YAKUGAKU ZASSHI
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Development of a One-minute Educational Video for Eye-drop Instillation and Changes in Instillation Behavior after Watching the Video
Hiroaki Ikeda Satomi TanimotoAyane TakamotoJunko IkedaKiyotaka KohnoAkira NakatsumaKumiko MoriNaomi IiharaHitoshi HouchiTadakazu Tokumura
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2023 Volume 143 Issue 8 Pages 655-662

Details
Summary

We created a one-minute video titled “a simple method of eye-drop instillation” (video) for online instillation guidance, to compare the instillation method before and after study participants watch the video and verify the usefulness of watching the video. Moreover, we prepared a document questionnaire to investigate instillation habits and clarify instillation behavior. Study participants were randomly recruited from among students and faculty members via a poster posted at Tokushima Bunri University. The instillation behavior of the study participants was videotaped before and after they watched the video created by the authors. The images were played in a super slow motion, to confirm success or failure in instillation, drop sites, and eye-opening method. Of the 109 participants in the study, the successful instillation rate before and after watching the video was 55.0% and 69.7%, respectively. The use rate of wet wipes for finger disinfection before instillation increased from 0.0% before watching the video to 74.3% after watching the video. After watching the video, the blinking rate after instillation decreased from 95.4 to 45.0%, the rate of pressing the nasolacrimal duct increased from 2.8 to 77.1%, and the rate of wiping the drug solution spilled around the eyes increased from 89.9 to 98.2%. According to the questionnaire, 72.5% of the participants instilled one drop, 22.0% instilled two drops, and 5.5% instilled three drops or more. Watching the video significantly increased the successful instillation rate and improved instillation behavior. Thus, the video created by the authors can be used for online instillation guidance.

緒言

点眼薬による薬物治療は,点眼液(薬液)が正確に眼表面に滴下されることを前提として設計されているため,薬液を正確に眼表面へ滴下する成否は有効性評価に影響する.1一方,点眼指導は,副作用の説明や点眼回数などの用法や点眼を忘れないための意識の伝達になりやすく,2,3点眼指導の結果を評価した報告に,点眼動作と点眼の成功率との関連や,正確に点眼されずに眼周囲に付着した薬液に由来する副作用発現を指標とした,点眼の成功率に関する臨床研究は多くない.46薬液が眼の中に入った後の眼内の副作用は充血,しみるなど,薬液に関連した眼周囲などの眼外の副作用は睫毛の異常,接触性皮膚炎などの報告がある.7,8筆者らは,眼外の副作用は点眼の技術指導で減少できる可能性を前報で示した.9

点眼は患者毎に知識や技術の差は大きいと予想され,点眼指導は点眼の様子を観察した結果を元に行うことが望ましいと報告されている.10一般的な点眼動作を明らかにするために100名の健常者で行った前報9は,健常人の98%は点眼後に瞬きを頻回に行い,薬液が眼に入る確率(滴下成功率)は70.1%だった.その滴下成功率は点眼薬1本の薬液の消費量に関与しており,適切な点眼方法と前報で提案した薬液の拭き取り方法を身につけ,滴下成功率を増加させることは,眼周囲の副作用の減少を期待できるのみならず,薬剤費用削減にも貢献する.9

2020年からの新型コロナウイルスの感染対策は,患者と医療者,需要者と販売者とのマスク越しの会話に加えて,一定の社会的距離を確保する傾向もある.11そのため患者や需要者への医薬品の使用方法の説明は,医療者や販売者の声が明瞭に届き難いなど,円滑なコミュニケーションが難しい場合も考えられる.過去に,点眼方法の説明に用いる補助動画を作成し,点眼指導を行うことで点眼手技の向上や点眼に対する意識の変化がみられたという報告がある.12,13これらの報告は一定の社会的距離を考慮した結果から得た検証ではなく,更に既存のWEB動画などは,視聴前後の点眼の成否などの具体的な変化を検証していない.

今回,一定の社会的距離を保ち,適切な点眼方法を説明することのできる1分動画を作成し,その視聴前後の点眼動作の変化を観察した.1分動画を視聴した影響をビデオ画像のスーパースロー再生から客観的に評価し,1分動画の臨床導入の可否を検討した.

