよりも高いがん集積量と滞留性を示すことが確認され[Fig. 4(A)],BPAの課題であるLAT1の交換輸送に基づく腫瘍内濃度の減少を解決できることが明らかになった.熱中性子線照射によるBNCT効果を検討したところ,PVA–BPA治療群では腫瘍がほぼ消失し,BPAよりも優れた抗腫瘍効果を示すことが確認された[Fig. 4(B)].また,BPA及びPVA–BPA治療群のどちらにおいても副作用は認められなかった.以上のように,本研究では,BPAにPVAを添加するという極めて単純なアプローチによってBPAのがん集積性及び滞留性を飛躍的に高めることに成功した.2

Fig. 4. Tumor Accumulation of BPA and PVA–BPA (A) and Tumor Growth Inhibition upon Thermal Neutron Irradiation in C26 Tumor-bearing Mice (B)

BPAを利用したBNCTにおける利点の一つに18F-BPAによるコンパニオン診断が挙げられる.LAT1発現量はがん患者毎に異なることに加え,腫瘍微小環境によってもBPA集積量は影響を受けるために,18F-BPA投与によるPET診断はBNCT実施前の患者毎のBPA集積量の評価を可能にし,治療の適応性の判断に加え,BPA投与や熱中性子線照射計画の立案と最適化に利用できる.一方,18Fの半減期は109分であり,リポソーム等の他のナノDDS製剤に18F-BPAを搭載して精製することは困難である.これに対し,PVA–BPAは,PVAとBPAを水中で混合するだけで速やかに調製することができ,精製も必要としないため,18F-BPAにも適用することができ,がん個別化医療に展開することができる.また,PVAは,バイオマテリアルとして高い安全性が実証されており,GMP製造も比較的容易であることもPVA–BPAの利点である.現在,PVA–BPAは臨床応用に向けて研究開発を進めている.

本稿では,ホウ素化学を利用したタンパク質デリバリーについてもご紹介したい.これまでにタンパク質のデリバリーにおいては,タンパク質のポリエチレングリコール(polyethylene glycol: PEG)による化学修飾が広く利用され,PEGインターフェロン等のPEG化タンパク質が実用化されている.タンパク質のPEG修飾は,体内における酵素分解や失活を抑制することができ,血中滞留性,バイオアベイラビリティを改善することができる.しかしながら,PEG導入によるタンパク質の活性の低下が課題であった.また,化学修飾を利用せずにタンパク質をデリバリーするためのDDSとしてリポソームやナノゲルが研究されているが,標的部位でタンパク質を活性化させるための戦略が必要となる.すなわち,PEG修飾とDDSキャリアへの封入のどちらにおいても,タンパク質の血中滞留性を高める一方で,その活性のON/OFF制御をいかに実現するかが重要となる.筆者が長年にわたり研究開発を進めてきたブロック共重合体の自己組織化に基づく高分子ミセルは,抗がん剤や核酸医薬のデリバリーにおいて疾患モデル治療における有用性が実証され,一部は臨床試験へと進んでいるが,水溶性の高いタンパク質に関しては高分子ミセルへの封入が困難であった.一方,タンパク質のデリバリー技術として,ポリフェノール類の一種であるタンニン酸(tannic acid: TA)とタンパク質から形成される複合体が検討されている.この複合体形成は古くから知られているが,近年,タンパク質やアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)のデリバリーにおける可能性が報告された.3しかしながら,疎水性相互作用及び水素結合によってタンパク質と複合体を形成するTAは,生体分子とも非特異的な相互作用を示すために,PEGによる化学修飾やリポソーム/ナノゲルと比較して血中滞留性に乏しく,標的への到達性に関しても大幅な改善が必要であると考えられる.そこで筆者は,TAのガロイル基がボロン酸基とpH応答性のボロン酸エステルを形成することに着目し,TAとタンパク質の複合体に多数のボロン酸基を導入したPEG-ポリアミノ酸ブロック共重合体poly(ethylene glycol)-poly[L-lysine(fluoro-phenyl boronic acid): PEG–Plys(FPBA)]を混合することでTAとタンパク質を内核とする三元系の高分子ミセルが調製できることを明らかにした(Fig. 5).4

Fig. 5. Protein-loaded Ternary Complex Micelle Formed by TA and Boronic Acid-modified PEG-poly(amino acid) Block Copolymer