方法

徳島文理大学香川キャンパス内に掲示したポスターで研究へ参加を希望する者を公募し,希望者へ研究内容のインフォームドコンセントを行ったうえで,同意の撤回はいつでもできることも併せて説明した.研究参加者へ保存剤を含まない第三類医薬品OTC点眼薬を交付し,1分動画の視聴前と後の計2回の点眼動作をビデオカメラで撮影した.1分動画を視聴前の点眼は,前報に従い研究参加者の利き腕の反対側から利き腕の反対眼をhigh-speed digital video cameraで撮影した.9ビデオのスーパースロー再生映像より,「薬液が正確に眼表面に滴下されたもの」を滴下成功として確認し,併せて滴下の成否,滴下部位及び開眼方法などを観察した.9

1分動画を視聴後の点眼は,1分動画視聴15分後に1分動画を視聴前と同じ条件で撮影した.撮影終了後,研究参加者へ点眼動作に関する文書アンケートを実施した.

1. 研究参加者の選択基準

  • ①18歳以上の男女
  • ②医師による眼の治療を受けていない人
  • ③薬によるアレルギーを起こしたことがない人
  • ④眼の痛みを感じていない人

2. 研究参加者の除外基準

  • ①医師による眼の治療を受けている人
  • ②薬によるアレルギー症状を起こしたことがある人
  • ③眼の痛みなどの症状のある人
  • ④本研究に利益相反のある人

これらの基準は第三類医薬品OTC点眼薬の使用上の注意を参考に作成した.

3. 研究参加者の人数と公募方法

2020年11月から2021年2月の4ヵ月間,徳島文理大学香川キャンパスの学生,教職員を対象に学内掲示ポスターで公募した.研究は,前報9と同様に学生と教職員との利益相反を回避するため,研究する学生主体で研究参加者は他学部の学生を中心にポスター公募した.前報9で協力を得た研究参加者には参加辞退を依頼した.

4. 試験デザインと評価項目

試験デザインは,非盲検単群試験とした.

主要評価項目は,点眼指導未実施の参加者が座位で自由に点眼薬の投与動作を行い,前述の方法で滴下の成否を確認した.さらに,点眼薬の最初の1滴が眼の中に入った研究参加者数を研究参加者数の総数で除して滴下成功率(%)を算出した.副次評価項目は,開眼方法,滴下数,滴下部位,点眼前の手指を清潔に保つためのウエットティッシュの使用有無及び点眼前後の動作(閉眼,鼻涙管の圧迫,眼周囲の薬液の拭き取り)とした.

1滴が眼の中に入った場合を滴下成功,それ以外は滴下失敗とした.

5. 使用点眼薬

映像再生に前後の取り違えを防止する目的で,1分動画視聴前は第三類医薬品OTC点眼薬の人口涙液型点眼剤ソフトサンティア®(参天製薬,大阪),1分動画視聴後は第三類医薬品OTC点眼薬のソフトサンティアひとみストレッチ®(参天製薬)を研究参加者へ提供した.

6. 使用機器

動画撮影は前報9と同様に,high-speed digital video camera(Panasonic LUMIX TZ90, Panasonic,門真)で行い,研究参加者の顔への照明は,LED video lights 3200–5600 K(NEEWER, Shenzhen)を用いた.撮影者は一人,研究参加者の利き腕の反対側から撮影した.

7. 作成した1分動画の概要

前報で得た点眼液の滴下部位などの研究結果9と日本眼科医会監修の「点眼剤の適正使用ハンドブック—Q&A—」など14,15を参考に,適切な点眼方法を説明する1分動画「適切な点眼方法」を作成した.1分動画は,①人差し指をウエットティッシュで拭く操作,②点眼薬の滴下前に点眼薬を持っていない側の人指し指で下瞼を下方に引く動作,③滴下後に人指し指を迅速に眼元へスライドさせる動作,④眼元へスライドした人指し指で鼻涙管を圧迫する動作,⑤前報で提案した点眼した眼周囲を縦横に拭く方法の構成とした.1分動画は,筆者をモデルにYouTubeで日本語字幕付きで公開した[(https://youtu.be/iRN78jCN-Vc) Supplementary materials].1分動画はLINEなどSNSを活用し,オンラインで点眼指導を行えるメモリーサイズにした.

8. 1分動画撮影条件と新型コロナウイルス感染対策

点眼薬1滴が眼の中に入る滴下の成否を確認するため,前報9と同様に1秒240コマの動画撮影条件[(video graphics array: VGA),240 frames per second]でビデオ撮影した.ビデオのスーパースロー再生から点眼成功の有無,滴下数,滴下部位,開眼方法などを目視で確認した.ビデオ撮影は新型コロナウイルス感染対策のため社会的距離を保ち,サーキュレーターで常時換気して行った.撮影は予約制で15分毎に1名の割合で行った.研究者及び研究参加者の体温が37.5度以上の場合,参加不可とした.

9. 点眼成功,失敗の基準

前報9と同様にビデオのスーパースロー再生で最初の1滴が眼の中に入った場合を滴下成功,それ以外は滴下失敗とした.

10. 文書アンケート

研究参加者の点眼動作を明らかにするため,2回目の点眼を終了した時点で点眼に関するアンケートを実施した.

11. 統計解析方法

2群間比較はMcNemarの検定を用い,SAS(SAS Institute, Cary)のversion 9.4で行った.

12. 研究倫理

ヘルシンキ宣言に従い,点眼している研究参加者の眼周囲付近をビデオ撮影した.撮影ビデオは符号化したうえ,1回目と2回目点眼を識別するため連結可能なデータにして主研究者の施錠による符号管理をすることで同意を得た.本研究は,徳島文理大学倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:R2-40).使用した点眼薬や撮影機器等は,徳島文理大学香川薬学部の卒業研究費を用いた.

結果

研究参加者は女性81名(74%),男性28名(26%)の計109名,年代は,10–20歳代70名(64%),30–40歳代19名(17%),50–60歳代18名(17%),70歳代以上2名(2%)だった.

1. 主要評価項目:滴下成功率

1分動画視聴前の滴下成功率は,すべての年代で109名中60名(滴下成功率:55.0%),10–20代は70名中42名(60.0%),30–40代は19名中7名(36.8%),50–60代は18名中11名(61.1%),70代以上は2名中0名(0.0%)だった(Table 1).

Table 1. Successful Instillation Rate of 109 Study Participants before and after Watching the Video
AgeBefore watching the videoAfter watching the videop
Number of successful instillations/number of participantsSuccessful instillation rate (%)Number of successful instillations/number of participantsSuccessful instillation rate (%)
All ages60/10955.076/10969.70.034
10–2042/7060.053/7075.70.108
30–407/1936.811/1957.90.180
50–6011/1861.112/1866.70.480
>700/20.00/20.0NA

NA: Not applicable, n=109.

1分動画視聴後の滴下成功率は,109名中76名(69.7%),10–20代は70名中53名(75.7%),30–40代は19名中11名(57.9%),50–60代は18名中12名(66.7%),70代以上は2名中0名(0.0%)だった.70代以上を除き,1分動画視聴後は視聴前に比べ滴下成功率は増加した(Table 1).

1分動画視聴の前後において,すべての年代における滴下成功率に有意差が認められた(p=0.034)が,各年代層における滴下成功率には,いずれも有意差が認められなかった(Table 1).

2. 開眼方法

「点眼薬を持っていない側の指で下瞼を下方に引いて点眼した」研究参加者は,1分動画視聴前後で,39名(35.8%)名から101名(92.7%)に有意に増加した(Table 2).

Table 2. Selected Eye-opening Methods of 109 Study Participants before and after Watching the Video
Instillation behaviorBefore watching the video Number of participants (%)After watching the video Number of participants (%)p
Pulling the lower eyelid with the hand that did not hold eye drops39 (35.8)101 (92.7)<0.001
Pulling the lower and upper eyelids with the fingers of the hand that did not hold eye drops44 (40.4)5 (4.6)<0.001
With one hand without using the other hand19 (17.4)3 (2.8)<0.001
Pulling the upper eyelid with the fingers of the hand that did not hold the eye drops6 (5.5)0.0 (0)0.329
Pulling the lower eyelid with the finger of the hand that held the eye drops1 (0.9)0.0 (0)NA

n=109, NA: Not applicable.