この三元系ミセルには,様々な生理活性タンパク質を1分子内包させることができ,血漿中タンパク質の相互作用やプロテアーゼによるタンパク質の分解を抑制できることが明らかとなった.なお,TAの代わりに没食子酸(gallic acid: GA)及び没食子酸エピガロカテキン(epigallocatechin gallate: EGCG)を用いた場合には三元系ミセルは形成されず,ポリフェノール類の中でもTAを用いることが重要である(Fig. 5).また,TAをバイオマテリアルとして用いる場合,ガロイル基の酸化が課題となるが,三元系ミセルではボロン酸エステルの形成によってガロイル基の酸化が抑制され,37°Cのリン酸緩衝液中においても長時間安定であることが明らかになった.そこで緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)を内包した三元系ミセルの担がんマウス(マウス大腸がんC26細胞の皮下移植モデル)における体内動態を評価した結果,血中滞留性とがん集積性の飛躍的な向上が確認された(Fig. 6).

Fig. 6. Blood Retention and Tumor Accumulation of GFP-loaded Ternary Complex Micelles

この結果に基づき,具体的な機能を有するタンパク質としてβ-ガラクトシダーゼ(beta-Galactosidase: β-Gal)のデリバリーへと応用した.5 β-Galに,TA,ボロン酸基導入PEG-PLys(FPBA)を混合することで約40 nmの三元系ミセル[β-Gal/TA/PEG–PLys(FPBA)]の形成が確認された[Fig. 7(A)].三元系高分子ミセルの酵素活性は,TokyoGreen(TG)-β-Galを用いて評価した(TG-β-Galはβ-Galによる基質の切断により蛍光体のTGを生成).その結果,β-Gal/TA複合体と三元系ミセルはともに複合体の形成により70%程度のみかけの酵素活性の低下(Vmaxの減少)を示したが,がん細胞と培養後にTG-β-Galを添加し酵素活性を測定したところ,β-Galと同等の酵素活性を示すことが確認された.この結果は,β-Gal/TA複合体と三元系高分子ミセルは細胞内で解離し,β-Galの活性が回復したことを示唆している.次に,タンパク質分解酵素(Proteinase K)に対する安定性を評価したところ,β-Gal単独,β-Gal/TA複合体では分解により約60%の酵素活性の低下が認められたが,三元系ミセルは85%の酵素活性を維持していることが確認された.これらの結果より,三元系ミセルは,タンパク質分解酵素から内包タンパク質を安定に保護する一方で,細胞内に取り込まれた後に,タンパク質の酵素活性を回復できるキャリアであることが示唆された.次に,β-Gal単独,β-Gal/TA複合体,三元系高分子ミセルの血中滞留性及びがん集積性(C26細胞皮下移植モデル)を評価した.その結果,β-Gal単独,β-Gal/TA複合体は速やかに血中から消失したのに対して,三元系ミセルは顕著な血中滞留性の向上を示し,β-Gal単独,β-Gal/TA複合体の7–8倍のがん集積性を示した.さらに,β-Gal単独,β-Gal/TA複合体,三元系高分子ミセルを静脈内投与24時間後に,TG-β-Galを静脈内投与し,45分後の各組織・臓器のTGの蛍光強度を測定した.その結果,β-Gal/TA複合体は肝臓,次いで肺に強いTGの蛍光を示したのに対して,三元系高分子ミセルは肝臓及び肺におけるTGの蛍光を大きく減少させ,がん組織に最も強い蛍光を示すことが確認された[Fig. 7(B)].これらの結果より,三元系高分子ミセルは,内包酵素をがん組織に効率的に送達し,がん組織選択的な酵素反応を惹起することが確認され,酵素プロドラッグ治療等のへの応用の可能性が示唆された.

Fig. 7. In Vivo Site-specific Enzymatic Reaction by β-Gal-loaded Ternary Complex Micelles

以上のように,本稿では,ホウ素を利用したナノマシンとして,BNCTのためのポリビニルアルコールを利用したBPA送達システム(PVA–BPA)とTAとボロン酸基含有ブロック共重合体を利用したタンパク質送達用三元系高分子ミセルについて紹介した.それぞれの研究は,臨床応用を視野に入れて鋭意研究開発を進めている.とりわけ後者に関しては,がんワクチンとして有用性が示唆されており,さらにタンパク質のみならず,ウイルス,ゲノム編集に用いられるCRISPR Cas9/sgRNA ribon nucleo protein(RNP)複合体などのデリバリーにも応用することができることが明らかになっている.本稿で紹介した研究はボロン酸の特性を活用することによってなし得た研究であり,ホウ素は,創薬,DDS,バイオマテリアル研究において大きな可能性を秘めており,今後の更なる発展が期待できる.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第142年会シンポジウムS29で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
© 2023 The Pharmaceutical Society of Japan
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