「点眼液を持っていない側の指で上下に瞼を開いて点眼した」研究参加者は,1分動画視聴前後で,44名(40.4%)から5名(4.6%)に有意に減少した(Table 2

「指で瞼を押えることなく片手のみで点眼した」研究参加者は,1分動画視聴前後で,19名(17.4%)から3名(2.8%)に有意に減少した(Table 2).

「点眼薬を持っていない側の指で上瞼を上方に引いて点眼した」研究参加者は,1分動画視聴前後で,6名(5.5%)から0名(0.0%)に減少した(Table 2).

「点眼薬を持った側の指で下瞼を下方に引いて点眼した」研究参加者は,1分動画視聴前後で,1名(0.9%)から0名(0.0%)に減少した(Table 2).

3. 滴下数

1分動画視聴前 「109名の研究参加者が点眼した滴下124回のうち,「点眼液を持っていない側の指で下瞼を下方に引いて点眼した」は45回,「点眼液を持っていない側の指で上下に瞼を開いて点眼した」は50回,「指で瞼を押えることなく片手のみで点眼した」は21回,「点眼薬を持っていない側の指で上瞼を上方に引いて点眼した」は7回並びに「点眼薬を持った側の指で下瞼を下方に引いて点眼した」は1回だった(Table 3).

Table 3. Number of Instillations Using the Eye-opening Method among the 109 Study Participants before and after Watching the Video
Instillation behaviorBefore watching the video (Number of Times) n=124After watching the video (Number of Times) n=119p
Pulling the lower eyelid with the hand that did not hold eye drops45111<0.001
Pulling the lower and upper eyelids with the fingers of the hand that did not hold eye drops505<0.001
With one hand without using the other hand213<0.001
Pulling the upper eyelid with the fingers of the hand that did not hold the eye drops70<0.01
Pulling the lower eyelid with the finger of the hand that held the eye drops10NA

NA: Not applicable.

1分動画視聴後 「109名の研究参加者が点眼した滴下119回のうち,「点眼液を持っていない側の指で下瞼を下方に引いて点眼した」は111回であり,1分動画視聴前の45回から有意に増加した(Table 3).「点眼液を持っていない側の指で上下に瞼を開いて点眼した」は5回であり,1分動画視聴前の50回から有意に減少した(Table 3).「指で瞼を押えることなく片手のみで点眼した」は3回であり,1分動画視聴前の21回から有意に減少した(Table 3).「点眼薬を持っていない側の指で上瞼を上方に引いて点眼した」は0回であり,1分動画視聴前の7回から有意に減少した(Table 3).「点眼薬を持った側の指で下瞼を下方に引いて点眼した」は0回であり,1分動画視聴前の1回から減少した(Table 3).

4. 点眼前後の動作

「点眼前に手指をウエットティッシュで拭いた」研究参加者は,1分動画視聴前後で,0名(0.0%)から81名(74.3%)に有意に増加した(Table 4).

Table 4. Behavior of 109 Study Participants before and after Instillation
Instillation behaviorBefore watching the video Number of participants (%)After watching the video Number of participants (%)p
Used a wet wipe for figure disinfection before instillation0 (0.0)81 (74.3)<0.001
Blinked after instillation104 (95.4)49 (45.0)<0.001
Pressed the nasolacrimal duct after instillation3 (2.8)84 (77.1)<0.001
Wiped the spilled drug solution after instillation98 (89.9)107 (98.2)<0.01

n=109.

「点眼後に瞬きをした」研究参加者は,1分動画視聴前後で,104名(95.4%)から49名(45.0%)に有意に減少した(Table 4).

「点眼後に鼻涙管を押さえた」研究参加者は,1分動画視聴前後で3名(2.8%)から84名(77.1%)に有意に増加した(Table 4).

「点眼後に溢れた薬液を拭き取った」研究参加者は,1分動画視聴前後で,98名(89.9%)から107名(98.2%))に有意に増加した(Table 4).

5. アンケート調査の結果(研究参加者の背景)

OTC点眼薬の購入先はドラッグストア81名(74.3%),薬局26名(23.9%),インターネット1名(0.9%)だった.

「1回に何滴点眼するか」で1滴は79名(72.5%),2滴は24名(22.0%),3滴以上は6名(5.5%)だった.回答理由は「1滴で十分」は56名(51.4%),「薬の用法・用量に従う」は33名(30.3%),「2滴点眼した方が効果が高い」は17名(15.6%),「3滴点眼した方が効果が高い」は3名(2.8%)だった.

「点眼後,苦みや塩味を感じたことある」は39名(35.8%)だった.点眼薬を正しい方法でさしているか「わからない」,「いいえ」は94名(86.2%)だった.

6. 滴下部位

1分動画視聴前後の滴下部位をそれぞれFig. 1及びFig. 2に示した.1分動画を視聴後に滴下した薬液の滴下位置のFig. 2は,Fig. 1に比べて眼の中心から離れて滴下される割合が減少する傾向を観察した.

Fig. 1. Successful Instillation Rate at the Drop Site Using the Eye-opening Method for 109 Participants before Watching the Video (Total Number of Instillations: n=121, Success: n=72, Failure: n=49) is 59.5%

Instillation by pulling the lower eyelid with the fingers of the hand that did not hold eye drops (n=42; success: green ▲, failure: green △); by pulling the upper and lower eyelids with the fingers of the hand that did not hold the eye drops (n=50; success: yellow ■, failure: yellow □); with the hand without using the fingers (n=21; success: red ●, failure: red ○); by pulling the upper eyelid with the fingers of the hand that did not hold the eye drops (n=7; success: light blue ◆, failure: light blue ◇); and by pulling the lower eyelid with the finger of the hand that held the eye drops (n=1; success: black ●). (Color figure can be accessed in the online version.)

Fig. 2. Successful Instillation Rate at the Drop Site Using the Eye-opening Method for 109 Participants after Watching the Video (Total Number of Instillations: n=119, Success: n=86, Failure: n=33) is 72.3%

Instillation by pulling the lower eyelid with the fingers of the hand that did not hold the eye drops (n=111; success: green ▲, failure: green △); by pulling the upper and lower eyelids with the fingers of the hand that did not hold the eye drops (n=5; success: yellow ■, failure: yellow □); and with the hand without using the fingers (n=3; failure: red ○). (Color figure can be accessed in the online version.)

考察

点眼教育用動画は既にWEBで公開されているものが複数あるが,視聴後の点眼の成否の改善などの検証まで至っていない.今回の1分動画は,視聴前後をビデオのスーパースロー再生で確認し,視聴による点眼の成否の改善などを確認できた.

すべての年代で1分動画視聴前後の滴下成功率は,55.0%から69.7%へと14.7%増加しており(増加率は27%),滴下の成否を迅速に改善する可能性がある(Table 1).患者・需要者へ点眼指導を対面で行えなくても,オンライン点眼指導に1分動画の視聴機会を提供すれば,点眼動作の改善を行うことが可能と言える.点眼成功率は前報の70.1%から55.0%へと15.1%低下したが,前報の研究参加者は点眼成功率の高い30–60歳代が42%を占めていたが,今回は34%だったことも一因と思われる.

一方,滴下成功率を年代毎で層別すると,1分動画視聴15分後に増加したが有意差はなかった(Table 1).70歳代を除くすべての年代層で1回目点眼より2回目点眼で滴下成功率は10.5–18.4%増加しており,1分動画を視聴すると滴下成功率が増加する傾向が観察された(Table 1).ただし,本結果の限界として,2回目の点眼は,1分動画を視聴しなくても2回目という学習効果により増加する可能性を否定できない.

70歳以上の研究参加者は2名であり,2名とも滴下は失敗した.その2名は,加齢に影響した眼瞼下垂16と思われる開眼困難状況での点眼であったことが挙げられる.点眼指導後の動作に影響を及ぼす要因として70歳代以上では頸部後屈折困難,80歳代以上の要因は70歳代以上の要因に加え,開眼困難が報告されている.18今後は高齢の研究参加者を増加して検討する必要がある(Table 2).

点眼薬の滴下部位を1分動画視聴前(Fig. 1)と比べると,1分動画視聴15分後(Fig. 2)では,下眼瞼結膜辺りに多くの薬液が滴下していた(Figs. 1, 2).人差し指で下眼瞼を引き,結膜を露出し点眼する方法や握り拳で下眼瞼を引き結膜を露出し,点眼瓶を持った手を握り拳に重ね点眼する方法の実技指導を受けた群は用法・用量のみの説明を受けた群に比べ,下眼瞼結膜を露出し,点眼できることがわかっている.17 109名中101名(92.7%)は,1分動画視聴後に「点眼薬を持たない手で下瞼を引いて点眼する」方法を実践したことから,下眼瞼結膜辺りに多くの薬液が滴下できたと思われる(Table 2).

点眼前の動作として手指を清潔に保つためにウエットティッシュを使用した割合は1分動画を視聴前と比べると視聴後に増加した.点眼薬の汚染経路を調査した報告は,手指を介した点眼瓶内の汚染が多い.1820 1分動画は手洗いできないとき,ウエットティッシュで手指を清潔に保つ必要性を啓発する目的で1分動画に組み入れ,それが実践されたことを確認できた.

点眼後の動作のうち瞬きをした割合は,1分動画視聴前と比べ,視聴後に有意に減少し,鼻涙管を押さえた割合は1分動画視聴後に増加した(Table 4).さらに,アンケート結果より点眼薬をさした後に苦味や塩味を感じたことがある割合は35.8%(39名)だった.瞬きをすることで,眼に入った薬液は鼻粘膜や消化管から血液中に吸収され,全身作用を示すこともあり,苦味や塩味を感じる原因になる.21患者や需要者には点眼薬をさした後,瞬きをせず,閉眼し,鼻涙管を押さえることを医療者は伝える必要がある.文書による点眼指導に加えて,動画を視聴することで,全身作用や味,塩味を感じることを防ぐ可能性が高まる.また,1分動画を視聴することで溢れた薬液を拭き取った割合は89.9%から98.2%へ有意に増加した(Table 4).

緑内障点眼薬の有害事象に眼瞼の色素沈着などの眼周囲の有害事象がある.これらは,溢れた薬液を拭き取りに起因すると考えられている.22そのため,1分動画は緑内障患者における眼周囲の副作用対策の啓発に有用だと考えられる.

アンケート調査の結果から,点眼薬の購入場所で多かったドラッグストアや薬局で1分動画をリピート再生することは,需要者が「正しい点眼方法」を知る機会の提供に繋がり,点眼治療に貢献すると考えた.

今回の研究では1分動画視聴15分後に2回目のビデオ撮影をした.ドイツの心理学者エビングハウスが1885年に発表した忘却曲線は,記憶した20分後に覚えた内容の42%忘れ,1週間後に77%,1ヵ月に79%を忘れることを示した.23本研究は1分動画視聴後15分以内に2回目の撮影を行ったので,エビングハウスの忘却曲線によれば,少なくとも60%以上の記憶が保持されていたと推定できる.23現在の服薬指導や点眼指導の実施タイミングは,処方日数の影響を受けている.処方期間の都合による間隔で点眼指導などを行うのではなく,忘却曲線を考慮した指導間隔を求めることも考慮する必要がある.継続研究は,1分動画の視聴後,2回目のビデオ撮影を1週間後,2週間後,1ヵ月後に行い,記憶の保持量を考慮した点眼指導の間隔を明らかにしたい.

点眼の様子を観察していると,1分動画視聴前後において1滴目で滴下成功しているにもかかわらず,2滴以上点眼薬をさしている研究参加者がいた.アンケート調査の都合上,滴下数は通常1滴で十分であることを事前に伝えていなかったことが原因の一つだと考えられた.さらに,点眼終了後に行ったアンケート調査の結果から109名中,点眼薬を1回に2滴以上さすと答えた割合は27.5%(30名)という結果になった.また2滴,3滴目薬を滴下すると効果が高いと答えた割合は18.4%(20名)となった.点眼成功率が低いのであれば,2滴,3滴の滴下は必要になる.

結論

研究結果から1分動画の有効性は認められた.この1分動画作成を活用することで医療者は感染予防をしながら,患者や需要者に適切な指導を行うことができると考える.

謝辞

研究に参加して頂いた徳島文理大学香川キャンパスの学生,教職員に感謝します.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Supplementary materials

この論文のオンラインにSupplementary materials(電子付録)を含んでいる.動画内容は著作の都合上,2023年8月1日以降の公開とする.

REFERENCES
 
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